鎮守府決斗録   作:石田零

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42 対立の萌芽

「ばっかじゃないの!? 敵を逃がすなんて、何考えてるのよ!」

 

 凄まじい剣幕の曙に詰め寄られ、電は思わず首を縮める。

 

「まさか、艦娘(わたしたち)の中にそんなことするバカがいるとは思いもしなかったわ。あんた、自分が何をしたのか分かってる?」

 

 二人が立っているのは、鎮守府庁舎一階の食堂。そこにいるのは彼女らだけではなく、二人の僚艦である響と潮、さらに天津風をはじめ泊地所属艦娘も顔を揃えている。人入りの多い食堂は、しかし、ひどく険悪な雰囲気に包まれていた。

 

「入港早々ドックに入れられて、傷が治ったから出てきてみれば……。さっきの戦闘の詳細は、潮から聞いたわよ。あたしはデュエルのことは知らないけど、あんたの報告では、確実に勝てる状態だったそうじゃない。それなのに、どうしてとどめを刺さなかったの。そいつを見逃したら、また輸送船が襲われるとは考えなかったの?」

 

「……電の行動が、味方を危険に曝す可能性を含んでいることは分かっています。助けた敵が、自分や、他の誰かに牙を剥くことがあることも。だけど、それでも電は助けたいと思うのです。敵も味方も関係なく、一つでも多くの命を救いたいのです」

 

「そのせいで、たくさんの仲間の命が失われるとしても?」

 

 切々と訴える電に、曙は間髪入れず問う。

 

「あんたは今、自分の行動の危険性を分かっていると言ったわね。だけど、何も分かっちゃいない。あんたが見逃した敵艦は、命拾いしたのをいいことに、別の場所で人間や艦娘を襲う。そうやって、命ある限り私たちを襲い続ける。その中で、どれだけの被害が出ると思う?」

 

 その問いに即答できず、電は目を伏せる。

 曙の主張は、正論だ。敵を見逃しその命を助けたところで、敵がそれを恩に着るかは分からない。実際には、微塵も恩を感じずに敵としてあり続けることがほとんどだろう。それすらも、実際にサレンダーに同意した例が一つしかない現状では、確たることは何も言えない。

 電も、無策ではない。彼女は自らサレンダー勧告の実施に条件をつけるなどし、味方への危険を少しでも減らすよう努めている。しかし、どんなに手を尽くしたとしても、危険を完全に除去することはできない。取り除き切れなかった危険が何を生むのか、電には、いや、誰にも予測することはできない。これは、彼女が自分の信念に従い続ける限り、決して避けることのできない課題であった。

 

「あんたが自己満足で敵の命を一つ助けるたびに、未来の私たちに数えきれない被害が生まれるのよ。あんたの行動は味方を危険に曝す『可能性がある』なんてものじゃない。味方を確実に危険に曝す、迷惑極まりない行動よ」

 

「自己満足ではないのです。私は……」

 

「いいえ。自己満足よ」

 

 電の言葉を遮り、曙は断言する。

 

「あんた。私たち艦娘がどういう存在か、覚えてる? 艦娘の立場と役割って、何だったかしら?」

 

「もちろん、覚えているのです。艦娘とは、かつての軍艦に宿る魂、『艦魂』が実体化して蘇った姿。そして、深海棲艦の脅威から世界を守るため、提督の指揮の下で戦う存在。これが、艦娘という存在なのです」

 

「ええそうよ。じゃあ、深海棲艦から世界を守るための、具体的な方法っていうのは?」

 

「敵艦を、撃沈すること……なのです」

 

「よくできました」

 

 感情のない声で言った曙は、続けて言う。

 

「あんたの行動は、それに反している。勝手に組織の方針に背き、それを良しとしていることを、自己満足と言わずに何と言えばいいのかしら」

 

「確かに、電のやっていることは海軍全体の考え方から外れています。ですが、深海棲艦は倒しても倒しても絶えることなく現れてきます。これを一隻残らず沈めるのは、とても無理なのです。仮にそれを実現できたとしても、そこに辿り着くまでにはたくさんの犠牲が生まれるはずです。相手を全滅させるという道は、勝った方も深手を負います。それよりも、互いに避けられる争いは避けて被害を最小限にした方が、傷つく人はずっと少なくて済むのです。

 電だって、この世界を深海棲艦の好きにはさせたくありません。戦争には勝ちたいです。戦争には勝ちたいけれど、それと同じように命も助けたいのです」

 

「綺麗事ね。そんなこと、できるわけがない」

 

「そうかもしれません。だけど、電はその綺麗事が実現できることを証明したいのです。私は『前』の戦いでも同じことをしました。その時は、曙ちゃんの言うように、電の考えは綺麗事に終わってしまいました。だからこそ、今度は成功させたいのです。戦争に勝って、命も助ける。それが綺麗事なんかじゃなくて、本当にできることなんだと示したいのです」

 

「それが自己満足だっつってんのよ!」

 

 曙は声を荒げ、射殺さんばかりの眼光を電に向ける。

 

「あんたは、自分の世界しか見ていない。自分と同じ考えを、相手も持っていると思い込んでる。そこが大きな間違いよ。深海棲艦の思考パターンは、一切が不明。そんな奴らが、あんたの言うように互いの被害云々なんて判断をすると思ってるの? そこを無視して話を進めているのなら、それは自己満足以外の何物でもない。いいえ、もはや傲慢よ」

 

 それに、と曙は付け加える。

 

「聞けば、あんたがこれまでサレンダーを勧めてきた中で、同意したのはあのネ級だけだったそうね。それも、散々激怒した後で。これがどういう意味か、ちゃんと理解してる?」

 

「……電のやっていることは、敵からも歓迎されていないということですか?」

 

「あたしが聞きたいのは、そんな表面的なことじゃない。敵がサレンダーを拒み続け、あのネ級が激怒した、その裏にある理由よ」

 

 あたしはデュエルは門外漢だけど、と前置きした上で曙は続ける。

 

「あんたの行動は、言ってみれば手抜き。相手を舐め切った戦い方よ。それを、命を懸けた真剣勝負でやられたら、相手はどう感じるかしら。あたしだったら、腸が煮えくり返るわ。今すぐ地獄に叩き落としてやりたいくらいに。だってそれは、自分の命を弄ばれているようなものだもの。相手を生かすも殺すも自分次第、だから選ばせてやろう……見方を変えれば、あんたがやってる降伏勧告はそういうものよ。そんなことされて、黙って頷く奴があるわけないでしょ。しかも、逃がした相手のその後については無責任。そいつが味方を沈めたら、あんたに殺されたようなものだわ」

 

「はいはい、二人とも。そこまでよ」

 

 手を叩きながら二人の間に入った天津風が口論を仲裁する。

 

「曙。気持ちは分かるけど、その辺にしておきなさい」

 

「何よ。あんたはこいつの肩を持つの?」

 

 剣呑な声音の曙に、天津風は「いいえ」と首を横に振る。

 

「私も、電のやり方には賛同できないわ。あなたが言うように、電の行動は友軍の危険を増やしこそすれ、助けにはならない。言うなれば、利敵行為よ」

 

 ただし、と天津風は言葉を足す。

 

「今回に限って言えば、それによって被害が最小限に済んだ面もあるわ」

 

「デュエル相手が敵旗艦だったから、見逃す代わりに撤退を承知させたって話でしょ。それも、潮から聞いてるわ」

 

「ええ。仮に戦闘を継続していても殲滅は可能だったけど、あの段階ではまだ時間がかかったわ。当時、輸送船の直衛に残っていたのば、あなたと島風の二人。しかも、あなたは中破していたから、実質的な護衛戦力は島風だけ。敵が死に物狂いで輸送船を追っていたら、抑えきれずに追加の損害が発生したかもしれない。だけど、敵艦隊が撤退したから輸送船は無事に泊地へ入港できたわ」

 

「その分のツケは大きそうだけど。……やれやれ、そんな理由でこいつの行動を追認するなんて、ここの基地司令も甘いわね」

 

 流石に基地司令の判断まで追及する気はないらしく、曙はここで話を終える気配を見せる。彼女は体の力を抜くように息を吐くと、食堂の出口へと足を向けた。

 

「よく覚えておきなさい。あんたは敵味方の命を助けているつもりらしいけど、実際は正反対。両方の命を弄んで、悦に浸っているだけよ。そんな奴に、戦場に立つ資格はない」

 

 去り際、電の前で足を止め、険しい声で言い残す。

 慌てて追いかける潮と合わせ二人分の背中を見送ってから、天津風は溜息をついた。

 

「さて、と……」

 

 電に向き直る天津風。その顔色を見て、電は彼女が言わんとすることを察した。

 

「電……今も少し口にしたけれど、私はあなたの行動を支持できない。他のみんなも、同じ意見よ」

 

「……はい」

 

「曙が散々言った後だから、この場ではもう何も言わないわ。だけど、あなたが今いるのはショートランド泊地。トラックではない。このことは、忘れないで」

 

 目配せをして立ち去る天津風に続き、雪風たちも食堂をあとにする。訪れた静寂の中で、電は呟くように言った。

 

「響ちゃん。電がやっていることは、間違いなのでしょうか」

 

「……私は、君が自分の信念を貫こうとする気持ちも分かる。だから、君が信じる道を進むのならそれを見守る。トラックのみんなも、同じことを言うと思う」

 

 答えた響は、「でも」と付け加える。

 

「君の行動は、必ずしも歓迎されるものであるとは限らない。特に、他所の鎮守府では。それだけは、覚えておいた方がいい」

 

「そう、ですね」

 

 響の言葉に、電は力なく頷くのだった。

 

◆◇◆◇

 

 食堂での一件から二時間強が経った頃。電は、泊地の敷地の外れで一人座り込んでいた。

 彼女の周囲に人影はない。元来が小規模な泊地であるため人員も少ない上に、敷地の外れときては人が寄って来ないのは当然である。敷地外との境界線では衛兵が巡回を行っているが、ここはその一歩手前であるため彼らも滅多に立ち寄らない。電もそれは承知しており、だからこそ、ここに腰を下ろしていた。

 

「はあ……」

 

 沈鬱な顔で、電は溜息をつく。頭上の樹木が落とす影も相まって、彼女の横顔はひどく暗く見えた。

 

「電も、この戦いに勝ちたいという想いはみんなと同じなのです。深海棲艦との戦いを早く終わらせて、平和な世の中を迎えて、今度こそ、みんなと一緒に楽しい時間を過ごしたいのです。誰も、失いたくないのです。だけど、それと同じように、敵の船にも沈んでほしくありません。たとえ敵であっても、必要以上に沈めたくない……戦争には勝ちたいけれど、命は助けたいのです」

 

 でも、と電は言葉を詰まらす。

 耳の奥で、曙の言葉が甦る。彼女の言っていることは、間違っていない。それどころか、一般的には彼女の考えこそが主流で自分は異端者だ。そのことは理解しているつもりであったし、それでもなお自分の信じる道を進もうと決意していた。

 しかし、先ほどの一件でその考えに揺らぎが生じた。

 自分のやっていることは、自己満足に過ぎない――曙から言われた言葉が、頭から離れない。

 この行動が、歓迎されないものであることは分かっている。しかし、トラックでは以前の一件の際もこのような反応には遭わなかったし、今回は初めて敵がサレンダーを受け入れてくれた。元から深海棲艦と分かり合えるとまでは思っていないが、それでも確実に前に進めている気がしていた。

 けれど、それがすべて自分の思い込みだったとしたら。自分では、敵味方双方の被害を抑え、より良い結果を生み出せていると信じて疑わなかった。だが、実際は真逆の結果を招いているのではないだろうか。それが事実なら、自分は歩く災厄のようなものだ。

 何よりも、去り際に吐かれたあの台詞。自分の行動は、命を助けるのではなく弄んでいる。自身の信念を根底から覆すこの言葉に、電は打ちのめされていた。

 

「電のやっていることは、本当に意味があるのでしょうか」

 

 電は、小さな声で自問する。

 

「もしも、これがただの自己満足だとしたら……相手の誇りを踏みにじり、その生死を弄んでいるに過ぎないのだとしたら……。そして、そのせいで仲間の犠牲を増やしてしまうとしたら……。電は……電は……」

 

 思いつめた表情で電は独語する。と、不意に付近の木々の奥から枝を踏む音が鳴った。

 

「はわわっ!?」

 

 考え込んでいたこともあり、電は突然の音に飛び上がる。やや怯え気味に音源の方向を窺っていると、二人の少女が姿を現した。

 

「あなたは……潮ちゃん。それに、響ちゃんも」

 

 相手は響と、曙の僚艦の潮であった。相手が分かってほっとした電だったが、すぐにあることに思い至る。

 

「えっと……、どこから見てました?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 小さくなって頭を下げる潮の姿から、電は答えを察する。

 

「盗み聞きするつもりはなかったんです。でも、話しかけるタイミングが掴めなくて……」

 

「気にしないでください。私こそ、恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

 

 苦笑を浮かべて応じた電は、「ところで、どうしてここに?」と問いかける。

 

「潮が、電のことを心配してね」

 

 横の潮を指さしつつ、響が答える。

 

「さっきは曙ちゃんが酷いことを言ってしまって、ごめんなさい。言葉がきついところはありますけど、あの子も根は優しい子なんです。どうか、あまり気を悪くしないでください」

 

「潮ちゃんが謝る必要はありませんよ。そもそも、曙ちゃんは何も間違っていないのですから。あの場で普通じゃなかったのは、私の方なのです」

 

 自嘲の笑みを作りながら、電は首を振る。

 

「さっきからずっと、曙ちゃんに言われたことを繰り返し思い返していました。そうすると、だんだんと曙ちゃんの言っていることが全部正しく思えてきて……たぶん、それが本当なんだと思います。電は、ずっと独りよがりな世界を見ていたんです」

 

「電さん……」

 

 静かに言う電を、潮は不安そうな表情で見つめる。彼女は何か言葉を探すように口をもぞもぞと動かした後、おもむろに切り出した。

 

「電さん! わ、私と、その……デュエルしてください!」

 

「へ?」

 

 唐突な申し出に、電は思わず気の抜けた声を返してしまう。「えっと……」と間をもたせている隙に、彼女は頭の中を整理する。

 

「デュエルするのは、別に構わないのですけれど……。潮ちゃん、デッキは持っているのですか?」

 

 電の知っている限り、トラック泊地以外にはデュエルのできる艦娘はいない。だからこそ、こうして出張教導も行われているのだ。潮は内地の鎮守府に所属しているので、既にデュエルモンスターズに触れている可能性もある。しかし、先ほどまでの間にそのような素振りは見当たらなかった。

 

「ついさっき、作ったんです。響さんからデュエルモンスターズのルールと、デッキ構築の仕方を教えてもらいました」

 

「あの後、潮が電を元気づけてあげたいと私のところへ相談に来てね。こういう時はデュエルが一番の気晴らしになると教えてあげたのさ」

 

「そうでしたか。心配させてしまって、申し訳ないのです」

 

「それで、どうする電? 君のデッキとディスクは、ここに持ってきているけれど」

 

「そんなの、決まっているのです」

 

 響が持つディスクに手を伸ばし、電は言う。

 

「潮ちゃんの気持ちを無下にすることなんてできません。それに、挑まれたデュエルは受けるのがデュエリストなのです」

 

「そう言うと思ってた。潮は今回が初めてのデュエルだから、私がサポートにつくよ。いいね?」

 

「はい」

 

「では――」

 

 

「「デュエル!!」」

 

電     LP4000

潮(&響) LP4000

 

 

「潮ちゃんはこれが初めてのデュエルでしょうから、先攻と後攻、自分が戦いやすい方を選んでください」

 

「は、はい。私は……えっと、後攻をもらいます」

 

「分かりました」

 

 頷いた電は、手札から三枚のカードを選んで場に出す。

 

「私はモンスターをセット。さらにカードを二枚伏せて、ターンを終了します」

 

「私のターン。ドローです」

 

 初心者らしく、手札を端から端まで見回した潮は、数枚のカードを示しながら響に小声で話しかける。

 

「うん。それがいいね。最初から攻めにいこう」

 

「はい! 私は『切り込み隊長』を攻撃表示で召喚。その効果により、手札の『ジャンク・シンクロン』を特殊召喚します」

 

「ジャンク・シンクロンはチューナーモンスター。ということは、潮ちゃんが使っているのはシンクロデッキですね」

 

「はい。私は、レベル3の切込み隊長に、同じレベルのジャンク・シンクロンをチューニング。『ゴヨウ・プレデター』をシンクロ召喚します!」

 

《切り込み隊長》

効果モンスター

星3/地属性/戦士族/攻1200/守 400

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

 

《ジャンク・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻1300/守 500

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

《ゴヨウ・プレデター》

シンクロ・効果モンスター

星6/地属性/戦士族/攻2400/守1200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「ゴヨウ・プレデター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。

そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターがプレイヤーに与える戦闘ダメージは半分になる。

 

 

 潮のフィールドに、十手を手にした褐色のモンスターが現れる。その姿を目にした電は、目を丸くして大声を出した。

 

「潮ちゃん、そのモンスターは!」

 

「は、はいっ」

 

 電の予想外の反応に気圧され、潮は訳も分からず直立不動の姿勢をとる。

 

「え、えっと……何か、おかしかったでしょうか」

 

「あ、いえ。そうじゃないのです」

 

 脅え気味の潮を前にして電も我に返り、平静を取り戻す。

 

「驚かせてしまってすみません。潮ちゃんの召喚したモンスターが、電が最初に気に入ったモンスターに似ていたので、びっくりしてしまったのです」

 

「そうだったんですか」

 

 相槌を打った後で、潮ははたと気づいた様子で尋ねる。

 

「それって、もしかして『ゴヨウ・ガーディアン』ですか?」

 

「知っているのですか!」

 

 電は再度、驚きの声を上げた。

 

「そうなのです。トラック泊地で司令官さんに初めてデュエルモンスターズを教えてもらった時、電は最初、そのカードを中心にしたデッキを作ろうとしたのです。でも、司令官さんに止められて、結局それはできなかったのです。ゴヨウさんは昔に悪いことをしてしまって、今はデュエルに出られないから、と。もしかして、ゴヨウさんは許してもらえたのですか」

 

「いいえ。ゴヨウ・ガーディアンはまだ禁止カードのままです。その代わり、今は『ゴヨウ』と名のつくモンスターが他にもたくさんいます。このゴヨウ・プレデターも、その一体です」

 

「そうですか……。ゴヨウさんが帰って来ないのは、少し寂しいのです。でも、ゴヨウさんに仲間ができたのはとても嬉しいことなのです。きっと、ゴヨウさんも草葉の陰から喜んでいるのです」

 

「それだと、永遠に戻って来られない感じになってますが……」

 

 思わぬ話の流れとなってペースを乱した潮だったが、気を取り直してデュエルを進めていく。

 

「私はさらに、永続魔法『一族の結束』を発動します。これにより、ゴヨウ・プレデターの攻撃力は3200に上がります。そしてバトルフェイズ。私は、ゴヨウ・プレデターで裏守備モンスターに――」

 

「そうはさせません。潮ちゃんのメインフェイズ終了前に、罠カード『威嚇する咆哮』を発動。このターンの攻撃宣言を封じます」

 

 

《一族の結束》

永続魔法

(1):自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800アップする。

 

《威嚇する咆哮》

通常罠

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

「ゴヨウさんの親戚ということは、当然効果も似ているはずです。ゴヨウ・ガーディアンは、倒したモンスターを自分の場に特殊召喚する効果を持っていました。ゴヨウ・プレデターも、同じような効果を持っているのではないですか?」

 

「その通りです。ゴヨウ・プレデターは、ゴヨウ・ガーディアンと同じように戦闘破壊したモンスターを自分フィールドに特殊召喚できます。相手に与える戦闘ダメージが半分になるのを除けば、ゴヨウ・ガーディアンとほぼ同じ効果です」

 

「やっぱり、このトラップを発動しておいて正解でした。このモンスターは、相手に奪われたくないですから」

 

「そう言われると、なおのこと正体を知りたかったですね。私はカードを二枚伏せて、ターンエンドです」

 

「心配しなくても大丈夫なのです、すぐに見せてあげますよ。私のターン。私は、セットしていた『電池メン-単三型』を反転召喚。さらに、この単三型をリリースして『充電池メン』をアドバンス召喚します」

 

 電は、「ほらね」といった様子で潮に笑いかける。

 

「まだいきますよ。私は、充電池メンの効果を発動。デッキから『電池メン-角型』を攻撃表示で特殊召喚します。そして、角型は特殊召喚された時、デッキから『電池メン』モンスターを手札に加えて、自身の攻撃力を倍にできます。私が手札に加えるのは、『燃料電池メン』です。このモンスターは、自分フィールドに電池メンが二体以上いる場合、手札から特殊召喚できます」

 

 

《充電池メン》

効果モンスター

星5/光属性/雷族/攻1800/守1200

このカードの召喚に成功した時、手札・デッキから「充電池メン」以外の「電池メン」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

このカードの攻撃力・守備力は、自分フィールド上の雷族モンスターの数×300ポイントアップする。

 

《電池メン-角型》

効果モンスター

星4/光属性/雷族/攻1000/守1000

「電池メン-角型」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから「電池メン」モンスター1体を手札に加え、このカードの攻撃力・守備力を元々の倍にする。

(2):自分エンドフェイズに発動する。

このカードを破壊する。

 

《燃料電池メン》

効果モンスター

星6/光属性/雷族/攻2100/守 0

自分フィールド上に「電池メン」と名のついたモンスターが2体以上存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上の「電池メン」と名のついたモンスター1体をリリースして発動できる。

相手フィールド上のカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

 

「充電池メンは、自分フィールドの雷族モンスター一体につき、攻撃力を300ポイント上昇させます。私の電池メン三体は、どれも雷族。今の充電池メンの攻撃力は、2700になのです」

 

「ですが、それでもゴヨウ・プレデターの攻撃力には届きません」

 

「はい。でも、バトルをしなくてもモンスターは倒せるのです。私は燃料電池メンの効果を発動。角型をリリースして、ゴヨウ・プレデターをデッキに戻します」

 

 これにより、潮のフィールドからはモンスターの姿が消える。対して、電のフィールドには攻撃力2100の燃料電池メンと2400の充電池メンが存在している。つまり。

 

「二体の攻撃で、潮ちゃんのライフポイントは一気にゼロになります。バトルフェイズ、私は充電池メンと燃料電池メンで潮ちゃんにダイレクトアタック!」

 

「そうはさせません! トラップ発動、『トゥルース・リインフォース』。その効果で、デッキから『リトルトルーパー』を守備表示で特殊召喚します」

 

「壁モンスターを呼び出しましたか。だとしても、電のやることは変わりません。私は燃料電池メンでリトルトルーパーを攻撃、撃破です!」

 

「リトルトルーパーは、戦闘破壊された時にデッキからレベル2以下の戦士族モンスターを裏守備表示で特殊召喚できます。私は、二体目のリトルトルーパーを特殊召喚!」

 

「なら、後続のモンスターがいなくなるまで叩くだけなのです。私は充電池メンで裏守備表示のリトルトルーパーに攻撃!」

 

「リトルトルーパーの効果発動! デッキから『トラパート』を裏守備表示で特殊召喚します」

 

 

《トゥルース・リインフォース》

通常罠

デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。

このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 

《リトルトルーパー》

効果モンスター

星1/地属性/戦士族/攻 900/守 500

このカードが戦闘によって破壊された場合、デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を裏側守備表示で特殊召喚できる。

 

《トラパート》

チューナー(効果モンスター)

星2/闇属性/戦士族/攻 600/守 600

このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで罠カードを発動できない。

このカードをシンクロ素材とする場合、戦士族モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

 

「無傷で凌がれてしまいましたか……。私はバトルフェイズを終了。このままターンエンドするのです」

 

「私のターン。私は『不死武士』を通常召喚。さらに、裏守備表示のチューナーモンスター、トラパートを反転召喚します」

 

「チューナーモンスター! ということは……」

 

「私は、レベル3の不死武士にレベル2のトラパートをチューニング! シンクロ召喚、『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

 

《不死武士》

効果モンスター

星3/闇属性/戦士族/攻1200/守 600

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から特殊召喚できる。

この効果は自分の墓地に戦士族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。

このカードは戦士族モンスターのアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

《ゴヨウ・チェイサー》

シンクロ・効果モンスター

星5/地属性/戦士族/攻1900/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドの戦士族・地属性のSモンスターの数×300アップする。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。

そのモンスターの攻撃力を半分にして自分フィールドに特殊召喚する。

 

 

「トラパートは、チューナーモンスターでしたか……。だとしたら、リトルトルーパーを潮ちゃんの場に残しておいた方が良かったかもしれませんね」

 

 新たなシンクロモンスターの出現に、電は苦い表情を作る。

ゴヨウ・チェイサーの攻撃力は、一族の結束の効果により2700となっている。電の場にいる二体のモンスターでは、どちらも歯が立たない。

 

「バトルです。私は、ゴヨウ・チェイサーで燃料電池メンに攻撃!」

 

 

電 LP4000→3400

 

 

 ゴヨウ・チェイサーが勢いよく十手を振り下ろし、燃料電池メンを叩き割る。そしてこの瞬間、電が警戒していた「ゴヨウ」シリーズのモンスター効果が発動する。

 

「ゴヨウ・チェイサーの効果発動! 戦闘で破壊したモンスターの攻撃力を半分にして自分フィールドに特殊召喚します」

 

「やっぱり、そのモンスターも相手モンスターを奪う効果を持っていましたか……」

 

「充電池メンは倒せないので、私はバトルフェイズを中断してターンを終了します」

 

「今度はこちらの反撃なのです。私のターン、ドロー! 私は伏せていた罠カード『リビングデッドの呼び声』を発動。墓地に眠る電池メン-単三型を特殊召喚します。さらに!」

 

 電は、手札にある一枚のカードをディスクに叩きつけるようにして発動する。

 

「速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動! その効果によって、デッキの中にいる残り二体の単三型を特殊召喚するのです!」

 

 

《リビングデッドの呼び声》

永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

《電池メン-単三型》

効果モンスター

星3/光属性/雷族/攻 0/守 0

自分フィールド上の「電池メン-単三型」が全て攻撃表示だった場合、「電池メン-単三型」1体につきこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

自分フィールド上の「電池メン-単三型」が全て守備表示だった場合、「電池メン-単三型」1体につきこのカードの守備力は1000ポイントアップする。

 

《地獄の暴走召喚》

速攻魔法

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「この魔法カードの効果は、自分だけではなく相手にも及びます。なので、潮ちゃんも自分フィールドのモンスターの同名カードを可能な限り特殊召喚できますが……呼び出せるのは、デッキ・手札・墓地にいるモンスターのみ。エクストラデッキにいるシンクロモンスターは、特殊召喚できません。一応、潮ちゃんのデッキに燃料電池メンが入っていれば呼び出せますが……」

 

 その言葉に、潮は首を横に振る。

 

「ですよね。そして、三体の単三型は、すべてが攻撃表示になっていることで各自の攻撃力が3000になります」

 

「攻撃力3000が、三体も!?」

 

「それだけではありませんよ。前のターンにも話した通り、充電池メンは仲間の雷族の数に応じてパワーアップします。今の攻撃力は、単三型と同じ3000なのです」

 

 一瞬のうちに現れた圧倒的な火力を前に、潮は目を丸くする。

 デッキの調子が良い時であればここからさらに必殺の一枚が繰り出されるのだが、生憎と今日はそこまでのツキに恵まれていない。しかし、戦力としてはこれでも充分。電は、自分のモンスターに攻撃を命じる。

 

「バトルなのです。私は、一体目の単三型でゴヨウ・チェイサーを攻撃!」

 

「永続罠『強制終了』! 燃料電池メンを墓地へ送り、このバトルフェイズを終わらせます」

 

 

《強制終了》

永続罠

自分フィールド上に存在するこのカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、このターンのバトルフェイズを終了する。

この効果はバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 

 

 見えない手に掴まれたかのように、攻撃を仕掛けていた単三型が電のフィールドに引き戻される。またしても無傷で攻撃を凌がれてしまい、電は眉を寄せる。

 

「むぅ……今度も防がれてしまったのです。私はこれで、ターンエンドです」

 

「私のターン」

 

 響の指導のお蔭か、潮は初心者ながら巧みな立ち回りを見せている。が、相手は火力が売りの電池メン。永続魔法の強化があるとはいえ、パワー不足は否めない。

 

「攻撃力3000が四体。この壁を、どうやって超えれば……」

 

「大丈夫だよ、潮。君の手には、既に敵の攻略法が握られている」

 

 弱気な潮に、響が声をかける。首を傾げる彼女に、響は助言を与える。

 

「単三型の効果をよく思い出してごらん。あのモンスターの効果が発揮されるには、条件があったはずだ」

 

「条件……あっ!」

 

「気がついたようだね」

 

「はい!」 

 

 ぱっと輝かせた潮は、手札のモンスターを場に出す。

 

「こういうことですよね、響さん。私は、『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

 

《ジュッテ・ナイト》

チューナー(効果モンスター)

星2/地属性/戦士族/攻 700/守 900

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して表側守備表示にする。

 

 

「潮ちゃん……一体、何をするつもりです?」

 

 潮が呼び出したのは低レベルの弱小モンスター。今のやり取りから潮が何かを企んでいるには違いないが、その内容は分からない。自ずと、電は警戒を強める。

 

「このジュッテ・ナイトが、単三型を一網打尽にします。私は、ジュッテ・ナイトの効果を発動! 相手の攻撃表示モンスター一体を、守備表示にします!」

 

「なっ、それって……!」

 

 電池メン-単三型は、フィールド上の同名カードがすべて同じ表示形式の時に、その攻撃力または守備力を一体につき1000ポイント上昇させる。その力を最大限に引き出せば、容易に超火力を叩き出すことができるが、元々は攻守ゼロのモンスターに過ぎない。そして、ジュッテ・ナイトの効果でモンスター間の連携を断ち切られた今、電の単三型は強化を失い、素の状態へと戻されてしまった。

 

「これで、私のモンスターで単三型を倒すことができるようになりました。バトルフェイズ、私はゴヨウ・チェイサーで攻撃表示の単三型を攻撃!」

 

「きゃあっ!」

 

 

電 LP3400→700

 

 

「ゴヨウ・チェイサーが戦闘破壊した単三型は、私のフィールドに特殊召喚されます。そして……」

 

「……私の負け、ですね」

 

 電のフィールドには、攻撃表示の単三型がまだ一体存在している。その攻撃力はゼロ。攻撃対象に選択されれば、電はダイレクトアタックを受けるに等しい立場となる。そして、潮には攻撃権を残したモンスターが存在する。これらが示す答えは、一つだけだ。

 電は観念した様子で潮の攻撃宣言を待つ。潮は若干の間を取ってから、モンスターへ命令を下した。

 

「ジュッテ・ナイト、守備表示の単三型に攻撃です!」

 

「えっ……?」

 

 二体目の単三型が十手の餌食となり、粉々に砕け散る。しかし、破壊された単三型は守備表示。戦闘破壊されても、守備表示ではダメージは発生しない。

 

「どうしたのです、潮ちゃん?」

 

 電は、混乱した顔で潮に尋ねる。

 

「今の攻撃で攻撃表示の単三型を倒していれば、潮ちゃんの勝ちだったのです。いくら初心者でも、そのくらいのことは分かっているはずなのです。響ちゃんも、どうして攻撃対象の選択ミスを止めなかったのですか?」

 

「決まっているじゃないか。これは、ミスではないからさ」

 

 平然とした口調で、響は答える。

 

「忘れたのかい、電? このデュエルの目的を。私たちは、落ち込んでいる君を元気づけるためにデュエルをしているんだ。ここで君を負かしたら、さらに落ち込ませてしまうだろう? それじゃあ、わざわざデュエルをした意味がない」

 

「ちょっと待ってください、響ちゃん。言っていることがよく分からないのです。負けたら確かに悔しいですけど、だからといってそんな気遣いはいらないのです。そんなことをされたら、もしこの後逆転できても、ちっとも嬉しくありません」

 

「なら、こう考えればいいんですよ電さん。私は初心者なので、肝心なところで攻撃対象を選び損ない、千載一遇のチャンスを逃してしまいました。響さんも、私がまさかそんなことをするとは思わず、止められませんでした。これは私たちにとって、不幸なミスでした。電さんは、何も気にかけることはありません」

 

「そんな風に捻じ曲げた考え方、できるわけないのです。電は明らかに手加減されています。こんなの嫌なのです!」

 

「では、ここで終わりにしましょう」

 

 潮は、電に新たな提案をする。

 

「ここでデュエルを中止して、なかったことにしましょう。そうすれば、何も問題ありません。私たちは初歩的なミスのせいでこの後逆転されるかもしれないという恐怖から解放され、電さんはつくはずだった黒星が消えます。さらに、後味悪い逆転劇も経験せずに済みます。誰にも、不都合はありません」

 

「あるに決まっているのです。たとえデュエルがなかったことにされても、記憶は残ります。とっても不快な、この記憶が。こんなの、全然楽しくないのです」

 

「大丈夫ですよ。記憶は、そのうち風化します。今は不快なその感情も、数日もすれば綺麗に忘れているはずです」

 

「二人とも、ちょっと変なのです。一体どうしてしまったのですか?」

 

「何を言っているんだい、電。私たちはどこもおかしくないよ」

 

「そうですよ。最初に言った通り、私と響さんは電さんを元気づけたい一心でデュエルしています。何も変ではありません」

 

「そこなのです! 二人は、電を元気づけてくれるのではなかったのですか? これじゃ、あべこべなのです。こんなことされたら、余計に元気がなくなってしまうのです!」

 

「私たちの気持ちを理解すれば、電さんも元気を得られるはずです。それに、このままデュエルを続けたら、もっと不快な思いをしてしまいますよ」

 

「どういう意味なのです」

 

「電さん。デュエルでは大先輩のあなたにこんなことを言うのは失礼ですが、あなたはこのデュエルで私に勝てません。ここで止めなければ、あなたは手加減された上に敗北する二重苦を味わうことになってしまいます。私と響さんは、それを望みません。だから――」

 

「勝手なこと言わないでください!」

 

 潮の言葉を遮り、電は叫ぶ。

 

「このまま続ければ電が負ける、ですって? 確かにそうかもしれません。実際、このデュエルはここで負けたようなものです。でも、ここまで馬鹿にされたら黙っていられないのです! 後味なんて関係ありません。絶対にここから逆転して、あなたたちを倒してやるのです!」

 

「そうですか……。私たちの想いを汲みとってもらえず、残念です」

 

 潮は失望の溜息をつくと、仕方なしにデュエルを続行する。

 

「私はそしてメインフェイズ2で、レベル3の単三型にレベル2のジュッテ・ナイトをチューニング。二体目のゴヨウ・チェイサーをシンクロ召喚します。さらにカードを一枚伏せ、ターンエンドです」

 

「私のターンッ!」

 

「二体のゴヨウ・チェイサーは、自身の効果も加わって攻撃力が3000になっています。前のターンのように戦闘破壊を狙っても相討ちになりますよ。もっとも、その前に強制終了でバトルフェイズを終わらせてしまいますが」

 

「あいにくと、その忠告は無駄になるのです。私は『電池メン-ボタン型』を通常召喚。そして、三体の電池メンがフィールドに揃ったことで魔法カード『漏電(ショートサーキット)』を発動します! これで――」

 

「カウンター罠『神の宣告』。ライフ半分と引き換えに、その発動と効果を無効にします」

 

 

漏電(ショートサーキット)

通常魔法

自分フィールド上に「電池メン」と名のついたモンスターが3体以上存在する場合に発動できる。

相手フィールド上のカードを全て破壊する。

 

《神の宣告》

カウンター罠

(1):LPを半分払って以下の効果を発動できる。

●魔法・罠カードが発動した時に発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。

それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

潮 LP4000→2000

 

 

 神の一声によって、電の場に集められていた電流が消滅する。必殺の一撃を無に帰したことで、電は呆然と立ち尽くす。

 

「言ったはずですよ。あなたは私に勝てないと。電さんのデッキのことは、響さんから聞いているんです。戦法も、切り札も、すべて把握しています」

 

「ボタン型を攻撃表示で出してまで漏電を発動しようとするとは、よほど追い詰められていたと見えるね。あるいは、単に冷静さを欠いていただけか。どちらにせよ、君の最後の望みは潰えた。もう、できることは何もないはずだよ。違うかい?」

 

「最後に、もう一度言います。ここで、終わりにしませんか? もう電さんに勝ち目はありません。どうか、これ以上自分から傷を深めるようなことはしないでください」

 

 懇願するように潮が言う。しかし、電はあくまで首を縦に振らなかった。

 

「……いや……なのです」

 

「……分かりました。私のターンです」

 

 電の翻意がないと悟った潮は、彼女に引導を渡すことに決める。

 

「私は、ゴヨウ・チェイサーで電池メン-ボタン型に攻撃します」

 

 

電 LP700→0

 

 

 ライフポイントがゼロを刻んだ後、電はその場に膝をつく。潮と響が近寄ると、彼女は蚊の鳴くような声を漏らした。

 

「……二人とも、ありがとうございました」

 

「何のことだい? 私たちは、君を散々おちょくって、プライドを傷つけただけなのに」

 

 軽い口調で、響が答える。その顔は、常の彼女のものだった。

 

「だからこそ、なのです。お蔭で、ようやく理解することができました」

 

 電は顔を上げると、彼女に合わせて膝を落としていた二人を抱き寄せた。

 

「これまで電が戦ってきた深海棲艦は、みんなこれを感じていたのですね。腹立たしくて、悔しくて、死んでも死にきれないような、この感情を。今日、潮ちゃんと響ちゃんと戦って、やっと分かりました」

 

 電は、自分自身で確かめるように言葉を紡ぐ。

 

「今まで電は、命を助けることが一番だと信じて疑ってきませんでした。だから、勝ちが見えたデュエルでは相手にサレンダーを勧めてきました。それに対して相手が怒る理由も分かりましたが、電は、誇りよりも命が大事だと思っていました。だから、相手がどれほど強い怒りを覚えていたのか、理解できていませんでした。

 ですが、今日のデュエルで目が覚めました。潮ちゃんと響ちゃんにデュエルの中止を提案された時、すっごく腹が立ったのです。ドロドロとした怒りの感情がお腹の奥底から湧き上がって、今すぐにでも飛びかかってやりたいくらいでした。相手を見下して、自分勝手な提案をしてくる、とっても嫌な人……でもそれは、今までの電の姿なのです。

 最初に戦ったリ級がサレンダーを拒み続けた理由、そしてサレンダーを受け入れた時のネ級の気持ち……今なら、痛いほど分かります。普通のデュエルでさえ、これほど強い憤りを感じるのです。もしもそれが、命を賭けた真剣勝負の場だったとしたら……。相手にこれだけの苦痛を与えているのに自分は満足げな顔をしていたら、自己満足と言われるのも当然です」

 

「それで、これから先はどうするんだい? 自分の信念は諦める?」

 

「いいえ。でも、方法は変えます。今までのような、独りよがりな行動はもうしません。仲間の命を第一に考えて、命を奪い合う敵にも最大限の敬意を払う。これから先、この二つは絶対に守ります。その上で自分の信じる道を行くためにどうすればいいのかは、まだ分かりません。ゆっくり、みんなとも話しながら、答えを見つけていこうと思います」

 

「そうかい。ま、今はそれでいいんじゃないかな」

 

 そう言って、響は電の頭を撫でる。それを心地良さそうに受けながら、電は尋ねる。

 

「響ちゃんは、ずっと前から分かっていたんですよね。きっと、他のみんなも」

 

「まあね。だけど、最初の段階で私たちが何かを言っても、今みたいに君の心に深く沁みわたりはしなかったはずだ。自分で気づくことが、大切なんだ」

 

「そうですね。確かに、誰かに言われるよりもずっと身に沁みたのです」

 

 苦笑いを浮かべ、電は頷く。

 

「本当は電が気づくまでずっと見守っているつもりだったけれど、曙との一件もあったし、そうのんびり構えていられないと思い直してね。タイミングとしては悪くなかったし、ちょうど潮も同じ気持ちだったから、二人で一芝居打つことにしたのさ。ああ、でも。一つ勘違いしてほしくないんだけど、潮も私も、君を全否定する気はない。むしろ、潮は君の同志と言ってもいいよ」

 

「どういうことですか?」

 

 体を離して問いかけた電に、潮が答える。

 

「私も、たとえ敵であっても、助けられる相手は助けたいと思っているんです」

 

「彼女も、『前世』で君と似た行動を取っていたそうでね。だから、君の想いには共感できるそうだ」

 

「内地では同じ考えの人はいなかったので、電さんと出会えて嬉しかったです。やっと同じ気持ちの人が見つかったと。でも、今までの電さんのままだと、そのうちに自分も大切な人も傷つけてしまいそうな気がして……それが怖かったので、響さんに相談しに行ったんです」

 

「私も潮も、最後まで残った者同士だから、大切なものを失う痛みと苦しみはよく理解している。もう誰にも、そんな思いはしてほしくない。特に、自分の姉妹には。だから、手を打つことにしたんだ」

 

「結果は成功……と言っていいんでしょうか?」

 

「とりあえずは、いいと思うよ。この後は電次第だけれど」

 

「分かっています。二人の想いは、しっかりと受け止めたのです」

 

 視線を向けた二人に、電は力強く頷き返す。

 

「二人とも、本当にありがとうございます。お蔭で目が覚めましたし、元気も出ました」

 

「それは良かった」

 

「力になれたなら、何よりです」

 

 答えた後、腰を上げた響は電に手を差し伸べる。

 

「それじゃ電。行こうか」

 

「はい。みんなのところへ、ですね」

 

 その手を取り立ち上がった電は、澱みない足取りで歩き出す。響と潮が彼女の左右につき、三人は泊地の中心部へと戻っていった。

 

 

 

 

 




電「今まで自分がしてきたことの身勝手さに、今さらながら気がつきました……。本当に、恥ずかしいのです」
雷「元気ないわね! そんなんじゃダメよ!」
電「はわわっ!?」
雷「過去を悔やんでも仕方ないわ。それよりも、前を見なさい。新しい答えをみんなと見つけるんでしょ? だったら、前進あるのみよ!」
暁「そうよ。大事になる前に気づくことができたんだから、良かったじゃない」
響「ところで、電はどのタイミングで私と潮の真意に気がついたんだい? 本文では聞きそびれてしまったけど」
電「神の宣告で漏電を無効にされた時なのです。電がネ級にやったことと同じことをされて、その瞬間にふと気がつきました。今の電は、自分とデュエルした深海棲艦と同じ立場にいるのだと」
響「ふむ……やっぱり、狙い通りだったようだ」
電「まさか、全部計算ずくだったのですか?」
響「そんなわけないよ。神の宣告は制限カードなんだから、そう都合よく引けるとは限らない。上手く決まれば最高に効くだろうな、くらいの感覚だったよ」
雷「その制限カードを、潮は見事に引いてきていたわけだけど……」
響「作中の彼女は改二だからね。改二の運命力は伊達ではないということさ」
暁「暁も早く改二になりたいわ! そして立派なレディーに……」
雷「なれるかしら?」
暁「なれるもん!」
響「ほらそこ、話を脱線させない。電、次回予告を」
電「次回は、電がみんなと話し合うところから始まります。次回『新たな決意』。デュエル・スタンバイなのです
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