鎮守府決斗録   作:石田零

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39 巨人を討て

「さて。それじゃあ、いかせてもらうよ」

 

 雪風、時津風のデュエルに続いて開始された最上と雪風のデュエル。先攻を取ったのは、これが初陣となる最上だった。

 

「ボクは手札から『雷帝家臣ミスラ』を特殊召喚。続けて、『EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ』を通常召喚」

 

 最上のフィールドに、二体のモンスターが出現する。と、同時に、雪風のフィールドにも小さな人型のモンスターが現れた。

 

「あれっ?」

 

 そのモンスターを見て、雪風は首を傾げる。

 

「何でしょう、このモンスター? 雪風はまだ、何のカードも使っていませんが……」

 

「ああ、それはボクが呼び出したんだ」

 

「最上さんが?」

 

「うん。ミスラの効果でね」

 

 最上は、自分のモンスターを指さす。

 

「ミスラを特殊召喚する時には、代わりに相手の場にトークン一体を特殊召喚しないといけないんだ。それが、そのモンスターってわけ。ちなみに、名前は『家臣トークン』で、攻撃力は800、守備力は1000だよ」

 

「そうでしたか。でも、どうしてこんなことを? 召喚権も使いましたし、このままだと、雪風にトークンをプレゼントしただけになってしまいますよ?」

 

 雪風の問いに、最上は「大丈夫」と答える。

 

「そこのところは、ちゃんと考えてあるさ。ボクは永続魔法『冥界の宝札』を発動。そして、ミスラとヒッポをリリースして、アドバンス召喚!」

 

「えっ!? 通常召喚は、一ターンに一度までしかできないはずじゃ!」

 

「ディスカバー・ヒッポを召喚したターン、ボクはアドバンス召喚をする時に限って、もう一度だけ通常召喚できるのさ。ボクは、『神獣王バルバロス』を召喚!」

 

 

《雷帝家臣ミスラ》

効果モンスター

星2/光属性/雷族/攻 800/守1000

「雷帝家臣ミスラ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、相手フィールドに「家臣トークン」(雷族・光・星1・攻800/守1000)1体を守備表示で特殊召喚する。

このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

(2):このカードがアドバンス召喚のためにリリースされた場合に発動できる。

このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。

 

EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ》

効果モンスター

星3/地属性/獣族/攻 800/守 800

(1):このカードが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに、レベル7以上のモンスター1体を表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。

 

《神獣王バルバロス》

効果モンスター

星8/地属性/獣戦士族/攻3000/守1200

(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

(3):このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事もできる。

(4):このカードがこのカードの(3)の方法で召喚に成功した場合に発動する。

相手フィールドのカードを全て破壊する。

 

《冥界の宝札》

永続魔法

(1):自分がモンスター2体以上をリリースしたアドバンス召喚に成功した場合に発動する。

自分はデッキから2枚ドローする。

 

 

「バルバロスが召喚されたことで、冥界の宝札の効果が発動。ボクが2体以上のリリースを必要とするアドバンス召喚をした時、デッキからカードを二枚ドローする。ボクは永続魔法『進撃の帝王』を発動して、ターンエンドだよ」

 

「では、雪風のターンですね。私は、『一撃必殺侍』を通常召喚。さらに永続魔法『セカンド・チャンス』を発動します」

 

 

《一撃必殺侍》

効果モンスター

星4/風属性/戦士族/攻1200/守1200

このカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算の前にコイントスで裏表を当てる。

当たった場合、相手モンスターを効果によって破壊する。

 

《セカンド・チャンス》

永続魔法

自分がコイントスを行った場合、その処理時に1度だけ、コイントスを最初からやり直す事ができる。

「セカンド・チャンス」の効果は1ターンに1度しか適用できない。

 

 

「そのモンスターは……!」

 

「さっきのデュエルでも使いましたから、もう効果はご存じですよね。私は、一撃必殺侍でバルバロスに攻撃! そしてこの瞬間、一撃必殺侍の効果が発動します!」

 

 雪風の攻撃宣言と同時に、フィールドに一枚のコインが現れ、空中に放り上げられる。

 

「一撃必殺侍は、戦闘時にコイントスを行い、当たれば無条件で戦闘相手のモンスターを破壊できます。たとえ攻撃力3000の最上級モンスターであろうと、問答無用で討ち取ります!」

 

 雪風は、コイントスの結果を表と宣言する。果せるかな、地面に落ちたコインが上に向けていたのは、表の面であった。

 

「成功です! これで、バルバロスは破壊されます!」

 

 一撃必殺侍が、両手で持った槍をバルバロスの喉元へと突き出す。しかし、その穂先が敵の体を貫こうとする刹那、円形の盾がそれを阻んだ。

 

「えっ!」

 

 思いもよらぬ事態に、雪風は目を丸くする。それは、デュエルを見守る他の者たちも同じだった。

 

「残念だったね。雪風」

 

 その場が驚愕の渦に呑まれる中、ただ一人、最上だけは平然とした表情を崩さない。彼女はしたり顔を浮かべつつ、雪風と他の観戦者へ向けて、今の出来事の種明かしをした。

 

「ボクのモンスターは、このカードに守られている。前のターンに発動した永続魔法『進撃の帝王』にね」

 

 

《進撃の帝王》

永続魔法

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドのアドバンス召喚したモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

 

 

「このカードがある限り、アドバンス召喚したボクのモンスターは、カード効果で破壊されず、効果の対象にもならない。たとえコイントスが成功しても、一撃必殺侍がバルバロスを破壊することはできないよ」

 

「その魔法カードには、そんな効果が……」

 

「びっくりしたかい? でも、そう驚いてばかりもいられないんじゃないかな」

 

「どういうことです?」

 

「今はまだ、一撃必殺侍とバルバロスの戦闘中。普通なら、一撃必殺侍の効果が成功した場合、戦闘が始まった途端に相手モンスターが破壊されるから、それで戦闘は終わる。だけど、相手が破壊されなければ、戦闘の手続きはそのまま続行される。つまり……」

 

「戦闘ダメージの計算が入る……!」

 

「その通り」

 

 両者の攻撃力の差は、一目瞭然。頼みのモンスター効果が空振りに終わった以上、単純な力比べで下級モンスターが最上級モンスターに勝てる道理はない。

 

「迎撃だ、バルバロス! トルネード・シェイパーッ!」

 

 バルバロスの槍が、小さな武者を穿ち抜く。その衝撃の余波は、戦闘ダメージとなって雪風にも押し寄せる。

 

「くっ、うう……」

 

 

LP 4000→2200

 

 

「一撃必殺侍、撃破。まずは一体、厄介なモンスターを攻略したよ」

 

「雪風はカードを一枚伏せて、ターンを終了します」

 

「ボクのターン。ボクは、バルバロスで家臣トークンに攻撃!」

 

 トークンの守備力は僅か1000。赤子の手を捻るように、バルバロスに粉砕される。

 

「メインフェイズ2で、ボクはカードを一枚セット。さらにモンスターを裏守備表示で出して、ターンエンドだ」

 

「私のターン。ドローです」

 

 雪風はフィールドと手札を見比べると、浮かない表情でカードを伏せる。

 

「私は、永続魔法『機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)』を発動。さらにモンスターをセットして、ターンエンドです」

 

「その魔法カード……ということは、セットしたのは機械族モンスターかな? 破壊されても次のモンスターを呼び出して、壁を維持するつもりだね」

 

 でも、と最上は不敵な笑みを浮かべる。

 

「そうは問屋が卸さない。ボクは魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』を発動。自分の場に、トークンを一体特殊召喚する。さらに、セットしていた永続罠『メタル・リフレクト・スライム』を発動。このカードをモンスター扱いとして守備表示で特殊召喚」

 

「フィールドに、一気に二体のモンスターが……。まさか、またアドバンス召喚を?」

 

「そのまさかさ。だけど、今度はもっと派手にいくよ。ボクは、トークンとメタル・リフレクト・スライム、さらに裏守備表示のレベル・スティーラーの三体をリリース! 降臨せよ、水の星の化身! 『The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)』!」

 

 

《デビルズ・サンクチュアリ》

通常魔法

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

《メタル・リフレクト・スライム》

永続罠

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)

効果モンスター

星8/水属性/水族/攻2000/守2000

(1):このカードがアドバンス召喚に成功した時に発動できる。

フィールドのモンスターを全て表側攻撃表示にする。

(2):このカードはモンスター3体をリリースして召喚する事ができる。

(3):このカードの(2)の方法で召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターの攻撃力はそのモンスターの元々の攻撃力分ダウンする。

(4):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

 

「まずは冥界の宝札の効果で、二枚ドロー。さらに、tripping MERCURYの効果を発動! このカードが召喚された時、フィールドの全モンスターの表示形式を攻撃表示に変更する」

 

「雪風がセットしていたモンスターは、『可変機獣 ガンナードラゴン』。リリースなしで召喚しているので、攻撃力は半分の1400となります」

 

「やっぱり、機械族モンスターだったか」

 

 ガンナードラゴンを見た最上は、相手の心中を読むように目を細める。

 

「攻撃力1400なら、バルバロスの攻撃を受けても戦闘ダメージは1600で済む。その後、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)の効果で、デッキから攻撃力2000以上のモンスターを特殊召喚すれば、攻撃を止めさせてライフを残すことができる……。キミはきっと、そう考えているね?」

 

 その問いかけに、雪風は答えない。最上はそれを肯定と受け取ったらしく、逆接で言葉を繋いだ。

 

「だけど、逃がしはしないよ。tripping MERCURYのもう一つの効果! このカードが三体のリリースによってアドバンス召喚されている場合、相手モンスターの攻撃力を、元々の攻撃力分ダウンさせる!」

 

「なっ……!?」

 

 何らかの効果を受けて変動している場合を除き、モンスター同士の戦闘では、基本的にカードに記された攻守の数値がそのまま使用される。つまり、攻撃力を「元々の攻撃力分ダウンする」という効果は、実質的に攻撃力をゼロにすることと等しい。

 

「今の雪風のライフは2200。攻撃力0になったガンナードラゴンにバルバロスで攻撃すれば、その瞬間にデュエルが決着する、ということですか……」

 

「その通り。ボクは、神獣王バルバロスでガンナードラゴンに攻撃! 穿て、トルネード・シェイパー!」

 

 地響きとともに突進したバルバロスが、ガンナードラゴンの胴体に槍を突き立てる。断末魔のような金属音を響かせた後、機械の竜は真っ赤な火柱を上げて爆散した。

 

「ガンナードラゴン撃破! これで、ボクの勝ちだね」

 

 黒煙が周囲を覆う中、最上が言う。それに対して、雪風が答える。

 

「いいえ。残念ですが、まだ勝負はついていませんよ」

 

「何だって!?」

 

 視界を遮る煙の幕が、徐々に晴れてゆく。その奥に立つ人影を認めた最上は、驚愕に目を見開いた。

 

「そんな馬鹿な。どうして、雪風のライフがまだ残って……」

 

 表示されている雪風のライフポイントは、1200。バルバロスの攻撃によって3000の戦闘ダメージを与えたはずなのだが、どういうわけか、彼女はその三分の一しかダメージを受けていなかった。

 

「雪風。一体、何をしたんだい?」

 

「ちょっと、賭け事を」

 

 そう言った雪風の場に、一枚のカードが出現する。

 

「罠カード『運命の分かれ道』。コイントスを一度行い、その結果によってライフを増減させるカードです。これを使って、雪風はダメージを受ける前にライフを2000回復させました」

 

 

《運命の分かれ道》

通常罠

お互いのプレイヤーはそれぞれコイントスを1回行い、表が出た場合は2000ライフポイント回復し、裏が出た場合は2000ポイントダメージを受ける。

 

 

「回復後のライフポイントは4200。そこへ3000の戦闘ダメージが入って残りは1200……。なるほど、どうやってダメージを軽減させたのかと思っていたけど、そういうことだったのか」

 

「ええ。今の攻撃は、かなりこたえました。流石は最上級モンスターの一撃ですね」

 

 雪風は、「それから」と言葉を続ける。

 

「このカードの効果は互いのプレイヤーに及ぶので、最上さんにもコイントスをしてもらいます。表が出ればライフを2000回復、裏だと逆に2000のダメージです」

 

「嫌な効果だなぁ。ボク、運には自信がないのに」

 

 しかめ面をした最上の前で、ソリッドビジョンのコインが舞う。幸い、コインは表の面を出し、彼女の心配を杞憂に終わらせた。

 

 

雪風 LP1200

最上 LP6000

 

 

「では、ここで雪風は永続魔法 機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)の効果を発動します。デッキから、『リボルバー・ドラゴン』を守備表示で特殊召喚です」

 

 

機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)

永続魔法

機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

《可変機獣 ガンナードラゴン》

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000

(1):このカードはリリースなしで通常召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

《リボルバー・ドラゴン》

効果モンスター

星7/闇属性/機械族/攻2600/守2200

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

 

 

「tripping MERCURYの攻撃力は2000……守備力2200のリボルバー・ドラゴンは倒せないか。ボクはバトルフェイズを終了。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 持ち前の強運で絶体絶命の窮地を切り抜けた雪風。できればここで痛烈な反撃を加え、流れを一気に引き寄せたいところだが……あいにくと、彼女の手札にその希望を叶えられるカードはない。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンを終了します」

 

「ちょっと待った。エンドフェイズ時に速攻魔法『終焉の焔』を発動させてもらうよ。ボクのフィールドに、トークンを二体特殊召喚する」

 

 最上の場に、青白い一つ目を光らせたモンスターが二体、現れる。ターンはそのまま彼女に移り、モンスター四体を並べた状態でメインフェイズへ入る。

 

「ボクは、フィールドのトークン二体をリリース。『堕天使アスモディウス』をアドバンス召喚!」

 

 

《終焉の焔》

速攻魔法

このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外のアドバンス召喚のためにはリリースできない。

 

《堕天使アスモディウス》

効果モンスター

星8/闇属性/天使族/攻3000/守2500

このカードはデッキ・墓地からの特殊召喚はできない。

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

デッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る。

(2):自分フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。

自分フィールドに「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」は効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 暗い紫色の翼を持つ駄天使が、バルバロスの隣に降臨する。神に仕える従属神、水星の化身、そして色欲を司る駄天使。居並ぶ三体のモンスターは、いずれも強大な力を持つものばかりだ。さしもの雪風も、その威圧感に気圧された様子を見せる。

 

「冥界の宝札の効果で、ボクはカードを二枚ドロー。そして、バトルフェイズ! ボクは、アスモディウスでリボルバー・ドラゴンに攻撃!」

 

「そう簡単にはやらせません。トラップ発動、『モンスターBOX』!」

 

 

《モンスターBOX》

永続罠

相手モンスターの攻撃宣言時、コイントスを1回行い裏表を当てる。

当たった場合、その攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで0になる。

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。

または、500ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。

 

 

 どこからともなく出現した巨大な箱が、リボルバー・ドラゴンをその中に隠す。箱の上面には幾つもの穴が空いており、さながらモグラ叩きのような風情を醸し出している。

 

「このカードは、相手モンスターの攻撃時にコインの裏表を予想し、当たればそのモンスターの攻撃力を0にできます。これは対象をとる効果ではないので、進撃の帝王があっても有効です。私は、表を選びます」

 

 雪風の宣言を合図に、コインが投げられる。結果は――

 

「出たのは、表! これでアスモディウスの攻撃力は0になります!」

 

 攻撃力が下がっても、攻撃宣言をした以上、戦闘を中断することはできない。アスモディウスは間違った穴を狙って攻撃を空振りさせ、その隙に別の穴から顔を出したリボルバー・ドラゴンに狙撃されて自陣へと追い返された。

 

 

最上 LP6000→3800

 

 

「痛ったた……。この反射ダメージは、結構きついね。ボクはバトルを中止してターンを終了するよ」

 

「おおっ! 雪風やるじゃん。すごいすごーい!」

 

 最上級モンスターの猛攻を二度に渡り凌いでみせた雪風に、時津風が歓声を上げる。

 

「そうね。最上さんがアスモディウスを召喚した時には、今度こそ決着がつくかと思ったけど。それがまさか、逆に戦闘ダメージを与えちゃうなんて」

 

「雪風ちゃんの強運のなせる業ですね。前のデュエルからここまで、雪風ちゃんは一度もコイントスを失敗していないのです。最上さんが攻撃を躊躇う気持ちも、分かります」

 

「でも、だからってあんまりもたもたしてると逆転されちゃうかもよ? 雪風は、カードの引きも強いんだから」

 

「確かに、その考えにも一理ある。だけど、雪風といえどもそう簡単にこの布陣を突破することはできないと思うよ」

 

「どうして?」

 

「彼女の得意な戦法が、最上さんには通じないからさ」

 

 島風の問いに、響は答える。

 

「雪風のデッキは、ギャンブルカードの効果で相手モンスターを一方的に破壊していくのが主戦術だ。でも、進撃の帝王の存在によって破壊効果は無力化されている。それに加えて、tripping MERCURYの効果で攻撃力も奪われている。今の雪風は、防御に徹するしか道がない」

 

「あなたの言った通りになったわね、響」

 

 天津風が、響を見て言う。

 

「攻撃力が低い雪風のモンスターは、破壊耐性を持った相手には苦戦する……。今はまさしく、その通りの状況だわ。雪風は、どうするつもりなのかしら」

 

「さあ……何らかの策を持っていることだけは、確かだけれど。さっきも、運次第でこういう事態も解決できるカードがあるとは言っていたからね。あとは、そのカードを引き当てることができるかだ」

 

「私のターン。ドロー!」

 

 観客たちの注目が集まる中、雪風はカードをドローする。

 

「スタンバイフェイズ時に、私はモンスターBOXの維持コストとして500ライフポイントを支払います。そして、フィールドのリボルバー・ドラゴンをリリースして『ブローバック・ドラゴン』をアドバンス召喚します」

 

 

雪風 LP1200→700

 

《ブローバック・ドラゴン》

効果モンスター

星6/闇属性/機械族/攻2300/守1200

コイントスを3回行う。その内2回以上が表だった場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 リボルバー・ドラゴンの跡を継いで現れたのは、一回り小型の機械族モンスター。艶消しの赤色で塗装された頭部は、リボルバー・ドラゴンと同じ銃身型になっており、鈍い光を放っている。ただし、同じ銃身とはいっても、リボルバー・ドラゴンが西部劇で使われるような回転弾倉式の銃であるのに対し、ブローバック・ドラゴンは現代で一般的な自動式拳銃と、その形状には違いがあった。

 

「細かい部分は違っていても、この姿……。そのモンスターも、リボルバー・ドラゴンのようにコイントスでカードを破壊するのかな」

 

「ご名答です。ブローバック・ドラゴンの効果は、リボルバー・ドラゴンと同じです。コイントスを三回行って、二回以上が表なら相手のカードを破壊できます。ただ一つ、リボルバー・ドラゴンはモンスターしか破壊できませんでしたが、今度は魔法・罠カードも破壊できるようになっています」

 

「なるほど。それで進撃の帝王を破壊しようというわけか」

 

「ええ。ブローバック・ドラゴンの効果発動! コイントスを行います!」

 

 雪風のフィールドに三枚のコインが現れ、一斉に投げ上げられる。その結果は……

 

「残念! 表のコインは一枚だけ。効果は不発――」

 

「いいえ! まだです!」

 

 最上の言葉を、雪風が遮る。

 

「私は、セカンド・チャンスの効果を発動! 一ターンに一度、コイントスをやり直すことができます!」

 

「何だって!」

 

 地面に落ちていたコインが、再び宙に舞い上がる。今度こそと意気込む雪風と、次も外れろと祈る最上。二人の熱い視線の先で、三枚のコインがほぼ同時に落着した。

 

「表の数は…………三枚……!」

 

「よって、ブローバック・ドラゴンの効果は成功! 進撃の帝王を破壊します!」

 

 対照的な表情の二人の言葉を合図に、ブローバック・ドラゴンが発砲する。三連射された弾丸は最上の魔法カードに大穴を開け、それを紙屑へと変えた。

 

「まさか、ギャンブルが失敗した時の保険まで用意していたとは……。これはやられたよ。抜かりないね」

 

 見事に障害を除去してみせた雪風へ、最上は称賛の言葉を送る。

 

「でも、これだけじゃボクの優位はまだ揺るがないよ。tripping MERCURYの効果で、キミのモンスターの攻撃力は0になっている。これじゃ、ボクのモンスターは倒せない」

 

「安心してください。その対処策も、しっかり用意してあります。私は魔法カード『オーバーロード・フュージョン』を発動! フィールドのブローバック・ドラゴンと、墓地のリボルバー・ドラゴンを除外し、二体を融合させます!」

 

「融合だって!?」

 

「二丁の銃を束ね、現れろ! 融合召喚、『ガトリング・ドラゴン』!」

 

 

《オーバーロード・フュージョン》

通常魔法

自分フィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

《ガトリング・ドラゴン》

融合・効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻2600/守1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 二種類の拳銃に続いて現れたのは、機関銃(ガトリング)の機械竜。複数の銃身を束ねて作られた頭部からは、先ほどの二体よりも攻撃的な雰囲気を感じさせる。そして、それはモンスターの効果にも反映されていた。

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動! コイントスを三回行い、表が出た数だけ相手モンスターを破壊します!」

 

「出た数だけ!? さっきまでは、破壊できるのは一枚だけだったのに」

 

「機関銃と拳銃では、火力の桁が違うんです。いきますよ、撃ち方用意!」

 

 雪風の号令を合図に、コインが舞う。出た表の数は――三つ。

 

「よしっ! これで、最上さんのモンスターはすべて破壊されます。撃ち方、始めっ!」

 

 轟音とともに撃ち出される無数の銃弾。無慈悲に行われた機銃掃射は最上のモンスターを蜂の巣にし、一瞬のうちにその息の根を止めた。

 

「くっ。アスモディウスは、破壊された時に二体のトークンを場に残す。一体は効果破壊耐性を持つアスモトークン、もう一体は戦闘破壊耐性を持つディウストークンだ」

 

「なら、アスモトークンだけは倒しておきます。ガトリング・ドラゴンで攻撃!」

 

 アスモトークンの守備力は1300。機銃弾の嵐に耐えられるはずもなく、あっけなく破壊される。

 

「私はこれでターンエンドです」

 

「たった一ターンで、耐性持ちだった三体の最上級モンスターを全滅させるなんて……」

 

 驚きを滲ませた声で、響が呟く。彼女の双眸は、雪風の横顔に釘づけにされていた。

 

「策があるとは言っていたけれど、まさかこれほどとは……。どうやら、彼女の実力を見くびっていたようだ」

 

「私も、ここまでやるとは思わなかったわ」

 

 響の独り言に、天津風が同意する。

 

「反撃したとしても、精々一、二体倒せれば良い方だと思ってたもの。それがまさか、一網打尽にしちゃうなんてね」

 

 他の面々も、雪風の猛烈な反攻に対して驚きと感心の言葉を並べる。その中には、反撃を食らった当事者である最上の顔もあった。

 

「いやはや……これだけ派手にやられると、いっそ清々しいくらいだね」

 

 直前まで威容を誇っていたモンスターを一挙に失った最上は、苦笑いを浮かべて言う。

 

「だけど、ボクもこのくらいで折れはしないよ。ボクのターン。ボクは手札から『限界竜シュヴァルツシルト』を特殊召喚。さらに、tripping MERCURYの召喚のためにリリースした『レベル・スティーラー』の効果を発動。シュヴァルツシルトのレベルを一つ下げて、このカードを特殊召喚する」

 

「フィールドにモンスターが三体。これは、またtripping MERCURYを……」

 

「いいや。今度は、また別の最上級モンスターだよ。ボクは、シュヴァルツシルトとレベル・スティーラーの二体をリリース。『堕天使ディザイア』をアドバンス召喚!」

 

 

《限界竜シュヴァルツシルト》

効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2000/守 0

相手フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 

《レベル・スティーラー》

効果モンスター

星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守 0

(1):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、アドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

《堕天使ディザイア》

効果モンスター

星10/闇属性/天使族/攻3000/守2800

このカードは特殊召喚できない。

このカードは天使族モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時にこのカードの攻撃力を1000ポイントダウンし、相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 

「この瞬間、冥界の宝札の効果が発動。カードを二枚ドローする」

 

 ドローしたカードを確認した最上は、「おっ」と声を漏らして口元を緩める。

 

「これは、いいカードを引いたね。ボクは、今引いたこのカード、進撃の帝王を発動するよ」

 

「二枚目! と、いうことは……」

 

「これで再び、ボクのモンスターはカード効果への耐性を得た。さらにボクは、堕天使ディザイアの効果を発動! 攻撃力を1000下げることによって、ガトリング・ドラゴンを墓地へ送る!」

 

 ディザイアが発した闇色の光線に呑まれ、ガトリング・ドラゴンが消滅する。機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)の効果が発動するのは戦闘破壊時のみであるため、後続のモンスターを呼ぶことはできない。

 

「攻撃力は下がったけど、キミの残りライフを削り取るにはこれでも充分だ。バトルフェイズ! ボクは、堕天使ディザイアで雪風にダイレクトアタック!」

 

「モンスターBOXの効果を発動! コイントスを行い、当たれば相手モンスターの攻撃力を0にします。私が選択するのは裏です」

 

 雪風のフィールドにコインが舞う。コイントスの結果は、彼女の宣言した通り。

 

「相変わらずの強運だね。ボクにも少し、分けて欲しいよ」

 

 こうなることは予想していたのか、とどめを刺し損ねても最上に落胆の色はない。

 

「だけど、これもいつまでもつかな?」

 

 最上は、不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「モンスターBOXは、毎ターン500ポイントのライフを払わなければ維持できない。でも、雪風のライフは残り700。維持できるのは、あと一ターンだけだ。いくら運が強くても、攻撃を防ぐカードそのものを失ってしまえば、意味がないよ」

 

「確かに、そうですね」

 

 最上の言葉に、しかし、雪風は穏やかな表情を崩さない。追い詰められつつある状況下にあるにも関わらず、彼女は一片の曇りもない顔でデュエルをしていた。

 

「あまり焦ってない様子だね。これは、まだ策を持っているということかな」

 

「ええ、まあ。手元にはありませんけど」

 

 ですが、と雪風は言葉を接ぐ。

 

「雪風は、自分とこのデッキを信じていますから。私のターン!」

 

 雪風が、勢いよくカードを引く。彼女は横目でそのカードを確認し、そして……

 

「来ました! 雪風の、切り札が!」

 

「切り札、だって?」

 

「今からご覧に入れましょう。私は魔法カード『未来への思い』を発動します!」

 

 

《未来への思い》

通常魔法

自分の墓地のレベルが異なるモンスター3体を選択して発動できる。

選択したモンスター3体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。

その後、自分がエクシーズ召喚を行っていない場合、このターンのエンドフェイズ時に自分は4000ライフポイントを失う。

また、このカードを発動するターン、自分はエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない。

 

 

「このカードの効果で、私は墓地からレベルが違う三体のモンスターを特殊召喚します。一撃必殺侍、ガンナードラゴン、ガトリング・ドラゴンを特殊召喚!」

 

「一気に三体のモンスターを……! ディザイアは攻撃力が下がっているから、攻撃を仕掛けられたら破壊されてしまう」

 

「残念ながら、それはできません」

 

 雪風は、首を横に振って否定する。

 

「特殊召喚された三体は、すべて攻撃力が0となり、効果も無効化されます。しかも、このターンにエクシーズ召喚をしなかった場合、私はエンドフェイズに4000ポイントのライフを失います」

 

「じゃあ、どうしてこんなことを……。レベルが違うからエクシーズ召喚はできないし。これだと自滅するだけじゃないか」

 

「心配いりません。ちゃんと、エクシーズ召喚はできます」

 

「えっ? レベルもバラバラなのに、どうやって?」

 

「レベルが合っていないなら、合わせるまでです。私はもう一枚の魔法カード『ギャラクシー・クィーンズ・ライト』を発動します!」

 

 

《ギャラクシー・クィーンズ・ライト》

通常魔法

自分フィールド上のレベル7以上のモンスター1体を選択して発動できる。

自分フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターのレベルはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同じレベルになる。

 

 

「このカードは、自分のレベル7以上のモンスターを一体選んで、他のモンスターのレベルをそれと同じにすることができます。私は、レベル7のガンナードラゴンを選択して、残り二体のレベルをこれに合わせます!」

 

「これで、雪風のフィールドにはレベル7のモンスターが三体……!」

 

「いきますよ。私は、レベル7の一撃必殺侍、ガンナードラゴン、ガトリング・ドラゴンの三体で、オーバーレイ! 三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 三条の光が渦を作り、その中から新たな光を生み出す。そして現れたモンスターの名を、雪風は高らかに呼んだ。

 

「来てください、私の切り札! 『No.7 ラッキー・ストライプ』!!」

 

 

《No.7 ラッキー・ストライプ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/光属性/天使族/攻 700/守 700

レベル7モンスター×3

このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

サイコロを2回振る。

このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで、大きい方の出た目×700ポイントになる。

さらに、出た目の合計が7だった場合、以下の効果から1つを選択して適用する。

●このカード以外のフィールド上のカードを全て墓地へ送る。

●手札または自分・相手の墓地からモンスター1体を特殊召喚する。

●デッキからカードを3枚ドローし、その後手札を2枚選んで捨てる。

 

 

 恭しい礼をしてフィールドに降り立ったのは、縦縞模様の服を着た人型のモンスター。服の袖口はルーレットを象った形状をし、左手にはサイコロと、その姿からは一目で賭け事の香りを感じ取ることができる。

 

「これが、雪風の切り札……。ランクの割に攻撃力はかなり低いようだけれど、切り札というからには、当然、強力な効果を持っているんだろうね」

 

「はい。ラッキー・ストライプの効果を発動! サイコロを二回振って、次の相手ターン終了時まで、このカードの攻撃力を出た目の大きい方と同じだけ倍化させます!」

 

「元の攻撃力が700だから、攻撃力は最大で六倍の4200……。確かに、これは切り札に相応しい攻撃力だ」

 

「私はオーバーレイ・ユニットを一つ使ってこの効果を発動し、サイコロを振ります。ダイス・ロール!」

 

 雪風の声に合わせ、二つのサイコロがフィールドを転がる。見事と言うべきか、やはりと言うべきか、出た目は6と1。

 

「これで、ラッキー・ストライプの攻撃力は4200になります。さらに、出た目の合計が7だったことで追加効果が発動。フィールドに存在する他のカードを、すべて墓地へ送ります!」

 

「そんな効果まで!?」

 

「進撃の帝王が無力化できるのは、『破壊』する効果だけ。さらに、これはフィールド全体を効果範囲とするので対象にとっているわけでもありません。耐性も無視して、除去できます」

 

 謎の力によってフィールドのあらゆる物が消滅し、ラッキー・ストライプのみがあとに残る。雪風は、自らの切り札であるそのモンスターに向けて、力強く攻撃の命令を下した。

 

「バトルです! 私はラッキー・ストライプで、最上さんにダイレクトアタック!」

 

「うわああっ!」

 

 

最上 LP3800→0

 

 

 ラッキー・ストライプの一撃を受けた最上が吹き飛ばされると同時に、ライフポイントがゼロを刻む。続いてソリッドビジョンの投影が終了し、デュエルの終わりを告げた。

 

「ふう……。なんとか勝てました」

 

 服の袖を使い、雪風が額に滲んだ汗を拭う。一方の最上は起き上がりつつ、ショートパンツについた埃を手で払った。

 

「ボクの負けだ。見事に大逆転されてしまったね」

 

「ですが、こちらもギリギリでした。あの二枚が揃うのがもう少し遅かったら、最上さんに押し切られていたと思います」

 

「運も実力のうち、だよ。そこが、雪風の強みでもあるんだから」

 

「ゆっきかぜー! おめでとー!」

 

「わわっ!」

 

 勝利を祝いながら、時津風が雪風の背中に飛びつく。

 

「こーら、時津風。いきなり抱きつくのは危ないって、いつも言ってるでしょ」

 

 時津風の頭を小突いた天津風は、雪風に労いの言葉をかける。

 

「連戦お疲れ様。あの状況から、よく押し返したわね。凄いわ」

 

 響、電、島風も口々に二人を労う。

 

「今回は、相手が破壊耐性を持っていたので苦戦してしまいました。響さんの言う通りでしたね」

 

「でも、結果的には上手く攻略できていたと思うよ。雪風が言っていた対処策というのは、ラッキー・ストライプのことだったんだね」

 

「はい。ですが、それまではかなり苦戦しました。これは、響さんのアドバイス通りに確実な対処策も入れた方が良さそうです」

 

「ボクは進撃の帝王を過信してしまったから、それを破られた時のことを考えないといけないね」

 

「うん。最上さんの課題は、ひとまずそこかな」

 

「よーしっ、それじゃ次やろ次~! 今度はあたしがデュエルしたーい!」

 

 見るからに待ち切れない様子の時津風が、手を挙げてアピールする。しかし、それを天津風が制する。

 

「待ちなさい、時津風」

 

「なにさ天津風。横入りしようったって、そうはいかないよ」

 

「違うわよ。そうじゃなくて……」

 

 その言葉の途中で、鎮守府に鐘の音が響く。午前の課業を終了させ、昼食時間の到来を告げる時鐘だ。

 

「もうお昼の時間よ。デュエルの続きは、ご飯を食べてからにしましょ」

 

「それは賛成。今気づいたけど、あたしお腹すごく空いてるー。もう倒れそうー」

 

「食堂までは近いから、頑張りなさい。……って、島風! あなた抜け駆けする気?」

 

「だって、みんな遅いんだもーん。先に行ってるよー」

 

 一人で先に食堂へと駆けていく島風。やれやれと肩をすくめ、天津風その後ろ姿を見る。

 

「早い者勝ちじゃないんだから、急ぐ必要もないのに。それに、どうせ早く着いても私たちのこと待ってるくせに」

 

 呆れた風を装いながらも、その声には温かみが含まれている。

 

「私たちも行きましょうか。きっと、着いたら島風が膨れっ面して待ってるわ」

 

 そう言って歩き出した天津風に従い、一行は鎮守府庁舎内の食堂へと向かっていった。

 




雷「今回も、雪風の運の強さが光る回だったわね」

暁「だけど、いくら何でも強すぎない? 前回と合わせても、一回しかコイントスを失敗してないわよ。その一回でさえ、セカンド・チャンスで成功に変えちゃうし」

響「彼女の強運ぶりは、文字通り桁違いだからね。私も間近で見て驚きはしたけれど、彼女ならありえると妙に納得できてしまったよ」

電「ショートランドの子たちも、同じような反応でした」

雷「これは、あまり戦いたくない相手ね。ところで、驚いたといえば、最上さんのデッキも初めて見るタイプだったわ。最上級モンスターを、まるで下級モンスターのように次々と召喚するなんて……一体、あのデッキは何なの?」

響「世間では【冥界軸最上級多用】と呼ばれてるデッキだよ。トークンその他でリリース要員を揃えてアドバンス召喚し、カードを消費した分を冥界の宝札によって補う。最上級モンスターのパワーと、尽きることのない手札が持ち味だ。ちなみに、『最上級』の部分の読み方は『もがみきゅう』ではなくて『さいじょうきゅう』だから、間違えないようにね」

暁「流石にそこを間違える人はいないんじゃないかしら?」

響「そう思うだろう? でも、残念ながらいるんだよ。実は、ここの作者がその張本人でね」

暁「えっ」

電「正確には、読み間違えたのはこれではないのですけど……。海軍に興味を持ってから、『最上級』という単語をつい『もがみきゅう』と読んでしまうようになってしまったそうなのです」

響「たとえば、英語の形容詞の『最上級』とかをね。最近では、マンホールに書いてある『電』の字を『いなづま』と読んでしまったりするらしい」

電「あとは、『雷(かみなり)』と読むべきところを『いかずち』と読むこともあるそうなのです」

暁「ああ、そこは分かる気がするわ。雷は、逆にいつも『かみなり』って読まれるから苦労してるわよね」

雷「そうそう。改めて、そこのとこもよろしく頼むわね!」

響「さてと。雑談を長引かせるのもなんだから、そろそろ締めるとしようか。電、次回の内容は?」

電「次回は時間を少し進めて、数日後のお話なのです。なんでも、島風ちゃんたちが私たちに教導のお礼をしてくれるそうで……。次回、『島風流戦闘航海術』。デュエル・スタンバイなのです」
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