鎮守府決斗録   作:石田零

33 / 52
雷電の秋グラキタ――――――!
補給ボイスの追加実装以来、音沙汰の無かった雷電姉妹に、遂に追加要素が……! 俺は、この時を待っていたッ!

どうも。先週、秋祭り番外編を投稿した矢先に秋グラ実装されて、天にも昇る気持ちの作者です。
「かけば出る」は絵に限った話ではなかった! きっと、今回の秋グラ実装は自分が番外編を書いたからですね(違う
いや、もう、電ちゃんが可愛すぎて悶絶です。今ならオゾンより上でも問題ない気がする!

……とまぁ、私の狂乱ぶりはさておき。今回は予告通りの姉妹ゲンカ編です。
少しシリアス分多めのお話になりますが、どうぞご覧ください。


32 六駆分裂!? 姉妹ゲンカ勃発

「だからっ! 私のデッキ作りに口出さないでよ!!」

 

 怒りをあらわにした顔で、暁が叫ぶ。

 青葉たちへの最初の教導から約一週間が経過したある日。艦娘寮内にある第六駆逐隊の部屋は、険悪な空気に包まれていた。

 

「そうは言っても、暁……。君のデッキ構築は、バランスが悪すぎるよ」

 

 テーブルを挟んで暁と相対しているのは、響だ。彼女は、テーブルの上に広げられた暁のデッキを見ながら話を続ける。

 

「君の宝玉獣デッキには、本当に宝玉獣しか入ってない。モンスターはもちろん、魔法・罠も宝玉獣関連のカードだけだし、エクストラデッキには一枚もカードがない。これだと、取れる戦術がごく限られたものになってしまう。もっと、他のカードも入れた方がいい」

 

「別にいいじゃない。どんなデッキを作ろうと、私の勝手でしょ!」

 

「確かに、どんなデッキを組むかは暁の自由だ。けど、デッキに明らかな問題点があるのに改善しないのは、構築の自由で済ませられる話じゃない」

 

 響は、広げられたカードの中から「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」を取り上げる。

 

「暁のデッキの戦術は、切り札であるレインボー・ドラゴンを使ったビートダウンだけだ。宝玉獣の展開力を活かした攻め方も可能だけれど、宝玉獣の攻撃力は全体的に低いから、相手の場に強力なモンスターがいる場合は使えない。実質的に、勝つための手段が一つしかないんだ。それを失ったら、何もできなくなる」

 

「私は今までこのデッキで戦って勝ってきたのよ。なら、これでも問題ないってことじゃない。負けてばかりならまだしも、結果を出してるのに文句を言われる筋合いはないわ!」

 

「けど、戦術に幅がないのは事実だよ」

 

 厳しい声で、響は言う。

 

「いま言ったように、レインボー・ドラゴンを失ったら君のデッキは何もできなくなる。現に、私たちは今ここで何度かデュエルしたけれど、暁は一度も私に勝てなかった」

 

「それは、響が私のデッキの中身を知ってて、対策をしてたからじゃない」

 

「そうだよ。私は暁のデッキの内容を把握して、それに合わせた戦い方をした。暁の戦術――レインボー・ドラゴンの召喚を封じるようにね。だけど、私がしたのはプレイング面での対策だけ。デッキのカードを入れ換えてはいないよ」

 

「なにが言いたいのよ?」

 

「つまり」と、響は答える。

 

「暁。君のデッキは、相手のプレイング一つで手も足も出なくなるということさ。そうなってしまうのは、構築に問題があるとしか言えない」

 

「なんですって!?」

 

 頬を紅潮させ、暁はテーブルを両手で叩く。

 

「暁、落ち着いて!」

 

「響ちゃんも言い過ぎなのです!」

 

 雷と電が両者の制止を試みるが、二人の対立は止まらない。

 

「なによ! 響のデッキだって、この間のタッグデュエルじゃ散々だったくせに! 味方のモンスターも巻き込むなんて、とんだ出来損ないデッキだわ!」

 

「私のデッキがタッグデュエル向きじゃないことは分かってる。だからあの時、私はタッグデュエルに反対したんだ。それを無視してタッグデュエルを強行したのは暁だよ。もし私の話を聞いていれば、仮にタッグデュエルをしていたとしても、ガルドニクスの効果で驚くことはなかったはずだ」

 

「それじゃあ、私が悪いっていうの!?」

 

 暁は「冗談じゃないわ!」と声を上げ、荒々しく立ち上がる。

 

「もう響となんか話してられない! 今日一日は、顔も見たくないわ! 私、外に行ってくる。雷と電も、ついて来ないでよね」

 

 暁は足早に部屋の出口へ向かい、外に出る。叩きつけるように扉が閉じられたあと、室内には気まずい静寂が訪れる。

 

「まったく……暁も暁だけど、響も響よ。どうして、ああいう言い方するのよ」

 

「ごめん。私はただ、暁のデッキを強くしてあげたくて……」

 

「だからって、あんなストレートに言わなくてもいいじゃない」

 

「雷ちゃん。今はあまり響ちゃんを責めないでほしいのです。ここで雷ちゃんが言い過ぎると、今度は二人まで喧嘩になっちゃうのです」

 

「まぁ、それもそうね。これ以上は言わないわ」

 

「ありがとうなのです、雷ちゃん」

 

「……私も、外を歩いてくるよ。少し頭を冷やしてくる」

 

「大丈夫なの? 暁と鉢合わせたらまずいんじゃない?」

 

 腰を上げた響に、雷が問いかける。

 

「たぶん、大丈夫。暁があまり来ない場所を、幾つか知ってるから」

 

「そう。ならいいわ。けど、くれぐれも気をつけなさいよ。今のあなたたちは、一触即発どころか完全に戦争状態なんだから」

 

「うん。注意するよ」

 

 雷の言葉に頷き、響は部屋を出る。彼女の足音が遠ざかった後で、雷は溜息をついた。

 

「やれやれ……。困った姉たちね」

 

「この間のタッグデュエルの後から、少し険悪な感じではありましたけど……でも、ここまで激しい喧嘩になるのは予想外だったのです」

 

「喧嘩というか、単に暁が勝手にイラついてるだけね。あのデュエル、響に見せ場を完全に持ってかれたから」

 

「そうですね。ほとんど響ちゃん一人で、古鷹さんと加古さんを倒してましたし。暁ちゃんにしてみれば、面白くないのも当然なのです」

 

「暁は姉としての面子にこだわるところがあるから、妹に見せ場を取られたのはかなり悔しいでしょうね。そこへ追い討ちをかけるようにデッキのダメ出しとくれば、怒りが爆発するのも無理ないわ。問題は、響がそのことにまったく気づいてないことね」

 

「響ちゃんも、悪気があるわけじゃないのです。さっきも言っていたように、暁ちゃんのデッキを強化してあげたいだけなのです」

 

「そこが問題なのよねぇ……。こういう時って、そういうのが一番タチが悪いのよ。本人に自覚がないから、こっちが言っても分からないし」

 

「なんとかしてあげたいですけど、ここで私たちが関わると、余計に話がややこしくなってしまうかもしれないのです……」

 

「とりあえずは、様子を見るしかないわね。妹も大変ね、電」

 

「なのです……」

 

 静かな室内に、二人の憂いげな息が響いた。

 

◆◇◆◇

 

「おーい、提督。第四司令室の弥生と望月へのデュエル指導、終わったぞ……って、あん? どうして響がここにいるんだ?」

 

 それから数時間後。執務室の扉を開けた天龍は、室内に立っている相手を見て意外そうな表情を作った。

 

「確かこの時間、第六駆逐隊は哨戒任務の最中だろ? 任務が中止に……なんてことはねぇだろうし、どうしたんだ?」

 

「それは……」

 

 天龍に問われた響は、口ごもって答えない。重ねて尋ねようとする天龍を、秘書艦業務中の鈴谷が制する。

 

「あー、待って天龍。今は響のこと、そっとしておいてあげて」

 

「何かあったのか?」

 

「うん。まあ、ちょっとね」

 

 曖昧な返事をし、鈴谷は響に視線を送る。響が小さく頷くのを確認してから、鈴谷は改めて天龍に答えを返した。

 

「響、暁と喧嘩しちゃったんだってさ。なんか、デッキ構築のことで言い争いになったみたい。暁は一日絶交宣言したらしいし、けっこう深刻な感じ」

 

「オレがデュエルの指導をしてる間に、そんなことがあったのか……。まあ、暁のことだ。どうせ、いつものように明日になったら忘れてるだろ」

 

「だと、いいんだけど……」

 

 天龍の言葉に、響は浮かない顔で応じる。

 

「私も、暁を怒らせるつもりはなかったんだ。私は、暁のデッキを強化する手伝いがしたくて……。でもそれが、暁の気に障ったらしい」

 

「けど、ここまでの大喧嘩って珍しいよね。そんだけ暁が怒ったってことは、やっぱそれなりの理由があるんじゃない?」

 

「デッキ構築のこと以外にも、原因があるってことか?」

 

「あくまで可能性の話だけどね。響は、なにか思い当たることない?」

 

 鈴谷に問われ、響は記憶を探る。三十秒ほど考え込んだあと、響は「そういえば」と口を開いた。

 

「少し前から、暁の様子がおかしかった気がする。つっけんどんというか、冷たいというか……それほど強い態度じゃなかったから、気のせいかと思っていたけれど」

 

「もしかすると、今回の喧嘩と関係あるかもね。それって、いつの話?」

 

「確か、一週間くらい前……暁と二人で、古鷹さんと加古さんとタッグデュエルをしたあたりから始まったと思う」

 

「てことは、そのデュエルの中にヒントが隠されてるかも。ねえ、響。よかったら、どんなデュエルだったか話してくれない?」

 

「うん。あのデュエルは、古鷹さんの先攻から始まって――」

 

 響は、鈴谷と天龍に向かってデュエルの概要を語る。響の話が終わると、鈴谷は自身の見解を口にした。

 

「……ねぇ。もしかしてなんだけど、暁は拗ねてるんじゃない? 話を聞く限り、暁はそのデュエルでほとんど活躍できなかったみたいだし。響に見せ場を取られて、機嫌を損ねたんじゃないかな」

 

「まさか。いくら暁でも、そのくらいで……」

 

「いいや。あり得る話だぜ」

 

 響の言葉に対して、天龍は首を横に振る。

 

「あのちんちくりんは、姉としてのプライドは人一倍高いからな。端から見りゃどうでもいいことでも、あいつにとっちゃ違うってことは充分考えられる」

 

「それに、そう考えれば、今日に限って暁がいつも以上に怒ったことも説明がつくしね。今のところ、これが一番辻褄の合う話だと思うよ」

 

 二人からの指摘を受け、響は沈黙する。

 

「……もし、そうだとしたら……。私は、暁の気持ちも考えずに……」

 

「そんなに深刻な顔すんなって。悪いと感じたなら、暁が帰ってきてから謝りゃいいだけの話だ」

 

 自責の念に駆られる響へ、天龍が言う。

 

「そうそう。暁だって、本当に絶交する気はないだろうし。きっと許してくれるよ」

 

 明るい声音で、鈴谷も天龍に同意する。二人に励まされた響は、表情を若干晴らして頷いた。

 

「うん……そうだね。二人とも、ありがと――」

 

 しかし、響が言い終えるよりも先に、室内に鋭い電子音が響く。その瞬間、室内にいる全員の表情が凍りついた。

 

「今のは、緊急通信の受信音!?」

 

「どうした!」

 

 すかさず、春瀬が室内に備えられた通信機のスイッチを押して応答する。通信機のスピーカーから響いたのは、電の声だった。

 

「こちら電! 泊地の北東八キロ地点で敵艦隊と遭遇、交戦を開始したのです!」

 

 続けて、電は現在の戦況を報告する。

 

「敵兵力は、駆逐艦三隻。現在、西方に向け同航しつつ砲戦を実施中です。ですが、隊を分断させられて暁ちゃんが孤立してしまったのです!」

 

「なんだと?」

 

 電の報告を聞き、春瀬は表情を険しくする。

 

「一体、何があったんだ?」

 

「敵の誘いに乗せられたのよ」

 

 通信機の向こうで、今度は雷が答える。

 

「今戦ってる敵艦隊と砲戦を始めてすぐに、別の敵艦が現れたの。そいつが発光信号でデュエルを挑んできて……。暁はそれを見て、一人で突っ込んでいったわ」

 

「……完全に釣り上げられたな」

 

「すみません、司令官さん。砲戦の最中で、暁ちゃんを止め切れなかったのです……」

 

「いや、これは電だけのせいじゃない。それよりも、今は目の前の戦いに専念するんだ。暁のことは、こちらに任せてくれ」

 

「……分かりました。司令官さん、どうかよろしくお願いします」

 

「ああ、任せろ」

 

 春瀬は通信を切ると、椅子から立ち上がって命令を下す。

 

「状況は聞いての通りだ。当艦隊はこれより緊急出撃、孤立した暁の捜索と救援を行う。出撃艦は待機中の全艦――」

 

 だが、彼はその途中で口を止める。

 

「……響はどうした?」

 

「あいつなら、とっくに部屋を出ていったぜ」

 

 春瀬の問いに、天龍が答える。

 

「暁が孤立したって聞いた途端、飛び出していきやがった。提督は通信中で気づかなかったみてぇだけどな」

 

「状況も聞かずに単艦出撃か……。まったく、下手したら暁の二の舞だってのに」

 

「野暮なこと言うんじゃねえよ。姉妹の危機と聞いたら、血相変えるのは当然だろ」

 

「分かってるさ。俺も、響を責めるつもりは毛頭ない。だが、あいつをこのまま一人で行かせる気もない」

 

「というと?」

 

「響を追いかけて、単独行動にならないようにする。鈴谷、悪いが今から全速力で響を追跡してくれ」

 

「簡単に言ってくれるねぇ」

 

 春瀬の指令を聞き、鈴谷は苦笑を漏らす。

 

「特型の最大速力って、低く見積もっても鈴谷の全速と同じくらいだよ? それに、響は元々哨戒に出る予定だったから艤装の使用許可も下りてるけど、鈴谷は許可を貰うところから始めないといけないし」

 

「そこは、俺が話をつけておく。長官に連絡を入れて、鈴谷が工廠に着く前に艤装の緊急使用許可を申請する。現状は申請要件を満たしているから、確実に許可は下りる」

 

「了解。なら、鈴谷はすぐに出撃するね。機関全開にすれば、こっちの方がちょい早いし。時間はかかるけど、なんとか追いつけると思う」

 

「オレも行くぜ。いいだろ?」

 

「ああ。俺も最初から、全員に暁の捜索を命じるつもりだ。天龍は、龍田を見つけてから一緒に出撃してくれ。鈴谷と同じように、二人の艤装の使用許可も申請しておく」

 

「了解だ」

 

 短く答えた天龍は、鈴谷とともに執務室を出る。その直後、春瀬は内線電話の受話器を取って長官公室へと電話をかけた。

 

◆◇◆◇

 

「バトル ダ! 『ワーム・ヴィクトリー』デ『究極宝玉神 レインボー・ドラゴン』ヲ攻撃!」

 

「きゃああっ!?」

 

 

暁 LP2300→300

 

 

「メインフェイズ2。私ハ、通常魔法『浅すぎた墓穴』ヲ発動。オ互イニ、墓地カラ モンスターヲ裏守備表示デ特殊召喚スル。私ハ、二体目ノ ワーム・ヴィクトリーヲ セットスル」

 

「……私は、『宝玉獣 サファイア・ペガサス』をセットするわ」

 

「私ハ、コレデ ターンエンド。一体目ノ ワーム・ヴィクトリーハ『ヴァイパー・リボーン』ノ効果デ特殊召喚シタタメ、エンドフェイズ時ニ破壊サレル。サァ、貴様ノターンダ」

 

「くっ……」

 

 電たちと別れ、一人で深海棲艦とのデュエルに臨んだ暁。しかし、その戦いは彼女にとって非常に厳しいものだった。

 現在のフィールドの状況は、以下の通りだ。

 

 

暁 LP300 手札0枚

<モンスター>

裏守備表示1枚

<魔法・罠>

宝玉獣 ルビー・カーバンクル(永続魔法扱い)

伏せ0枚

 

重巡リ級 LP3200 手札0枚

<モンスター>

裏守備表示1枚

<魔法・罠>

伏せ1枚

 

 

「ワーム・ヴィクトリーハ、リバース シタ時ニ『ワーム』以外ノ表側表示モンスターヲ 全テ破壊スル。貴様ガ ドンナ モンスターヲ出ソウトモ、次ノターンニ破壊サレル。貴様ニ 勝チ目ハナイ!」

 

対戦相手である重巡リ級が、暁を指して宣言する。暁は悔しげに歯噛みするが、その言葉を否定することはできなかった。

 

「悔しいけど、あいつの言う通りね。レインボー・ドラゴンも倒されてる、ペンデュラムスケールもない……もう、どうしようもないわ。ここからの逆転なんて、無理」

 

 暁は両腕を力なく下げると、天を仰いだ。

 

「今度はずっとみんなと一緒にいようと思ってたのに……あっけないものね。そういえば、『前』も私が最初に沈んじゃったっけ。まったく、二度も妹を残していくなんて、姉の名が聞いて呆れるわ」

 

 乾いた笑いを漏らし、暁は独語を続ける。

 

「こんなことなら、響と仲直りしておけば良かったわ。けど、それは無理そうね。ごめんね、響――」

 

「暁っ!!」

 

 暁の言葉を遮るようにして、彼女の背後から声が響く。その声を聞いた暁は、目を丸くして体の動きを止めた。

 

「えっ……? 今の、声って――」

 

 暁は、ゆっくりと後ろを振り返る。相手の姿を認めた彼女は、驚きの表情をさらに色濃く浮かべた。

 

「響……どうして、ここに?」

 

「電から、緊急通信があったんだ。敵に隊を分断されて暁が孤立した、って」

 

 答える響の息は荒い。響の制服はかなり(しお)をかぶっており、彼女が相当の速度でここまで走ってきたことを窺わせた。

 

「けど、間に合ってよかった。機関の消耗を考えずに、全速で飛ばし続けた甲斐はあったよ」

 

 息を整えながら、響は暁に近寄る。そして、暁の隣に並び、敵艦と対峙した。

 

「響、あなた何する気?」

 

「助太刀する。そのために、私はここに来たんだ」

 

「無理よ。一度始まったデュエルに、途中で割り込むことはできない。そのことは、響も知ってるでしょ?」

 

「分かってる。だから、私はアドバイザーとして君を助ける」

 

「ダメ。させないわ」

 

 しかし、響の考えを暁は即座に否定する。

 

「D型艦とのデュエルは、命懸けの戦いなのよ? たとえ直接デュエルしてなくても、負けたらタダで済むはずがない。そんなものに、響を巻き込むわけにはいかないわ」

 

 それに、と暁は続ける。

 

「自分でこんなこと言いたくないけど……このデュエル、私に勝ち目はないわ。戦況は相手の優勢で、こっちの手札は0枚。どう考えても、逆転のしようがない。いくら響でも、この状況を引っくり返すなんて不可能よ」

 

「いいや、まだ分からない。私たちには、まだ一つの希望が残されている」

 

「希望……? もしかして、このドローのことを言ってるの?」

 

 尋ねた暁は、「無理よ!」と響に言う。

 

「たった一枚のカードで逆転なんて、できっこない! もしかしてあなた、そんな考えで助太刀するなんて言ったの? だとしたら、とんだ大バカ――」

 

「馬鹿なのは君の方だっ!!」

 

 暁の言葉を遮って、響が叫ぶ。彼女は暁の両肩を掴んで自分の方を向かせると、その顔を覗き込み、強い口調で続けた。

 

「暁、君は自分の言っていることが分かってるのか!? 君は自分から勝負を捨てて沈もうとしている。けど、君が沈んだら、残された者たちは――私たちはどうなる? 君は、自分が沈んだら私たちがどう思うか、考えたことはないのか!?」

 

 響は暁の肩を掴む手に力を込め、言葉を継ぐ。

 

「私は、もう二度と姉妹を失いたくない! 君が、雷が、電が、私より先に沈む姿は見たくない! こんな所で、君に死なれたくないんだ!」

 

 悲痛な響きさえ感じさせる訴えかけに、暁の瞳が揺らぐ。しかし、彼女はすぐに目を伏せて力ない声をこぼす。

 

「……そのくらい、私だって分かってるわよ。けど、無理なの」

 

 暁は響の顔を見ると、覇気のない笑みを作る。

 

「響も知ってるでしょ? 私のデッキは、レインボー・ドラゴンに頼り切った、弱くて不安定なデッキ……。そのレインボー・ドラゴンはついさっき倒されたから、もう私に打つ手はない。ほらね、逆転なんて無理でしょ?」

 

「暁……」

 

「こんなことになるんなら、大人しく響の言うことを聞いてれば良かったわ。……今さら言っても、もう遅すぎるけど」

 

 諦めの表情を浮かべて暁が言う。しかし、

 

「……いいや。まだだ」

 

「え?」

 

「まだ、すべてが手遅れになったわけじゃない。ほんの僅かだけれど、勝利の可能性は残されている」

 

「嘘よ。そんなの、あるわけない。響は私のデッキをよく知ってるんだから、このデッキにそんなカードがないことくらい分かってるはずよ」

 

「だからこそ、さ」

 

 暁の言葉に対し、響は首を横に振る。

 

「暁の言う通り、私はそのデッキをよく知っている。だからこそ、逆転の手段が残されていることが分かる。嘘なんかじゃない、私たちにはまだ、勝機がある」

 

「けど、響も私のデッキはバランスが悪いって言ってたじゃない。そんなデッキで、本当に勝つことなんてできるの?」

 

「できるさ」

 

 暁の問いに、響は即答する。

 

「確かに、暁のデッキ構築には難がある。けど、それはデュエルに勝てないことを意味しない。君だって言ってたじゃないか。自分は今までこのデッキで勝ってきた、って」

 

「っ……!」

 

「大丈夫。暁なら、このデュエルに勝つことができる。自分と、自分が組んだデッキを信じて」

 

 静かな、しかし凛とした調子で、響が言う。暁はそんな響の顔を見つめ……そして、深く頷いた。

 

「……分かったわ。私は信じる。自分と、このデッキと……それから響、あなたを!」

 

「ありがとう。暁」

 

 ここで、響は今まで蚊帳の外に置かれていたリ級に顔を向ける。

 

「ところで、今さらだけど君は私の参加を認めてくれるかな? 私としては、認めてくれると非常に嬉しいんだけれども」

 

「フン、構ワンサ。今サラ何ヲシヨウト、コノ状況ヲ覆スコトナド、デキルワケガナイ。貴様等ノ足掻キ振リヲ楽シンダ後デ、二人一緒ニ、葬ッテヤル」

 

「果たして、それができるかな? 君にも聞こえていたと思うけど、私たちには逆転の秘策がある」

 

「ダガ、ソレハ目当テノ カードヲ 引ケレバノ話、ダロウ? ソウ都合良ク、引ケルモノカ」

 

「引くさ。必ずね」

 

不敵な笑みを浮かべて答えた響は、暁に声をかける。

 

「いくよ、暁」

 

「ええ!」

 

 暁がデッキの上のカードに手をかける。目を閉じて深呼吸したあと、彼女は勢いよくカードを引いた。

 

「「ドローッ!!」」

 

 ドローの瞬間、暁と響の声が重なる。暁の後ろに立つ響は、暁が引き当てたカードを見て頬を緩めた。

 

「よし。ひとまず第一段階はクリアしたね。暁、そのカードを使うんだ」

 

「分かってるわ。私は、裏守備表示のサファイア・ペガサスを反転召喚。その効果で、私はデッキの『宝玉獣 アメジスト・キャット』を魔法・罠ゾーンに置く。さらに、今引いた魔法カード『レア・ヴァリュー』を発動するわ!」

 

 

《宝玉獣 サファイア・ペガサス》

効果モンスター

星4/風属性/獣族/攻1800/守1200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

《レア・ヴァリュー》

通常魔法

自分の魔法&罠カードゾーンに「宝玉獣」と名のついたカードが2枚以上存在する場合に発動できる。

自分の魔法&罠カードゾーンの「宝玉獣」と名のついたカード1枚を相手が選んで墓地へ送り、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「このカードは、魔法・罠ゾーンの『宝玉獣』を一枚墓地へ送ることで、デッキから二枚ドローできるカードよ。ただし、墓地へ送るカードは相手が選ぶわ。ルビー・カーバンクルかアメジスト・キャットか、好きな方を選びなさい」

 

「私ガ選ブノハ、ルビー・カーバンクル ダ。……クク、ソレガ正真正銘、貴様ノ最後ノ ドローダ。精々、イイ カードヲ引ケルヨウ、祈ルンダナ」

 

「ふんっ。あなたなんかに言われなくても、引いてみせるわよ。……ドロー!」

 

 暁は、ドローした二枚のカードを確認する。彼女は眉を寄せると、判断に困った様子で響に尋ねる。

 

「ねえ、響。この手札は……」

 

「最高だよ、暁。その二枚こそ、私が望んでいたカードだ」

 

「そうなの? でも、こっちのカードは今の状況じゃ使えな……」

 

「しっ」

 

 響は、暁の口に人差し指を当てて制する。

 

「あまり話すと、相手に感づかれるかもしれない。……大丈夫、心配いらないよ。次のターンには、そのカードも使えるようになってるから。今は、私を信じて」

 

「……分かったわ。なら、このターンはもう片方のカードだけを伏せておくわ。それでいい?」

 

「うん」

 

「私はカードを一枚伏せて、ターン終了よ」

 

「結局、何モデキズニ ターンエンドカ。ドウヤラ、貴様等ノ逆転劇ハ、口先ダケダッタ ヨウダナ。私ノ、ターン。私ハ、裏守備表示ノ『ワーム・ヴィクトリー』ヲ反転召喚スル!」

 

 

《ワーム・ヴィクトリー》

効果モンスター

星7/光属性/爬虫類族/攻 0/守2500

リバース:「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター以外の、フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードの攻撃力は、自分の墓地の「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。

 

 

「ワーム・ヴィクトリー ハ、リバース シタ時ニ、『ワーム』以外ノ表側モンスターヲ 全テ破壊スル。消エロ、サファイア・ペガサス!」

 

「ただではやられないわ。トラップ発動、『宝玉の集結』!」

 

 

《宝玉の集結》

永続罠

このカードの(1)(2)の効果は同一チェーン上では発動できない。

(1):1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の「宝玉獣」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動できる。

デッキから「宝玉獣」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):魔法&罠ゾーンの表側表示のこのカードを墓地へ送り、自分フィールドの「宝玉獣」カード1枚とフィールドのカード1枚を対象としてこの効果を発動できる。

対象のカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

「宝玉の集結は、一ターンに一度、自分の『宝玉獣』モンスターが破壊された時に、デッキから新たな宝玉獣を呼ぶことができる罠カード。私は、デッキに眠る最後のサファイア・ペガサスを守備表示で特殊召喚するわ。さらに、サファイア・ペガサスの効果で、デッキの『宝玉獣 コバルト・イーグル』を魔法・罠ゾーンに置くわ」

 

「チッ、代ワリノ壁モンスターヲ用意シタカ……。ダガ、甘イナ!」

 

「なんですって?」

 

「貴様ノ考エハ、読メテイル。ソノ モンスターデ、ワーム・ヴィクトリー ノ攻撃ヲ、防ゴウトシテイルノダロウ? ダガ、ソレハ私ガ他ノ モンスターヲ召喚シナカッタ時ノ話。ソシテ、私ハ今ノ ドロー デ、新タナ モンスターヲ引イタ! 来イ、『ワーム・テンタクルス』!」

 

 

《ワーム・テンタクルス》

効果モンスター

星4/光属性/爬虫類族/攻1700/守 700

1ターンに1度、自分の墓地の「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。

このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

「ワーム・テンタクルス ノ効果発動。墓地ノ『ワーム』一体ヲ除外スルコトデ、コノ ターン、二回攻撃デキル。ワーム・ヴィクトリー ト合ワセテ三回ノ攻撃デ、貴様等ノ息ノ根ヲ、確実ニ止メテヤル! バトル! マズハ、ワーム・テンタクルス デ、サファイア・ペガサス ヲ攻撃ダ!」

 

「させないわ! 宝玉の集結のもう一つの効果発動! このカードを墓地に送ることで、フィールドの宝玉獣と他のカード一枚を手札に戻すわ。私は、魔法・罠ゾーンのサファイア・ペガサスと、ワーム・テンタクルスを選択!」

 

「ダガ、私ニハ マダ モンスターガ残ッテイル。ワーム・ヴィクトリー デ攻撃! ワーム・ヴィクトリー ノ攻撃力ハ、墓地ノ『ワーム』×500ポイント トナル。今、私ノ墓地ニハ『ワーム』が十一体。ヨッテ、攻撃力ハ5500ダ!」

 

 サファイア・ペガサスが破壊されたことで、暁のフィールドからモンスターがいなくなる。しかし、リ級のフィールドにも他のモンスターはいないため、これ以上の追撃はない。

 

「コノ ターンデ、仕留メテヤロウト思ッタガ、シブトイ奴メ。ダガ、果タシテ ドコマデ保ツカナ?」

 

 自身の場を指して、リ級が言う。

 

「私ノ場ニハ、攻撃力5500ノ ワーム・ヴィクトリー ガ存在スル。モハヤ貴様ノ デッキニ、コレニ敵ウ モンスター ナド、イマイ。ソシテ、特別ニ教エテヤルガ、私ノ リバースカード ハ『くず鉄のかかし』。タトエ、貴様ガ ワーム・ヴィクトリーヲ倒セル モンスターヲ召喚シタトシテモ、ソノ攻撃ハ届カナイ。貴様ハ、決シテ私ヲ倒スコトハ、デキナイ!」

 

 勝ち誇った声で言い放つリ級。だが、それを聞いた響は、どういうわけか微笑を作った。

 

「暁。勝ったよ」

 

「えっ?」

 

 不意の言葉に、暁は思わず聞き返す。

 

「今この瞬間、勝利の方程式はすべて揃った。このデュエル、私たちの勝ちだ」

 

「……私には、その方程式は見えないんだけど……」

 

「心配いらない。暁にも、すぐに見えてくるさ。さあ、私たちのターンだ。カードをドローして」

 

 響に促され、暁は手を動かす。続けて、響から指示が飛ぶ。

 

「前のターンに手札に戻したサファイア・ペガサスを召喚。効果を使って魔法・罠ゾーンに宝玉獣を置く。選ぶ宝玉獣は、適当でいいよ」

 

 暁は、響の言う通りにデュエルを進める。一連の行動が終わったところで、響は暁に問いかける。

 

「これで準備は整った。さて、暁。このフィールドを見れば、今度こそ君も勝利への道が見えるはずだよ」

 

 暁は視線を左右に振って自分のフィールドを観察する。そして、あっと声を上げた。

 

「響、私にも見えたわ! あなたの言う、勝利の方程式が!」

 

「それは良かった。じゃあ――勝つよ、暁」

 

「ええ!」

 

「勝利ノ方程式ダト? ソンナモノ、アルワケガナイ」

 

「生憎と、それがあるんだよね。その方程式の解を、これから君に見せてあげるよ」

 

 響が横目で暁を見る。目配せを受けた彼女は、手札の一枚を得意顔で場に出した。

 

「これが、私たちを勝利へ導く切り札よ! 魔法カード『宝玉の氾濫』!」

 

 

《宝玉の氾濫》

通常魔法

自分の魔法&罠カードゾーンの「宝玉獣」と名のついたカード4枚を墓地へ送って発動できる。

フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

さらにこの効果によって墓地へ送った相手フィールド上のカードの数まで、自分の墓地の「宝玉獣」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。

 

 

「このカードの効果で、フィールドのカードはすべて墓地へ送られる。さらに、私は墓地へ送られた相手のカードの枚数分だけ宝玉獣を特殊召喚できるわ」

 

「ソンナ切リ札ヲ、マダ隠シ持ッテイタト イウノカ……!」

 

「もちろん、ただで使えるわけじゃないさ」

 

 驚愕するリ級に、響が言う。

 

「このカードの発動には、魔法・罠ゾーンの宝玉獣を四枚墓地へ送ることが必要。前のターン、私たちのフィールドは発動条件を満たしていなかった。だけど……」

 

「宝玉の集結とサファイア・ペガサスの効果を使うことで、魔法・罠ゾーンの宝玉獣は一気に増えたわ。ちょうど、発動条件ぴったりの四枚まで、ね」

 

「ダトスルト、サッキノ、足掻キハ……」

 

「当然、そのための準備よ。防御に精一杯と思わせておいて、反撃の用意をしっかり整えておいたんだから! ……私も、ついさっきまで気づかなかったけど」

 

 得意げな顔で、しかし最後の部分を小声にして、暁が答える。

 

「とにかく、これであなたのフィールドは全滅。そして、私のフィールドには二体の宝玉獣が特殊召喚されるわ。もう一度来て、『宝玉獣 サファイア・ペガサス』『宝玉獣 アンバー・マンモス』!」

 

 

《宝玉獣 サファイア・ペガサス》

効果モンスター

星4/風属性/獣族/攻1800/守1200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の手札・デッキ・墓地から「宝玉獣」と名のついたモンスター1体を永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

《宝玉獣 アンバー・マンモス》

効果モンスター

星4/地属性/獣族/攻1700/守1600

自分フィールド上の「宝玉獣」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時、このカードに攻撃対象を変更できる。

このカードがモンスターカードゾーン上で破壊された場合、墓地へ送らずに永続魔法カード扱いとして自分の魔法&罠カードゾーンに表側表示で置く事ができる。

 

 

「二体の攻撃力の合計は3500。この攻撃で終わりよ! バトル、二体の宝玉獣でプレイヤーにダイレクトアタック! いっけえええっ!」

 

「クッ……ソンナ、馬鹿ナァッ!」

 

 

リ級 LP3200→0

 

 

 二体の宝玉獣が同時に突進をお見舞いし、リ級を文字通り吹き飛ばす。木の葉のように宙を舞った相手は大きな水柱を上げて着水し、そのまま姿を消した。

 

「勝った……のね」

 

 ソリッドビジョンが消滅する中、暁が呆然とした様子で呟く。直後、彼女は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れた。

 

「暁っ!?」

 

 響は咄嗟にしゃがむとともに腕を伸ばし、暁を抱きとめる。響は暁の顔を覗き込み、心配そうに尋ねる。

 

「大丈夫かい!? どこか痛むところでも――」

 

「平気よ、響」

 

 響の不安を和らげるため、暁は笑顔を見せる。

 

「手酷くやられたから確かに体中が痛いけど、このくらい耐えられるわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「ちょっと、腰が抜けちゃって……」

 

 はにかんだ表情で、暁が答える。

 

「デュエルに勝って安心したら、急に力が入らなくなって……。響、悪いんだけど、鎮守府まで曳航してもらえない?」

 

「まったく、仕方ないお姉さんだね」

 

 苦笑した響は、「いいよ」と頷いて暁に肩を貸す。が……

 

「……あれ?」

 

 立ち上がろうとした響は、自身の体の異変に気づく。

 

「どうかしたの?」

 

「……ごめん。私も、暁と同じみたいだ」

 

「えええぇっ!?」

 

 響の返答に、暁は声を上げる。

 

「暁が無事だってことを理解したら、緊張の糸が切れたみたいで……。とても、立てそうにない」

 

「それじゃあ私たち、どうやって鎮守府に帰ればいいのよ?」

 

「暁を助けに入る前に、この場所は司令官に伝えておいたから、そのうちみんな集まってくると思うよ。そうしたら、誰かに曳航してもらおう」

 

「それまではどうするの?」

 

「何もできないから、このまま待つしかないね」

 

「そんなぁ……」

 

 がっくりと肩を落とし、暁は溜息をつく。それを境にひと時の沈黙が訪れたあと、響が口を開いた。

 

「……ごめん。暁」

 

「響?」

 

「私は、暁のデッキをもっと強くしてあげたかった。でも、自分の気持ちを押しつけるばかりで暁のことを考えずにいて……それで、暁を傷つけてしまった。ごめん」

 

「響が謝ることじゃないわ」

 

 暁は、首を横に振って答える。

 

「元はと言えば、私がつまらない意地を張ったのが原因だもの。響の言ってることは正しかった。だけど、それを認めたくないからあんなこと言って……大人げなかったのは私の方だわ。私こそ、ごめんなさい」

 

「暁は悪くない。私がもう少し言い方に気をつけていれば……」

 

「いいえ。そんなことないわ」

 

 響の言葉を遮り、暁はそれを否定する。

 

「暁は一人前のレディーだもの。責任がどちらにあるかくらい、しっかり見分けられるわ。今回悪かったのは私よ」

 

「でも……」

 

「それなら、おあいこだと思えばいいわ。だけど、もしそれでも響の気が済まないなら……」

 

 暁は、にっこりと響に笑いかける。

 

「私のデッキ調整に、付き合ってちょうだい」

 

「えっ……?」

 

「私は、このデュエルで分かったことが二つあるわ。一つは、私のデッキは今のままじゃダメだっていうこと。これは、その前から響に言われてたことでもあるけど」

 

 そして、と暁は続ける。

 

「もう一つは、響は私のデッキをよく見てるということ。私のデッキの強さも弱さも、私以上によく知ってる。たぶん、私のだけじゃない、雷や電のデッキのことも、同じようによく知ってるんだと思うわ。今のデュエルで、私はその二つのことを実感したわ」

 

「だから、私にデッキ調整を頼む、と?」

 

「そうよ。響は私のデッキのことを誰よりも知ってる。だから、あなたに手伝ってもらえれば、今よりずっといいデッキになるに違いないわ」

 

「けど、デュエルの腕なら司令官の方が……」

 

「もう……、分かってないわね」

 

 暁は、溜息をついて響の額を小突く。

 

「私はね、響。あなたに手伝ってほしいの。自分の命を預けるデッキは、一番信頼できる相手と一緒に作りたい。私は――暁は、他の誰でもないあなたを、響を信頼してこれを頼んでいるの」

 

「暁……」

 

 響は水色の瞳を丸くして暁を見る。そして、力強い頷きを返した。

 

「……分かった。暁。君の信頼に、全力で応えてみせるよ」

 

「ありがと。よろしくね、響」

 

 暁は再び響に笑いかける。そこへ、遠くからよく馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「やっと追いついたぁ~。ずっと全速力は流石にキツいし~」

 

「暁ちゃん、響ちゃん! 大丈夫なのですか?」

 

「……って、なんで二人とも海面に座り込んでるのよ?」

 

「どうやら、お迎えの到着のようだね」

 

 現れた鈴谷、電、雷の姿を見て、響が言う。

 

「二人とも、いつまでそこに座ってるのよ?」

 

 まだ距離があるため無線で話しかけてきた雷に、響が応答する。

 

「言いにくいことなんだけど、二人揃って腰が抜けてしまってね。悪いけど、三人で鎮守府まで引っ張ってもらえないかな?」

 

「もう、なによそれ。世話の焼ける姉たちね」

 

「まあまあ、雷ちゃん。二人とも無事で良かったじゃないですか」

 

「ま、そうね。どうやら、仲直りもできたみたいだし」

 

 遠目に二人の姿を見ながら、雷は電に同意する。彼女たちは二人と合流し、雷が響に、電が暁に肩を貸してそれぞれを立ち上がらせる。

 

「もしもし提督? こちら鈴谷。作戦完了のお知らせだよ。暁は大破してる上に、二人とも腰が抜けちゃってるけど、とりあえず大丈夫。これから雷と電と三人で曳航して帰るねー」

 

 報告を終えた鈴谷は、仲良く並んだ四人を振り返る。

 

「さてと、皆様。それじゃ帰りましょうか!」

 

 鈴谷の言葉を合図に、一行は帰還の途に就くのだった。

 




雷「まったく、無茶するんじゃないわよ暁! 敵の誘導にまんまと引っかかって……」

暁「ごめんなさい……」

雷 「あれで響が間に合わなかったらどうするつもりだったのよ? あなた、沈んでたわよ」

電「まぁまぁ、雷ちゃん。そのくらいで……。みんな無事で、暁ちゃんと響ちゃんも仲直りできたんだから、結果オーライなのです」

雷「そんなんじゃダメよ! ……って言いたいけど、それもそうね。今回はこの程度で勘弁してあげるわ」

暁「助かったわ、電……」

雷「次に響!」

響「私も!?」

雷「当然でしょ。今回の原因は響にもあるんだから。あなたがもう少し暁への言い方を考えてたら、話がここまでこじれることはなかったのよ」

響「確かに……そこは反省している。ごめん、暁」

暁「もういいわよ。私も大人げなかったし、この話はおあいこよ。ごめんなさいはもういらないから、私のデッキ改造、しっかり手伝ってよね」

電「次回は、その新デッキのデビュー戦なのです」

暁「そうよ。進化した暁の宝玉獣の力、とくと見せてあげるんだから! さっ、響。一緒に予告やるわよ!」

響「了解」

暁&響「次回『新生! 宝玉獣デッキ』。デュエル・スタンバイ‼」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。