「第六駆逐隊、帰投なのです。鎮守府周辺の警備任務、完了しました」
「おっ疲れぃ! みんなご苦労様~」
「鈴谷さんも秘書艦のお仕事、お疲れ様なのです」
出迎えた鈴谷に答えた電は、執務机の前に立って報告する。
「周辺海域に敵艦、敵機の姿は見えず。電探と音探にも反応はなかったのです」
「うん、報告確かに受け取った。みんなお疲れ様。このあとは、午後の演習まで各自待機だ」
「了解なのです」
報告も終え、正式に任務を解かれた電たちは、さっそく待機時間の過ごし方について話し始める。といっても、このところの過ごし方は決まっている。それは、
「それじゃ、みんなでデュエルしましょ!」
デッキケースを取り出した雷が口火を切る。それを聞いた三人も、待ち構えていたようにデッキを手にする。
「うん、いいよ」
「今日はどんな組み合わせにしましょうか」
「たまにはタッグデュエルもしてみたいわ」
雷に続いて響、電、暁が口を開く。今日の秘書艦担当である鈴谷は、書類の整理をしながら、楽しげに話し合う四人を眺めて微笑を浮かべる。
「みんなもうすっかりデュエリストだねぇ。最近は、空き時間はたいていカードに触ってるし。ま、楽しそうでなにより」
「鈴谷も参加してくるか? ここで一旦休憩にして」
「おっ、マジ? ……って言いたいとこけど、今はやめとく」
「ふむ。そうか」
「ていうか、デュエルしたいのは提督の方なんじゃないの? 鈴谷が休憩したら、自分も仕事を中断してデュエルするつもりだったでしょ」
「読まれてたか……」
「とーぜんっ。遊ぶのは仕事が終わってから。ほらほら、ちゃっちゃと書類片づけるー」
「……毎度思うが、この書類ってもう少し減らせないのか?」
「そういうのは内地のお偉いさんに言わないとねー。聞いてもらえるかは分からないけど」
「望み薄だな……」
溜息をついて、春瀬は各種の書類に目を通す作業に戻る。その前では、電たちが話し合いを続けていた。
「どうせなら、他の司令室の艦娘ともデュエルしたいわね。誰か非番の子はいないかしら」
「確か、夕立たちも今の時間帯は非番だったはずだよ」
雷の言葉に、響が鎮守府の日課表を見て答える。
「いいわね! さっそく夕立たちの司令室に行きましょ」
「電も、今度こそ時雨ちゃんとデュエルしたいのです」
意見の一致をみた電たちは、夕立が所属する司令室へと向かうことにする。しかし、先頭の暁が執務室のドアノブに手をかけようとした瞬間、その扉が勢いよく外側に開き、暁は室内に飛び込んできた誰かと衝突した。
「ひゃうっ!?」
「大丈夫ですか、暁ちゃん!」
「いたた……。もう、なんなのよいきなり……って、あれ?」
ぶつけた額をさする暁は、自分と同じように尻餅をついている相手を見て少し驚いた声を出す。
「あなた、夕立じゃない。どうしたの?」
暁がぶつかった相手は、ちょうど今彼女たちが訪ねようとしていた夕立だった。立ち上がるのを助けつつ、雷は夕立に質問する。
「どうしたの? またなにかデュエルモンスターズのことを聞きに来たの?」
「違うっぽい!」
首を横に振った夕立は、両手を顔の前で合わせて懇願する姿勢を作った。
「今日は、みんなの助けが欲しいっぽい!」
「ちょっと、本当にどうしたのよ。そんなに必死になって」
切羽詰まった様子の夕立に対応しきれず、雷は一歩後退する。
「随分と慌ててましたけど、なにかあったのですか?」
代わって問いかけた電に、夕立は「事件っぽい」と答える。
「大事件っぽい……じゃなくて、完全に大事件!」
「どんな事件なのです?」
「それは……」
夕立はそこで一度言葉を止める。そして、その内容を口にした。
「夕立たち、デュエルを禁止されちゃったっぽい!!」
◆◇◆◇
「……それで、どうしてそんなことになってしまったのです?」
ひとまず夕立を室内に入れ、お茶を出して落ち着かせたあと。夕立が平静を取り戻したところで再び電が尋ねた。
「トラック泊地の長官さんも、デュエルモンスターズは娯楽の一環として認めてくれているのです。いったい、誰がデュエルを禁止したのですか?」
「川内さんっぽい」
「川内さんが?」
電の言葉に、夕立はこくりと頷く。
「川内さんが、あたしたちの部隊の旗艦なのは知ってるかしら?」
「ええ、知ってるわ。この間、あなたたちを探しに講堂へ来てたものね」
雷の返事に合わせ、他の三人も首肯する。
川内型軽巡洋艦一番艦「川内」。二人の姉妹艦を持つ川内型のネームシップで、現在は夕立と時雨が所属する司令室の旗艦を務めている。電たちは知らないが、かつては妹たちとともに内地の主力水雷戦隊の旗艦を任されていたこともあり、実力は折り紙つきである。
そんな彼女の名前は、夕立や時雨ほどではないにしろ、海軍内でそれなりの知名度を有している。
しかし、夕立たちと異なり、その理由はどちらかと言うと武勇よりも彼女の特徴的な性格によるところが大きい。その性格とは……
「じゃあ、川内さんの夜戦好きの話も?」
「もちろん。暁たちだけじゃなくて、鎮守府中で有名よ」
今度は暁が答え、響がそのあとを続ける。
「いわく、三度の飯より夜戦が好き、夜戦で敵の一個艦隊を単独殲滅……夜戦にまつわる彼女の噂話には、事欠かないよ」
「それなら話が早いわ。今回は、その夜戦好きな性格が原因っぽい」
「と、いうと?」
「川内さんは、規定の訓練の他にもよく夕立たちを夜戦に誘うんだけど、デュエルモンスターズを始めてからは断ることが多かったの。川内さんはそれが不満だったっぽくて……それで、デュエル禁止令を出されちゃったっぽい」
「それって職権濫用じゃない。どうして抗議しなかったのよ」
雷の正論に、夕立は溜息混じりに首を横に振る。
「抗議はしたけど、だったら夜戦で自分に勝ってみろって。夜戦であの人に勝つのは無理っぽい」
「夕立ちゃんの司令官さんは、川内さんを止めなかったのですか?」
「うちの提督さんは押しの弱い人だから、いっつも川内さんを止め切れなくて……。戦闘の時は、頼れる人なんだけど」
「それで、私たちに助けを求めにきたってわけね」
「その通りっぽい」
「分かったわ。私は夕立に協力する」
即答した雷は、電たちを見回して尋ねる。
「みんなは?」
「当然よ!」
「愚問だね」
「もちろん、協力するのです」
雷の問いに、彼女の姉妹たちは即座に答えを返す。それを予期していた様子の雷は、一つ頷いて夕立に向き直る。
「と、いうわけで。私たち全員で協力するわ」
「ありがとう! これで百人力っぽい!」
夕立を先頭に、五人は夕立が所属する司令室へ向かう。が、当然というべきか、川内の説得は困難を極めた。
「何度も言わせない。私の隊ではデュエルは禁止!」
腕組みをした川内が、強い調子で言う。
「私たちの任務は、深海棲艦を倒すことよ。遊んでる時間があったら、訓練しなさい」
「日課の訓練は、ちゃんとこなしてるっぽい!」
「訓練に制限なし! 月月火水木金金、訓練に休みはないわ。文句があるなら、私に夜戦で勝って練度が十分なことを証明することね」
「そんなの理不尽よ!」
ここで、雷が夕立の援護に加わる。
「デュエルモンスターズは、鎮守府の長官からも艦娘たちの娯楽として認められてるわ。それを川内さんの隊でだけ禁止にするなんておかしいわよ」
「そうよ。夕立たちはサボってるわけじゃないんだからいいじゃない」
暁も加勢するが、川内は首を縦に振らない。
「確かに、昼戦ならそれで十分かもしれない。でも、夜戦は違う。夜戦は一瞬の隙が沈没につながる危険な戦い。そこで生き残るためには、課業の訓練だけじゃ全然足りないわ」
「でも……だからといって訓練ばかり続けていたら、夕立ちゃんたちの息が詰まっちゃうのです」
「悪いけど、これは私の隊の問題よ。私の部下になった以上、夕立たちには私と一緒に戦うための訓練をしてもらう。他の司令室の子は口を挟まないで」
「夜戦バカ」の渾名も持つ川内の攻略は、予想通りか、あるいはそれ以上に難航の
夕立の言うように、事の起こりはデュエルモンスターズの浸透によって夜戦の相手がいなくなったことにあるのかもしれない。しかし、川内の話しぶりからはそれだけが理由ではないように感じられる。おそらく、実際に夜戦での部下の生き残りを考えているのだろう。本人が夜戦に通じているだけに彼女の言葉は重く、電たちもなかなか返す言葉を見つけられなかった。
「それは、そうかもしれませんけど……」
電はどうにか反論を試みるが、妙案は浮かばない。しかし、援軍は思わぬところから現れた。
「姉さん……どうしたの?」
電たちの背後から、不意に声が聞こえる。彼女らが驚きつつ振り返ると、そこには川内と同じ色調の服を着た長髪の女性の姿があった。
「ああ、神通。なにか用?」
会話を一時中断し、川内は来客の名を呼ぶ。
川内型軽巡洋艦二番艦「神通」――彼女の、妹の一人である。
「提督から、夜間水雷戦の共同研究の申入れを預かって来たんだけど……。姉さんこそ、一体なにがあったの?」
川内と向かい合う電たちを見て、神通が尋ねる。
「うーん、それがねぇ……」
川内が事のあらましを神通に語る。彼女の話を聞き終えた神通は、一つ頷いてからゆっくりと口を開いた。
「確かに、姉さんの言うことはもっともです」
「でしょ? だから――」
「ですが、姉さんの主張を全面的に支持することもできません」
姉の言葉を遮って、神通が言う。
「どうして?」
不満げな表情の川内に、神通は逆に問いかける。
「姉さんは、そのデュエルモンスターズというゲームをやってみたことはある?」
「ないわよ。その暇があったら夜戦してるし」
「なら、姉さんに夕立さんたちを止める権利はないわ」
「なんでよ!」
抗議の声を上げる川内。それに対し、神通は諭すような口調で答える。
「自分が試してもいないものを一方的に否定するのは良くないわ。姉さんの主張にも一理あるけど、夜戦の話になると周りが見えなくなっちゃうのが姉さんの悪い癖。夕立さんたちは必要な訓練をこなしているのだから、彼女たちの好きにさせてあげるべきだと思う」
当を得た指摘を受けて、川内は言葉を詰まらせる。実の妹からの指摘ということもあってか、先ほどのように無下に突っぱねることもない。しばらく黙り込んでいたあと、川内は電たちが見守る前で口を開いた。
「……分かったわ。確かに神通の言う通りね」
「それなら、デュエル禁止令も解除っぽ――」
「だから、デュエルで決着をつけるわよ!」
「ぽいぃっ!?」
川内の予期せぬ台詞に、夕立は赤い瞳を丸くする。
「どうしてそうなるっぽい!? 意味分からないっぽい!」
「神通が言ってたでしょ。試しもせずに否定するのは良くないって。だから私も、デュエルモンスターズを試してみるわ。ついでに、この話の決着もそこでつけましょ。夕立が勝てばデュエル禁止令は撤回。ただし私が勝ったら、うちの隊ではずっとデュエル禁止よ。勝負は明日の正午、いいわね」
「明日って、それまでにルールを覚えるつもりっぽい!?」
「もちろん。それだけあれば十分よ」
当然のごとく答えた川内は、電たちの間を抜けて部屋を出る。
「姉さん、どこへ?」
「酒保よ。早速、デッキとやらを作ってくるわ」
神通の問いに、川内は顔を若干振り返らせて答える。呆然とする一同をその場に残し、彼女は酒保の方向へと歩いていった。
「なんだか、妙なことになったっぽい……」
溜息とともに夕立が口にした言葉が、その場にいる全員の、正直な感想だった。
◆◇◆◇
翌日。約束の時間に夕立が指定された場所へやってくると、そこには既に川内の姿があった。
「来たわね」
川内が勝負の場に指定したのは、運動場。この鎮守府でもっとも広いスペースを確保でき、今では艦娘たちの定番デュエルスポットとなっている場所である。
夕立の後ろには、時雨と、応援をしに来た第六駆逐隊の面々。対する川内には、妹の神通が付き添っている。その周囲には、デュエルの気配を感じた非番の艦娘たちが観戦のために集まる。
「まさか、本当に一日でデッキを組んだっぽい?」
「ええ。そう言ったでしょ?」
「信じられないっぽい……」
川内の返事に、夕立は改めて驚きの表情を浮かべる。
「さ、始めるわよ。全力でかかってきなさい」
「言われなくても、そのつもりっぽい!」
買ったばかりのデュエルディスクを構える川内に負けじと、夕立もディスクを起動させる。
「「デュエル!!」」
川内 LP4000
夕立 LP4000
「勝負をふっかけたのはこっちだし、先攻と後攻、好きな方を選んでいいわよ」
「ならお言葉に甘えて。あたしは後攻にするっぽい」
「それじゃ、私が先行ね。私は『忍者マスター HANZO』を召喚」
《忍者マスター HANZO》
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1800/守1000
このカードが召喚に成功した時、デッキから「忍法」と名のついたカード1枚を手札に加える事ができる。
また、このカードが反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「忍者マスター HANZO」以外の「忍者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。
川内の場に、黒装束の忍者がサッと降り立つ。忍者マスター HANZO――名前も見た目も、典型的な忍者といった風情のモンスターである。
「HANZOの効果を発動。デッキから『忍法』と名のついたカードを手札に加えることができる。私は『忍法 変化の術』を手札に加える。カードを一枚伏せて、ターン終了」
まずは静かな立ち上がり。しかし夕立は、それに付き合って大人しくしているつもりはなかった。
「あたしのターン! あたしは手札から『ファーニマル・オウル』を召喚、その効果でデッキから『融合』を手札に加えるわ」
「へぇ。便利な効果ね」
「余裕でいられるのも、今のうちっぽい。あたしは『融合』を発動! 手札の『エッジインプ・シザー』と場の『ファーニマル・オウル』を融合するわ。融合召喚、『デストーイ・シザー・タイガー』!」
《融合》
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
《ファーニマル・オウル》
効果モンスター
星2/地属性/天使族/攻1000/守1000
「ファーニマル・オウル」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが手札からの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「融合」1枚を手札に加える。
(2):500LPを払って発動できる。
自分の手札・フィールドから「デストーイ」融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
《エッジインプ・シザー》
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1200/守 800
「エッジインプ・シザー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚デッキの一番上に戻して発動できる。
このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。
《デストーイ・シザー・タイガー》
融合・効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻1900/守1200
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上
(1):「デストーイ・シザー・タイガー」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。
(2):このカードが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数まで、フィールドのカードを対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの「デストーイ」モンスターの攻撃力は、自分フィールドの「ファーニマル」モンスター及び「デストーイ」モンスターの数×300アップする。
「このデュエルは絶対に負けられない。だから、最初から全力で攻めるわ! シザー・タイガーの効果発動、融合召喚に使ったモンスターの数までフィールドのカードを破壊する。HANZOと伏せカードを破壊!」
「よし。これで、モンスターを失った川内にダイレクトアタックできる」
観戦する時雨が力強く頷く。しかし、
「させないわ。手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動! このカードを捨てて、ターンが終わるまでシザー・タイガーの効果を無効にする!」
《エフェクト・ヴェーラー》
チューナー・効果モンスター
星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0
(1):相手メインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送り、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。
その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
「この私が、そう簡単に直接攻撃を許すと思った? もっと気合い入れて攻めてきなさい」
「く……まだまだこれからっぽい! あたしは『
「またシザー・タイガーを呼ぶつもりかしら?」
「あたしもそうしたいけど、シザー・タイガーは自分フィールドに1体しか存在できないっぽい。でも、他にも手はあるわ。あたしはもう一回融合を発動! 場の『エッジインプ・シザー』と手札の『ファーニマル・ラビット』を融合して、『デストーイ・シザー・ウルフ』を融合召喚するわ!」
《
通常魔法
自分の墓地に存在する「融合」魔法カード1枚と、融合に使用した融合素材モンスター1体を手札に加える。
《ファーニマル・ラビット》
効果モンスター
星1/地属性/天使族/攻 300/守1200
「ファーニマル・ラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが融合召喚の素材となって墓地へ送られた場合、自分の墓地の「エッジインプ・シザー」1体または「ファーニマル・ラビット」以外の「ファーニマル」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
《デストーイ・シザー・ウルフ》
融合・効果モンスター
星6/闇属性/悪魔族/攻2000/守1500
「エッジインプ・シザー」+「ファーニマル」モンスター1体以上
このカードは上記のカードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。
(1):このカードは、このカードの融合素材としたモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
「さらに、ファーニマル・ラビットが融合素材に使われたことで、その効果が発動! 墓地のエッジインプ・シザーを手札に加えるわ。さあ、バトルよ。シザー・ウルフでHANZOに攻撃!」
「トラップ発動、『忍法 変化の術』!」
HANZOへと突進するシザー・ウルフの目の前に、突如として白煙が立ち上る。ちょうどHANZOを包み込むように出現した煙は、瞬時に川内のフィールドを埋め尽くし、一切の姿をその中に隠した。
「な、なにが起きてるの?」
突然の出来事に狼狽える夕立。そんな彼女に、川内は短く答えを告げる。
「忍法よ」
「忍法……?」
「そう。忍法は、忍者が使う技の数々の総称。変化の術はその基礎的な技の一つよ。この術を使った者は、自分の姿を自由自在に変えることができる」
「変化……ということは、まさかHANZOも」
「その通り。私はHANZOをリリースして、新たな姿へと変化させる! 現れなさい、『赤竜の忍者』!」
《忍法 変化の術》
永続罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「忍者」という名のついたモンスター1体を生け贄に捧げて発動する。
選択したカードのレベル+3以下の獣族・鳥獣族・昆虫族のいずれかのモンスター1体を手札またはデッキから自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードが自分フィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
《赤竜の忍者》
効果モンスター
星6/炎属性/鳥獣族/攻2400/守1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の墓地の「忍者」または「忍法」と名のついたカード1枚をゲームから除外し、相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードを確認し、持ち主のデッキの一番上または一番下に戻す。
この効果の発動に対して相手は選択されたカードを発動できない。
「赤竜の忍者」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
「攻撃力2400……これじゃあ、あたしのモンスターだと倒せないっぽい」
シザー・タイガーは自分フィールドの「デストーイ」モンスターを強化する効果を持っているが、現在はエフェクト・ヴェーラーによって無効化されているため適用されない。攻撃力で負ける夕立は仕方なくバトルを中断する。
「あたしはカードを一枚伏せて、ターンエンド」
この瞬間、エフェクト・ヴェーラーの効果が終了してシザー・タイガーの効果が復活する。これにより、シザー・タイガーの攻撃力は2500、シザー・ウルフの攻撃力は2600となる。
「私のターン。私は装備魔法『風魔手裏剣』を赤竜の忍者に装備。これで、攻撃力は3100に上がる」
《風魔手裏剣》
装備魔法
「忍者」という名のついたモンスターのみ装備可能。
装備モンスターは攻撃力が700ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地に送られた時、相手ライフに700ポイントダメージを与える。
「バトルフェイズ。赤竜の忍者でシザー・ウルフに攻撃!」
「そうはいかないっぽい。罠カード、『強制脱出装置』を発動!」
《強制脱出装置》
通常罠
(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを持ち主の手札に戻す。
「このカードの効果で、赤竜の忍者を手札に戻すわ」
「やるわね。だけど、こっちも風魔手裏剣の効果を発動。このカードがフィールドから墓地へ送られた時、相手に700ポイントのダメージを与える」
夕立 LP4000→3300
「メインフェイズ2に、私は魔法カード『機甲忍法ゴールド・コンバージョン』を発動するわ。場に残っている変化の術を破壊して、デッキから2枚ドロー。さらにモンスターをセット、カードを二枚伏せてターン終了よ」
《機甲忍法ゴールド・コンバージョン》
通常魔法
自分フィールド上に「忍法」と名のついたカードが存在する場合に発動できる。
自分フィールド上の「忍法」と名のついたカードを全て破壊する。
その後、デッキからカードを2枚ドローする。
「あたしのターン。さっきはかわされたけど、今度は逃がさないっぽい。バトル! シザー・タイガーで裏守備モンスターに攻撃!」
「待った! バトルフェイズに入る前に、私は『威嚇する咆哮』を発動するわ。これで、このターンあんたは攻撃宣言できなくなる」
《威嚇する咆哮》
通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。
「また防がれたっぽい……。あたしはこれでターンエンド」
「私のターン。……夕立。悪いけどこの勝負、ここで決着よ」
「えっ?」
「私は自分の場の裏守備モンスターを反転召喚。伏せていたのは『カラクリ忍者
《カラクリ忍者
効果モンスター
星3/地属性/機械族/攻1200/守1200
このカードは攻撃可能な場合には攻撃しなければならない。
フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、このカードの表示形式を守備表示にする。
このカードがリバースした時、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して墓地へ送る。
また、このカードがリバースしたターン、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
「さらに私は、手札から『帝王の烈旋』を発動するわ。そして、あんたの場のシザー・タイガーをリリースして、赤竜の忍者をアドバンス召喚!」
《帝王の烈旋》
速攻魔法
「帝王の烈旋」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
(1):このターン、アドバンス召喚のために自分のモンスターをリリースする場合に1度だけ、自分フィールドのモンスター1体の代わりに相手フィールドのモンスター1体をリリースできる。
「なっ……相手のモンスターをリリースしてアドバンス召喚なんて、反則っぽい!」
「帝王の烈旋の効果よ。このカードを発動したターン、私はアドバンス召喚する時に相手のモンスター1体を自分のモンスターの代わりにリリースすることができる」
「そんな!?」
アドバンス召喚する時は、そのレベルに応じた数の自分のモンスターをリリースしなければならない――その基本的ルールを打ち破る効果に、夕立は驚愕の表情を浮かべる。
「勝負あったわね、夕立」
「うっ……」
赤竜の忍者と参参九の攻撃力の合計は3600。対して、夕立の残りライフは3300。彼女のフィールドにモンスターはおらず、伏せカードもない。手札は三枚あるが、そのうち二枚はエッジインプ・シザーとファーニマル・オウルであることが割れている。川内が攻撃を躊躇する要素はどこにもない。
川内が、デュエルの勝敗を決する攻撃を宣言しようとする。しかし、彼女が一回目の攻撃を命じようとしたその時、鎮守府全体にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「これって……!?」
突如として鳴った警報に、夕立が反応する。そんな彼女の言葉に答えるように、川内の鋭い声が響いた。
「敵襲警報よ!」
暁「デュエルの最中に敵襲って、どうするのよ!?」
雷「当然、中止になるに決まってるでしょ! 出撃が優先よ!」
響「どうかな。デュエリストにとって、デュエルはすべてに優先されるものだからね」
雷「私たちはデュエリストである前に艦娘でしょ! ほら、いくわよ!」
電「あっ、ちょっと……! え、えと、次回『敵襲』。デュエル・スタンバイなのです! ……みんな、待ってほしいのです~!」