鎮守府決斗録   作:石田零

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およそ2カ月ぶりの投稿、今回はデュエル前の会話パートとデュエル本編の二話構成です。
デュエル本編は次週投稿予定なので、いま少しお待ちください。
それでは、本編をどうぞ。


43 新たな決意

 潮と響とのデュエルを終えた後。電は、再び鎮守府の食堂へと戻ってきていた。

 数時間前に激しい口論が行われたこの場所は、今は静寂に包まれている。電の他に、ここに立つ者はいない。彼女は瞼を閉じ、時が止まったような空間の中に一人佇んでいた。

 その電が、おもむろに目を開く。彼女は視線を正面――食堂の入口へと合わせ、軽く頭を下げた。

 

「みなさん。来てくれて、ありがとうございます」

 

 無言のうちに、複数の足音が室内に踏み入る。それがやむと、ようやく集団の一人が口を開いた。

 

「あたしたちに、話があるそうね」

 

 口火を切ったのは、曙。言葉だけ見れば穏やかだが、その声や表情には(つるぎ)のような鋭さが宿っている。彼女の怒りは、まだ燻り続けているらしい。

 だが、それも当然のことだと電は思う。先ほど自分がどんな言葉を口にしたのか。それを思い返せば、こうした反応を示されても仕方ない。こうなることは、電も覚悟の上だった。

 

「今さら何を話すつもり? さっきも言ったように、あたしはあんたの考えを認めない。話すだけ時間の無駄よ」

 

 曙ほどではないにせよ、他の面々も多かれ少なかれ不安や疑心を顔に浮かべている。下手に間を生んで彼女たちとの溝をより深めてしまう前に、電は強い否定を返した。

 

「いいえ。電が話したいのは、そういうことではありません」

 

「じゃあ、何」

 

 間髪入れずに詰問する曙。電はそれに答える代わりに、深く頭を垂れた。

 

「ごめんなさい。電は、間違ったことをしていました」

 

「……へ?」

 

 不意の行動を正しく認識できず、曙は間の抜けた声を出してしまう。数秒後にようやく状況を理解すると、彼女は訝しげに電を見つめた。

 

「随分と早い心変わりね。一体、どういう風の吹き回しかしら」

 

「潮ちゃんと響ちゃんが気づかせてくれたんです。電がしていたことの、傲慢さを」

 

 電は顔を上げ、曙と目を合わせて話を続ける。

 

「二人は、電とデュエルをして、今まで電と戦ってきた相手がどんな気持ちでいたかを教えてくれました。それは、とても悔しくてやるせない感情で、電はこれまでこんな思いを相手にさせていたのかと愕然としました。

 電の行動は、一種の驕りでした。自分では敵を助けているつもりでしたが、実際は自分が有利な状況下で要求を押しつけているだけでした。曙ちゃんが言っていたように、単なる自己満足だったのです。

 電は、ようやくそのことに気がつきました。遅い気づきでしたが、これからは仲間の命を最優先に、そして相手の誇りも大切にしながら戦っていくのです。みなさんには、電のこの誓いを聞いてもらって……もし、できることなら、今までの電を、許してほしいのです。自分勝手なお願いだということは、重々承知しています。ですが……どうか、よろしくお願いします」

 

 そう言って、電は再び頭を深く下げる。その電へ、曙は見定めるような視線を向ける。

 

「一つだけ、聞きたいことがあるわ。あんたが言っていた、敵も助けたいという理想のこと。自分でも綺麗事だと認めていたあれは、これからどうするの?」

 

「……その想いは、電が今までずっと懐き続けてきたものです。それを綺麗事で終わらせたくないという気持ちは、今でも変わりません。だから……電は、これからもその理想は諦めません」

 

 でも、と電は即座に言葉を接ぐ。

 

「そのために独りよがりな行動を取ることは、もうしません。仲間の命も、敵の誇りも傷つけず、その上で自分の信念を実現する方法……それを、新しく見つけたいと思います。これは、電一人では決してできないことです。みんなと一緒に、納得できる道を探し出さないといけません。だから、どうかそのための力を貸してください」

 

 電の懇願に、曙はすぐには答えず沈黙を守る。彼女はおもむろに横を振り向くと、そこにいた天津風に話を振った。

 

「……だそうだけど。どうする?」

 

「ここは普通、あなたが答える場所じゃないかしら?」

 

「この鎮守府の秘書艦はあんたでしょ。あたしより先に、ここの代表者であるあんたが答えなさい」

 

「分かったわよ」

 

 天津風は少しの間を置いた後で、電に話しかける。

 

「電の気持ちは、よく分かったわ。あなたの言葉からは、心の底からそう思っていることが感じられた。私は、今のあなたになら理解を示すことができる。これは私の個人的な意見だけれど、きっと……」

 

 天津風は左右に目を向け、僚艦たちを見る。見返す顔には、いずれも同意の表情が浮かんでいた。

 

「みんなも、私と同じ考えよ。私たちショートランド泊地の艦娘は、あなたの謝罪と誓いを受け入れて、新しい道を探すのに協力するわ」

 

 言い終えた天津風は、「で?」と曙に視線を向ける。

 

「あなたの答えは?」

 

「急かさなくても、今言うわよ」

 

 曙は電と目を合わせ、見据えながら口を開く。

 

「あんたの話は、確かに聞き届けたわ。だけど、それでもあたしは、その理想を認めることはできない」

 

「そう、ですか……」

 

「でも」

 

 その言葉に、電は俯かせかけた顔を上げる。

 

「電。あんたが自分なりに必死に考えて、もがいている様子は伝わってきた。だから、あんたが自分の誓いを守り、この先絶対に破らないと約束するのなら……あたしにも、歩み寄る用意はあるわ」

 

「それって……」

 

「曙ちゃんも、電さんに手を貸してくれるということです」

 

「はぁ!? ちょっと潮、あたしはそこまで言ってな――」

 

「ありがとうなのです、曙ちゃん!」

 

「ちょっ……あんたも何で抱きついてくるの! 離れなさいよ、鬱陶しい!」

 

 押しのけようとする曙にくっついたまま、電は天津風たちにも頭を下げる。

 

「天津風ちゃんたちも、ありがとうございます!」

 

「礼には及ばないわ。困っている仲間に協力するのは、当然のことだもの」

 

 それにしても、と天津風は潮に顔を向ける。

 

「あなたの相方は、かなり生きにくい性格してるわね」

 

「分かりますか?」

 

「ええ。一目瞭然よ」

 

 笑いながら尋ねる潮に、天津風も微笑を返す。

 

「曙ちゃんは、根は優しいのにどうしても素直になれないんです。今だって、自分が初めに言うとどうしても空気を悪くしてしまうからと、天津風さんたちに順番を――」

 

「だから! さっきから勝手なこと言うんじゃないわよ! あたしは本当に、こいつの考えは認められないと……」

 

「それでも曙ちゃんは、電のことを認めて、歩み寄ろうとしてくれているのです。潮ちゃんの言う通り、曙ちゃんは優しい人なのです」

 

「あんたまで……! ああ、もう!」

 

 もはや何を言っても無駄と観念し、曙は投げやりな溜息をつく。

 

「とにかく。今やるべきことは、こんな馴れ合いじゃないでしょ。大事なのは、これからのことよ。ほら、電」

 

 曙は、電の鼻先に人差し指を突き出す。

 

「あんたは、どうしたいの? まずは、自分が望むことをあたしたちに伝えなさい」

 

「私の、望むこと……」

 

 電は曙から離れ、黙考した後その問いに答える。

 

「繰り返しになりますが、電は、戦争には勝ちたいけれど命は助けたいのです。電も、深海棲艦との戦いを早く終わらせて、今度こそみんな一緒に平和な時間を過ごしたいと思っています。ですがそれと同時に、そこへ辿り着くまでに沈む艦を、敵味方問わず一隻でも少なくしたいとも願っています。もちろん、深海棲艦は敵ですから基本的には倒さないといけません。だけど、沈めなくてもいい時――たとえば、敵が戦闘中に逃げ出した時には、見逃してあげてもいいと思うのです」

 

「なるほどね……つまり、こういうことかしら。敵艦を撃沈しなくても戦闘に勝利できる場合には、あえて敵を沈めたくない、と」

 

「はい。そうなのです」

 

「なら、次はこれをどうやってデュエルに当てはめていくかね」

 

「普通の海戦なら、楽なんだけどねー。逃げる敵は追わなきゃいいだけの話だし」

 

「だけど、デュエルになるとそうもいかないわ。デュエルでは、どちらかのライフポイントが尽きるまで――つまりは、片方が沈むまで戦いから解放されない。デュエルに勝つためには、どうしても敵艦を沈める必要が出てくるわ」

 

「そうだよねー。問題はそこだよ」

 

 天津風の言葉に、島風は難しい顔で同意する。

 

「でもさでもさー。サレンダーなら、デュエルに負けても沈まないんでしょ? それなら平気じゃん」

 

「時津風。それができるなら、私たちは今ここで頭を悩ませている必要はないわ。敵のサレンダーがほぼ有り得ないというのは、電の経験から明らかよ。サレンダーの無理強いをしないと誓った以上、相手の自発的なサレンダーを待つことになるけれど、これはほとんど期待できないでしょうね」

 

「それなら、相手のライフポイントを残したまま勝利するのはどうでしょう? 相手のデッキ切れを起こしたり、特殊な勝利条件を持つカードを使えば、相手のライフポイントが残っていてもデュエルに勝つことができます。ライフポイントが残っていれば、デュエルに負けた敵も沈まないのではないでしょうか」

 

「妙案ね、雪風」

 

 天津風は電に振り向くと、どうかしらと尋ねる。

 

「これなら、敵を沈めずにデュエルに勝つこともできるんじゃない?」

 

「そうですね。確かに、その可能性はあるのです」

 

 でも、と電は眉を下げて申し訳なさそうな表情を作る。

 

「電のデッキは、雷ちゃん――電のお姉ちゃんが、電に似合うカードを選んでくれてできたデッキなのです。だから電は、できれば今のデッキで戦っていきたいのです。せっかくいい考えを出してくれたのに、わがままを言ってすみません」

 

「気にしないでください。雪風も、作ったばかりですが自分のデッキには愛着がありますから。想いの籠ったデッキなら、簡単に手放せないのは分かります」

 

「この話し合いの目的は、あなたの新しい道を探すことなのよ。そういうことは気にせずに、納得できる答えが見つかるまでわがまま言ってちょうだい」

 

「だけどそうなると、電の希望を叶える方法はやっぱり敵のサレンダーしかなくなってしまうね。ボクの知る限り、電のデッキはビートダウン型だし。ライフポイントを削る以外の勝ち方を目指すのは難しそうに見えるよ」

 

「最上さんの認識は正しいよ。特に電のデッキは、電池メンの圧倒的な瞬間火力を活かしたワンキル型。一撃で相手を屠るのが信条だから、相手のサレンダーを待つ前に蹴散らしてしまいかねない」

 

「そんだけ殺意に満ちた戦い方をしておいて、よく今まで相手に降伏勧告なんかしてたわね……」

 

 響の説明を聞いた曙は、引きつった表情で電を見る。

 

「けど今のところ、策はそれしかなさそうね。敵が運良くあんたの必殺の一撃を生き延びて、戦意喪失して白旗を揚げたら受け入れる。この手しかないんじゃない?」

 

「落とし所としては、そこが一番かな。電の意見はどうだい?」

 

 響に問われた電は、ゆっくりと頷きを返す。

 

「電もそう思います。これからも他にいい方法がないか考えていきますが、当分はその方法にするのです」

 

「あたしはそれで構わないわ。あんたたちは?」

 

「私たちは、電が納得した答えなら何だって受け入れるわ」

 

「そう。潮は?」

 

「私も、天津風さんたちと同じです」

 

「なら、決まりね」

 

 暫定的とはいえ答えが出たことで、話し合いは役目を終える。心なしか緊張の解けた空気の中で、電は改めて全員に頭を下げる。

 

「みなさん。本当にありがとうございました」

 

「礼を言うのはまだ早いわよ。あたしたちが納得するどうかは、今後のあんたの行動次第なんだから。これで一件落着と思っていたら大間違いよ」

 

「分かっています。でも、みなさんのお蔭で新たな一歩を踏み出せたこと、これは事実なのです。だから、お礼を言わせてください」

 

「分かったわよ……そんなに礼を言いたきゃ、好きにすれば」

 

 そっぽを向いた曙は、足早に出口の方向へ歩き出す。

 

「曙ちゃん?」

 

「もう話はついたでしょ。あんたといると、どうにも調子が狂って仕方がないわ。用は済んだんだから、先に戻らせてもらうわ」

 

 呼び止める電にそう答え、曙はそのまま食堂の外に姿を消す。

 

「ごめんなさい。曙ちゃんはこういうのに慣れてなくて……気を悪くしないでください」

 

「大丈夫ですよ。電も、曙ちゃんのことは少しずつ分かってきましたから」

 

 申し訳なさそうにする潮に、電は笑って応じる。

 

「さて、私たちもそろそろ解散しようか」

 

「そうね。夕食まで食堂はお休みだから、ここにいても何もないし」

 

 響の提案に天津風が頷き、一同もそれに同意する。他の面々はひとまず自室に戻るため、電と響もそれに倣い、自分たちも部屋へ帰ることにした。

 

◆◇◆◇

 

「とりあえず、みんなの理解を得られて良かったのです」

 

 安堵の息をつきながら、電は二段ベッドの下段に腰掛ける。

 

「曙ちゃんとのすれ違いも、少しは解消できましたし。大事なのはこれからですが、ひとまず最初の一歩を無事に踏み出すことができて、ほっとしました」

 

 電は、自分に微笑みかけている姉を見て、笑みを返す。

 

「改めてありがとうございます、響ちゃん。みんなと仲直りできたのは、響ちゃんと潮ちゃんのお蔭です。二人のお蔭で、電は取り返しがつかなくなる前に、自分の間違いに気づくことができました」

 

「礼には及ばないよ。確かに私たちは君にきっかけを与えたけれど、やったことはあくまでそれだけ。そこから自分の過ちに目を向け、それを正したのは、他でもない君自身だ」

 

 響は電の隣に腰を下ろすと、彼女の頭に手を置く。

 

「自分が信じてきたものを否定するのは、とても勇気のいることだ。それには痛みも伴うし、進むべき道を見失いそうにもなる。だけど君は、勇気を持ってそれをやった……頑張ったね」

 

「ありがとう、なのです」

 

 頭を撫でられるまま、電は響の肩に身を預ける。

 

「……こうやって、響ちゃんに甘やかしてもらうのは、久しぶりな気がするのです」

 

「言われてみるとそうだね。普段だと、こういうのは雷がやっているんだったかな」

 

「はい。雷ちゃんは、いつも電のことを気にかけて、優しくしてくれるのです」

 

「雷は、電のことを本当に可愛がっているからね。だけど、私や暁だって、君への愛情は雷に負けていないよ」

 

「知っているのです。お姉ちゃんたちが、電のことをすごく大切に想ってくれていること。いつも感じています」

 

 響にすっかり身を委ね、電は心地良さそうに目を閉じる。

 

「響ちゃん」

 

「何だい、電」

 

「いつの日か、こういう、穏やかな時間を、みんなで過ごせる日がくるといいですね」

 

「来るさ」

 

 電の言葉に対し、響は即座に断言する。

 

「私たちは、その日を迎えるために戦っているんだから。今度こそ、姉妹全員で戦いの終わりを見届けて……そして、平和な時代を迎えよう」

 

「はい」

 

 静かに、しかし力強く電は頷く。

 と、その時、話の区切りを見計らったかのように部屋の戸が叩かれる。電が返事をすると、扉の向こうからほっとした様子の声が聞こえた。

 

「あ、良かった。電さんいましたか」

 

 聞こえて来た声は、潮のもの。入室の可否を問う彼女に、電は快諾を返す。

 

「今開けますね。はい、どうぞ」

 

 出迎えに出た電は、そこで僅かに顔を強張らせる。潮の後ろにいる、もう一人の姿を認めたからだ。

 

「曙ちゃん」

 

「……あたしも邪魔させてもらいたいんだけど、いいかしら」

 

「は、はい。もちろんなのです」

 

 ややぎこちない動きで道を作った電の前を通り、二人は室内に入る。戸を閉めた電は、まだ緊張を残す声で聞いた。

 

「えっと……二人とも、どうしたのですか?」

 

「あんたに少し、用があるわ」

 

「電に、ですか?」

 

「ええ」

 

 頷いた曙は、しかし、その用をすぐに明かさない。彼女は、不思議そうに見つめる電の前で数分ばかり逡巡した後、ようやくそれを口にした。

 

「電……あたしに、デュエルを教えてくれない?」

 

「……え?」

 

「嫌ならそうと言っていいわよ」

 

「いえ、嫌じゃないのです!ただ、その……曙ちゃんからこういう頼み事をされるとは思ってなかったので、びっくりして」

 

「でしょうね。あたしも、自分じゃ考えもしなかったわ」

 

 曙は、傍らの潮を指して言う。

 

「潮がね、あんたにデュエルを教われってうるさいのよ。自分は響に教わったから、あたしは電に教われって。あまりにうるさいから、根負けしてここまで来たってわけ」

 

 けどまぁ、と曙は続ける。

 

「D型艦と戦うにはデュエルが必要なのも事実だし。一つ、ご教授願えるかしら」

 

「もちろんなのです」

 

 曙の頼みを、電は満面の笑みで引き受ける。

 

「それじゃあ早速、授業を始めましょう。まずは、デュエルモンスターズの基本的なルールから……」

 

 講義をすること数時間。曙のデッキ構築も無事に終わり、四人は実際にデュエルをするために屋外へと場所を移した。

 

「では、デッキも完成したところで実践編に入るのです」

 

 デュエルディスクにデッキをセットしつつ、電が言う。

 この間までデュエル場として使っていた岸壁は入港した輸送船の荷役で塞がっているため、四人は鎮守府内の運動場に集まっている。同じ運動場でもトラック泊地のものより一回りほど小さいが、デュエルをする分には充分な面積がある。

 

「初めてですから、デュエル中に分からないことも出てくると思うのです。その時は、遠慮なく響ちゃんに聞いてください」

 

「……ねえ、潮」

 

 観戦位置に陣取る響は、話す電を横目に見ながら小声で潮に話しかける。

 

「これも、君の発案かい」

 

 その質問に、潮は頷きを返す。

 

「問題の決着がついたと言っても、二人の間にはまだ少し溝があるように見えたので。曙ちゃんには、電さんとの距離をもっと縮めてほしいと思うんです」

 

「同感だね。だけど、当の本人は随分と抵抗したんじゃないかい?」

 

「はい」

 

 苦笑いしながら潮は首肯する。

 

「響さんの言う通り、最初はすごく嫌がってました。だけど私も譲らず頑張って、粘り勝ちしました」

 

「ほぅ、それは意外だ。失礼ながら、潮は曙みたいな相手に押されると弱いタイプかと思っていたよ」

 

「私だって、やる時はやるんです」

 

 音量を絞っている二人の会話は、電と曙の耳には届かない。自分たちが話題になっていることなど露ほども知らぬ二人は、目の前の勝負に意識を集中させる。

 

「あたしが初心者だからって、手を抜くんじゃないわよ。本気でこないと、ぶっ飛ばすから」

 

「分かっています。電の本気で、お相手するのです!」

 

 電がデュエルディスクを起動させる。曙も即座にその動きを追い、二人は同時に開戦の狼煙を上げた。

 

 

「「デュエル!」」

 




雷「とりあえず、これで一件落着……なのかしら」
響「恐らくね。少なくとも、当分の間は心配いらないよ。一番鋭く対立していた曙とも、なんとか折り合いをつけることができたし」
暁「とにかく、一安心ね。次回はその曙とのデュエルなわけだけど、向こうのデッキは何かしら?」
雷「二人はデッキ構築も手伝ったんだから、知ってるんじゃないの?」
電「実は、私はデッキ構築の時は席を外していたので、知らないのです。その段階で、曙ちゃんのデュエル相手は電になっていたので」
響「私はもちろん知っているけれど、秘密さ。そもそも、実戦において艤装と同様の重要性を持つデッキの中身は軍機に属する事項で……」
雷「そんなデタラメはいらないから。教える気がないならそれでいいから、早く次回予告しちゃいましょ」
電「初陣の勝利を目指して果敢に攻めてくる曙ちゃん。電も、全力でそれを迎え撃ちます。次回、『日月(ひつき)の輪』。デュエル・スタンバイなのです」
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