超音速   作:ネコガメ

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第18話

「ちっ....くしょうッ....一体どこから湧いて....!」

 

「瑞鶴さん、VT弾を使います、敵機を誘導してください」

 

「了解、私の機に当てないでよね!」

 

「承知!」

 

 初月の要請に応じ、瑞鶴機が巧みに敵機を煽り、初月の射線上へ誘き寄せていく。

 

 『かさぎ』は、同艦所属の海上歩兵隊から特に夜戦の得意な艦娘を選抜、さらに翔鶴・瑞鶴の両空母に、アメリカより供与された艦娘搭載用の夜間戦闘機『F6F-5N』を搭載して制空権確保の補助とし、攻撃隊の突入経路確保・維持に当たらせていたが、突如海中から出現した深海攻撃機の奇襲を受け、また空母二人は不慣れな機種を運用しているとあって、防戦を強いられていた。

 

「....高射装置、対空電探連動....そこだ、撃てッ!」

 

 初月の両舷と言うべきか、腰部ユニットの左右に据え付けられた長10cm砲が旋回、盛んに弾幕を張る。

 今度は米国製の対空電探の恩恵もあり、以前の様に撃てども当たらぬという事はなく、その弾は確実に1機づつ、時には1射で2機、3機を同時に屠り、敵編隊を切り崩していく。

 

「五十鈴さん!弾幕薄いぞ!」

 

「そんな事言われたって....私対潜の方が得意なのよ!」

 

 そんな中、彼女らから数百メートルほど離れた空域を、轟音と共に通過していく無数の航空機。

 

「攻撃隊だ!」

 

 その航空機の一つが、フレア1発を放出する。

 

「成功!攻撃は成功!」

 

「やったわね....旗艦瑞鶴より翔鶴、皆中....繰り返す、皆中!」

 

『こちら翔鶴、了解....撤退します』

 

「着艦開始....初月!五十鈴!適当なところで切り上げるわよ!」

 

「了解、こちらも殆ど落とした!」

 

 が、その気の緩みを、敵は見逃してはくれなかった。

 

 被弾しながらも残っていた雷撃機が、瑞鶴へ向けて擲弾、母機はそのまま海上へ墜落、爆発するが、魚雷はそのまま瑞鶴へ向けて直進する。

 3人の艦娘、墜落機の爆発は目視できれど、水面下の魚雷には誰も気づかない。

 最も、擲弾の瞬間を見ない限り、この闇夜で雷跡に気づけというのが無茶な話ではあるが....

 

「残った敵機は....撤退していくわね。対空警戒解除、二人とも、損害は....」

 

 爆発。

 

「キャアアアアッ!?」

 

「瑞鶴さんッ!?」

 

 対艦魚雷に回避行動すら取らずまともに被弾し、無事で済むわけがない。

 喰らった側である左足の推進システムは無惨にもひしゃげ、飛行甲板前半部がもげ取れている。

 

「雷撃....どこから!?」

 

「さっき落ちた機体ね....鼬の最後っ屁って所かしら、随分臭いものね。また翔鶴姉に説教されちゃう」

 

「なんか、大丈夫そうですね」

 

「ええ、推進器はやられたけど、浮力に問題はないわ....飛行甲板はダメね、翔鶴姉に連絡を....ああ、無線機も....明石さん、キレるだろうなぁ....」

 

「瑞鶴さん、艦載機よりまずは自分の心配をしなさいよ。ホラ、ワイヤーを....」

 

 ここで、五十鈴の耳が遠くの水音を聞き取る。

 対潜戦闘が得意である故、彼女は耳もいい。

 

「着水音....雷撃!?敵機方位220!」

 

「何!?....あれか!」

 

 初月、離脱しようとしていた敵機を砲撃一発で叩き落とすが、同時に意味がない事をしているという感情が頭の中に擡げる。

 魚雷は、既に擲弾されている。

 深海棲艦の魚雷は、ある程度誘導が効く。

 万全の状態であれば簡単に振り切れる程度のものだが、今回はそうはいかない。

 

「ええい二人とも離れなさい!あんた達まで吹き飛ぶわよ!」

 

「できるもんか!ワイヤー!早くしろ!」

 

「今やってるわよ!」

 

「バカ....!」

 

 五十鈴・初月両名、もたついた手つきで瑞鶴の腰部艤装にワイヤーを繋ぎ反転、これでもかという増速をかけ、曳航にかかる。

 が、五十鈴、絶望の権化かと錯覚する様な音を聞いた。

 既に魚雷は、航走音が聞こえる様なところまで迫っている*1

 

「魚雷、距離50!」

 

「魚雷はいい!両舷一杯!缶が焼け付くまで回せェーッ!」

 

「早く逃げなさい!時間がないのよ!」

 

「時間が無いからこうして引っ張ってるんだろうが!」

 

 しかし、破損した瑞鶴の艤装は駄々をこねるが如くとろい動きしかしない。

 少女二人で一人を曳くなら簡単に動きそうなものだが、”史実”での排水量がそれを許さない。

 

「魚雷距離30!」

 

「黙れ!」

 

 五十鈴の耳は、はっきりと死が近づいてくるのを感じ取る。

 が、初月と同じく、諦める事はしない。

 

「ワイヤー切って逃げろって言ってるのよ!死にたいの!」

 

「同じ事を....何度も言わせるな!」

 

 その間にも、魚雷は航走を続ける。

 

「くそっ....こんなッ!」

 

 初月が、己の機関の出力不足を呪ったその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあ!?」

 

 特徴的な連続した爆音と共に、高レートの曳光弾が水面を撫でる。

 次いで水面が爆ぜて白い水柱が上がり、その水柱をブチ抜いて巨大な猛禽類のようなシルエットが出現。

 後部の二つのノズルから橙を帯びた白い光を放ち、艦娘達の頭上を飛びぬけて、二等辺三角形へ変形しながら上昇していく。

 

「トムキャット....!?」

 

『Cougar7より瑞鶴、被害状況を知らせろ。自分では成功したと思ったんだが....』

 

「ホーク大尉か!?」

 

『正解、ゴスホークだ。お前は....えー....耳毛がある方の....』

 

「初月だ、いい加減覚えてくれ....瑞鶴さんは元から被弾して中破状態だが、今の雷撃は喰らってない。一体何をどうしたんだ?」

 

『機銃で撃ったんだ』

 

「それはわかる....!だからそうじゃなくてだな....」

 

『なんで雷跡が見えたんだって方か?』

 

「そう、そこだ!」

 

『俺達アヴィエイターは夜目が効くのヨ』

 

「なんだそりゃ....」

 

 彼に限らず攻撃隊・哨戒隊の全隊員は、今回の任務において夜間飛行の補助とする為に、NVG....ナイトビジョン・ゴーグルを持参していた。

 ホークはこれにより、熱走式魚雷の航跡を目視することができたのである。

 

『援護が必要か?』

 

「あー....曳航しなきゃいけないんだが、だいぶ時間がかかりそうだ」

 

『了解、俺らはもう弾がないんでな、援護機に引き継ぐ。Cougar7, OUT』

 

 ホークとの通信を終えた所で、五十鈴が初月に詰め寄る。

 

「....ところであんた、仮にも先輩に酷い言い草だったわね」

 

「忘れて下さい、僕も必死で....」

*1
耳の良い五十鈴だからこそである。無論初月と瑞鶴には聞こえていない。

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