艦載機の発艦が終了した『かさぎ』CDCでは、殆ど間をおかずに、艦娘及び攻撃隊突入支援のため、対艦攻撃の準備が進められていた。
「目標座標受信しました、配置につけます」
「了解、対地戦闘用意!」
オペレーターがプラスチックのカバーを開き、赤いスイッチを押すと、全艦内に甲高い電子音が響き渡り、クルーの配置が艦載機運用から、個艦戦闘態勢へと切り替わっていく。
「対地戦闘、トマホーク攻撃始め、サルボー!」
『エンゲージ、トマホーク』
『発射用意....撃てェ!』
『トマホーク、サルボー!』
オペレータによってコンソールのスイッチが押されると、直ちに『かさぎ』船体右後方に設置されたVLSのハッチが開き、爆音と共にMk106固体ロケットブースターが点火。
数発のBGM-109”トマホーク”が轟音と共に上昇し、ブースターを切り離してF415-WR-400ターボファン・エンジンが作動、安定翼を展開して水平へ姿勢を変え、巡行を開始する。
『着弾まで100分....』
「Texas1-1, Cougar7, Request rejoin」
『Cougar7, Texas1-1, proceed to pre-contact at 20000 at velocity 260....』
空母のいる海域からハワイ諸島までは実に1400km以上、F-14の航続距離のおよそ半分近くにも相当する距離がある。
この作戦に空中給油が設定されているのは、このためであった。
「Ready pre contact」
『Cleard contact』
空中給油機より、接続許可が出た。
しかし、ホークの駆る106号機、フラフラと給油機の後ろをうろつくだけで一向にプローブが刺さる気配がない。
プローブ&ドローグ方式の空中給油は、空母着艦の次程度には難しい技術であるから、それもその筈である。
ホーク、無言で右手のスティックと左手のスロットル、それに両足のラダー・ペダルへ全神経を集中させ、米空軍所属のKC-135『ストラトタンカー』が発する後方乱気流に抗う為、文字通り全身全霊を以て機体を安定させにかかる。
無意識のうちに歯を食いしばり、気温の低い高高度ながら、その顔には汗が浮き出ている。
「................Contact!」
「うるせえ」
あまりの緊張具合に半ば絶叫の様な接続コールが出てしまい、後席のプレイヤーから冷静に窘められる。
しかし、プローブ&ドローグは流量が少ないために、ここからまた数分この状態を維持しなければならないのである。
「おい、作戦前に体力使い切るなよ」
「....無茶言うな....」
プレイヤーが心配から声をかけるが、どうも手遅れのようであった。
『Cougar7, Telescoop1, alpha check Bullseye 080/210』
「Telescoop1, Cougar7, Good alpha check」
ウェイポイント1へ到着次第オート・パイロット(ホーク、これに任せて休憩していた)を切り、流れ作業でアルファ・チェックを済ませ、空中を旋回しつつ待機する。
現在時刻は、午前2時48分。
と、オアフ島手前の海上で無数の爆光が炸裂。
続いて、マズル・フラッシュと思しき光が複数、ぽつぽつと現れ始める。
前者はトマホークの着弾、後者は艦娘が交戦を開始したのだろう。
「始まった!」
「慌てるな、まだだ」
焦るプレイヤーを宥めていると、突然空中管制機からの通信が飛び込む。
『こちらはTelescope1!作戦参加中の全機に告ぐ、制海権確保が予定より早い!攻撃開始時間を繰り上げる!』
『「マスターアームオン!」』
最後まで聞くや否や、2人揃って武装の安全装置を解除する。
『Telescope1より作戦参加中の全機へ!現在時刻を以て”ヘアピン”作戦はフェイズ2へ移行!』
「Cougar7, Radar contact」
『Cougar8, Radar contact, same target』
旋回を中止して作戦空域方面へ向き直ると、両機後席の
だが、まだ撃つ事はできない。
同士討ちを避けるため、交戦の際は該当機を確実に敵と確認することが、規定により定められているのである。
「Telescope1, Cougar7 Declare bullseye 045/285 18000」
『Cougar7, Telescope1, Contact is HOSTILE, ENE group Track WSW, You are Cleared to Engage』
「Wilco!Cougar7, Engage!」
『うっひょー、敵さん景気がいいねぇ、Cougar8, Engage!FOX-3!FOX-3!』
敵機の多さに感嘆しつつ、先んじて攻撃を仕掛けたのはレイマンであった。
現在の106/107号機の兵装は、汎用性を重視して、AIM-9X”サイドワインダー”2発とAIM-120B”AMRAAM”4発、それに燃料気化弾頭のAIM-54D”フェニックス”2発という内訳である。
レイマンが操縦桿のトリガーを引くと、一瞬のタイムラグを挟んで、107号機の主翼基部パイロンに取り付けられたAIM-54が炸薬によってランチャーから切り離され、ロケットモーターに点火。
母機を離れて、レーダーの示す敵機の方向へ加速を始める。
「Cougar7, FOX-3!」
続いてホークの106号機もAIM-54を発射、都合4発のフェニックスが横並びになって、超音速で敵迎撃機の大編隊へ突っ込んでいく。
着弾迄の時間は、それぞれコクピットとRIO席のMFDによって確認することができる。
「初弾Pitbull, 着弾迄5....4....3....2....1....」
着弾。
遥か前方で巨大な火球4つが膨れ上がり、逆光の中に灼けていく敵機の群れがガラスにこびりついたゴミの様に映っている。
『Telescope1, Lead group VANISHED, Trail group continue HOT!』
空中管制機が、敵編隊の”消滅”と、後続隊の接近を伝える。
「不味い....敵後続隊、攻撃隊に接近!」
『ホーク、方向が攻撃隊と被るぞ!』
プレイヤーとレイマンがほぼ同時に叫ぶ。
敵機の位置が味方と同軸線にあった場合、誤爆の危険性が高まる為、攻撃できないのである。
「....レーダーモードACM」
『は?』
「高速進入、スレ違い様に辻斬りして進路を逸らす!」
『マジかよ....』
そう言うなり、困惑するプレイヤーを尻目にスロットルを上げ、機体の可変翼を閉じて高速飛行形態とし、敵機に向かって自分自身が加速する。
つまりは、サイドワインダーで一撃離脱戦法を取り、敵機の進路を逸らそうという即興戦術である。
誘導兵器を持たず、速度性能も第二次大戦時代並の性能しかない深海棲艦の艦載機が相手だからこそできる所業である。
「Cougar7,