超音速   作:ネコガメ

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第13話

 『エンタープライズ』遭遇事件が闇に葬られてから数日、『かさぎ』も無事にスービック湾へ入港し、その日から半舷上陸が発令。

 クルーは思い思いにフィリピンの街へ繰り出していた。

 そして、日が沈みかける様な時刻になってから、一人ギャングウェイから降りてくる男がいた。

 ホークである。

 

「あれぇ....この時間から外出ですか」

 

「久々に娑婆の様子を見たくなってな」

 

 乗船口を警備していた顔見知りのクルーと挨拶を交わし、正門から車道へ出る。

 別段どこへ行こうと言う当てがあるのではない。

 ただ単に、久々に酒が飲みたくなっただけである。

 

 『かさぎ』の停泊している軍港から繁華街までは10kmほどあるが、タクシーを拾う気にもなれず、距離からしても2時間かからないだろうと言う事で、歩いて行くことにした。

 


 

 マリタン・ハイウェイからアーグナント・ハイウェイに沿って歩き、リサル・ハイウェイで右折。

 本来車道であるのだが、戦時下であるからか、それとも深海棲艦による海路寸断によるものか、あるいはその両方なのか、車は全くと言っていいぐらいに走っていない。

 しかし、歓楽街へ近づいていくと一転、次第に喧騒が大きくなり、人の密度も段々と増してくる。

 現在ホークのいるアジナンの街は、かつては低層の住居が立ち並び、開けた土地も多く残る閑散とした街であった。

 しかし、アメリカのハワイ失陥をきっかけとして、東アジアでの足場を固めるためにスービック基地、及びその北東に位置するクラーク空軍基地が緊急で増強され、駐留軍の規模も大きくなった結果、日本で言う横須賀と同じ様な経過をたどり「軍港の街」として発展。

 現在では、首都マニラと遜色ない一大都市となっていた。

 

 当然、酒場も相応に多い。

 最初に目についた、特に中からの喧騒が大きいダイニングバーにふらりと入る。

 この時ホークの頭には、喧噪が多い方が相対的に自分が目立たなくていいだろうという打算もあった。

 

 しかし入った瞬間、その店内だけが切り取ったかのように静まり返る。

 貸し切りであったのか何なのか、店内には軍人と思しきガタイの良い白人数十名で埋まっていた。

 

「あー....酒飲みたいんだけど、いいかな?(I'm craving a drink. Is that okay?)

 

 ホークのつとめて軽い口調での質問に対し、男たちは既に大分酔っていたのか上機嫌で突然の闖入者を歓迎する。

 

「いいともいいとも!おい、開けてやれ」

 

「飛び入り参加か、歓迎するよ」

 

「東洋人か....珍しいな」

 

 向けられる奇異の目に、若干別の店にすればよかったかと後悔しつつ、男の中の一人に案内されて席に着く。

 と、同時に男たちからの質問攻めが始まる。

 

「どこから来たんだ、中国か?」

 

「いや、日本だ....」

 

「日本人か....!益々珍しいな」

 

「そんなにか」

 

「この辺で見る黄色人種は殆どが中国人だ、日本人はあんたが初めてだぜ」

 

「....おかしいな、俺の仲間が来てる筈なんだが....あ、アプフェルコルンあるかな」

 

「ここへは何をしに?」

 

「観光さ....フィリピンは初めてなもんで」

 

「始めてなのか!?見えないねぇ....」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 と、ここで目ざとくも、男がホークが身に着けていた”ある物”に気づく。

 ホークの着ているCWU-36Pフライトジャケットの左胸に縫い付けられたネーム・タグ、その中央に堂々と刺繍された、ウィング・マークである。

 先程ホークを案内した男が、ニヤニヤと笑いながら問いかける。

 

「おい、コイツは何だ?」

 

 彼は、ワッペンが大量に縫い付けられたホークのジャケットを、ミリオタによる模造品か土産物だと思っているのである。

 

「何って....ネームタグだろう」

 

「サヤマ....ケイイチ....ゴスホーク?有名人なのか?」

 

「全然?一兵卒だ」

 

 男ら、怪訝な表情で顔を見合わせる。

 有名人のネームタグのレプリカだと思っているからだ。

 

「何でそんなものつけてるんだ?」

 

 ここでホーク、これはこいつら分かっていないなと勘づき、右袖から腕を抜いて、右肩を見せる。

 そこにあったのは、三枚重ねで縫い付けられた、同じ柄....星条旗を背景に、灰色の猫が格好つけてポーズをとるワッペン。

 一番上のものの下部には、「2000 HRS」と刻まれている。

 

「What....what the....」

 

「Oh My....」

 

 途端に男たちへ驚愕の波紋が伝播し、俄かに店内が騒がしくなる。

 

「それ、本物か?」

 

「勿論....まさか、あんたらもか?」

 

 それを聞いて、一人がお返しとでもいう様に自慢げな表情で自分のジャケットを見せる。

 肩には、ホークと同じ灰色の猫のワッペン。

 右胸には、白い縁取りの黒四角に、骸骨をあしらったワッペン。

 

「VF-84....Jolly Rogersか!」

 

 ホークの言葉に続いて、彼を案内した男が名乗りを上げる。

 

「その通り!俺がDavid Leicester ”drain”、こっちが飛行隊長の....」

 

「Thurgood Marshall”TAM”だ....知り合えて嬉しいよ、Goshawk....こういう場所だ、堅苦しいのは抜いていこう」

 

 同じトムキャット・ライダーとの邂逅という僥倖に、お互い固い握手を交わす。

 

「こちらこそ....よければホークと呼んでくれ、仲間内ではそれで通ってる。じゃ、改めて....海上自衛隊第101航空隊所属、狭山敬一、階級は大尉。コールサインの由来は酔っぱらってT-45を褒めちぎって....」

 

 所属を名乗ってから何かに気づいた様に考え込んでいた隊員が、突然声を上げる。

 

「ワンゼロワン....待て、クーガーズか!?」

 

「なんだ、知ってるのか。有名になったもんだな、ウチも」

 

「知ってるもクソも....」

 

 男が続けた言葉は、ホークの予想を全く外したものであった。

 

「ついこの間、お前のお仲間が俺達の頭の上を通り抜けていったのよ、ありゃ確か....105か?6か?」

 

「6だ、106号機」

 

 ホーク、不覚にも飲んでいた酒を吹き出してしまった。

 

「....それ、俺だわ」

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