電たちの初デュエルから二日後。
近海への出撃から帰投し、遅めの昼食を終えた第六駆逐隊の面々が春瀬の執務室でゴロゴロしていると、部屋の扉がノックされた。
「誰かしら?」
じゃれあって暁の上に乗っていた雷が身体を起こす。軽く服を整えた雷は、「はーい」と答えながら扉を開きにいく。
「どちら様で――あ、明石さん」
「こんにちは。提督はいるかしら?」
「はい。司令官、明石さんよ!」
「分かった。入ってもらってくれ」
「はーい! どうぞ、明石さん」
「失礼します」
そう言って入室した明石は、大きなダンボール箱を両肩に担いでいた。当然、雷たちの注目はその箱に集まる。
「ねえ明石さん。それはなに?」
「提督が工廠に開発を依頼された品ですよ。本日は工廠の依頼を受けて、それをお届けに上がりました」
「開発……!! 司令官、もしかして新しい装備!?」
興奮気味の目で雷が春瀬に尋ねる。それを聞いて他の三人も騒ぎ始める。
「どんな装備でしょう?」
「一人前のレディーにふさわしい、立派なのがいいわ!」
「箱の大きさから考えて、そこまで大きくはなさそうだ。新型の電探(レーダー)かな?」
「待ちきれないわ! 明石さん、早く見せて!」
「こらこら、みんな落ち着け。明石さん、ひとまず適当な所に置いちゃってください」
春瀬の指示を受けて、明石が部屋の中央の床に両肩の箱を下ろす。たちまち、テープを剥がす明石の周りに電たちが寄ってくる。
「それじゃ開けますよ。はいっ!」
明石の声とともに箱の片方が開かれる。そこに入っていたのは――
「なにこれ?」
暁がきょとんとした声を出す。その横で響が小さく首を傾ける。
「盾、じゃないみたいだね。どうやら、腕に装着するもののようだけど……」
「司令官さん。これはいったい、なんなのですか?」
四人の外側から箱の中身を見ていた春瀬に、電が問いかける。春瀬は、自らが開発を依頼したという「それ」を見ながら――
「これは、デュエルディスクだ」
と、答えた。
「デュエルディスク……?」
春瀬の返答に、電は眉を寄せる。まったく分からない、といった様子だ。
「デュエルディスクは、モンスターを立体映像で出現させてデュエルができるようにする装置だ。テーブルの上にカードを並べるだけじゃ、どうも味気ないからな。妖精さんの技術力なら実現できるかと思って依頼してみたが……まさか、たった二日で完成させるとは」
箱の中に入っていたのは、円盤型の基部と二つに分離したプレートを持つ機械だった。一箱に一台、合わせて二台が執務室の床に置かれている。
「デュエルってことは……デュエルモンスターズで遊ぶためのもの、っていうことですか?」
「ま、そういうことだ」
「なっ……」
顔を青くし、電は絶句する。
「いいんですか司令官さん!? 装備を作るための開発でそんなことして!」
「グレーゾーンってとこだろうな。明石さんから個人的に調達した資材を使って開発したから、中央からの配給分までは手をつけてないが、工廠設備の私用にはあたるかもしれない」
「はわわっ……。このことが上層部に伝わったら大変なことになるのです! 司令官さんはなにを考えてるのですか!?」
「さすが電。いつも秘書艦をやってるだけあって指摘が的確だ」
「冷静に分析してる場合じゃないです、響ちゃん! ていうか、もう明石さんに全部聞かれてしまっているのです。もうおしまいなのです!」
「その点は問題ない。明石さんから話が漏れることはない」
「……どうしてですか?」
「この部屋をよく見てみろ、電」
「はい?」
春瀬に促され、電は四方を見回す。執務室の壁紙、床、壁際に置かれた家具……それらを順番に見ていった電は「あっ」と声を上げる。
――この部屋の内装は、どれも明石さんのお店に頼んで派遣してもらった家具職人さんに取りつけてもらったもの。と、いうことは――
電は、ゆっくりと明石に視線を向ける。電と目が合った明石は、無言でにっこりと微笑んだ。
――癒着関係、なのです……!?
「工廠の方も、開発は馴染みの妖精さんにだけ頼んであるから大丈夫だ。な、心配いらないだろ?」
「はぁ……」
溜息とも呆れともつかない声を漏らした電は、へなへなと床にへたり込む。
「妙なところで抜け目ない人なのです……。それで、そのデュエルディスクをどうするのですか?」
「決まってる。試験運用だ」
「というと、デュエルかい?」
「ああ!」
響の問いに、春瀬は頷く。
「司令官、私にやらせて!」
「わ、私も!」
「私もやりたい」
雷、暁、響が次々に手を挙げる。半ば放心状態の電だけは「私はパスなのです……」と首を横に振った。
「ディスクは二台しかないから、じゃんけんで決めましょ。勝った二人でデュエルよ! せーの、じゃんけんぽん、あいこで、しょっ! ……きまりっ! 組み合わせは私と響ね!」
ガッツポーズをした雷は、さっそくデッキケースからデッキを取り出す。
「デッキを入れるのは……ここね。司令官、どっちの腕につければいいの?」
「左腕だ。腕を入れたら固定して、スイッチを入れるとディスクが展開する」
「わっ、動いた! かっこいいわ!」
「うん。悪くない」
分割されたプレートが結合し、デュエルディスクの展開が完了する。軽く腕を振ったり、その場で回転したりして、響と雷は装着したディスクの感覚を確かめる。
「この執務室はデュエルディスクを使うには手狭だから外に出よう。電は休んでおくか?」
「いいえ、私も行くのです」
春瀬と電たち、そしてついでに見学すると言った明石は、広い場所を求めて鎮守府敷地内を歩き回り、とある建物の裏手におあつらえ向きの場所を発見する。場所が決まるや否や、既に準備万端の響と雷は戦意十分な表情で対峙する。
「まさか、こんなに早く決着をつける時がくるなんてね。第六駆逐隊最強は誰か、ここではっきりさせてあげるわ!」
「悪いけど、私も譲る気はないよ。全力でいく」
「上等! いくわよ!」
「「デュエル!!」」
響 LP4000
雷 LP4000
先攻・後攻は、デュエルディスクによってランダムに決定される。今回の先攻は――響。
「私のターン。私は、『強欲で謙虚な壷』を発動」
《強欲で謙虚な壺》
通常魔法
「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。
(1):自分のデッキの上からカードを3枚めくり、その中から1枚を選んで手札に加え、その後残りのカードをデッキに戻す。
響がデュエルディスクの魔法・罠ゾーンにカードを差し込む。その瞬間、カードに描かれた絵と同じ壷が立体映像となって響の前に現れた。
「はわわっ、カードの絵が実体化したのです!」
「すごい、すごいわ!」
人生初となるソリッド・ビジョンを見て、観戦する電と暁が歓声を上げる。デュエルをおこなっている張本人である二人も、一瞬デュエルを忘れて映像に見入る。
「わあっ……!!」
「これがソリッド・ビジョンか。確かに、迫力がある」
心なしか頬を紅潮させた響は、壷から視線を外してデュエルを再開する。
「強欲で謙虚な壺の効果。デッキの上から3枚めくり、その中から1枚を手札に加える」
響のフィールドにある壷の注ぎ口から、三枚のカードが飛び出す。その内訳は、『火霊術―「紅」』と『炎王獣 ガルドニクス』、そして『炎王炎環』。
「私は、炎王炎環を手札に加える。さらに、『おろかな埋葬』を発動。デッキから『炎王神獣 ガルドニクス』を墓地へ送るよ」
「炎王炎環にガルドニクス……。初っ端から厄介なカードを揃えられたわね」
「そして私は、『炎王獣 ヤクシャ』を召喚」
《おろかな埋葬》
通常魔法
(1):デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
《炎王獣 ヤクシャ》
効果モンスター
星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 200
自分フィールド上に表側表示で存在する「炎王」と名のついたモンスターがカードの効果によって破壊された場合、このカードを手札から特殊召喚できる。
また、このカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分の手札・フィールド上のカード1枚を選んで破壊できる。
「炎王獣 ヤクシャ」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
響がモンスターゾーンにカードを置く。すると、まばゆい光を発して一つの影がフィールドに飛び出した。
虎に似た顔を持ち、燃え盛る棒を振るう獣人。響のカードに描かれた炎王獣 ヤクシャ、そのものだった。
「モンスターまで実体化したわ! すごい、すごい!」
召喚されたヤクシャを目にした暁が再び叫ぶ。しかし、興奮状態にあるのは彼女だけではなかった。
「ハラショー……」
自身のフィールドのモンスターを見つめ、響が呟く。その声は静かだが、その瞳は赤々と照る火のような輝きを放っている。
「私はカードを2枚セット。ターンエンドだよ」
「私のターン。ドロー!」
自分の前に立ちはだかるヤクシャを見据えた雷は、ぶるりと身体を震わせる。
「これは予想以上の迫力ね……。燃えてきたわ!」
雷は手札から一枚のカードを引き抜くと、デュエルディスクに叩きつける。
「私は、『
《
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1300/守 600
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
手札から「OToサンダー」以外の雷族・光属性・レベル4のモンスター1体を召喚する。
《ヴァイロン・プリズム》
チューナー(効果モンスター)
星4/光属性/雷族/攻1500/守1500
このカードがモンスターカードゾーン上から墓地へ送られた場合、500ライフポイントを払って発動できる。
このカードを装備カード扱いとして自分フィールド上のモンスター1体に装備する。
このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、装備モンスターが戦闘を行うダメージステップの間、その攻撃力は1000ポイントアップする。
「チューナーモンスター……。さっそくシンクロ召喚を?」
「その通りっ。私は、レベル4のOToサンダーに、レベル4のヴァイロン・プリズムをチューニング!」
ヴァイロン・プリズムが四本の光輪となり、その中にOToサンダーが飛び込む。一筋の光が輪を貫き、新たなモンスターをフィールドに呼び寄せる。
「星海を切り裂く一筋の閃光よ、魂を震わし世界に轟け! シンクロ召喚! 『閃珖竜 スターダスト』!」
《閃珖竜 スターダスト》
シンクロ・効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。
この効果は相手ターンでも発動できる。
現れたのは、星屑の名を持つ竜。その名の通り、星のような光の粒子を振りまいて飛翔したスターダストは、雷の頭上で大きく嘶いた。
「きれい……」
召喚したスターダストを見上げ、雷が呟く。しばしスターダストに見惚れていた彼女は、はっと気づいてデュエルに戻る。
「え、えっと、私はヴァイロン・プリズムの効果を発動。このカードをスターダストに装備するわ」
雷 LP4000→3500
「バトル。スターダストでヤクシャに攻撃!」
雷の命令を受け、スターダストが衝撃波を撃つ。それがヤクシャを撃ち抜く寸前、響がデュエルディスクのスイッチを押す。
「リバースカード発動、『炎王炎環』。場の炎属性モンスターを破壊することで、墓地のモンスターを蘇らせる。私はヤクシャを破壊し――さあ、来い! 『炎王神獣 ガルドニクス』!!」
《炎王炎環》
速攻魔法
自分のフィールド上及び自分の墓地の炎属性モンスターを1体ずつ選択して発動できる。
選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、選択した墓地のモンスターを特殊召喚する。
「炎王炎環」は1ターンに1枚しか発動できない。
《炎王神獣 ガルドニクス》
効果モンスター
星8/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。
また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
ヤクシャの姿が、彼の原初の姿――炎へと還る。炎は火勢を強めて数倍に膨れ上がり、巨大な鳥獣を形作る。そして、羽ばたきとともに炎が払われ、真紅の聖鳥が姿を現した。
しかし、ガルドニクスの表示形式は守備表示。雄々しい外見とは裏腹に、ガルドニクスは身を丸めて防御姿勢をとる。
「ヤクシャの効果発動。このカードが破壊された時、自分の手札・フィールドのカードを1枚破壊する。私は手札のガルドニクスを破壊」
「げっ……これじゃ次のターンにまたガルドニクスが出てくるじゃない。なら、せめて無限ループだけは防ぐわ。スターダストでガルドニクスを攻撃! そしてこの時、ヴァイロン・プリズムの効果でスターダストの攻撃力は1000アップする!」
スターダストの衝撃波がガルドニクスを貫く。しかし、たとえその身が果てても不死鳥の火は絶えない。
「ガルドニクスの効果発動。戦闘で破壊された時、デッキから炎王獣を特殊召喚する。『炎王獣 バロン』を特殊召喚!」
バトルフェイズを終えた雷は、そのままターンを終了する。響のターンとなり、そのスタンバイフェイズ、
「この瞬間、墓地のガルドニクスの効果が発動! カード効果によって破壊された場合、次のスタンバイフェイズに特殊召喚される」
響の前方の地面に、突如として火柱がそそり立つ。それを仰ぎながら、響は高らかにその名を呼ぶ。
「現れよ不死鳥、輪廻の炎で我が敵を焼け! 舞い戻れ、炎王神獣 ガルドニクス!」
火柱を突き抜け、紅の巨鳥が再びその姿を現わす。雄々しい羽ばたきとともに、その両翼から火の粉が散る。
「さあ。本当の勝負はここからだよ」
雪のように降る火の粉の中、響は不敵に笑った。
暁「さあ、あとがきコーナーよ!」
響「今回から、私たち第六駆逐隊がここを任されることになったよ。よろしくね」
電「作者さんからのお知らせを伝えたり、次回予告をしたりするのです」
雷「それじゃ、パパッと済ませましょ。さっそく、一つお知らせがあるのよね」
響「うん。この作品はこれまで隔週日曜日の更新だったけど、次回から毎週日曜の更新にスピードアップするよ」
暁「そんなことして大丈夫なの?」
響「今のところは、ね。でも、ストックがなくなったらまたペースを落とすらしい」
電「更新頻度を変える時は、また私たちがお知らせするのです」
雷「とりあえず、次の更新は来週ってことね。来週は、私と響のデュエルの続きよ」
電「次回、鎮守府決斗録 第八話『不死鳥の咆哮』。こうご期待、なのです」
響「お楽しみは、これからだ」