ターンプレイヤー:響(スタンバイフェイズ)
響 LP4000 手札1枚
<モンスター>
炎王神獣 ガルドニクス(ATK2700)
炎王獣 バロン(ATK1800)
<魔法・罠>
なし
雷 LP3500 手札4枚
<モンスター>
閃珖竜 スターダスト(ATK2500)
<魔法・罠>
ヴァイロン・プリズム(装備対象:スターダスト)
「さあ。本当の勝負はここからだよ」
頭上から無数の火の粉が降り注ぐ中、響は不敵な笑みを浮かべる。
「ガルドニクスの効果発動。自身の効果で特殊召喚に成功した時、フィールド上の他のモンスターをすべて破壊する!」
甲高い鳴き声を上げ、ガルドニクスが全身から灼熱の炎を噴出する。紅い火炎は味方のモンスターをも焼き払い、世の全てを呑み込まんとフィールドを侵掠していく。その魔の手がスターダストに及ぶ寸前、雷がそれを制する。
「させないわ! こっちもスターダストの効果を発動! 1ターンに1度、自分の表側表示のカードを破壊から守る。私はスターダスト自身を選択!」
球体状のバリアがスターダストを包み、迫りくる猛火からその身を守る。聖獣の炎をもってしてもそのバリアを破ることは叶わず、敵の生存を許すこととなった。
「ガルドニクスの効果で私の場をガラ空きにして攻撃するつもりだったんでしょうけど、残念だったわね。スターダストに破壊効果は無意味。そして、ヴァイロン・プリズムを装備していることによって実質的に攻撃力は3500。戦闘での破壊もムリよ!」
「なら、リバースカード発動。『サイクロン』。装備カード扱いのヴァイロン・プリズムを破壊する」
「あぁっ!?」
《サイクロン》
速攻魔法
(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
「これでもう、スターダストの攻撃力は上昇しないよ。いけ、ガルドニクス。スターダストに攻撃!」
既に効果を使用してしまっているスターダストに、身を守る術はない。暴風のように吹き荒れる炎になす術なく焼かれ、灰となってしまう。
雷 LP3500→3300
「きゃっ! ……びっくりした。ソリッド・ビジョンは実際の衝撃も発生するのね」
「あくまで演出用だけどな。臨場感を増すための工夫だから、大ダメージを受けてもそこまで強い衝撃にはならない。ライフがゼロになったからといって、死ぬことはないから大丈夫だ」
雷の言葉に、外野の春瀬が答える。それを聞いた雷はくくっと笑う。
「分かってるわよ、司令官。子どもじゃないんだから、そんなの起きっこないことくらい知ってるわ」
「ああ、俺も分かってる。ただ、誰かが勘違いするといけないから、念のためにな」
「それもそうね」
「うん。確かに」
「……ど、どうして二人して暁のことを見るのよ!」
「別に? 気のせいじゃないかしら」
「私だって、そのくらい言われなくても分かってたわ! 子ども扱いしないで!」
「どうどう。落ち着け、暁」
「もとはといえば、司令官のせいでしょ! ていうか、頭をなでなでしないで!」
「淑女は常に慎み深く。このくらいで怒っていたら、一人前のレディーにはなれないぞ」
「うぅ……みんな、覚えてなさいよ。あとでレインボー・ドラゴンの攻撃をお見舞いしてあげるんだから」
「暁ちゃん、思考回路がさっそくデュエリストになってるのです……」
「暁のことはさておき、デュエルを続けるわよ。私のターン!」
響のエンド宣言を聞いた雷は、デッキからカードをドローする。
「雷のスタンバイフェイズに、前のターンに破壊されたバロンの効果を発動するよ。デッキから、『炎王炎環』を手札に加える」
「炎王炎環……厄介なカードが、また響の手札に……。けど、いいわ。私は私のデュエルをするだけ。私は手札の『サンダー・シーホース』の効果を発動!」
《サンダー・シーホース》
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1600/守1200
自分のメインフェイズ時に、このカードを手札から捨てて発動できる。
デッキから雷族・光属性・レベル4・攻撃力1600以下の同名モンスター2体を手札に加える。
「サンダー・シーホース」の効果は1ターンに1度しか使用できず、この効果を発動するターン自分はモンスターを特殊召喚できない。
「このカードを捨てることで、名前が同じ2体の雷族モンスターをデッキから手札に加える。私は『
《
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻 900/守 400
このカードが召喚に成功した時、
「ONeサンダー」以外の自分の墓地の雷族・光属性・レベル4・攻撃力1600以下のモンスター1体を選択してゲームから除外できる。
このターンのエンドフェイズ時にそのカードを手札に加える。
「ONeサンダーの効果発動! 墓地のヴァイロン・プリズムを除外し、エンドフェイズに手札に加えるわ。私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」
「えっ!?」
雷がとった行動に、暁が驚きの声を上げる。
「攻撃力たった900のモンスターを、攻撃表示……!? 雷ったら、ヤケになったの?」
しかし、電はその言葉に対して首を横に振る。
「……ううん。たぶん、違うのです」
――そう。これは、ヤケなんかじゃない。
雷のフィールドを見つめながら、響も同じことを考える。
――戦闘面では特別な効果を持たない低攻撃力のモンスターを、攻撃表示……。あからさまにも、ほどがある。怪しいのは、二枚のリバースカードか。あるいは……
響は、雷の手札を睨む。
「私のターン」
ドローフェイズ。カードをドローした直後に響は手札のカードを発動する。
「スタンバイフェイズに入る前に、私は『炎王炎環』を発動。フィールドのガルドニクスを破壊し、墓地のガルドニクスを特殊召喚する」
一見すると、同名モンスターが入れ替わっただけの無駄な行為。しかし、響のデッキにおいてはこれが重要な意味を持つ。
「スタンバイフェイズ。カード効果で破壊されたガルドニクスは、次のスタンバイフェイズ――すなわち、この瞬間に復活する。そして、その効果により、このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!」
ガルドニクスの炎が雷のモンスターを葬る。
「いけ、ガルドニクス。雷にダレクトアタック!」
「そうはいかないわ。速攻魔法発動、『フォトン・リード』!」
《フォトン・リード》
速攻魔法
手札からレベル4以下の光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。
「このカードの効果で、私は手札から光属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚できる。もう1体のONeサンダーを特殊召喚!」
バトル中に新たなモンスターが召喚されたことにより、戦闘は一旦巻き戻される。これにより、響はガルドニクスの攻撃を続行するか否かの決断を迫られることになった。
「…………」
ガルドニクスの攻撃を阻むように現れた雷のモンスターだが、その攻撃力は先ほどと同じく僅か900。壁とするにはあまりにも非力。ガルドニクスの攻撃を食らえば、あっという間に破壊されるだろう。
しかし、響は動かない。雷のモンスター、伏せカード、手札を観察し、それから――
「……私は、これでターンを終了する」
バトルを中断し、エンド宣言をした。
「えっ、どうして攻撃をやめちゃうのよ? 相手の方が攻撃力は低いんだから、やめる理由はないじゃない」
不満顔の暁。しかし、
「だからこそ、響ちゃんは攻撃をやめたと思うのです」
「どういうことよ、それ?」
怪訝な表情を浮かべ、暁は電に問いかける。
「ただ壁を作るなら、少しでも攻撃力の高いモンスターを選ぶはず。雷ちゃんの手札には攻撃力1500のヴァイロン・プリズムがあるんだから、ダメージを減らしたいのならそっちを召喚するべきなのです。けど、雷ちゃんはそうしなかった」
「……なにか裏があるってこと? あっ、分かった! もう1枚の伏せカードね」
「それもあると思うけど……でも、響ちゃんが警戒してるのは、きっと別のカードなのです」
「別のカード……? それって?」
「『オネスト』なのです」
緊張を含んだ声で電は答える。
「前に私と雷ちゃんが使ったから、オネストの効果は知ってると思うのです。もし、雷ちゃんのモンスターを攻撃してオネストを使われたら、ガルドニクスが戦闘破壊されて無限ループが崩れてしまう。だから響ちゃんは攻撃をやめたのです」
「でも、それで攻撃しなかったら雷のモンスターがどんどん増えていくわよ?」
「それは心配いらないのです」
「どうして?」
「それは――」
電のあとを継ぐように、デュエル中の響が口を開く。
「雷のスタンバイフェイズ時に、破壊されたガルドニクスの効果を発動。このカードを特殊召喚し、フィールドに存在する他のモンスターをすべて破壊する!」
「あっ、雷のモンスターが!」
「これなのです。ガルドニクスのループさえ維持していれば、相手のモンスターは毎ターン破壊される。だから、無理に攻撃する必要はないのです」
「頭いいわね、響……」
電の解説を聞き、暁は感心したような悔しそうな声をこぼす。
「やっぱり、そのコンボは厄介だわ……。何度も何度も蘇って、まるで不死身ね」
「まあね。不死鳥の名は伊達じゃないよ」
そう答える響の口元には、微笑が浮かんでいる。灼熱の聖獣を後ろに控えさせる姿は、まるで彼女自身が巨大な炎の翼を身につけたようであった。
「不死鳥……確かにそうね。あなたにピッタリのカードだわ。だから、こんなことするのは悪い気もするけど……」
雷は、ピンと立てた人差し指を響に向ける。
「その炎、消させてもらうわ!」
「ほぉ……」
雷の言葉に、響は僅かに眉を上げる。
「面白い。どうするつもりだい?」
「こうするのよ! 私は、『
《
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1400/守 700
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
手札から「OKaサンダー」以外の雷族・光属性・レベル4のモンスター1体を召喚する。
「OKaサンダーの効果で、手札からヴァイロン・プリズムを召喚。さらに、魔法カード『死者蘇生』を発動!」
《死者蘇生》
通常魔法
自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。
「その効果で、私は自分の墓地からサンダー・シーホースを特殊召喚するわ。そして、3体のレベル4モンスターでオーバーレイ!」
雷のフィールドにいる三体のモンスターが、光の固まりへと姿を変える。三筋の光は地表に現れた光の渦へと呑み込まれ、直後、まばゆい光が渦の中心からほとばしる。
「現れなさい、No.16! 『色の支配者ショック・ルーラー』!!」
雷の頭上に、立方体の中に立方体が入ったような形をした立体が現れる。フィールドに現れた立体はゆっくりと変形を開始し、赤紫色のモンスターへと姿を変えた。
《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/天使族/攻2300/守1600
レベル4モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言して発動できる。
次の相手ターン終了時まで、宣言した種類のカードをお互いに発動できない。
「ショック・ルーラーの効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、次の相手ターン終了時まで、お互いに魔法・トラップ・モンスター効果のどれかを発動できなくする。私はモンスター効果を選択! これで次のターン、ガルドニクスが復活することはできなくなったわ。私はこれでターンエンドよ」
「私のターン」
スタンバイフェイズになるが、ショック・ルーラーによってモンスター効果を封じられているためガルドニクスが蘇ることはできない。これにより、ガルドニクスの輪廻は断ち切られた。
しかし、デッキの根幹となるコンボを破られても響に焦りの色はない。
「やるね、雷。だけど、キミの作戦は諸刃の刃でもある」
「なんですって?」
「モンスター効果を発動できないのは、お互いに同じ。このターンが終わるまで、雷もモンスター効果を使うことはできない。たとえそれが手札からでも、ね」
特定のカードを念頭に置いた口調で響が言う。
「だから、この攻撃を阻むものはない。いけ、ガルドニクス! ショック・ルーラーに攻撃!」
天高く飛翔したガルドニクスが炎をまとい急降下する。しかし、響の予想とは裏腹に、雷はこの攻撃に対して行動を起こした。
「待った! トラップ発動、『
「なっ、トラップ!?」
《
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、その相手モンスターの攻撃力分だけ、自分フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスター1体の攻撃力を、次の自分のエンドフェイズ時までアップする。
突如としてショック・ルーラーの全身が発光し、ガルドニクスの目をつぶす。一時的に視力を失ったガルドニクスは戦闘を続けることができず、地上に下り立つことを余儀なくされた。
「まさか、トラップがあるなんて……」
「なにそんなに驚いてるのよ? 響がなにを考えてたかは知らないけど、攻撃力で負けることが分かってるモンスターをそのままにするはずないでしょ。響のことだから、罠があることは承知で攻撃したと思ってたけど」
「っ……」
響は悔しげに唇を噛む。それは、雷の言葉に対してというよりも、彼女の罠を見落としていた自分に対してのものであった。
「……ターンエンド」
「私のターン! いいかげん、そろそろ響にもダメージを受けてもらうわよ。私はショック・ルーラーの効果を発動。もう一回モンスター効果を選択するわ。バトル!」
雷の宣言に響が身構える。
「光子化の効果で、今のショック・ルーラーの攻撃力は5000。ガルドニクスに攻撃!」
「ぐっ……」
響 LP4000→1700
響のライフが一気に半分を割る。ガルドニクスのリクルート能力も封じられて使えず、その結果、響のフィールドからはモンスターの姿が消えてしまった。
「これで形勢逆転ね! ターンエンドよ」
がら空きの場を持つ響にターンが移る。更地になった自分のフィールドを見つめながら、響は感嘆の情を込めて言う。
「……驚いた。まさか、ガルドニクスを二体とも倒すなんて。どうやら、雷のことを甘く見てたみたいだ」
「でも」と、響は言葉を接ぐ。
「それは、雷も一緒だよ。不死鳥の炎は、決して絶えない! 魔法カード発動、『炎王の急襲』!」
《炎王の急襲》
通常魔法
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。
デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。
「炎王の急襲」は1ターンに1枚しか発動できない。
「何度傷つこうと、どんな困難に遭おうとも……それでも倒れない。それが不死鳥。さあ、いま再び舞い上がれ! 炎王神獣 ガルドニクス!」
炎とともに飛び立ち、天空に君臨する王者。紅の翼を持つ不死鳥が、再度の転生を果たしてフィールドに蘇った。
「また復活!? でもっ、この攻撃を受けてもライフはまだ残るわ! 次のターンで、今度こそ倒す!」
「残念だけど、それはできない」
「え?」
「いま引いたこのカード。これで勝負を決める。魔法カード『真炎の爆発』!」
《真炎の爆発》
通常魔法
自分の墓地から守備力200の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。
「このカードの効果により、守備力200以下の炎属性モンスターを墓地から可能な限り特殊召喚する。私は、条件を満たす二体のモンスター……バロンとヤクシャを特殊召喚!」
「攻撃力1800が二体……てことは……」
「バトル。ガルドニクスでショック・ルーラーを攻撃、残りの二体で雷にダイレクトアタック。いけっ!」
「きゃああっ!」
雷 LP3300→0
「あーあ、負けちゃったか……。今回はおとなしく、最強の座は響に譲るわ」
「二人とも、お疲れなのです」
デュエルを終えた二人のもとへ、電と暁が駆け寄る。
「おめでとう、響。さすが、この私を倒しただけのことはあるわね!」
「なにさりげなく自分も持ち上げようとしてるのよ」
苦笑しつつ暁を小突く雷。春瀬とともに少し離れたところにいた明石は、その光景を見ながら「これだわ!」と手を打つ。
「立体映像を使ったカードゲーム! 娯楽性だけでなく、戦略性も兼ね備えてる……これは売れるわ!」
目を輝かせた明石は、春瀬に一礼するや否や鎮守府庁舎へと全速力で戻っていく。
「それにしても接戦だったわね。二人ともデュエル後半まで全然ダメージ受けなかったんだもの」
二人のデュエルを振り返って暁が言う。
「そうでもないわよ。本当は強化したスターダストでガルドニクスを倒すつもりだったのに、いきなり攻略されたから大変だったわ」
「けど、響も楽じゃなかったみたいよ。雷がオネストを持ってたせいで攻撃できない場面もあったし」
「え?」
暁の言葉に、雷は眉を寄せる。
「……オネスト? そんなの、私の手札にはなかったわよ?」
「え?」
今度は暁が聞き返す番だった。「で、でも」と暁は続ける。
「響が攻撃する時にモンスターを攻撃表示で出してたじゃない。電も、雷があんなことするのは手札にオネストがあるからだって……」
「あ、あの、暁ちゃん。私は、響ちゃんがオネストを警戒してるとは言ったけど、雷ちゃんの手札にオネストがあるとは言ってないのです」
「……そうだっけ?」
「なのです」
暁の問いに、こくりと電は頷く。一瞬、その場に微妙な雰囲気の沈黙が流れる。
「じゃ、じゃあ、オネストがなかったんなら、雷はどうして弱いモンスターを攻撃表示で出したのよ?」
暁が向けた質問に、雷はこともなげに答える。
「どうしてって、チューナーは手札にとっておきたかったし、フォトン・リードも攻撃表示でしか召喚できないからよ。それに、フィールドには光子化も伏せてあったから、攻撃を受けても心配なかったし。……あ、もしかして。私がトラップを発動した時に響がやけに驚いてたのも、オネストのことばかり警戒してたから?」
響が頷いたのを見て、雷は「なるほどね」と納得する。
「あんなトラップに気づかないなんて、おかしいなとは思ってたのよ。けど、オネストを警戒しすぎて伏せカードを見落としたのなら、それも納得だわ」
「オネストは私と雷ちゃんのデュエルでも活躍してたから、警戒するのも無理はないのです」
「そうね。今回は意識してなかったけど、次からはこれを利用してハッタリをかけるのもアリね」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、雷が言う。
「ねえ司令官。私たちのデュエル、どうだった?」
「楽しませてもらったよ。二人とも良かったぞ」
春瀬の返事を聞き、雷ははにかみ顔をつくる。
「さて。それじゃ執務室に帰るか」
春瀬に促され、四人は鎮守府庁舎へと足を向ける。しかし、「待てッ!!」という鋭い声が彼らを引き止めた。
足を止め、春瀬は声のした方、後ろを振り返る。そこに立っていたのは、彼の軍服とは別の制服を着た二人組の男性だった。
「どうしましたか、憲兵さん?」
二人の制服から役職を判断した春瀬が尋ねる。憲兵は「どうしたもこうしたもあるかっ!」と憤りもあらわに春瀬を睨む。
「この出歯亀が! 風紀違反で貴様を連行する!」
「は!?」憲兵の言葉に、春瀬は耳を疑う。
「ちょっと待てください。俺は何もしてませんが」
「何もしてない、だと……!」憲兵のこめかみに何本もの青筋が立つ。「こんな場所で、よくも抜け抜けと言えたもんだな!」
この建物を見ろと、憲兵は春瀬たちのすぐそばに建っている建物を指さす。
「貴様。この施設が何か、分かるか?」
「この建物? これは――」
そこで、春瀬の言葉が止まる。彼は一瞬、はっと何かに気づいた表情をし、直後に顔面を蒼白にする。両目は一点を凝視し、口は丸く開いたまま固まる。よく見ると、彼の唇は小刻みに震えていた。
「言葉を詰まらすだけの良心は残ってるようだな。……そうだ。この建物は艦娘のドック。艦娘たちが湯に浸かりつつ戦いの傷を癒す場所、有り体に言えば浴場だ!」
「入渠中の艦娘たちから、ドックの裏が騒がしいとの通報を受けてな。何かと思って来てみれば……出歯亀提督が一人、覗きをたくらんでいたというわけだ。しかも、誘拐の現行犯ともきた」
「いや、誤解だ! こいつらは俺の麾下の艦娘だし、俺は覗きなんかしていない!」
「そうなのです! 司令官さんは悪くないのです!」
「そうよ。私たち、誘拐なんてされてないわ!」
「くっ、子供たちの従順さを楯に取り、我が意に従わるとは……! 憲兵として、いや一人の人間として、貴様を絶対に許さん!」
「だから誤解だ! 話せば分かる――」
「問答無用!」
言うや否や、二人の憲兵が春瀬に飛びかかる。春瀬も多少の護身術は心得ているが、相手は警察業務を主とする憲兵、それも二人がかりとあってはたまらない。たちまち拘束され、動きを封じられる。
「さあ、来い!」
電たちが必死に春瀬を弁護するが、その声は彼が覗き犯であると確信する憲兵の耳には届かない。結局、春瀬は二人によって連行され、残された電たちは途方に暮れてその場に立ち尽くすのだった。
雷「ど、どうしよう!? 司令官が連れて行かれちゃったわ!」
電「憲兵さんたち、すごく怒ってたのです……。司令官さん、大丈夫でしょうか?」
暁「二人とも、落ち着きなさい。司令官は何も悪いことしてないんだから大丈夫よ」
雷「そ、そうよね。私たちの司令官だもの。きっと大丈夫よね」
響「暁がお姉さんらしくしてるなんて……明日は雪かな」
暁「響、マジメな雰囲気なのに茶化さないの! 次回予告でもしてなさい」
響「了解。次回、『奴をデュエルで聴取せよ!』。デュエル・スタンバイ」