「ふあぁ……」
「眠そうだね、電」
鎮守府庁舎内の廊下を歩きながら、響が電に話しかける。
「まだ午前中なのに、そんなに大きなあくびをして。寝不足かい?」
「はい。昨日は、あまり眠れなくて……」
答えた電は、再びあくびをする。
「普段は寝つきが良いのに、珍しいね。もしかして、教導初日を前に緊張したとか?」
「そうかもしれません」
「それほど気負う必要はないさ。他の艦娘にデュエルを教えるのは、初めてじゃないんだから。トラックでやっているのと同じことを、いつも通りやればいいだけだ」
響の言葉に、電は「はい」と頷く。そして、両手で軽く頬を張り、眠気を払う。
「よしっ。これで大丈夫なのです」
「しっかり頼むよ。いつも通りやればいいとは言ったけれど、今日の私たちは特別な先生役だ。くれぐれも、みんなの前で大あくびをしたりしないようにね」
「分かっているのです」
屋外へ出るため、二人は自分たちの部屋がある二階から一階へと向かう。上下の階を繋ぐ階段に差し掛かったところで、彼女たちは対面からやって来るもう一組の艦娘と出会った。
「おはよう、響、電。今日もいい天気ね」
「やあ。おはよう、天津風」
「島風ちゃんも、おはようございます」
「おはよー。ふわぁ……」
響たちの前に現れたのは、島風と天津風。しかし、挨拶をして早々にあくびを漏らす島風は、何やら眠そうである。
「おや。島風も寝不足かい?」
「うん。ちょっとねー」
閉じ気味の目を擦りながら、島風は答える。
「今日から始まる教導のことを考えていたら、眠れなかったんですって。寝不足で頭が回らなくなったら意味ないのに。まったく、何をやってるんだか」
呆れた様子で溜息をついた天津風は、そこであることに気づく。
「ん? 島風『も』ってことは、もしかして、響も寝不足?」
「いいや。私はぐっすり眠れんだけれども、電がね。島風と同じように、寝不足さ。今日の教官役に緊張して眠れなかったらしい。やれやれ、教える側が寝ぼけていたら教導が成立しないのに、我が愚妹は何をしているのやら」
電のことを横目で見つつ、響はわざとらしい溜息を吐く。
「とはいえ、電の寝不足も教導に支障が出るほどのものではないから、安心してくれ。万が一、彼女が途中で倒れたりしても、私が責任を持って任務を果たすよ」
「流石にそんなことはしないのですよ」
「分かってる。冗談さ」
頬を膨らませる電を軽くいなし、響は「ところで」と話題を変える。
「雪風たちは、どうしているんだい? もう岸壁にいるのかな」
「まだ部屋の中よ。時津風がいつまで経っても布団から出てこなくて、雪風が引きずり出しているところ。わざわざトラックから来てもらってるのに、教導初日から寝不足やら寝坊やらで、申し訳ないわね」
「平気だよ。教導の計画は、充分な余裕を持って作ってあるから。多少の遅れが発生しても、問題はない」
「本当? それなら一安心だわ。薄々気づいているかもしれないけれど、うちのメンバーは自由人が多いから……。手間のかかる相手だとは思うけど、どうか大目に見てほしいわ。私も、できることは手伝うから」
「もちろん。ひとまず、私たちは先に岸壁に向かっていようか。そこで皆が集まるのを待つとしよう」
「そうね。そうしましょう」
合意した二人が先導する形で、四人は泊地の一般艦船用岸壁へ移動する。昨日、時津風の求めに応じて響と電がデュエルを披露したこの場所は、今日も適度なひらけ具合を有していた。
「時津風たちも、じきに来るはずよ。雪風はあの子の扱い方を心得てるから、適当に誘導して連れて来てくれるわ」
天津風の言葉通り、ほどなくして雪風と時津風が岸壁に姿を現す。そして、残る一人の艦娘も到着し、所定の人数が集まった。
「みんな揃ったね。それじゃあ始めようか」
響の言葉を合図に、天津風たちは横一列に整列する。響と電は、彼女たちと向かい合う位置に並んで立つ。
「みんな、自分のデッキは持ってきているかい? 昨日話した通り、今日は昨日作ったデッキを使って、早速デュエルをしてもらうよ」
「はい」
答える天津風たちの左腕には、デュエルディスクが装着されている。彼女たちだけではない。響と電も、ディスクを身につけていつでもデュエルできる態勢を作っている。
「既に話している通り、今日から実戦形式での教導を開始する。まず行うのは、一対一の基本的な戦いだ」
目の前に並ぶ相手に視線を配りながら、響は言う。
彼女の前では、五人の艦娘が一列横隊を作って待機している。その顔触れは、響から見て右から順に時津風、雪風、島風、天津風、そして、彼女たちよりもやや年上の短髪の少女。彼女の名は最上。最上型重巡洋艦の一番艦で、響もよく知る鈴谷の姉にあたる艦娘である。ショートランドでは駐留艦隊の旗艦を務めており、天津風たちを率いて泊地防衛の先頭に立っている。
ここには、この五人以外の艦娘は常駐していない。彼女たちが、南方海域の最前線を支える戦力のすべてだった。
「デュエルモンスターズの基本ルールは、昨日説明した通りだ。配ったルールブックを見れば分かるように、ルールは一見複雑そうに見えて実は単純……なんてことはなくて、本当に難しい。いくら文字を読んでも、理解できないと思う。だから、習うより慣れろ。実際のデュエルを通じて、ルールを体に叩き込んでいく」
「うわぁ、なんかキツそう……。スパルタはやだな~」
「こらっ、時津風。教えてもらう立場で何言ってるのよ」
露骨に嫌そうな顔をする時津風を、天津風がたしなめる。響はそれに苦笑しつつ、「そんなに心配しなくてもいいよ」と言う。
「なにも、精神注入棒を持ってきて指導しようってわけじゃない。感覚としては、砲雷戦の訓練に近いかな」
「砲雷戦って、いつもあたしたちがやってる、あれのこと?」
時津風の問いに、響は首肯する。
「砲撃や雷撃は、理論だけ覚えていても上手くいかない。言葉で理解した内容を自分のものにするためには、実際に砲雷撃の訓練をして、その動きを体で覚える必要がある。デュエルも、それと同じだ」
「そして、戦いとしての重みも……そういうことね、響?」
「ご明察」
響は満足そうな表情を浮かべ、天津風の言葉に頷く。
「一般的なデュエルは、あくまで遊びや娯楽の範疇にある。勝とうと負けようと、お互いが楽しめるものだ」
けれど、と響の口調が険しくなる。
「深海棲艦との――D型艦とのデュエルは違う。彼女たちとのデュエルは、文字通りの『決闘』。勝者は海に立ち続け、敗者は海底へと沈む……。つまり、敗れた者は、命を落とす」
D型艦とのデュエルは、生死に直結する。このことは、D型艦の初出現の直後に全軍へ通達されており、天津風たちも知っている。しかし、実戦を経験した者の言葉が有する力は、無味乾燥な書面の比ではない。自然と、五人の顔つきも神妙なものになる。
「命を懸けているのは砲雷戦も同じだけれど、砲雷戦とデュエルでは、大きな違いがある。それは、一人で戦わなければならないということ。通常の海戦なら、よほどのことがない限りは仲間と連携して敵艦と戦い、互いに助け合うことができる。でも、デュエルではそれができない。デュエルの形式は、基本的に一対一。一度戦いが始まったならば、誰も手出しすることはできない。たとえ、仲間が目の前で負けそうになっていたとしても助けられない。それが、手を伸ばせば届く距離であったとしても」
淡々と吐き出される言葉は、そうであるがゆえに、聞く者の胸の奥にまで突き刺さる。数拍の間を置いて、その言葉はさらに続けられる。
「だから、私たちは強くならなければならない。自分の身を守るために、そして、大切なものを護るために。私と電は、そのための力と技術を君たちに与える」
ここで響は口を止め、ゆっくりと息を吐く。そして、いつもの表情に戻って話を締めくくった。
「と、いうわけで。これから君たちを一人前のD艦娘に鍛え上げるから、よろしくね。電からは、何かあるかい?」
「いいえ。皆さん、よろしくお願いします」
「では早速、デュエルの演習を始めようか。さっきも言ったように、これから始める演習はデュエルモンスターズのルールを覚える場であると同時に、自分のデッキのテストプレイの場でもある。何度もデュエルして、デッキの特徴を掴んでいこう」
「初めてのデュエルですから、途中で分からないことが出てくるかもしれないのです。そういう時は、遠慮なく私たちに聞いてくださいね」
「まずは、最初の対戦カードを決めるよ。私たちが適当に選んでも構わないけれど……誰か、我こそは、という人はいるかい?」
「はいっ!」
響の言葉に応えて、島風が勢いよく手を挙げる。
「私が最初にデュエルするわ! そんで、対戦相手は――」
島風はそう言いながら、隣に並んでいる少女の手首を掴んで引き上げた。
「天津風!」
「え!?」
さっきまで眠たげだった島風が突然元気になったのもさることながら、いきなり対戦相手に指名され、天津風は困惑気味に眉を寄せる。
「ちょっと。何よ、いきなり」
「どうして私なの?」と、天津風は島風に尋ねる。
「どうせデュエルするなら、いつも一緒にいる相手とやる方が楽しそうでしょ。ほら、私たち駆逐隊でもいつもペア組んでるし。ね?」
「相手してあげれば、天津風? せっかく指名してもらったんだから、受けてあげないと島風が可哀想じゃない~?」
島風に絡まれる天津風を面白そうに眺めながら、時津風が島風への援護射撃を放つ。天津風は観念した様子で溜息をつくと、「分かったわよ」と頷いた。
「このデュエル、受けて立つわ。でも、やるからには本気でいくわよ」
「当然。そうじゃなくちゃ、張り合いないもん」
「ふむ……どうやら、最初の対戦は島風と天津風で決まりみたいだね。それじゃあ二人とも、位置について」
響に促され、二人は互いに距離を取って向かい合う。他の面々は、ソリッドビジョンの投影に備えて安全な距離を保ちつつ、両者の中間あたりの位置に集まる。
「いくよ、天津風!」
「ええ。どこからでもかかってきなさい!」
「「デュエル!!」」
島風 LP4000
天津風 LP4000
「先手必勝、私のターン! 私は、魔法カード『調律』を発動!」
デュエル開始と同時に先攻を宣言した島風が、場にカードを出す。彼女は左腕のデュエルディスクからデッキを抜き取ると、そこから一枚のカードを手札に加えた。
「このカードの効果で、私は自分のデッキから『シンクロン』モンスター一体を手札に加えて、その後デッキの一番上のカードを墓地へ送る。私は、『ジャンク・シンクロン』を手札に。さらに手札を一枚捨てて、魔法カード『ワン・フォー・ワン』を発動。デッキから『ジェット・シンクロン』を特殊召喚」
《調律》
通常魔法
(1):デッキから「シンクロン」チューナー1体を手札に加えてデッキをシャッフルする。
その後、自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。
《ワン・フォー・ワン》
通常魔法
(1):手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。
手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。
《ジェット・シンクロン》
チューナー・効果モンスター
星1/炎属性/機械族/攻 500/守 0
「ジェット・シンクロン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。
(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「さらに私は『ジャンク・シンクロン』を通常召喚。ジャンク・シンクロンの効果で、ワン・フォー・ワンのコストとして墓地へ送った『レベル・スティーラー』を守備表示で特殊召喚。そして、墓地からモンスターが特殊召喚された時に、手札の『ドッペル・ウォリアー』の効果を発動! このカードを手札から特殊召喚するよ」
「一気にモンスターを四体も……。だけど、一体ずつのステータスは低くて、レベルもばらけてる。昨日の座学によると、この流れで相手が狙ってくるものは……」
「私は、レベル2のドッペル・ウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、『
《ジャンク・シンクロン》
チューナー・効果モンスター
星3/闇属性/戦士族/攻1300/守 500
(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
《レベル・スティーラー》
効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0
(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、アドバンス召喚以外のためにはリリースできない。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
《ドッペル・ウォリアー》
効果モンスター
星2/闇属性/戦士族/攻 800/守 800
(1):自分の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
自分フィールドに「ドッペル・トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する。
《
シンクロ・効果モンスター
星5/闇属性/魔法使い族/攻2400/守1800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):このカードがフィールドに存在し、自分または相手が、このカード以外のSモンスターのS召喚に成功した場合に発動する。
このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。
「やっぱり。シンクロ召喚で攻めてくるつもりね」
島風が呼び出したモンスターを見て、天津風は呟く。
「ドッペル・ウォリアーは、シンクロ召喚に使われて墓地へ送られた場合、自分フィールドにトークンを二体特殊召喚できる。私は、レベル1のドッペル・トークン二体を特殊召喚。そして、レベル1のドッペル・トークンに、同じくレベル1のジェット・シンクロンをチューニング! おいで、『フォーミュラ・シンクロン』!」
《フォーミュラ・シンクロン》
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星2/光属性/機械族/攻 200/守1500
チューナー+チューナー以外のモンスター1体
(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
(2):相手メインフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。
「ハイパー・ライブラリアンの効果発動。お互いのプレイヤーがシンクロ召喚をするたびに、私はデッキからカードを一枚ドローする。さらに、その効果にチェーンして、フォーミュラ・シンクロンとジェット・シンクロンの効果も発動!
フォーミュラ・シンクロンは、シンクロ召喚した時にカードを一枚ドローできる。そして、ジェット・シンクロンはシンクロ素材となった時に、デッキから『ジャンク』モンスターを手札に加えることができる。私は二体目の『ジャンク・シンクロン』を手札に加えて、二枚ドロー! さらに、手札のモンスター一体を墓地へ送って『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」
「まだ新しいモンスターを呼び出すの!?」
なおも続けられる特殊召喚の連打を前に、天津風は呆れと驚きが混じった声を上げる。
「しかも、名前にシンクロンが入ってるってことは、まさかそのモンスターも……」
「もっちろん! 私は、レベル1のレベル・スティーラーに、レベル5のクイック・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、『ドリル・ウォリアー』!」
シンクロ召喚が行われたことで、島風はさらに一枚ドローする。これだけモンスターを並べておきながら、彼女の手札はまだ三枚残っている。実質的に消費した手札は、たったの二枚だ。
「私は、墓地のレベル・スティーラーの効果を発動。ドリル・ウォリアーのレベルを一つ下げて、このカードを特殊召喚する。そして、私はレベル5のドリル・ウォリアーとハイパー・ライブラリアンに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!」
「シンクロモンスター同士で、シンクロ召喚ですって!? 昨日のルール説明じゃ、そんなことができるなんて聞いてないわよ!」
「何事にも、例外はあるってことだよ」
得意げな表情を浮かべ、島風は天津風の驚き顔を眺める。
「よく見ててよね、天津風。これが、私の切り札! リミットオーバー・アクセルシンクロォッ! 降臨せよ、『シューティング・クェーサー・ドラゴン』!!」
《クイック・シンクロン》
チューナー・効果モンスター
星5/風属性/機械族/攻 700/守1400
このカードは「シンクロン」チューナーの代わりとしてS素材にできる。
このカードをS素材とする場合、「シンクロン」チューナーを素材とするSモンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。
《ドリル・ウォリアー》
シンクロ・効果モンスター
星6/地属性/戦士族/攻2400/守2000
「ドリル・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
このカードの攻撃力を半分にし、このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
手札を1枚捨ててこのカードをゲームから除外する。
次の自分のスタンバイフェイズ時、この効果で除外したこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
その後、自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星12/光属性/ドラゴン族/攻4000/守4000
シンクロモンスターのチューナー1体+チューナー以外のシンクロモンスター2体以上
このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
このカードはこのカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
1ターンに1度、魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する事ができる。
このカードがフィールド上から離れた時、「シューティング・スター・ドラゴン」1体をエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
天を割らんばかりの輝きを放つ光の柱が島風の背後にそびえ立ち、その光を裂いて二対の翼を持つ巨竜が姿を現す。まばゆい純白の巨躯と、鋭く伸びた一角。大気を震わすほどの迫力からは、威圧感を通り越して神々しささえ感じられる。それは、対戦相手である天津風すらも、思わず感嘆の息を漏らすほどだった。
「シンクロモンスター同士で行うシンクロ召喚の極致、リミットオーバー・アクセルシンクロ。そこから生み出された究極のシンクロモンスター……それが、このシューティング・クェーサー・ドラゴンだよ。私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
半ば放心状態の天津風は、島風のエンド宣言を聞いて我に返る。彼女は頭を左右に振って意識を試合に引き戻し、目の前に立ちはだかる強敵を見つめた。
「先攻一ターン目で攻撃力4000のモンスターを召喚だなんて……まったく、やってくれるじゃないの。私のターン!」
ドローカードを見た天津風は、口元に笑みを浮かべる。
「いい風来てる! 島風。悪いけれど、あなたの切り札には早々に退場して頂くわ」
「できると思ってるの?」
「当然。私は、永続魔法『修験の妖社』を発動。さらに、スケール3の『妖仙獣
天津風の左右に青い光の柱が出現し、その中に鳥居を模したモンスターと、「3」と「5」の数字が浮かび上がる。
「ふーん、ペンデュラム召喚かあ」
前のターンにおける天津風と同じく、島風は相手の動きから攻め口を予測する。
昨日行われたルール説明の中で、響と電は各召喚方法の内容だけでなく展開方法の特徴なども合わせて教えていたが、その成果はしっかりと上がっているようだった。
「ペンデュラム召喚は、セッティングされた二つのスケールの数によって呼び出せるモンスターのレベルが変わる。天津風のスケールは3と5だから、レベル4のモンスターを同時に召喚可能ってことね」
「今のところは、ね」
意味ありげに微笑を浮かべ、天津風は答える。
「私は、右鎌神柱のペンデュラム効果を発動! このターン、『妖仙獣』以外の特殊召喚を封じる代わりに、このカードのスケールを11に変更するわ!」
「うそっ!?」
先ほどとは逆に、今度は島風が驚愕をあらわにする。
「本当よ。私は、スケールが広がった右鎌神柱と左鎌神柱でペンデュラム召喚! 現れなさい、烈風纏いし妖の長! 『魔妖仙獣
《修験の妖社》
永続魔法
「修験の妖社」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、「妖仙獣」モンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに妖仙カウンターを1つ置く。
(2):このカードの妖仙カウンターを任意の個数取り除いて発動できる。
取り除いた数によって以下の効果を適用する。
●1つ:自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃力はターン終了時まで300アップする。
●3つ:自分のデッキ・墓地から「妖仙獣」カード1枚を選んで手札に加える。
《妖仙獣
ペンデュラム・効果モンスター
星4/風属性/岩石族/攻 0/守2100
【Pスケール:青3/赤3】
(1):自分フィールドの「妖仙獣」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。
【モンスター効果】
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカード以外の自分フィールドの「妖仙獣」モンスターを効果の対象にできない。
《妖仙獣
ペンデュラム・効果モンスター
星4/風属性/岩石族/攻 0/守2100
【Pスケール:青5/赤5】
(1):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンに「妖仙獣」カードが存在する場合に発動できる。
このカードのPスケールはターン終了時まで11になる。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「妖仙獣」モンスターしか特殊召喚できない。
【モンスター効果】
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
このカードを守備表示にする。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の「妖仙獣」モンスターを攻撃対象にできない。
《魔妖仙獣
ペンデュラム・効果モンスター
星10/風属性/獣族/攻3000/守 300
【Pスケール:青7/赤7】
(1):自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで300アップする。
【モンスター効果】
このカードはP召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードのP召喚は無効化されない。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(3):このカードを特殊召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
「『妖仙獣』モンスターが特殊召喚された時、修験の妖社の効果が発動。このカードに妖仙カウンターを一つ置くわ。そして、その効果にチェーンして、大刃禍是の効果を発動。島風のシューティング・クェーサー・ドラゴンと伏せカードを手札に戻すわ!」
大刃禍是が咆哮すると同時に巨大な竜巻が発生し、島風のフィールドを襲う。しかし、暴風がシューティング・クェーサー・ドラゴンを呑み込もうとした瞬間、突如として風勢が衰え、竜巻は一瞬のうちに消滅してしまった。
「どういうこと!?」
「シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果だよ」
驚く天津風に、島風が言う。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンは、一ターンに一度、あらゆる効果の発動を無効にして破壊することができる。私はその効果を使って、大刃禍是の効果を無効にして破壊したわ!」
「そんな効果を持ってるなんて……。切り札なだけあって、攻撃力だけが取り柄じゃないのね」
でも、と天津風は続ける。
「これで、このターン中は、もうその効果は使えないわ。私は『妖仙獣
《妖仙獣
効果モンスター
星4/風属性/獣戦士族/攻1600/守 500
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「妖仙獣 鎌壱太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。
(2):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドにこのカード以外の「妖仙獣」モンスターが存在する場合に相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
《妖仙獣
効果モンスター
星4/風属性/獣戦士族/攻1500/守 800
「妖仙獣 鎌参太刀」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。
手札から「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。
(2):このカード以外の自分の「妖仙獣」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。
デッキから「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」カード1枚を手札に加える。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
「修験の妖社にカウンターが置かれるのは、特殊召喚の時だけじゃない。『妖仙獣』が二回召喚されたことで、妖社にはカウンターが二つ追加される。そして、私は鎌壱太刀の効果を発動! 自分の場にこのカード以外の『妖仙獣』モンスターがいる時、相手の表側のカード一枚を手札に戻すことができる。今度こそエクストラデッキに戻りなさい、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」
一ターンに一度の効果を使い切ったシューティング・クェーサー・ドラゴンに、これを防ぐ術はない。天津風の宣言通り、島風の切り札はあっけなく姿を消した。
「やったわ! これで島風のフィールドにいるのは低レベルのモンスターだけ。私は、鎌壱太刀と鎌参太刀で攻撃――」
「待った! 私は、シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を発動!」
天津風の攻撃を制して、島風が叫ぶ。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンはフィールドを離れた時、エクストラデッキから、あるモンスターを特殊召喚できる。それが、このカード。招来せよ、『シューティング・スター・ドラゴン』!」
《シューティング・スター・ドラゴン》
シンクロ・効果モンスター
星10/風属性/ドラゴン族/攻3300/守2500
シンクロモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」
以下の効果をそれぞれ1ターンに1度ずつ使用できる。
●自分のデッキの上からカードを5枚めくる。
このターンこのカードはその中のチューナーの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。
その後めくったカードをデッキに戻してシャッフルする。
●フィールド上のカードを破壊する効果が発動した時、その効果を無効にし破壊する事ができる。
●相手モンスターの攻撃宣言時、このカードをゲームから除外し、相手モンスター1体の攻撃を無効にする事ができる。
エンドフェイズ時、この効果で除外したこのカードを特殊召喚する。
島風のフィールドに、シューティング・クェーサー・ドラゴンとは別の白いドラゴンが現れる。クェーサーと比べると二回りほど小さいが、その姿にはそれでも充分な迫力が備わっている。並のデッキならば、このモンスターが切り札を務めても構わない貫禄だ。
「そんな効果まであるの!? 何なのよそのカード、インチキ効果も大概にしなさい!」
「ふふーん。悔しかったら、このシューティング・スター・ドラゴンを倒してみたら?」
「くっ、私のモンスターじゃ倒せないことを知ってて……。私は、鎌壱太刀でドッペル・トークンに、鎌参太刀でレベル・スティーラーに攻撃。レベル・スティーラーは守備表示だからダメージを与えられないけど、ドッペル・トークンは攻撃表示だから、その分はダメージを受けてもらうわよ」
島風 LP4000→3200
攻撃表示のドッペル・トークンが破壊されたことで、島風のライフが削られる。しかし、攻撃力3000以上のモンスターを従える彼女は、ダメージを受けても顔色一つ変えない。
「メインフェイズ2で、私は修験の妖社の効果を発動。このカードに乗ったカウンターを三つ取り除いて、デッキから『妖仙獣の秘技』を手札に加えるわ。そしてカードを一枚伏せて、ターンエンド。この瞬間、鎌壱太刀と鎌参太刀は自身の効果で手札に戻るわ」
「自分で手札に戻っちゃうなんて、変なモンスター。ま、お蔭で私はダイレクトアタックできるようになるからいいけどね。私のターン。私は、伏せてた罠カード『リビングデッドの呼び声』を発動して、墓地のハイパー・ライブラリアンを特殊召喚。さらに、手札からジャンク・シンクロンを通常召喚して、その効果で墓地から『ライトロード・ハンター ライコウ』を特殊召喚するよ」
《リビングデッドの呼び声》
永続罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
《ライトロード・ハンター ライコウ》
効果モンスター
星2/光属性/獣族/攻 200/守 100
リバース:フィールド上のカード1枚を選択して破壊できる。
自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。
「ライコウ……? そんなカード、いつ墓地に?」
「前のターンにクイック・シンクロンを特殊召喚した時だよ。あの時、墓地へ送ったモンスターがこのカードだったってわけ」
「なるほど。そういうことね」
「質問が終わったなら、いくよ! 私は、レベル2のライコウに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! 現れろ、『ジャンク・ウォリアー』!」
《ジャンク・ウォリアー》
シンクロ・効果モンスター
星5/闇属性/戦士族/攻2300/守1300
「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動する。
このカードの攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする。
「ハイパー・ライブラリアンの効果で、私は一枚ドロー。さらに、手札を一枚捨てることでジェット・シンクロンを、シューティング・スター・ドラゴンのレベルを1下げることでレベル・スティーラーを、それぞれ墓地から特殊召喚。そして、レベル1のレベル・スティーラーに、同じレベル1のジェット・シンクロンをチューニング! 二体目のフォーミュラ・シンクロンをシンクロ召喚!」
「前のターンと同じように、フォーミュラ・シンクロンとハイパー・ライブラリアンの効果で手札の消費を補うつもりね。……って、ちょっと待って。前のターンと同じってことは……!」
顔面を蒼白にし、天津風は島風のフィールドに並ぶモンスターを見る。
「島風のフィールドにいるのは、レベルが9になったシューティング・スター・ドラゴンと、レベル5のジャンク・ウォリアーとハイパー・ライブラリアン。そして、レベル2のシンクロチューナーのフォーミュラ・シンクロン……。これって、まさか!?」
「天津風、気づくのおっそーい」
笑いながら、島風は天津風の表情を面白そうに眺める。
「私は、レベル5のジャンク・ウォリアーとハイパー・ライブラリアンに、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! もう一度おいで、シューティング・クェーサー・ドラゴン!」
島風の場に、再び白亜の巨竜が現れる。対する天津風は、再臨した強敵を前に露骨な嫌悪の色を浮かべる。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンの攻撃力は4000。この攻撃が決まれば、一発で私の勝ちだよ。バトル! 私は、シューティング・クェーサー・ドラゴンで天津風にダイレクトアタック!」
「させないわ! 私は、手札の『妖仙獣
「無駄だよ! 私シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を発動。大幽谷響の効果を無効にして、破壊する!」
クェーサーの効果によって、天津風の大幽谷響はフィールドに出る前に破壊される……かと思われたが、次の瞬間破壊されたのは、意外にもクェーサーの方だった。
「えっ!」
砕け散るソリッドビジョンを前に、島風は目を丸くする。
「どうして!? なんで、シューティング・クェーサー・ドラゴンが破壊されるの?」
「驚いたかしら?」
楽しげな微笑を浮かべた天津風が、島風に話しかける。
「私はシューティング・クェーサー・ドラゴンの効果にチェーンして、伏せカードを発動させたの。発動したのは、カウンター罠『妖仙獣の秘技』。その効果により、クェーサーの効果を無効にして、破壊したのよ」
《妖仙獣
効果モンスター
星6/風属性/獣族/攻 ?/守 ?
「妖仙獣 大幽谷響」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に手札から「妖仙獣 大幽谷響」以外の「妖仙獣」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
このカードの攻撃力・守備力はターン終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの元々の攻撃力と同じになる。
(3):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
デッキから「妖仙獣」カード1枚を手札に加える。
《妖仙獣の秘技》
カウンター罠
(1):自分フィールドに「妖仙獣」カードが存在し、自分のモンスターゾーンに「妖仙獣」モンスター以外の表側表示モンスターが存在しない場合、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
【Chain1:大幽谷響 Chain2:シューティング・クェーサー・ドラゴン Chain3:妖仙獣の秘技】
「クェーサーの効果が無効になったことで、大幽谷響の特殊召喚を邪魔するものはいなくなったわ。私は、大幽谷響を守備表示で特殊召喚。そして、妖仙獣が特殊召喚されたことで、修験の妖社にカウンターが一つ置かれる」
「シューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚する効果は『時』の任意効果だから、今はタイミングを逃して発動できない……」
「『タイミングを逃す』……そういえば、それもルール説明で教えられたわね。テキスト欄に書いてあるのが、タイミングを逃さない『場合』の効果だったら今もシューティング・スターを特殊召喚できたのに。残念だったわね」
それから、と天津風は言葉を続ける。
「ついでに教えてあげるけど、大幽谷響の攻撃力と守備力は、戦闘相手のモンスターの攻撃力と同じになる。だから、シューティング・スター・ドラゴンで攻撃してきても破壊できないわよ」
「……ご親切にどうも。私は、メインフェイズ2で『戦士の生還』を発動。墓地のドッペル・ウォリアーを手札に戻す。さらに、デッキの一番上のカードを墓地へ送って、『グローアップ・バルブ』を墓地から特殊召喚」
「また見覚えのないモンスター……。そのカードも、さっきのライコウみたいに、どこかで墓地へ送ってたのね?」
「そう。最初に調律を発動した時だよ。そして、墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、私は手札のドッペル・ウォリアーを特殊召喚できる。私は、レベル2のドッペル・ウォリアーに、レベル1のグローアップ・バルブをチューニング! 『たつのこ』をシンクロ召喚!」
《戦士の生還》
通常魔法
(1):自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。
その戦士族モンスターを手札に加える。
《グローアップ・バルブ》
チューナー・効果モンスター
星1/地属性/植物族/攻 100/守 100
自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
「グローアップ・バルブ」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
《たつのこ》
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星3/水属性/幻竜族/攻1700/守 500
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
S召喚したこのカードを素材としてS召喚をする場合、手札のモンスター1体もS素材にできる。
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはこのカード以外のモンスターの効果を受けない。
「ドッペル・ウォリアーの効果は、今は使わないよ。私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」
「私のターンね」
カードを引きながら、天津風は島風のフィールドを観察する。
「どうやら何か企んでるみたいだけど、一つ忘れてないかしら? ペンデュラムモンスターは、破壊されても墓地へは行かずに、エクストラデッキに表側で加えられる。そして、そのモンスターはペンデュラム召喚をする時に呼び出すことができる。つまり、私はもう一度 大刃禍是を特殊召喚して、あなたのカードを手札に戻すことができるのよ」
天津風は再度、右鎌神柱の効果を発動し、そのスケールを5から11へと上昇させる。そして、高らかに自らのしもべの名を呼ぶ。
「私は、スケール3の左鎌神柱とスケール11の右鎌神柱を使ってペンデュラム召喚! 再び現れなさい、魔妖仙獣 大刃禍是!」
突風を伴い、一角を持つ妖獣が姿を現す。その身に秘められた力は、前のターンで示した通り。
「妖仙獣を特殊召喚したことで、修験の妖社のカウンターはさらに一つ増える。それと同じタイミングで、大刃禍是の効果も発動! シューティング・スター・ドラゴンと伏せカードを島風の手札に戻すわ!」
大刃禍是の妖力によって操られた風が竜巻を形作り、シューティング・スター・ドラゴンに襲いかかる。しかし、シューティング・スター・ドラゴンは力強く羽ばたき飛翔すると、俊敏な動きで竜巻を回避した。
「なっ……!?」
予想外の光景を目の当たりにし、天津風は絶句する。
「島風、あなた何をしたの?」
「これだよ」
島風は、いつの間にか表側になっていた伏せカードを指さす。
「速攻魔法『リミットオーバー・ドライブ』。このカードは、自分フィールド上のシンクロチューナーとシンクロモンスターを一体ずつエクストラデッキに戻すことで、二体のレベルの合計と同じレベルのシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚できる。私はシューティング・スター・ドラゴンとたつのこをエクストラデッキに戻して、このカードを発動したんだよ」
《リミットオーバー・ドライブ》
速攻魔法
「リミットオーバー・ドライブ」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドのSモンスターのチューナー1体とチューナー以外のSモンスター1体をエクストラデッキに戻して発動できる。
そのモンスター2体のレベルの合計と同じレベルのSモンスター1体を、召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。
「さて、ここで天津風に問題です。私がデッキに戻した二体のモンスターのレベルの合計は、幾つでしょう?」
「何を聞くかと思えば。そんなの簡単よ。たつのこのレベルは3。シューティング・スター・ドラゴンのレベルは、レベル・スティーラーの効果で一つ下がってるから9。合わせて12……」
そこまで言ったところで、天津風は表情を固くする。
「まさか!?」
「そう! リミットオーバー・ドライブは、シンクロ召喚に条件があるモンスターでもそれを無視して呼び出すことができる。私が召喚するのは、二体目のシューティング・クェーサー・ドラゴン!」
島風の声に応え、シューティング・クェーサー・ドラゴンが三度目の降臨を果たす。その巨体を、天津風は苦々しげに仰ぐ。
「やっと倒したと思ったのに……。こんな面倒な相手、二度も三度もやり合いたくないわよ」
相手モンスターの効果は、既に身をもって理解している。この厄介極まりない敵をどう攻略するか、悩みどころだ。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンは、一ターンに一度、あらゆる効果の発動を無効にして破壊できる……。この壁を乗り越えない限り、私に勝ち目はない。一体、どうすれば……」
天津風の手札には、「妖仙獣 鎌壱太刀」のカードがある。このカードの効果を使えば、シューティング・クェーサー・ドラゴンを除去できるが……
「……当然、島風もそれは読んでるでしょうね。鎌壱太刀の効果を発動しても、無効にされるのが関の山。まぁ、そうすれば大幽谷響で攻撃して相討ちにできるけど……でも、たとえクェーサーを倒したとしても、シューティング・スター・ドラゴンが現れる。それも倒すことができないと、意味はない」
彼女のもう一枚の手札は、「妖仙獣 大幽谷響」。先ほどの活躍から分かるように、防御に使うには便利なカードだが、この状況を切り抜ける上では役に立たない。
「あと一手。もう一歩、攻め込むためのカードが必要だわ。でも、そう都合よく必要なカードがあるわけ……」
最後の砦を落とす手段が見つからず、天津風は目を伏せる。その拍子に、デュエルディスクの上に置かれたカードが彼女の視界に入った。
「あ……」
視界の端に映った一枚のカード。そこに書かれたテキストを読んだ天津風は、目を輝かせて顔を上げた。
「あった!」
天津風は、頭の中でカードの動きをシミュレーションする。その結果は、問題なし。
「これならいける。島風! 今回も、あなたの切り札にはワンターンで退場してもらうわ!」
立ちはだかる強敵を指さし、天津風は自信満々に宣言する。
「ふーん。どうやって?」
「こうやってよ! 私は、妖仙獣 鎌壱太刀を通常召喚。これにより、修験の妖社にカウンターがさらに一つ置かれるわ。さらに、私は鎌壱太刀の効果を発動! シューティング・クェーサー・ドラゴンを手札に戻す!」
「シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果発動! 一ターンに一度、カード効果の発動を無効にして、破壊する。私は、鎌壱太刀の効果を無効にして破壊!」
天津風が仕掛けてきた一手目を、島風は危なげなくかわす。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を忘れたの、天津風? このカードの前では、どんな効果を持ったカードも無力なんだよ」
「でも、常にそうであるわけじゃない。鎌壱太刀の効果を防いだことで、このターンは、他のカードを無効化することはできないわ」
「鎌壱太刀は、クェーサーの効果を使わせる囮だったってこと?」
「もちろん。こんな方法で倒せるなんて、私も思っちゃいないわよ。本番はここから。私は、大幽谷響を攻撃表示に変更して、クェーサーに攻撃!」
「大幽谷響の攻守は、戦闘相手の攻撃力と同じになる。と、いうことは……」
「ええ。相討ちで、クェーサーには退場してもらうわ!」
「だけど、クェーサーの効果で、私のフィールドにはシューティング・スター・ドラゴンが特殊召喚される!」
「私も、破壊された大幽谷響の効果を発動するわ。デッキから『妖仙獣
「正気なの? シューティング・スターの攻撃力は、大刃禍是より300高い――」
「それはどうかしら?」
不敵な笑みを浮かべると同時に、天津風は手札のカードを公開する。
「ダメージステップ時に、私は手札の辻斬風の効果を発動! このカードを手札から捨てることで、大刃禍是の攻撃力を1000アップさせる!」
《妖仙獣
効果モンスター
星4/風属性/獣戦士族/攻1000/守 0
「妖仙獣 辻斬風」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分の「妖仙獣」モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時からダメージ計算前までに、このカードを手札から捨てて発動できる。
その自分のモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
(2):フィールドの「妖仙獣」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。
このカードを持ち主の手札に戻す。
「これで、大刃禍是の攻撃力は4000。シューティング・スターを上回ったわ。やりなさい、大刃禍是!」
大刃禍是がシューティング・スター・ドラゴンに飛びかかり、鋭い爪でこれを仕留める。シューティング・スター・ドラゴンは悲鳴とともに倒れ、その際に発生した衝撃の一部は主である島風に襲いかかる。
島風 LP3200→2500
「私は、メインフェイズ2で修験の妖社の効果を発動。妖仙カウンターを三つ取り除いて、墓地にある妖仙獣の秘技を手札に加えるわ。カードを一枚伏せて、ターンエンド」
特殊召喚された大刃禍是はエンドフェイズに手札に戻る。これにより天津風のフィールドからもモンスターはいなくなったが、かと言って、島風は迂闊に動くことはできなかった。
「私のターン」
天津風の場にある伏せカード。あれは十中八九、妖仙獣の秘技だろう。あのカードは、シューティング・クェーサー・ドラゴンと同様に、あらゆるカードの発動を阻止することができる。まずはこれを攻略しなければ、反撃に移ることもままならない。
最適な攻略手段は、前のターンで天津風も披露した、囮のカードを使う方法だ。しかし、天津風は馬鹿ではない。発動のタイミングを見極め、最適の時機にカウンターを浴びせてくる。下手な囮は容易に見破られる。さっきの彼女がやったように、どうしても対抗せざるを得ないカードを囮にする必要がある。
幸い、手札にはそれに適したカードがある。彼女はそれを場に出した。
「私は、『シンクロン・エクスプローラー』を召喚。その効果で、墓地のクイック・シンクロンを特殊召喚するよ。さらに、クイック・シンクロンのレベルを一つ下げて、レベル・スティーラーを特殊召喚。そして、レベル1のレベル・スティーラーに、レベル4となったクイック・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、『ジェット・ウォリアー』!」
《シンクロン・エクスプローラー》
効果モンスター
星2/地属性/機械族/攻 0/守 700
(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の「シンクロン」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
《ジェット・ウォリアー》
シンクロ・効果モンスター
星5/炎属性/戦士族/攻2100/守1200
「ジェット・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
「ジェット・ウォリアー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがS召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのレベル2以下のモンスター1体をリリースして発動できる。
このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「ジェット・ウォリアーの効果発動。特殊召喚された時に、相手のカードを一枚手札に戻す。私が選択するのは天津風の伏せカード!」
「どうせフィールドから離れるのなら、せめてそのモンスターを道連れにしてやるわ。カウンター罠『妖仙獣の秘技』を発動! ジェット・ウォリアーの効果を無効して、破壊する」
罠カードから飛び出した竜巻に巻き込まれ、ジェット・ウォリアーはフィールドから強制的に退場させられる。しかし、モンスターの損失とは裏腹に島風は満足げな表情を浮かべる。
「やっぱり、伏せカードは妖仙獣の秘技だったんだね。私の読み通りだったよ」
「……ふんっ。でも、あなたのモンスターも破壊したわよ。召喚権も消費して、この後どうするつもり?」
「どうしようかなー?」
天津風の問いに、島風は呑気に答える。
「実は、特に手は無いんだよねえ」
「はい?」
天津風は、頓狂な声を上げて島風を見る。
「まさか、何も考えずに動いたの?」
「うん」
頷いた島風は、「だから」と続ける。
「後のことは、これから考えるよ。魔法カード『貪欲な壺』を発動!」
《貪欲な壺》
通常魔法
(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。
そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。
その後、自分はデッキから2枚ドローする。
「このカードの効果で、私は墓地のモンスター五体をデッキに戻して二枚ドローする。私が選ぶのは、ハイパー・ライブラリアン、シューティング・クェーサー・ドラゴン、シューティング・スター・ドラゴン、たつのこ、フォーミュラ・シンクロンの五体」
選ばれたのは全てシンクロモンスターであるため、戻る先はエクストラデッキとなる。その後、ドローした二枚のカードを見た島風は、灰色がかった瞳をスッと細めた。
「きた……これなら、いける! 私は、墓地の『スポーア』の効果を発動。墓地の植物族モンスター、グローアップ・バルブを除外して、このカードを特殊召喚」
「……これで何度目かしら、見たことないモンスターがいきなり墓地から出てきたの。けど、もう驚かないわ。そのモンスターも、どこかのタイミングで墓地に送ってたんでしょ」
「正解は、グローアップ・バルブを特殊召喚した時だよ。墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、私は手札からドッペル・ウォリアーを特殊召喚。さらに魔法カード『死者蘇生』を発動。墓地のジャンク・シンクロンを復活させる」
《スポーア》
チューナー・効果モンスター
星1/風属性/植物族/攻 400/守 800
このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚し、この効果を発動するために除外したモンスターのレベル分だけこのカードのレベルを上げる。
「スポーア」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
《死者蘇生》
通常魔法
自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
「私は、レベル2のドッペル・ウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、ハイパー・ライブラリアン!」
「そして、ドッペル・ウォリアーの効果でトークが二体特殊召喚される……」
「そう。私はさらに、レベル1のドッペル・トークンに、レベル2のスポーアをチューニング! おいで、たつのこ!」
シンクロ召喚が行われたことで、島風はカードを一枚ドローする。二度のシンクロ召喚をしたことで島風は手持ちのチューナーを使い切ったが、当然ながらここで止まる彼女ではない。
「私は、墓地のジェット・ウォリアーの効果を発動! フィールドにいるドッペル・トークンをリリースすることで、このカードを守備表示で特殊召喚する。そして、ジェット・ウォリアーのレベルを一つ下げて、レベル・スティーラーを特殊召喚」
「……なるほどね」
島風が並べたモンスターを見渡して、天津風は何かを理解した様子で呟く。
レベル3のシンクロチューナーに、レベル4と5のシンクロモンスター。その足し算から導かれる答えは、ただ一つ。
「私は、レベル5のハイパー・ライブラリアンと、レベル4となったジェット・ウォリアーに、レベル3のシンクロチューナー、たつのこをチューニング! 降臨せよ、シューティング・クェーサー・ドラゴン!!」
島風のフィールドに、再度現れるドラゴン。彼女のデッキのエースであり、同時に最強のしもべであるモンスターが、このデュエルで四度目の登場を果たした。
「今度こそ、終わらせるよ。私は、シューティング・クェーサー・ドラゴンで天津風にダイレクトアタック! 天地創造撃 ザ・クリエーションバーストッ!」
「くっ……、きゃあぁっ!」
天津風 LP4000→0
シューティング・クェーサー・ドラゴンの攻撃が、無傷だった天津風のライフを根こそぎ奪い取る。圧倒的な威力の一撃は天津風の体をたやすく吹き飛ばし、背中から落下させた。
「痛たた……」
打ちつけた背中をさすりながら、天津風は上体を起こす。彼女はゆっくり立ち上がりつつ、やれやれといった様子で首を振った。
「私の負けね。途中までは、いけるかと思ったんだけど」
若干の悔しさを滲ませながら、天津風が言う。
「でも、デュエル自体は楽しかったわ。次こそは、私が勝つからね」
「それはどうかなー? 天津風の速さじゃ、私のデッキ強化のスピードには追いつけないかもよ?」
「言ってなさい。その余裕ぶった生意気な顔を、今にあっと驚かせてあげるわ」
「ハラショー。二人とも、とてもいいデュエルだったよ」
軽い拍手をしながら、響が二人に歩み寄る。
「見たところ、お互いに基本ルールはしっかり押さえられているね。自分のデッキの動かし方も把握できているようだし。初デュエルでこの出来なら、文句なしだ」
「電も同感なのです。これからさらにテストプレイを重ねていけば、デュエルの腕もデッキの完成度も、今よりもっと高くなりますよ」
「手放しで褒められると、ちょっと照れくさいわね……」
「ふっふーん! そうよね、だって速いもん!」
こそばゆそうにする天津風とは対照的に、島風は誇らしげに胸を張る。
「調子にのらないの、島風。ていうか、この話に速さは関係ないじゃない」
「でも」と、天津風は感心した様子で島風を見る。
「確かに島風は、自分のデッキをかなり使いこなしていたわね。私と同じようにデュエルは今日が初めてのはずなのに。驚いたわ」
「天性の素質ってやつだよ、天津風。……と、言いたいところだけど」
島風は、子供が悪戯を白状する時のような笑みを作る。
「実は、私だけの力じゃないんだよね」
「どういう意味?」
「戦うならやっぱり勝ちたかったから、今日のデュエルに備えて特別コーチに指導してもらったの。このデュエルに勝てたのは、そのお蔭。ありがとね、電」
「電?」
島風の答えを聞いた天津風は、意外そうな顔を電に向ける。
「それって、電にデュエルを教えてもらったってこと? でも、いつの間に? 電と響がここにやって来たのは、たったの二日前よ。今日までの間に、二人からデュエルを習う時間なんてなかったし、あなたがそういう素振りを見せる場面に出くわすこともなかったわ」
眉を寄せて、天津風は怪訝な表情を浮かべる。しかしその横で、響は納得した様子で呟く。
「ふむ……。なるほどね」
「何が『なるほど』なの、響?」
まだ合点がいっていない様子の天津風に向けて、響は尋ねかける。
「天津風。君は、今朝の島風がどんな様子だったか、思い出せるかい?」
「え?」
唐突な質問に戸惑いながらも、天津風はそれに首肯する。
「それはまぁ、もちろん。今朝の島風は寝不足で、とっても眠そうだったわ」
「うん。そうだったね」
「では、もう一つ」と、響は続けて天津風に尋ねる。
「今朝寝不足だった艦娘は、島風だけじゃなかったよね。それは、誰だったかな?」
「電でしょ。電も、昨夜は今日のことを考えて眠れなかったのよね……って」
「気がついたようだね」
天津風の表情が変わるのを見て、響は微笑する。
「島風。あなたが電にデュエルを教えてもらってたのって、まさか消灯後?」
「ピンポーン。天津風、おっそーい」
「うるさいわね。そんなことより、消灯後は部屋から出ちゃいけない規則でしょ。なに平気な顔して破ってるのよ」
「まあまあ、固いこと言わないで。別に、夜更かしして遊んでたり、酒保で
「普段はその手の書類にはまったく興味を持たないのに、どうしてそこだけ覚えてるのよ……」
天津風が溜息をつく中、響は肘で電を小突く。
「それにしても、電。どうして朝はこのことを秘密にしていたんだい? 妹に隠し事をされるのは、姉として少し寂しいな」
「島風ちゃんに、自分のデュエルが終わるまでは黙っていてほしいとお願いされていたので……。ごめんなさいなのです」
「気にしなくていいよ。私も、電の立場だったら同じようにしていただろうから」
「ちなみに。参考までに聞くけど、響じゃなくて電に指導を頼んだのには、何か理由があるのかしら?」
天津風の問いに、島風は「あるよ」と頷く。
「天津風から昨日の響と電のデュエルの話を聞いた時に、電の方が私のデッキに近い戦い方だと思ったんだ。教えてもらうなら、自分と戦い方の似てる相手の方がいいじゃない? だから、電にお願いすることにしたの」
「それは賢い選択だ。島風のデッキは大量展開してのワンキル型だから、確かに電の方がデッキタイプが近い。目のつけ所がいいね」
「ふふーん。でしょでしょ?」
響に褒められ、島風は得意げな顔になる。
「それなら、私は響に教えてもらおうかしら。私のデッキは、響のデッキに近い戦い方だと思うし」
「うん、いいよ。天津風も、自分のデッキの特性をよく理解しているようだね」
「島風。首を洗って待ってなさい。響に特訓してもらって、次に戦う時はこてんぱんにしてあげるわ」
「それはどうかなー? 私だって、電にもっと教えてもらって強くなるもんね。もしかすると、今より差が開いちゃうかも」
「その言い方、今の段階で既に実力に差があるとでも言いだけね」
「だって、勝ったの私だし。違う?」
「ええ、大間違いよ。現時点で、大きな差があるとは思えないわ。今ここでもう一度デュエルすれば、私が勝つかもね」
「へぇー。なら、やってみる?」
「望むところよ……と言いたいけれど、残念ながら今はできないわ」
「また負けるのが怖い?」
「違うわよ。ほら」
そう言って、天津風は指で島風の視線を誘導する。それにつれられ視線を動かした島風は、こちらを睨む黒目と鉢合わせた。
「島風も天津風も、なにちゃっかり連戦しようとしてるのさー。そういうの良くない、良くないなぁー」
「あっ、ごめんごめん」
場を譲った島風に代わり、今度は時津風が前に出る。
「次はあたしがデュエルするー! ね、雪風。一緒にやろ?」
「えっと……」
「ボクのことは気にしなくていいよ。時津風の相手をしてあげて」
遠慮がちに表情を窺ってくる雪風に、最上は優しく答える。
「はい。ありがとうございます」
最上に礼を述べてから、雪風は先ほど島風が立っていた場所へと駆けていく。天津風がいた場所には、既に時津風が陣取っている。
「ゆきかぜー、準備はいいー?」
「はい! いつでもどうぞ」
「オッケー。それじゃあ、いっくよー!」
時津風が、深く息を吸い込む。そして、
「「デュエル!!」」
雪風と声を揃えて、決闘の開始を宣言した。
電「ショートランド泊地の艦娘のデュエル。第一試合は、島風ちゃんと天津風ちゃんでした」
雷「シンクロ対ペンデュラムって感じのデュエルだったわね。そういえば、この作品でペンデュラム召喚を使うデュエリストは天津風が初めてかしら」
暁「ちょっと! 暁のこと忘れないでよ! ペンデュラム召喚なら、暁が先に披露してるわ!」
雷「でも、暁のペンデュラム召喚はあくまでデッキの動きの一部じゃない。天津風みたいに、ペンデュラムを軸にしているわけじゃないでしょ」
暁「それは、そうだけど……」
雷「それにしても、島風のデッキの特殊召喚連打は凄かったわね。途中で何が何だか分からなくなりそうだったわ」
響「シンクロ召喚を連続で行おうとすると、どうしても大量の素材モンスターが必要になるからね。作者本人も、書く段階になってから、この動きを文字上で表現しようとしたことを若干後悔したそうだよ」
暁「あ、暁はへっちゃらだったわ! こんなの、全然難しくないし!」
響「ほう。それは頼もしいね。なら今度、暁に同じデッキを使ってもらおうかな」
暁「……きゅぅ~」
電「あっ! 暁ちゃんが状況を想像しただけで倒れたのです!」
雷「まったく、無駄な強がりをするから……。ちょっと向こうに寝かせてくるわ」
電「電も手伝うのです。響ちゃん、予告はお願いしますね」
響「了解。次回以降の更新は不定期だけれど、タイトルだけは決まっているから予告をするね。次回、『ゼロと2分の1の戦い』。デュエル・スタンバイ」