少女たちの頭上を、轟音を上げて奇怪なシルエットの物体が矢の様に通り過ぎて行った。
「速い....!高射装置が捉えきれない....!」
「きゃあっ!?被弾!?」
忘れるなとばかりに、大口径の砲弾が少女の回りの海上に突き刺さり、爆ぜる。
「姉さん!」
『Telescope1より作戦参加中の艦娘、敵機種別は"ハインケル162"』
「機種が分かったからってなんだ、他人事だと思って....!」
「まだ....まだ行けます!」
「秋月、無理をするな!初月!」
「言われなくても!両舷一杯!撃ち方、始めェッ!」
初月と呼ばれた少女の両脇に据え付けられた奇妙な形の砲兵器が、盛んに曳光弾を吐き出す。
が、当たるものではない。
「偏差を取ってこれか、情けない....!」
「初月!後方雷跡ーーーッ!」
「何....うわあぁぁぁッ!」
轟音と共に、初月の足元から、巨大な水柱が伸びる。
敵機対艦魚雷の直撃である。
「初月、無事か!」
「FCSをやられましたが、航行は可能です....面目ない、最新型とあれだけ調子に乗っておきながら」
「無理もない、あれを相手取るのは日本では我々が初めてだろう....海外に僅かに接触例があるだけの、奴らの最終兵器だ。退くぞ初月、データも貴重な戦力だ。これで撃破できず貴様らまで失ったらそれこそ、我々は完全に負ける」
「長門さん、あなたの対空砲弾でなんとかならないのか?」
「ダメだ、先の長距離砲撃で砲閉鎖機構をやられた」
「では、どうするんですか!?隼鷹さんだってもう....!」
「言うな!....これ以上の作戦行動続行は不可能と判断する。全艦、反転180度....」
「敵機正面方向!来ます!」
青黒く禍々しい機体が、耳障りな高音を立てながら、回避機動すら取らずに直進してくる。
敵は、勝利を確信している。
「全艦、回避運動....」
「手動照準、撃ち方始めェ!!!」
「初月ッ!?」
先の雷撃で高射装置を破壊され、その精度は言うまでもない。
しかし、敵機の進路を逸らす事には成功する。
「僕が留まって敵を撹乱します....長門さん、姉さんを頼みます」
「貴様、死ぬつもりなら容認できんぞ」
「....策はあります。奴ら恐らく今の射撃の精度を見て更に慢心し切っている....幸い予備の砲身が無事です。移動目標に当てるのは高射装置が無ければ難しいが、正面に弾を飛ばすのは得意です....所謂、ヘッドオンですよ。次に旋回を終えた時が奴らの最期だ」
しかし、長門は初月の砲兵器の基部が歪んでいる事に気づいている。
これでは、正確に前に飛ばす事は不可能だろう。
しかし初月も、それを知っているのだ。
「貴様、正気か」
「正気で戦争はできないでしょう」
「....秋月!撤退するぞ」
「はい!」
長門と秋月が並んで増速する。
が、初月はそれをしない。
「初月....?撤退よ?」
「僕は、奴らを叩き落してから行くよ....何、そう時間はかからないと思うから」
「そんな....ふざけないで」
「秋月!」
長門が、一喝する。
「初月を信じてやれ」
欺瞞である。
長門は、帰還後秋月に力の限り罵倒される覚悟を決めた。
そして、その覚悟は3秒で粉砕された。
『こちらテレスコープ、まもなく援護機がそちらに到着する』
「なに....?待ってくれ、このあたりに展開中の航空自衛隊機がいるとは聞いていないぞ」
『空自じゃない、海上自衛隊だ、
「クーガー....第101航空隊!?」
1989年に未知の敵性水棲生物....深海棲艦が出現してから、世界はこれを口実に一旦は集結した軍拡競争を再開していた。
極東での足がかりを盤石なものとしたいアメリカは、日本に政治的圧力をかけつつ技術供与と格安での兵装販売をちらつかせ、日本の対深海戦力整備という建前で(海自の悲願だったのもあるが)、海上自衛隊にCATOBAR式の核動力正規空母を建造・保有させる事に成功した。
その艦載機隊には、F-86「旭光」退役後欠番となっていた100番台が航空自衛隊より譲られ、101から108までの航空隊が編成。
これら航空隊が運用する機体の供給も、アメリカは織り込み済みであった。
彼らは、日本に対し3つの機種を提案。
1997年には、F-2支援戦闘機にかかりきりの三菱に代わり、川崎重工業と「ノースロップ・グラマン」社の間に契約が締結。
F/A-18ホーネット、AV-8BハリアーⅡを下し、晴れて日の丸を背負う事となったその機体こそ、かつて第3次F-Xの折、マクドネル・ダグラスF-15に敗れた世界最高の艦上戦闘機、
F-14 トムキャットであった。
『Goshawk's Supersonic. I'll be there in 30 seconds』
雰囲気の試作