鎮守府決斗録   作:石田零

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26 不死鳥の意地

響 LP3200 手札5枚

<フィールド魔法>

炎王の孤島

<モンスター>

なし

<魔法・罠>

補給部隊

 

陽炎 LP4000 手札1枚

<モンスター>

陽炎獣(ヘイズビースト) バジリコック(ATK3500、ORU×5)

<魔法・罠>

陽炎柱(ヘイズピラー)

 

 

 

 D型艦に対抗するための艦娘デュエリスト育成計画――D計画の準備として、春瀬が企画した一部艦娘へのデュエル指導。その第一弾である響と陽炎のデュエルは、教導役の響が序盤から苦戦を強いられる展開となっていた。

 互いの残りライフとフィールド上のカード枚数はほぼ互角。手札の枚数だけを見れば、響が上回ってさえいる。だが、陽炎の場にはオーバーレイ・ユニットを五つ持ったバジリコックが存在している。このたった一体の、しかし非常に強力なモンスターによって、響は劣勢に立たされているのだった。

 

「私のターン。このスタンバイフェイズ時、前のターンに破壊されたガルドニクスが復活する」

 

 火の粉を振りまき、再びガルドニクスが復活する。その効果によってガルドニクス以外のモンスターはすべて破壊されるが……本来ならば破壊されるはずのバジリコックは、何事もなかったかのようにそこにあり続ける。

 

「ムダよ。オーバーレイ・ユニットが五つある時、バジリコックはカード効果で破壊されない。ガルドニクスの効果は効かないわ」

 

「……分かってる。私はモンスターをセット。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 響の言葉通り、ガルドニクスの表示形式は守備表示とされ、攻撃の気配は見られない。防御に徹する彼女を追い詰めようと、陽炎はさらに攻撃を仕掛ける。

 

「そのくらいじゃ、守ったことにはならないわよ! 私はバジリコックの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使って、ガルドニクスを除外するわ!」

 

「まずいのです! 響ちゃんのガルドニクスは、あれが最後の一体。あのガルドニクスが除外されたら、まともに戦えなくなるのです!」

 

 外野の電が切羽詰まった声で叫ぶ。もちろん響も、そのことは理解していた。

 

「そうはさせない! リバースカード発動、炎王炎環! 私はフィールドのガルドニクスを破壊して、墓地のバロンを守備表示で特殊召喚する。そして、補給部隊の効果で私は一枚ドローできる」

 

 デッキからカードをドローした響は、一瞬、そのカードに目を釘づけた。

 

「うまくかわしたわね。でも、これであなたは二枚目の炎王炎環も使用した。三枚目がデッキに入っていたとしても、そう都合よく持ってはいないはずよ。次のターンで、今度こそ最後のガルドニクスを除外してあげるわ」

 

「果たして、それができるかな? 今のバジリコックのオーバーレイ・ユニットは四つ。破壊効果への耐性は失われているよ」

 

「ええ、今はね。けど忘れてないかしら? 陽炎柱の効果のことを」

 

「まさか、また――」

 

「その通りよ! 私は陽炎柱の効果を発動。手札のヒュドラーをバジリコックのオーバーレイ・ユニットに加えるわ」

 

「これで、バジリコックのオーバーレイ・ユニットがまた五つに……」

 

 険しい表情で、響はバジリコックを見る。

 オーバーレイ・ユニットを補充したバジリコックは、再び破壊効果への耐性を取り戻している。次のターン、ガルドニクスが墓地から特殊召喚されてもその効果で破壊することはできない。

 

「確か、バロンはカード効果で破壊されると『炎王』カードを手札に加えられるのよね。なら、それ以外の方法で倒すことにするわ。バトル! バジリコックでバロンに攻撃!」

 

「くっ……。戦闘で破壊された場合は、バロンの効果は発動しない……」

 

 便利なサーチ効果を持つバロンだが、その効果を使用できるのはカード効果で破壊された場合のみ。戦闘破壊を契機に効果を発動することはできない。バロンは守備表示で特殊召喚していたため、ダメージを受けずに済んだことがせめてもの救いだった。

 

「けど、どうしてヒュドラーを召喚しなかったんだい? ヒュドラーも攻撃に参加させたあとでバジリコックのオーバーレイ・ユニットにすれば、私の裏守備モンスターも破壊できたかもしれないのに」

 

「そんなに急ぐ必要はないからよ。ガルドニクスさえ封じ込めれば、この勝負は貰ったも同然。それに、もしその裏守備モンスターが場のカードを破壊する効果を持っていて、ヒュドラーか陽炎柱を破壊されたら元も子もないもの」

 

「なるほど。意外と慎重派なんだね」

 

「なんか微妙に失礼な言い方されてる気もするけど……まあ、いいわ。私はこれでターン終了よ」

 

「私のターン」

 

 響がデッキからカードをドローする。次の瞬間、スタンバイフェイズとなったことで墓地のガルドニクスの効果が再度発動する。

 

「私は、スタンバイフェイズにガルドニクスの効果を発動。このカードを墓地から特殊召喚し、他のモンスターをすべて破壊する。舞い戻れ、ガルドニクス!」

 

「何度やっても同じことよ。耐性を持つバジリコックはカード効果では破壊されない。響のモンスターとは違ってね」

 

 そう言って、陽炎は響の場に伏せられたカードに目を向ける。

 響の場には、前のターンに出された裏守備モンスターが存在している。裏側のためどのようなモンスターかは不明だが、たとえ破壊耐性を持つモンスターであったとしても、この状態では効果が適用されることはない。結局、その裏守備モンスターは正体を明かすことのないまま猛火の中に消えていった。

 

「残念ね、響。せっかく出したモンスターを、自分のカードの効果で破壊する羽目になるなんて」

 

「けど、補給部隊の効果で私は一枚ドローできる。これで失った分は取り戻せるよ」

 

「そのカード、本当に炎王と相性いいわね。これだけ戦ってて手札が尽きないなんて、羨ましいかぎりだわ。私の手札は一枚しかないっていうのに」

 

「でも」と、陽炎は口角を吊り上げる。

 

「どれだけ手札があっても、デュエルの結果は変わらないわ。私のバジリコックは無敵。どんな手を使っても倒すことは不可能よ!」

 

 高らかに言い放つ陽炎。しかし、

 

「それはどうかな?」

 

 響は、微笑を浮かべて応じる。

 

「なに言ってるの? バジリコックは破壊効果を受けず、カード効果の対象にもならないのよ。このカードに勝つことなんて、絶対にできないわ!」

 

 上空のバジリコックを手で示し、陽炎は断言する。だが、それを聞いても響の口元から微笑が消えることはない。

 

「陽炎。君に一つ、大事なことを教えてあげるよ。デュエルに『絶対』という言葉は存在しない。どんな劣勢の中にも逆転の可能性は残されているし、その逆もある。どちらかのライフがゼロになるその瞬間まで、勝負の行方は分からない」

 

「ありえないわ。私のバジリコックに死角はない。これを倒すことなんて――」

 

「できるさ」

 

 陽炎の言葉を遮り、響が言い切る。

 

「どんな強力なモンスターにも、必ず攻略法はある。倒せないモンスターなんていないことを、今から私が証明してあげよう」

 

 響は手札から一枚のカードを選ぶと、それをディスクのモンスターゾーンに置いた。

 

「私は『熱血獣士ウルフバーク』を召喚。その効果で、墓地のバロンを守備表示で特殊召喚する。……いくよ。私は、バロンとウルフバーグでオーバーレイ! 2体のレベル4獣戦士族モンスターで、オーバーレイネットワークを構築する。エクシーズ召喚、現れろ『魁炎星王-ソウコ』!」

 

 

《熱血獣士ウルフバーク》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1600/守1200

自分の墓地の獣戦士族・炎属性・レベル4モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

「熱血獣士ウルフバーク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

《魁炎星王-ソウコ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/獣戦士族/攻2200/守1800

獣戦士族レベル4モンスター×2

このカードをエクシーズ召喚した時、デッキから「炎舞」と名のついた魔法・罠カード1枚をセットできる。

また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、獣戦士族以外のフィールド上の全ての効果モンスターの効果を相手ターン終了時まで無効にする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分フィールド上の表側表示の「炎舞」と名のついた魔法・罠カード3枚を墓地へ送る事で、同じ攻撃力を持つレベル4以下の獣戦士族モンスター2体をデッキから守備表示で特殊召喚する。

 

 

「ソウコの効果発動。このカードを召喚した時、デッキから『炎舞』魔法・罠カードを一枚セットできる。私は、デッキから永続魔法『炎舞-「天璣(テンキ)」』をセットし、すぐに発動。発動時の効果で、デッキから『炎王獣 ヤクシャ』を手札に加える。そして、天璣がフィールドに存在するかぎり、自分の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする」

 

 

《炎舞-「天璣(テンキ)」》

永続魔法

「炎舞-「天璣」」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、

デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える事ができる。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

自分フィールドの獣戦士族モンスターの攻撃力は100アップする。

 

 

「いきなり大仰なことを言い出すから、なにを始めるのかと思えば……ただランク4モンスターをエクシーズ召喚しただけじゃない。攻撃力はバジリコックに到底及ばないし、効果を使ってもバジリコックを対象にすることはできない。やっぱり、このカードを倒すことなんてできないのよ」

 

 肩透かしをくらったような表情で、陽炎が言う。しかし響は首を横に振り、その言葉を否定する。

 

「いいや。言ったはずだよ、どんなモンスターにも必ず攻略法は存在すると。ソウコは、その答えだ。私はソウコの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、獣戦士族以外のモンスター効果をすべて無効にする!」

 

「だからムダって言ってるでしょ。バジリコックにカードの効果は効かないわ」

 

「本当にそうかな? 試しに、自分のモンスターを見てみたらどうだい?」

 

「そんなの見る必要も――」

 

 溜息をつきつつ上を向いた陽炎は、そこにあるものを見て目を見開いた。

 

「うそ!? どうして、バジリコックの攻撃力が2500に戻ってるの!?」

 

 ソリッドビジョンにおいては、表示形式に応じて攻撃力か守備力がモンスターの隣に表示されるようになっている。現在、バジリコックは自身の効果により攻撃力を3500に上昇させているはずだったが、どういうわけか、その攻撃力は元々の数値である2500に下がってしまっていた。

 

「どういうことなの? バジリコックにはカードの効果は効かないはずなのに……」

 

「これが、バジリコックの死角だよ」

 

 困惑する陽炎に向かって、響が言う。

 

「確かに、バジリコックの効果は強力だ。けれどその耐性が発揮されるのは、破壊効果と対象をとる効果に対してのみ。対象をとらない破壊以外の効果には、対応できない」

 

「響のモンスターの効果は、それだったっていうの?」

 

「その通り。ソウコの効果は、フィールド全体に影響を与える対象をとらない効果。そしてその内容は、モンスター効果を無効化するもの。対象をとらず、破壊ではない効果だから、バジリコックの耐性をすり抜けて無力化することができたのさ」

 

「そんな、まさか……」

 

「言っただろう? デュエルに『絶対』は存在しないって」

 

 驚く陽炎を見つめながら、響は少し得意げな表情を浮かべる。

 

「これでバジリコックの効果は失われた。悪いけど、ここで勝負をつけさせてもらうよ。私はフィールド魔法 炎王の孤島の効果を発動。手札のヤクシャを破壊し、デッキからバロンを手札に加える。さらにヤクシャが破壊されたことでその効果が発動。手札のバロンを破壊する」

 

「せっかく手札に加えたモンスターを、自分で破壊……? 一体、なんのつもりなの?」

 

「気になるかい? それは、このためさ。私は手札から『炎霊神パイロレクス』を特殊召喚!」

 

 

《炎王獣 ヤクシャ》

効果モンスター

星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 200

自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

また、このカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分の手札・フィールド上のカード1枚を選んで破壊できる。

「炎王獣 ヤクシャ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

《炎霊神パイロレクス》

効果モンスター

星8/炎属性/恐竜族/攻2800/守2200

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の炎属性モンスターが5体の場合のみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを破壊し、お互いに破壊したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを受ける。

「炎霊神パイロレクス」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードがフィールド上から離れた場合、次の自分のターンのバトルフェイズをスキップする。

 

 

「このカードは、自分の墓地に炎属性モンスターがちょうど5体存在する時にだけ特殊召喚できる。私の墓地の炎属性モンスターは、さっき裏守備のまま破壊された『炎王獣 ガルドニクス』に加えて、『炎王獣 ヤクシャ』と『炎王獣 キリン』が1体ずつと、『炎王獣 バロン』が2体。この条件を揃えるために、モンスターを墓地へ送っていたのさ」

 

「そういうことだったのね……」

 

「パイロレクスの効果発動。相手のフィールドのモンスター1体を破壊し、その元々の攻撃力の半分のダメージを互いのプレイヤーに与える。ソウコの効果は発動時にフィールドにいたモンスターにしか効かないから、パイロレクスの効果は無効化されないよ。バジリコックを破壊!」

 

「くっ。私の、バジリコックが……!」

 

 

響  LP3200→1950

陽炎 LP4000→2750

 

 

 長く響を苦しめていたモンスターが、遂に破壊される。そのあとに残ったものは、彼女の勝利へと続く道。

 

「かなり手こずらされたけど、これでようやく決着だね。バトルフェイズ。パイロレクスで陽炎にダイレクトアタック!」

 

 

陽炎 LP2750→0

 

 

「ハラショー。楽しいデュエルだったよ」

 

 デュエル終了後、陽炎に歩み寄った響が手を差し出す。

 

「私もよ。負けたのは悔しいけど、それ以上に楽しかったわ。ありがと、響」

 

 差し出された手を握り、陽炎は答える。

 

「まさか本当にバジリコックを倒されちゃうなんて。響の言う通り、デュエルに絶対はないのね」

 

「うん。でも、強敵だったのは事実だよ。私もソウコ以外ではあのカードを攻略できそうになかったし。終わったあとだから言えることだけど、正直かなり苦しい戦いだった」

 

 苦笑を浮かべつつ響が言う。そこへ、観戦していた残りの面々がやって来る。

 

「さっすが響! 見事な逆転勝ちね」

 

「ありがとう、雷。司令官、私たちのデュエル、どうだったかな?」

 

「雷の言うように、見事な逆転劇だった。苦しい状況でも、よく諦めずに耐え抜いたな。もちろん、陽炎のデュエルも良かったぞ。バジリコックの効果をうまく使って、ガルドニクスを封じ込めた点は高評価だ」

 

「ありがとうございます」

 

 やや照れくさそうにしながら、陽炎は礼を述べる。

 

「さて。では早速、このデュエルの講評をするとしよう。最初に言ったように、このデュエルは互いの戦い方を研究するためのものだからな。まずは、みんなが気づいた点を挙げてもらう。最初は……天龍、お前が注目したところを教えてくれ」

 

「印象に残ったのは、やっぱり陽炎のバジリコックだな。効果が強力なのはもちろんだが、それを実現するために必要な大量のエクシーズ素材を用意する手段もしっかり用意されている。よく考えてると思うぜ」

 

「でも、手札の消費はかなり荒くなかった? バジリコックを召喚したあと、陽炎の手札はずっと一枚くらいしかなかったもん」

 

 天龍が陽炎のデッキを褒める一方、鈴谷はその問題点を指摘する。

 

「ん、そうだったか?」

 

 尋ねる天龍に、鈴谷は「うん」と頷く。

 

「鈴谷のデッキも融合召喚で手札を多く使うから、観戦してても自然と手札枚数に目がいっちゃうんだよね。反対に、響の手札は全然減ってなかったよ」

 

「いいところに目をつけたな、鈴谷」

 

「ほんと?」

 

「ああ。一部の例外はあるが、デュエルモンスターズでは手札の枚数がそのまま戦略の幅に直結する。だから、手札を切らさないようにするのは重要なことだ。響が発動していた補給部隊は炎王の効果とも噛み合っているから、その点、最適のドローソースといえるな」

 

「けど、バジリコックの効果のせいで響もけっこう苦戦してたっぽい」

 

「そうね。ガルドニクスを二枚も除外されて、得意のループコンボは完全に崩されてたし」

 

 夕立が指摘し、雷がそれに同意する。春瀬も首肯を返し、二人の指摘を支持した。

 

「響の課題はそこだ。ガルドニクスのループは確かに強力なコンボだが、さっき響自身が言っていたように、どんなカードにも攻略法は存在する。ガルドニクスの場合は、除外と破壊耐性がそれだ。他にも、効果の無効化や特殊召喚封じが挙げられる。だから、こうしたカードへの対策を立てる必要がある」

 

「でも、相手がいつもそういったカードを使うとは限らないじゃない。それなのに対策カードをデッキに入れてたら、ムダな枚数が増えちゃうわ」

 

「普通のデュエルなら、提督もここまで細かいことは言わないと思うんだけど~」

 

 暁に対して言った龍田は、「そうでしょう、提督?」と春瀬に視線を投げかける。

 

「龍田の言う通り。普通にデュエルを教えるだけなら、俺もこんなことは言わない」

 

「だが」と、春瀬は続ける。

 

「俺たちがこれから戦っていくのは、普通のデュエルじゃない。敗北が死に直結する、文字通り命懸けのデュエルだ。そこでの戦いは一発勝負。どんなにカードの引きや相性が悪くても、やり直すことはできない」

 

 春瀬は左右に視線を振り、皆に語りかけるようにして言葉を続ける。

 

「俺は、デュエルは楽しいものだと思っているし、みんなにもデュエルを心から楽しんでもらいたいと願っている。けれど残念ながら、それだけでは実戦で生き残れない。もちろん、デュエルを楽しむ心は大切だ。しかし、ここではそれと同じくらい――場合によってはそれ以上に、実戦で生き残る術を重視していく」

 

 「実戦」――その単語が持つ響きに、暁は表情を固くする。が、直後に天龍から乱暴に頭を撫でられたことで、その表情も一瞬のうちに崩れ去る。

 

「ったく、なに似合わねぇ顔してんだよ、ちんちくりん」

 

「ちょっとやめてよ! せっかく整えたのに、髪が乱れちゃうじゃない!」

 

 抗議とともに暁が振り回す腕を、天龍が軽くいなす。

 

「もうっ、今は真面目な話をしてるのよ!」

 

「んなこと分かってる。だからって、下手に気負う必要もねえだろ。今のお前、全身に無駄な力が入りまくってたぜ」

 

 答えた天龍は、今度は優しく暁の頭を撫でる。

 

「D型艦とのデュエルっつったって、変に意識しなくていいんだよ。命を懸けた戦いなんて、いつもやってることじゃねえか。要は、そこで使う武器が艤装からデッキになっただけだ。どんな状況でも対応できるように訓練を積んで、あとは全力で戦えばいい。他の奴らも、そこんとこ覚えておけよ」

 

 天龍は皆を見回して言うと、溜息をついて春瀬を見る。

 

「まったく。こいつらを無駄に怖がらせるんじゃねぇよ」

 

「すまん。みんなに無事に帰ってきてもらいたいと思って、つい……な。どうやら俺も、肩に無駄な力が入ってたようだ」

 

 春瀬は余分な力を抜くように深呼吸をすると、声の調子を若干明るめにして再び口を開く。

 

「不安にさせるようなことを言ってすまなかった。天龍の言うように、D型艦とのデュエルだからといって特別に意識する必要はない。下手に気負っていたら、勝てる戦いも勝てなくなる。D型艦とのデュエルが普通のデュエルじゃないことは確かだが、やることは変わらない。自分の全力を相手にぶつけて勝利する、それだけだ」

 

「まだ(かて)ぇよ。二行くらいでまとめられねえのか?」

 

「注文が多いな」

 

「なに言ってんだ。仮にも提督なら、短い言葉でビシッと決めてみやがれ」

 

「散々な言われようだな……。まあ、確かにその通りか」

 

 苦笑しつつ頷いた春瀬は、一拍の間を挟み、咳払いをしてから言う。

 

「どんなデュエルでも全力で戦い、楽しみ、そして勝つ。俺はここで、そのための技術をみんなに教える。以上だ」

 

「はい!」

 

 春瀬の言葉に天龍を除く全員が返事をし、天龍も「ま、及第点だな」とこれを認める。

 

「で、結局二人へのアドバイスをまとめると、どうなるんだ?」

 

 天龍の問いかけに、春瀬は「そうだな」と答える。

 

「響の場合は、除外対策が最重要だ。バジリコック以外にも、除外効果を持つカードはたくさんある。除外されたモンスターを呼び戻すカードや、除外そのものを封じるカードを入れてガルドニクスを除外されないようにするんだ。前者なら『(ディファレント)(ディメンション)(リバイバル)』、後者なら『王宮の鉄壁』あたりが代表的だな。あとは、特殊召喚を封じられた時の対策も考えるといい」

 

「分かった」

 

「私は?」

 

「陽炎のデッキには、二つの選択肢がある。もし、今と同じようにバジリコックを主軸にし続けるのなら、デッキを大きく変える必要はない。というのも、グリプスの効果によって構築が制限されるからだ」

 

「グリプスは、自分のフィールドと墓地に炎属性以外のモンスターがいると特殊召喚できない……。この効果のことですね」

 

「そうだ。バジリコックの素材を確保するためには、グリプスと暴走召喚のコンボが必須だが、炎属性以外のモンスターを入れるとそれができなくなってしまう。だから、変えようにも変えられない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「バジリコックに頼らない構築にするのなら、話は別だ。グリプスの特殊召喚にこだわらなければ、炎属性以外のモンスターも入れられてデッキの柔軟性が上がる。バジリコックと同じランク6には『セイクリッド・トレミスM7(メシエセブン)』のように強力なモンスターも多いから、攻め手に困ることもない」

 

「その場合には、どんなカードを入れればいいんですか?」

 

「ランク6モンスターを素早く出すために、召喚が簡単なレベル6モンスターが必要になる。候補の筆頭は『聖刻龍-トフェニドラゴン』だな。条件はあるが、手札から特殊召喚できるレベル6モンスターだからエクシーズ召喚に繋げられる」

 

「ねえ、提督。鈴谷が言った手札消費の問題はどうなの?」

 

 自分の指摘したことが取り上げられないせいか、やや不満顔の鈴谷が尋ねる。

 

「大丈夫、忘れちゃいないさ。鈴谷の言っていた手札の問題は、どちらの型にするにしても重要な課題だ。陽炎獣は性質上、墓地にモンスターが溜まりやすいから、墓地のモンスターをデッキに戻してドローする『貪欲な壺』や『炎帝近衛兵』を入れるといい。ただ、戻しすぎるとヒュドラーの効果が使えなくなるから、使う時はそこに注意だ」

 

「分かりました。デッキの方向が決まったら、また改めてアドバイスをもらってもいいですか?」

 

「もちろん。いつでも来てくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 陽炎が一礼するのを区切りとして、このデュエルに関する話題は終了する。引き続き二戦目をおこなうため、春瀬は対戦者を募集する。

 

「では、次のデュエルに移ろう。誰か、希望者は――」

 

「司令官さん。ただいま戻りました!」

 

 と、そこへ、不知火を連れた電が帰ってくる。電は不知火と並んで春瀬の前に立ち、報告をする。

 

「不知火ちゃんのデッキは無事に完成したのです。あと、執務室の鍵をお返しします」

 

「ありがとう、電。不知火、気に入るデッキは組めたか?」

 

「はい」

 

「それは良かった。なら、早速実戦といこう。二人がいない間、こっちでは互いのプレイングを研究するためのデュエルをしていて、今はその一戦目が終わったところだ。ちょうどいいから、二戦目は不知火にやってもらうことにしよう。電、デッキ構築に付き合ったついでに、対戦相手もやってくれるか?」

 

「電は構いませんが……でも、電は不知火ちゃんのデッキ作りを手伝っている時に、その中身も少し見てしまっているのです。不知火ちゃんは電のデッキを知らないのに、これだと少し不公平なのです」

 

「ふむ……確かに、それもそうだな」

 

「なあ、司令はん。それなら、うちがやってもええ?」

 

 電が辞退したのを見て、黒潮が対戦相手に名乗り出る。

 

「不知火がどんなデッキ作ったのか楽しみやし。どうせなら、横から見るだけじゃなくて実際に戦ってみたいわ」

 

「ああ、いいぞ。けど、いくら不知火が今までデュエルをしてなかったとはいえ、普段一緒の部隊にいたら黒潮のデッキ内容はむこうにバレてるんじゃないのか? だとしたら、情報面で不利だと思うが」

 

「そこは心配せんでええよ。不知火は興味ないからって、うちらのデュエルはこれまで一回も見とらんし。うちが不知火にデュエルの基本を教えた時も、デッキの中身は少ししか明かしとらんから。むしろ、多少の情報はちょうどいいハンデや」

 

「そうか。なら、俺が言うことはないな。不知火はこれでいいか?」

 

「問題ありません」

 

 不知火が頷いたことにより、次の対戦カードは彼女と黒潮に決定する。二人は先ほどの響と陽炎と同じように向かい合うと、デュエルディスクを起動させた。

 

「はてさて。どんなカードが出てくるか、ワクワクするな。楽しませてぇな、不知火!」

 

「もちろん。黒潮こそ、あまり情けないデュエルはしないで下さいね」

 

「その言葉、そっくりそのまま返したるわ! いくで!」

 

 闘志を漲らせた声で黒潮が言う。直後、二人の「デュエル」という掛け声によって勝負の火蓋が切って落とされた。

 




雷「やったわ、響の勝ちよ!」

暁「本当にバジリコックを倒すなんて……。悔しいけど、やっぱり響のデュエルの腕は別格ね」

雷「そういえば、響ってけっこう強キャラ設定よね。デュエルの回数が多い割に勝率いいし」

響「作者の中では、私は『クールなハイスペックキャラ』という位置づけらしいからね。最近は、某動画の影響を受けて徐々に変わりつつあるらしいけど」

電「主に、ここでの響ちゃんがそうですね」

響「流石に、本編にまで影響が及ぶことはないはずだよ。向こうの私は、いつまでもクールキャラのままさ」

電「ここの響ちゃんが言うと、何かの前振りとしか思えないのですが……」

響「気のせいだよ、きっと。それよりも、今回は作者から劇中のデュエルの補足説明を頼まれているから、それを済まさないと」

雷「補足? そんなところ、あったかしら?」

響「デュエルの最後に、私がソウコを召喚した場面があったよね。あの状況、ホープを経由してホープ・ザ・ライトニングを出せば、効果無効化なんて面倒なことをしなくてもバジリコックを倒せたんだ。それなのにどうしてソウコを選んだのか、理由を説明するよ」

暁「あの作者は、また細かいことを気にするわね……」

響「そういう性格だから、仕方ないさ。さて、説明に入るけど、ライトニングを出さなかった理由は簡単。作者がエクストラデッキの汎用カードの使用に自主規制をかけているからだよ」

電「どうしてなのです?」

響「みんな同じカードばかり使っていたら、面白味に欠けてしまうからね。特にランク4強力なカードが多いから、自主規制しないとすぐに同じカードばかり飛び出すことになる。だから、基本的にエクストラデッキの汎用カードには自主規制が設けられているよ」

雷「私みたいにランク4を軸にしたデッキを使っている場合や、メインデッキのカードと種族や属性が共通する場合は、例外として使用が認められるわ」

響「説明はこんなところかな。さて、長くなってしまったから、そろそろ次回予告をして締めにしよう」

暁「次回は不知火と黒潮のデュエルね」

雷「そういえば、電は不知火のデッキ作りに付き添っているわよね。不知火はどんなデッキを使うの?」

電「それは次回のお楽しみなのです。次回、『黒魔術と炎』。デュエル・スタンバイなのです」
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