「デュエルディスクが選んだ先攻プレイヤーは……私だね」
ディスクに装備されたランプが点灯するのを見て、響が言う。
「ねえ、陽炎。最初に聞いておきたいんだけど、どうして私を対戦相手に指名したんだい?」
「気になる?」
「まあね」
「ふふっ。それはすぐに分かるわ」
小さく笑みを浮かべ、陽炎は答えをはぐらかす。
「私のターンになれば、教えてあげる」
「そうかい? なら、それを楽しみにしよう。でも、その前に」
響は、手始めに一枚のカードをデュエルディスクに置く。
「今は私のターンだ。まずはフィールド魔法『炎王の孤島』を発動するよ」
《炎王の孤島》
フィールド魔法
「炎王の孤島」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):自分メインフェイズにこの効果を発動できる。
自分の手札・フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、デッキから「炎王」モンスター1体を手札に加える。
(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合にこの効果を発動できる。
手札の鳥獣族・炎属性モンスター1体を特殊召喚する。
(3):フィールドゾーンの表側表示のこのカードが、墓地へ送られた場合または除外された場合に発動する。
自分フィールドのモンスターを全て破壊する。
フィールド魔法の発動と同時にデュエルディスクがソリッドビジョンを投影し、その場の景色を変えていく。木張りの講堂の床が一瞬にして青い海原に、そして緑の草むらへと変化し、気づけば響たちは絶海の孤島の上に立っていた。
「さて。せっかく指名をもらったのだから、私もそれなりのデュエルをしないとね。私は炎王の孤島の効果を発動。手札の『炎王神獣 ガルドニクス』を破壊し、デッキから『炎王獣 キリン』を手札に加える。さらに永続魔法『補給部隊』を発動、そしてモンスターをセット、カードを一枚伏せる。これで、私のターンは終了だよ」
《炎王獣 キリン》
効果モンスター
星3/炎属性/獣族/攻1000/守 200
自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。
また、このカードが破壊され墓地へ送られた場合、デッキから炎属性モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
《補給部隊》
永続魔法
(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動する。
自分はデッキから1枚ドローする。
「私のターン。私は――」
「おっと、少し待ってもらおうか。このスタンバイフェイズ時に、私の墓地に眠るガルドニクスの効果が発動する」
陽炎の進行を遮って、響が言う。
「ガルドニクスはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズに特殊召喚することができる。――紅き
《炎王神獣 ガルドニクス》
効果モンスター
星8/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。
また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
島の地面が突如として振動し、響の後方に聳える山の頂から天高く火柱が立ち上る。その火柱の中から、甲高い鳴き声とともに巨大な鳥獣が姿を現わした。
「ガルドニクスの効果発動。自身の効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターをすべて破壊する」
ガルドニクスの炎に呑み込まれ、響のフィールドの裏守備モンスターが破壊される。伏せられていたのは、前のターンに炎王の孤島の効果で手札に加えたキリンだった。
「キリンは破壊された時に、自分のデッキから炎属性モンスターを一体墓地へ送ることができる。私は二枚目のガルドニクスを墓地へ送る。さらに永続魔法 補給部隊の効果で、私はカードを一枚ドローする」
「二ターン目で、もう最上級モンスターをフィールドに……。これが、響のエースモンスターってことかしら?」
「そうだよ。炎王神獣 ガルドニクス――私が最も信頼しているモンスターさ」
陽炎の問いに、響は微笑を浮かべて答える。
「途中で割り込んで悪かったね。私の効果処理は全部終わったから、陽炎のターンを進めてくれ」
「分かったわ。メインフェイズ1、私は手札からこのモンスターを特殊召喚するわ。来なさい、『
《
効果モンスター
星6/炎属性/鳥獣族/攻 200/守2100
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分のフィールド上・墓地に炎属性以外のモンスターが存在しない場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
相手はこのカードをカードの効果の対象にできない。
「グリプスは、相手フィールドにモンスターが存在し、自分のフィールドと墓地に炎属性以外のモンスターがいない時に特殊召喚できるわ。さらに、グリプスの特殊召喚に成功した時、手札から速攻魔法を発動! 『地獄の暴走召喚』!」
《地獄の暴走召喚》
速攻魔法
相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。
その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。
相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。
「あれは、電が使っているのと同じカード。効果は確か……」
「このカードは、自分がモンスターの特殊召喚に成功した時にデッキと墓地から同名モンスターを可能な限り特殊召喚できるカードよ。私は、デッキから二体のグリプスを特殊召喚するわ!」
「そして私も、自分のモンスターを一体選んで同じように特殊召喚できる。そうだったよね」
「なんだ、このカードの効果は知ってたのね」
「身内に同じカードを使っている相手がいるものでね。私はデッキと墓地から、ガルドニクスを一体ずつ特殊召喚するよ」
「これで、響と陽炎のフィールドには同じモンスターが三体ずつ並んだわね」
「でも、陽炎のモンスターの攻撃力はたった200。響のガルドニクスには、束になっても敵わないわ」
観戦する雷と暁が、戦況を眺めながら言葉を交わす。
「けど陽炎も、その程度のことは分かっているはずよ。じゃなきゃ、この場で地獄の暴走召喚を発動したりなんてしないわ」
「そうね。と、いうことは――」
「……エクシーズ召喚、だね」
暁の台詞を引き継ぐようなタイミングで響が言う。
「ご名答」
答える陽炎だが、「でも」と言葉を接ぐ。
「まだエクシーズ召喚はしないわ。私は永続魔法『
《
永続魔法
このカードがフィールド上に存在する限り、自分は「陽炎獣」と名のついたモンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる。
また、1ターンに1度、自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
自分の手札・フィールド上の「陽炎獣」と名のついたモンスター1体を、選択したエクシーズモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。
《
効果モンスター
星6/炎属性/炎族/攻1600/守1700
このカードは「陽炎獣」と名のついたモンスターの効果以外では特殊召喚できない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手はこのカードをカードの効果の対象にできない。
また、手札の炎属性モンスター1体を墓地へ送り、このカードをリリースして発動できる。
デッキから「陽炎獣」と名のついたモンスター2体を特殊召喚する。
「陽炎獣 ペリュトン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
《
星6/炎属性/恐竜族/攻2300/守 200
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手はこのカードをカードの効果の対象にできず、自分は炎属性以外のモンスターを特殊召喚できない。
また、このカードを素材としたエクシーズモンスターは以下の効果を得る。
●このエクシーズ召喚に成功した時、自分の墓地から「陽炎獣」と名のついたモンスター1体を選択し、このカードの下に重ねてエクシーズ素材とする事ができる。
「モンスターがいない状態から、一気にモンスターゾーンを埋めるとは……なかなかやるね。いい展開力だよ」
「お褒めに預かり光栄ね。……さあ、いくわよ! 私は、3体のグリプスと2体のヒュドラーでオーバーレイ! 合計5体のレベル6モンスターでオーバーレイネットワークを構築するわ!」
「5体のモンスターで、エクシーズ召喚だって!?」
「魔の瞳を持つ獣よ、灼熱の翼ひるがえし、真の王者の姿を示せ! エクシーズ召喚、『陽炎獣 バジリコック』!!」
《
エクシーズ・効果モンスター
ランク6/炎属性/炎族/攻2500/守1800
炎属性レベル6モンスター×2体以上(最大5体まで)
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手のフィールド上・墓地のモンスター1体を選択してゲームから除外する。
また、このカードが持っているエクシーズ素材の数によって、このカードは以下の効果を得る。
●3つ以上:このカードの攻撃力・守備力は、このカードのエクシーズ素材の数×200ポイントアップする。
●4つ以上:このカードは相手のカードの効果の対象にならない。
●5つ:このカードはカードの効果では破壊されない。
嘶きとともに陽炎のフィールドに現れたのは、幾本もの足を持つ有翼の巨獣。燃え盛る翼と鋭い嘴は鳥類を思わせるが、鱗のようなものに覆われた体表面は爬虫類を連想させる。炎をまとう姿は響のガルドニクスに通じるものがあるが、有する雰囲気は大きく異なっており、両者はあくまで別の存在であることを感じさせた。
「いきなりエースモンスターをお披露目してくれたお礼に、私も切り札を紹介するわ。陽炎獣 バジリコック――私のデッキで最強のモンスターよ!」
「バジリコック……これが、陽炎の切り札」
バジリコックの姿を仰いだ響は、次に苦笑を浮かべて陽炎に顔を向ける。
「それにしても、『真の王者』とは挑戦的な言い方だね。私のガルドニクスじゃ、王者の風格が足りないかな?」
「響だって、酷い言い方してくれたじゃない。こっちのことを『侵略者』だなんて」
「仕方ないさ。この島は炎王たちの住処であり、聖域だからね。そこに足を踏み入れる者は、彼らにとっては侵略者になる」
「それにしても」と、響は再びバジリコックを見上げる。
「陽炎の切り札も、炎属性モンスターだったとは……。奇遇だね」
「あら、そうでもないわよ」
しかし、響の言葉に対して陽炎は首を横に振る。
「響が炎属性モンスターを使うって話は、戦う前から聞いていたわ。だからこそ、こうして勝負を挑んだんだもの」
「……なるほど。最初から、決着をつけるのが目的だったわけか」
「そういうこと。私の陽炎獣と、響の炎王。どっちが強いのか、この場ではっきりさせるわよ!」
「……ねぇ。これって、陽炎が一方的にライバル意識してるだけじゃない?」
「まぁ、せやなー」
冷静な突っ込みを入れる雷に、黒潮が同意する。しかし、挑戦状を叩きつけられた当の本人は、二人とは対照的な反応を見せていた。
「いいね。面白い」
短く答えた響は、闘志に輝く瞳で陽炎を見つめる。
「不死鳥の名は伊達じゃない。炎王の力、見せてあげるよ」
「……なぁ雷。気のせいかもしれへんけど、響のやつ、なんかノリノリやないか?」
「響はデュエルになると目の色が変わるから……。普段から表情の変化が小さいせいで、みんなあまり気づいてないみたいだけど」
二人の会話をよそに、響と陽炎はデュエルを進める。
「いくわよ! まずは、バジリコックのオーバーレイ・ユニットになっているヒュドラーの効果を発動。このカードを素材にしたエクシーズモンスターは、召喚成功時に墓地の『陽炎獣』1体をオーバーレイ・ユニットにすることができる。私はこの効果を1体分使って、墓地のスピンクスをバジリコックのオーバーレイ・ユニットに加えるわ。そして、私はバジリコックの効果を発動!」
「来るかっ……!」
「このカードは1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで相手のフィールド・墓地のモンスター1体を除外できる。私はガルドニクスを1体除外するわ!」
三体のガルドニクスと対峙していたバジリコックが、そのうちの一体に視線を合わせる。と同時にその目が妖しい輝きを放ち、その光を直視したガルドニクスは瞬く間に石化し、地に落ちて粉々に砕け散ってしまった。
「まずは一体。当然、これで終わりじゃないわ。バジリコックの攻撃力は、自身のオーバーレイ・ユニット一つにつき200ポイントアップする。今の攻撃力は3500。この攻撃力で、もう一体のガルドニクスに攻撃よ!」
「くっ!」
響 LP4000→3200
バジリコックの吐き出した炎によって、ガルドニクスが焼き尽くされる。しかし、輪廻を司る不死鳥は、たとえその身が果てても新たな命を生み出す。
「ガルドニクスの効果発動。このカードが戦闘で破壊された時、デッキからこのカード以外の『炎王』モンスターを特殊召喚できる。私は『炎王獣 バロン』を守備表示で特殊召喚!」
《炎王獣 バロン》
効果モンスター
星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 200
自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。
また、このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時に発動する。
デッキから「炎王獣 バロン」以外の「炎王」と名のついたカード1枚を手札に加える。
「流石に、ただでは倒されてくれないか。私はこれでターンエンドよ」
「私のターン、ドロー。この瞬間、私はセットしていた速攻魔法『炎王炎環』を発動。フィールドのガルドニクスを破壊して、墓地のガルドニクスを特殊召喚する。さらに、私は補給部隊の効果でカードを一枚ドローする」
《炎王炎環》
速攻魔法
自分のフィールド上及び自分の墓地の炎属性モンスターを1体ずつ選択して発動できる。
選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、選択した墓地のモンスターを特殊召喚する。
「炎王炎環」は1ターンに1枚しか発動できない。
「そんなことして、なんの意味があるの? ただモンスターが入れ替わっただけじゃない」
陽炎の言葉に、響は「それはどうかな」と答える。
「君はガルドニクスの効果を忘れているみたいだね。ガルドニクスはカード効果で破壊された場合、次のスタンバイフェイズに墓地から特殊召喚される。そして、私が炎王炎環を発動したのはドローフェイズ。つまり……」
「スタンバイフェイズに、ガルドニクスが特殊召喚される……!」
「その通り。私はドローフェイズを終了してスタンバイフェイズに移行。さぁ蘇れ、ガルドニクス!」
火柱を上げて、再びガルドニクスが舞い上がる。そしてこの瞬間、響のデッキのコンボが起動する。
「ガルドニクスの効果発動! このカードが自身の効果で特殊召喚された時、フィールド上の他のモンスターをすべて破壊する。やれ、ガルドニクス。輪廻の炎で万物を焼き払え!」
紅の火炎がフィールドを呑み込み、辺り一面を火の海へと変える。猛火は地表だけでなく上空にも手を伸ばし、飛行するガルドニクスとバジリコックをも絡め取り、炎の中に包み込んだ。
「どんなに強力なモンスターでも、破壊してしまえばそれまでだ。手間をかけて召喚したところ悪いけど、バジリコックには早々に退場してもらうよ」
炎の照り返しに髪を光らせながら、響は微笑する。しかし、その言葉に対して陽炎が見せた反応は、彼女の予想外のものだった。
「ふふふっ……」
自分のモンスターが破壊されようとしているにも関わらず、陽炎は笑みを漏らす。彼女は、怪訝な表情を浮かべる響へと挑発的な視線を向けた。
「ねぇ、響。この程度の炎で、本当に私のモンスターを破壊できると思っているのかしら?」
「なんだって……!?」
陽炎の言葉に、響は表情を変える。それを合図としたかのように、空中で大きな嘶きが聞こえた。
「なっ!?」
先ほどまでの余裕から一転、響は驚愕をあらわにする。空を仰いだ彼女は、そこにあるものを見て目を見開いた。
「そんな、バカな……」
呆然とした表情で、響は「それ」を見つめる。彼女の視線の先――陽炎の頭上には、悠然と羽ばたきを続けるバジリコックの姿があった。
「どうして……なぜ、バジリコックは破壊されないんだ?」
「驚いたかしら?」
響の耳に、陽炎の得意げな声が届く。
「バジリコックは、持っているオーバーレイ・ユニットの数によって効果が追加されていくモンスターなの。基本の効果は、さっき使った除外効果。そこから、オーバーレイ・ユニットが三つ以上になると攻撃力アップの効果が加わり、四つ以上で相手のカード効果の対象にならなくなる。そして、オーバーレイ・ユニットが五つある時は、カードの効果で破壊されなくなる!」
「それが理由か……!」
「そういうことよ。どんなに強力な効果でも、耐性があれば怖くない。ガルドニクスの炎では、私のバジリコックを倒すことはできないわ」
「くっ……。私はこれで、ターンを終了する」
「私のターン! 確か、このスタンバイフェイズにまたガルドニクスの効果が発動するのよね?」
「……あぁ、そうさ。それに加えて、私は前のターンに破壊されたバロンの効果も発動する」
「バロンの?」
「バロンはカードの効果で破壊された場合、次のスタンバイフェイズに自分のデッキからバロン以外の『炎王』カードを手札に加える効果を持っている。私は、二枚目の『炎王炎環』を手札に加える。さらに墓地のガルドニクスの効果を発動。守備表示で特殊召喚して、フィールドに存在する他のモンスターをすべて破壊する」
ガルドニクスの炎が再びフィールドを覆う。しかし、破壊効果への耐性を持つバジリコックにその炎は効かず、前のターンと同様に響のモンスターを破壊するだけに終わった。
「もう一体のガルドニクスが破壊されたことで、補給部隊の効果が発動。私はカードを一枚ドローする」
「なるほど。二体のガルドニクスが互いを破壊し合うたびに、その魔法カードの効果でドローできるって仕組みね。うまいこと考えたじゃない」
「でも」と陽炎は続ける。
「そのコンボも、このターンまでよ! 私はバジリコックの効果を発動、響のフィールドにいるガルドニクスを除外するわ!」
いくら不死鳥といえど、次元の彼方へ葬られてしまっては蘇ることはできない。除外されたカードを回収する手段を持たない響にとって、このことはデッキの核となるコンボが完全に破壊されたことを意味していた。
「オーバーレイ・ユニットが減ったことでバジリコックの攻撃力は3300に下がるけど、勝負を決めるにはこれでも充分だわ。いけ、バジリコック! 響にダイレクトアタックよ!」
残りライフが3200の響は、この攻撃が直撃すれば敗北する。しかし、苦戦しているとはいえ、流石に彼女もこの程度で終わるつもりはなかった。
「私は、手札の『速攻のかかし』の効果を発動! 相手モンスターの直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
《速攻のかかし》
効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻 0/守 0
相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動できる。
その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
「やっぱり、そう簡単には勝たせてくれないか」
「教導隊を名乗っている以上、あまり易々と負けるわけにはいかないからね」
小さく溜息をつく陽炎に、響が答える。その表情には、前のターンと比べて幾分かの明るさが戻っている。
「やけに嬉しそうな顔してるじゃない、響。でも、一度攻撃を凌いだくらいで勝った気になってもらったら困るわよ」
「もちろん、そんなことはしないさ。私が喜んでいるのは、攻撃を防いだこと以外にも理由があるからだよ」
「他の理由……? なによ、それ?」
「分からないのかい?」
響は、試すような目で陽炎を見る。
「自分のモンスターを、よく見てごらん」
「私のモンスターを?」
響に促され、陽炎は頭上で羽ばたき続けているバジリコックを見上げる。その視界に、モンスターの周囲に浮遊する光の玉が映った。
エクシーズモンスターが持つオーバーレイ・ユニットは、ソリッドビジョンで表示される際は光の玉となって可視化される。玉は素材となったモンスターの属性によって色分けされ、オーバーレイ・ユニット一つにつき一個が加えられる。当然、エクシーズモンスターであるバジリコックにもその玉は付随しており、現在は
「ああ、そういうことね」
「気がついたようだね」
呟いた陽炎に向かって響が言う。
「そう。今のバジリコックのオーバーレイ・ユニットは四つ。さっきまで持っていた破壊効果への耐性は、もう存在しない。これなら次のターン、特殊召喚したガルドニクスの効果で倒すことができる!」
ぴんと伸ばした人差し指を陽炎に突きつける響。しかし、陽炎が見せた反応は、またしても響にとって予想外のものだった。
「それはどうかしら?」
陽炎の言葉に、響は思わず「えっ?」と声を漏らす。
「響。あなたもしかして、召喚したエクシーズモンスターにあとからオーバーレイ・ユニットをつけ足すことはできないと思ってるんじゃない? だとしたら……」
陽炎は、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「それは、甘い考えよ!」
響に指を向け返した陽炎は、その指で自分の場の魔法カードを示す。
「私は、永続魔法 陽炎柱の効果を発動! 1ターンに1度、手札・フィールドの『陽炎獣』モンスターを自分のエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットにできる!」
「なっ、そんな効果が!?」
「私は手札の『陽炎獣 サーベラス』をバジリコックのオーバーレイ・ユニットに加えるわ」
「その永続魔法は、リリースを減らすだけのカードじゃなかったのか……」
「そうよ。これで、バジリコックのオーバーレイ・ユニットは五つ。次のターン、ガルドニクスが復活しても破壊されることはないわ」
「くっ……」
苦々しげに顔を歪め、響は呻く。
彼女の考えでは、ガルドニクスを除外するためにオーバーレイ・ユニットを消費したバジリコックは破壊耐性を失い、残る一体のガルドニクスの効果によって破壊されるはずであった。しかしそれは、エクシーズモンスターの召喚後にオーバーレイ・ユニットが補充されることはないというのが前提。その前提が崩された今、響は再び強大な敵と対峙することを余儀なくされる。
「私はこれでターンエンド。さあ、このバジリコックをどう攻略するか、見せてもらいましょうか。不死鳥さん?」
羽ばたくバジリコックの下で、陽炎は挑発的に笑った。
電「バジリコック……これは強敵なのです」
響「今回のタイトルは、そのバジリコックの元ネタになってる伝説上の生き物、バジリスクスの名前が由来だよ。ギリシャ語で、こういう意味があるらしい」
暁「解説してる場合じゃないでしょ! 響、大苦戦してるじゃない!」
雷「効果がほとんど効かないのが厄介よね。ただ攻撃力が高いだけなら、いくらでも倒し方はあるんだけど……」
電「響ちゃん、なにか策はあるのですか?」
響「……分からない。けど、どんなモンスターにも弱点はあるはずだ。必ずそれを見つけてみせる」
雷「私は信じてるわ。響なら、必ずバジリスクの攻略法を見つけられるって。だから頑張って!」
響「ありがとう。なら、その信頼に応えないとね。次回『不死鳥の意地』。デュエル・スタンバイ」