鎮守府決斗録   作:石田零

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セイリングデュエル――それは、潮風の中で進化したデュエル

そこに命を懸ける古の艦の名を受け継いだ少女達を、人々は「艦娘」と呼んだ


……というわけで、初のvs深海棲艦です。上のは何かいい感じに語呂が合うのを思いついたのでやってみました(笑)
それでは、セイリングデュエル・アクセラレーション!!



20 実戦

 ――おい、デュエルしろよ――

 

 

 それが、深海棲艦が春瀬たちに対して発光信号で伝えてきた言葉だった。

 突如としてデュエルの挑戦状を、それも、よりにもよって深海棲艦から叩きつけられる――あまりにも突飛な事態に、信号を読み取った艦娘たちは自らの正気を疑い、次いで混乱に陥った。そしてその混乱は、戦況報告という形をとって鎮守府全体に波及した。

 

「どうして深海棲艦がデュエルを挑んでくんだよ!?」

 

「ていうか、深海棲艦ってデュエルできるの?」

 

「そもそも、どうして深海棲艦がデュエルモンスターズを知ってるのよ!?」

 

 鎮守府の港では、天龍たちが困惑の表情をあらわにする。答えの出ない問いをぶつけ合う彼女たちへ、敵艦が再び発光信号を送る。

 

「『デュエルで私に勝つ。それが、私を倒す唯一の方法』。……あの深海棲艦は、そう言っているのです」

 

 信号を読んだ電が、春瀬に報告する。

 

「デュエルって言ってもねえ……。デッキもデュエルディスクも持ってるように見えないんだけど。それに、手のないイ級じゃカード持てないし。どうやってデュエルするつもりなんだろ?」

 

 相手の姿を眺めながら、鈴谷がもっともな疑問を呟く。すると、それに答えるようにイ級の胴体の一部が隆起し、体側に半円形の物体を作り上げた。

 

「コレガ、私ノ デュエルディスク ダ……。コノ ライフ ヲ、ゼロ ニ シナイカギリ、私ハ沈マナイ」

 

 イ級の口から、機械音のような声が発せられる。それを聞いた鈴谷は、「うそっ!?」と目を丸くして飛び上がった。

 

「しゃべった!? 深海棲艦がしゃべったよ!?」

 

「何ヲ、驚イテイル? 口ガ アルノダカラ、喋ルノハ当然ダロウ」

 

「いやいやいや。だって今まで、『鬼』や『姫』しか言葉を話してなかったじゃん! 人型をしてるヲ級とかなら分かるけど、どうして、ただの魚みたいなイ級が言葉を話せるのよ!?」

 

「酷イ言ワレヨウダナ……。マァ、ナンダ、我々モ進化スル、ト……ソウイウコトダ。タトエ、ソレガ駆逐艦クラス デアッテモナ」

 

「マジで……?」

 

 イ級の言葉を信じられない様子でいる鈴谷だが、現に相手が目の前でしゃべっている以上、信じざるをえない。鈴谷ほど強い反応を見せなかったとはいえ、他の艦娘たちも多かれ少なかれ似たような顔をしている。

 しかし、そんな中で一人、平静を保っている人物がいた。

 

「そうかい。なら、そのデュエルディスクを破壊すれば話は早い」

 

 言うや否や、響が主砲を発砲する。近距離から放たれた砲弾は、狙いあやまたずイ級のデュエルディスクに命中し、炸裂する。

 

「……無駄ダ。コノ デュエルディスク モ、私ノ体。破壊ハ、デキナイ」

 

 だが、砲弾が命中したにも関わらず、イ級のデュエルディスクが破壊されることはない。どうやら、イ級の語っていることは真実であるようだ。

 一連のやり取りによって、鎮守府の混乱はさらに深まった。なにしろ、このような事態は誰も経験したことがない。そうした状況のもとでは、理性を失わないようにするだけでも至難の業である。

 けれども響は、その場の全員が驚くような冷静さで、イ級に言葉を返した。

 

「分かった。それなら、私とデュエルしよう」

 

「響!?」

 

「響ちゃん!?」

 

 落ち着いた口調で言った響に、周囲の視線が集まる。

 

「響、正気か!? 深海棲艦とデュエルするなんて」

 

 天龍の問いに、響は「もちろん」と頷く。

 

「私たちは、この敵艦の倒し方を知らない。でも、その倒し方を本人がわざわざ教えてくれた。これはチャンスだよ」

 

「それが本当だって証拠はないんだぞ。罠かもしれねえ」

 

「分かってるよ。でも、試す価値はあると思う」

 

「それならオレが出る。チビどもに危ないマネさせられっかよ」

 

 代わりに戦おうとする天龍を、「駄目ダ」とイ級が制する。

 

「私ハ、最初ニ名乗リ出タ、ソイツト戦ウ。臆病者ニ、興味ハ ナイ」

 

「何だとっ!」

 

 臆病者呼ばわりされた天龍が怒りの声を上げるが、イ級は聞く耳を持たない。敵からも対戦相手に指名された響は、「司令官」と春瀬を呼ぶ。

 

「私のデッキとデュエルディスクを、持ってきてもらえないかな? 艦娘は全員艤装を着けてて、すぐには陸に上がれないから」

 

「……俺が止める可能性は、考えてないのか?」

 

「私がこうして司令官に頼んでいることが、その答えだよ」

 

 微笑を浮かべて、響は春瀬の質問に答える。春瀬は諦念を込めた溜息をつくと、司令室に戻って響のデッキをセットしたデュエルディスクを持ってきた。

 

「俺が代わりに……ってのは、できないんだよな」

 

「うん。相手は、私をご指名らしいからね。それに、いくらデュエルだからといっても、生身の人間である司令官に深海棲艦の相手はさせられないさ」

 

「黙って見ていることしかできないとは……情けないな」

 

「そんなことないよ。司令官が見守っていてくれるから、私は安心して戦える」

 

 そう言って、響はデュエルディスクを受け取る。ディスクを左腕に装着した彼女は、他の艦娘たちより前に出て敵艦と対峙した。

 

「戦う前に一つ提案があるんだけど、いいかな。ここでは少し手狭だから、もっと開けた場所に行かないかい?」

 

「イイダロウ」

 

 響とイ級は、陸地から少し離れた沖合に出る。その周囲で、不安げな面持ちの艦娘たちが事のなりゆきを見守る。

 

「さて、やりますか」

 

 呟くように言った響の腕で、デュエルディスクが起動する。

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

イ級 LP4000

響  LP4000

 

 

「私ノ ターン」

 

 デュエル開始と同時にイ級のデッキから五枚のカードが飛び出し、イ級の前方に浮遊する。これが、イ級の手札ということなのだろう。

 

「私ハ『ジェネティック・ワーウルフ』ヲ召喚。サラニ『ガイアパワー』ヲ発動スル」

 

 

《ジェネティック・ワーウルフ》

通常モンスター

星4/地属性/獣戦士族/攻2000/守 100

遺伝子操作により強化された人狼。

本来の優しき心は完全に破壊され、闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。

その破壊力は計り知れない。

 

《ガイアパワー》

フィールド魔法

フィールド上に表側表示で存在する地属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする。

 

 

 イ級のフィールドに、二本の角と四つの腕を持った怪物が現れる。その凶暴な見た目に反せず、攻撃力は下級通常モンスター最高の2000。そこへフィールド魔法の効果も加わり、攻撃力は上級モンスターと同等の2500にまで上昇する。

 

「ターンエンド」

 

「私のターン。私は手札から魔法カード『炎王の急襲』を発動する」

 

 

《炎王の急襲》

通常魔法

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。

デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。

「炎王の急襲」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「このカードの効果により、私はデッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスターを一体特殊召喚できる。来い、『炎王神獣 ガルドニクス』!!」

 

 

《炎王神獣 ガルドニクス》

効果モンスター

星8/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700

このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。

また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

「きたわ!」

 

「響ちゃんのエースモンスターなのです!」

 

 火の粉とともに舞い上がったガルドニクスを見て、観戦する雷と電が声を上げる。姉妹間のデュエルで何度も響と戦った経験を持つ二人は、このモンスターの強さをよく理解していた。

 

「さらに私は、『炎王獣 ヤクシャ』を通常召喚する」

 

 

《炎王獣 ヤクシャ》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 200

自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

また、このカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分の手札・フィールド上のカード1枚を選んで破壊できる。

「炎王獣 ヤクシャ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「バトルフェイズ。まずはガルドニクスでジェネティック・ワーウルフに攻撃。続けてヤクシャでダイレクトアタックだ」

 

「グオオォッ……」

 

 

イ級 LP4000→3800→2000

 

 

 いくらジェネティック・ワーウルフが下級モンスターで最高クラスの攻撃力を持つとはいえ、元々の格が違う最上級モンスターには敵わない。フィールド魔法の補助を加えてもなおガルドニクスの攻撃力には届かず、猛火によって焼き尽くされる。そして、続くヤクシャの攻撃によって、イ級のライフは一気に初期値の半分にまで削られた。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド。このエンドフェイズに、炎王の急襲の効果で特殊召喚したガルドニクスは破壊される」

 

「私ノ ターン。私ハ……」

 

「待った。スタンバイフェイズ時に、墓地のガルドニクスの効果を発動させてもらうよ。このカードを墓地から特殊召喚し、フィールドに存在する他のモンスターをすべて破壊する。私はガルドニクスを攻撃表示で特殊召喚して、ヤクシャを破壊。そして、破壊されたヤクシャの効果で手札の『ネフティスの鳳凰神』を破壊するよ」

 

「厄介ナ、モンスターダナ……。ナラバ」

 

 浮遊するイ級の手札の中から一枚のカードが動き、デュエルディスクのモンスターゾーンに置かれる。

 

「『電動刃虫(チェーンソー・インセクト)』ヲ召喚。サラニ、墓地ノ ジェネティック・ワーウルフ ヲ除外シ、『ギガンテス』ヲ特殊召喚スル」

 

 

電動刃虫(チェーンソー・インセクト)

効果モンスター

星4/地属性/昆虫族/攻2400/守 0

このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手プレイヤーはカード1枚をドローする。

 

《ギガンテス》

効果モンスター

星4/地属性/岩石族/攻1900/守1300

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の地属性モンスター1体をゲームから除外して特殊召喚する。

このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

「電動刃虫ノ攻撃力ハ、フィールド魔法ノ効果デ2900……オ前ノモンスターヲ、上回ッタ……。イクゾ。電王刃虫デ、ガルドニクスヲ攻撃」

 

「リバースカード発動『炎王円環』。フィールドのガルドニクスを破壊して、墓地のヤクシャを守備表示で特殊召喚する」

 

 

《炎王炎環》

速攻魔法

自分のフィールド上及び自分の墓地の炎属性モンスターを1体ずつ選択して発動できる。

選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、選択した墓地のモンスターを特殊召喚する。

「炎王炎環」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「小癪ナ……。戦闘ヲ続行、ヤクシャヲ攻撃ダ。電動刃虫ノ効果デ、オ前ハ一枚ドローデキル」

 

「ほう、これはありがたいね」

 

「ソノ余裕、コノ攻撃ヲ受ケテモ モツカナ? ギガンテス デ、ダイレクトアタック!」

 

 筋骨隆々とした巨人が、響に向かって巨木を打ち下ろす。猛烈な勢いで迫りくる巨木を見た響は、反射的に艤装の防楯(ぼうじゅん)を手に取って攻撃を受け止めた。

 

「くっ、ぁ……!」

 

 

響 LP4000→1600

 

 

 巨木が防楯に当たった瞬間、金属が軋む耳障りな音とともに、響の右腕に強い衝撃が走る。重い一撃を受けた響は、後ろに二、三歩よろめいた。

 

「今の……衝撃は……」

 

 右腕を押さえ、響は痛みに顔を歪める。……と、彼女は、手に持った防楯に異変が起きていることに気がついた。

 

「これは……?」

 

 それは、防楯の外形に生じた変化だった。

 響たち暁型駆逐艦の艤装には、左右の魚雷発射管に一枚ずつ長方形の防楯が装着されている。これは本来、魚雷発射管の防護用に設けられたものだが、艤装から取り外して楯として使用することもできる。さっきの響は、これを敵モンスターの攻撃を防ぐのに用いたのだった。

 その防楯の形が、歪んでいた。全体の形状こそ崩れていないが、敵の攻撃が当たった部分は大きくへこみ、クレーターのようになっている。まるで、敵艦の砲撃が命中した時のような損傷である。あと少し威力があったら、防楯を砕かれていただろう。

 

「……なるほど」

 

 防楯を見つめて沈思していた響は、なにかを理解した様子で呟く。そして、防楯を背中の艤装に戻すと、先ほどよりも鋭さを増した目で敵艦を見据えた。

 

「そういうことなら、この勝負、なんとしても負けられないね。絶対に勝たせてもらおう」

 

「ソウ簡単ニ イクト、思ッテイルノカ?」

 

「いくさ。勝利の方程式は、既に揃っている」

 

「ナニ……?」

 

「まだターンを続けるのかい? なにもなければ、私のターンを始めるけれど」

 

「待テ。カードヲ一枚伏セテ、ターンエンド ダ」

 

「私のターン。……さて、見せてあげるよ。私の勝利の方程式、その答えを」

 

 響のスタンバイフェイズ。この時、彼女の墓地に眠る二枚のカードの効果が発動する。

 

「私は、墓地に存在するネフティスの鳳凰神の効果を発動。このカードが効果で破壊され墓地へ送られた時、次の自分のスタンバイフェイズに特殊召喚できる。そしてこの方法で特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在する魔法・罠カードをすべて破壊する!」

 

 

《ネフティスの鳳凰神》

効果モンスター

星8/炎属性/鳥獣族/攻2400/守1600

このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

「ナンダト!?」

 

 黄金に光る体をもつ聖獣が顕現し、その身にまとう炎でフィールドを焼く。炎はイ級のフィールド魔法と伏せカードを呑み込み、それらを消し炭に変えた。

 

「ミラーフォースか……。発動されていたら、危なかったね」

 

 『聖なるバリア -ミラーフォース-』は、相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する強力な罠カードだ。しかし、その発動タイミングは相手モンスターの攻撃宣言時。攻撃する前に破壊してしまえば、恐れることはない。

 

「さらにもう一体、ガルドニクスの効果も発動させる。その効果は……さっき説明したから、知ってるよね」

 

「クッ……」

 

「紅き炎まとう聖鳥よ、水底からの侵攻者を討滅せよ! 舞い上がれ、炎王神獣ガルドニクス!!」

 

 甲高い鳴き声を上げ、深紅の翼をもつ巨鳥が響のフィールドに現れる。その効果は、先のターンに示した通り。

 

「ガルドニクスの効果発動。自身の効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のすべてのモンスターを破壊する!」

 

 味方をも巻き込む炎がフィールドを覆い、二体のモンスターを跡形もなく消し去る。すべてが終わったあと、イ級の前には茫漠たる空間だけが広がっていた。

 

「バトルフェイズ。ガルドニクスで、プレイヤーにダイレクトアタック」

 

 飛翔したガルドニクスが、炎をまとって急降下する。イ級がこの攻撃を防ぐ手段は、ない。

 

「До Свидания」

 

 勝負が決まる寸前、響の口が小さく動く。直後、爆音とともに巨大な火柱が立ち上った。

 

 

イ級 LP2000→0

 

 

「響ちゃんの勝ちなのです!」

 

 響の勝利を受けて、洋上に歓声が沸く。片手を挙げてそれに応じてから、響はイ級のいた場所へと慎重に近づいた。

 

「負ケタ、カ……」

 

 轟沈していたかと思ったイ級だが、その姿はまだ辛うじて水面上にあった。それを見た艦娘たちは一瞬身構えるが、相手が既に満身創痍であることに気づいて警戒を解く。

 

「ライフをゼロにすれば撃沈できるという話……どうやら、本当だったみたいだね」

 

「アア……。見テノ……通リ、ダ……」

 

 イ級は艦としての航行能力を完全に失い、波に身を任せる状態になっている。艦体は左舷に大きく傾斜し、復元の見込みはない。転覆も時間の問題だろう。

 

「君が沈む前に、一つ聞きたいことがある。どうして私たちにデュエルを挑んできたんだい?」

 

「……ドウシテ、デュエルモンスターズ ヲ知ッテイル……デハ、ナイノダナ……」

 

「君に時間があれば、そこからお願いしたいんだけど……残念ながら、それは無理そうだからね」

 

「ヨク、分カッテイル……。イイダロウ……話スト、シヨウ……。私ガ、デュエルヲ、挑ンダノハ……姫様ノ、命令ヲ……受ケタ、カラ……ダ……」

 

「命令……?」

 

「ソウ……。ソノ……命令、ハ……」

 

 しかし、答えを明かす前にイ級の体は水面下に没する。数秒後、水中で発生した振動が艤装越しに響の足に伝わった。

 

「……司令官。目標の撃沈を確認。作戦完了だよ」

 

 響から春瀬に伝えられた報告は、さらに彼によって鎮守府長官へと送られる。これを受けた長官は敵の撃退に成功したと判断し、出撃中の全艦娘に帰投を命じた。

 帰投命令は各司令室の提督を通じて艦娘たちに通達され、彼女たちは帰路につく。帰投した艦娘たちは続々と工廠の艤装着脱用ドックの入口に並ぶが、響はそれを横目に隣の港へと向かう。

 工廠に併設された港は、内地との輸送を担当する一般艦船の着岸用に設けられたものだ。そこでは、春瀬が先ほどと変わらない位置に立って響たちの帰りを待っていた。

 

「ただいま、司令官」

 

「お帰り、響。よく無事に戻ってきてくれたな」

 

 岸壁の上から腰をかがめ、春瀬は帽子の上から響の頭を撫でる。しかし響は、真剣な表情で春瀬を見上げたままだった。

 

「……何かあったのか?」

 

 それを見て取った春瀬は、頭を撫でる手を止めて響に尋ねる。響のあとを追ってきた電たちもその様子を不審がる。

 

「どうしたのですか、響ちゃん?」

 

 響は、集まった仲間たちを見回してから口を開く。

 

「みんなに、見てもらいたいものがある」

 

「なによ? 急にあらたまって」

 

 暁の問いに答える代わりに、響は防楯の片方を手に取る。

 

「あら? この防楯、歪んでるじゃない」

 

「今日の敵は一発も撃ってこなかったはずよね。いつ使ったの?」

 

 防楯の異常に気づいた暁と雷が響に尋ねる。響は二人を見て、

 

「デュエル中だよ」

 

 と、答えた。

 

「イ級とのデュエルで、私がダイレクトアタックを受けたところは見ているよね。この防楯は、それを受け止めた時に損傷したんだ」

 

「……どういうこと?」

 

「つまり、デュエルのダメージが実際に発生したということさ。私の右腕にも、まだ痛みが残ってる」

 

「ちょっと待って。ありえないわよ、そんなこと」

 

 響の言葉を、雷が否定する。

 

「確かにソリッドビジョンの攻撃は当たると痛いけど、防楯をへこませるほどの威力はないわ。そのことは、いつもデュエルディスクを使ってる響ならよく分かってるでしょ?」

 

「もちろん、分かっているよ。だけど、今日はその他に、この防楯が傷つく要素があったかい?」

 

 ゆっくりと指を折りながら、響は根拠を示していく。

 

「私たちの艤装は、毎日工廠で整備されて万全の状態に保たれている。出撃前から防楯が傷ついていることはありえない。そして、雷が言ったように今日の敵は一度も発砲していないし、敵艦の迎撃中に友軍を誤射したという報告もない。このことは、雷自身も知っているはずだ」

 

「それは、そうだけど……」

 

「不可能なことがらを消去していくと、よしんばいかにあり得そうになくても、残ったものこそが真実である――この間読んだ、推理小説の言葉だよ。そして現に、デュエルに敗れたイ級は沈んだ」

 

「……本当に、そんなことがありえるの……?」

 

「ありえる、ありえないじゃなくて、起きたんだ。そして、幸か不幸か、それを説明する状況証拠も揃っている」

 

「そんな……」

 

 沈黙した雷から視線を外し、響は春瀬を見る。

 

「司令官。このことを、鎮守府全体に周知してほしい。たぶん、これで終わりにはならない」

 

「……言い切るということは、何か理由があるのか?」

 

「うん」

 

 頷いた響は、春瀬の目を見つめて答える。

 

「あの敵艦が、こう言っていたんだ。私たちにデュエルを挑んだ理由、それは姫様の命令を受けたからだと」

 

「姫様、だと?」

 

 響の答えに、春瀬は表情を険しくする。

 

「姫というと……まさか、棲姫級か?」

 

 棲姫級というのは、春瀬たちが用いている深海棲艦の艦種分類の一つだ。

 深海棲艦には、戦艦や巡洋艦といった艦種の他に、「姫」や「鬼」と呼ばれるタイプの艦が存在する。これらの艦は、通常の敵艦を遥かに上回る戦闘力を有し、人語を操るなど一般の深海棲艦とは異なる部分を多く持っている。また、大きな特徴として「棲地」と呼ばれる拠点に陣取り、多数の深海棲艦を従えていることが挙げられる。これらのことから、海軍ではこの二種が敵の司令塔であると考え、棲地の発見と攻略に力を注いでいる。

 棲姫級の戦力は強大であり、これと渡り合うことは並の艦隊では不可能である。当然、トラック泊地の現有兵力では対抗できない。危機感を覚える春瀬だったが、その懸念に対して天龍が疑問を呈する。

 

「けどよ、提督。この近くにあった敵棲地――サーモン諸島は、数年前の攻略作戦で消滅が確認されてるぜ? 棲地にいた敵の鬼や姫も、その時に撃沈されてる。もしイ級の言ってた『姫』が棲姫級だってんなら、どこから湧いてきたんだ?」

 

「そうそう。今のサーモン諸島にはショートランド泊地とブイン基地もあるし、敵が動けばすぐに分かると思うんだけど。どんなに気の抜けた提督が長官をやってたとしても、それほど大きな反応は見逃さないでしょ」

 

 天龍と鈴谷の指摘に対し、春瀬は「確かに、二人の言う通りだ」と頷く。

 

「敵棲地が前回と同様の場所にあるなら、既に存在が確認されているはず。それができていないということは、新たな敵棲地はこちらの勢力圏外にあるのだろう。サーモン諸島一帯の制海権は獲得したとはいえ、それより東の海域はまだ敵の勢力圏内だ。そこにその『姫』がいるとすれば、これまで発見されていなかったのも頷ける。……まぁ、この『姫』が本当に棲姫級を指すのかも含めて、すべては憶測の域を出ないけどな」

 

「けど、この言葉の一致が単なる偶然とは思えないよねぇ。鈴谷も、警戒するに越したことはないと思うよ」

 

「でも、どうしてそこから次があるって言い切れるのよ?」

 

「敵艦が、『命令を受けた』と言っていたからさ」

 

 暁の問いかけに、響は答える。

 

「あのイ級は、『姫』の命令を受けてここに来た。ということは、その姫は、この泊地に対して何かの目的を持っているはずだ。ただの気まぐれで、敵拠点に攻撃を仕掛けてはこないだろうからね」

 

「言われてみれば、そうね。でも、その目的ってなんなのかしら?」

 

「それは分からない。あのイ級は、命令の内容を話す前に沈んでしまったから……。でも、少なくとも敵の目的が今回の襲撃で達成されたとは思えない。敵の狙いがどこにあるのかは見当もつかないけど、目的を達成するためにまた動きを見せるはずだ」

 

「だから、まだ終わりじゃないってことなのね」

 

 響は頷き、その言葉を肯定する。

 

「せめて、泊地と人のどっちに用があるか分かりゃいんだけどな。なぁ提督、そこんとこ何か分からねえのか?」

 

 天龍が尋ねるが、春瀬は首を横に振る。

 

「残念ながら、現段階では何も言えない。今は、判断に必要なあらゆる情報が不足している」

 

「提督に聞いてもダメか……。八方塞がりだな、こりゃ」

 

「なんのために、敵艦はこんなことを……」

 

 電の疑問に答えられる者はいない。勝利のあとには不釣合いな空気が、彼女たちの間に広がる。

 

「なーんか、嫌な予感がするねぇ……」

 

 沈黙の中、鈴谷のつぶやきが異様な現実感をもって響いた。

 




暁「え……?」

雷「どういう……ことよ……。デュエルで、命を落とすなんて……」

響「デュエルに負けたら消滅は、遊戯王ではよくあること。この作品も半分は遊戯王だから、なにも問題はないね」

暁「ねぇ雷。響、なにを言ってるのかしら……?」

雷「さあ……。前回の後書きからなんか様子がおかしいし、頭のネジが何本か抜けちゃったんじゃない?」

響「二人とも、聞こえてるよ。まったく失礼な……私は至って普通なのに」

雷「どこがよ……」

暁「そういえば、電は?」

電「こんなの、デュエルじゃないのです……電が知ってるデュエルは、みんなを、笑顔に……」

雷「ちょ!? 電、大丈夫!?」

響「あー、これは闇堕ち確定かな」

雷「しないわよ! ほら、大丈夫よ電。私がいるじゃない!」

暁「ああもう……これじゃ収拾つかないから、私が予告やって終わらせるわよ? 次回『逡巡』。デュエル・スタンバイ」
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