超音速   作:ネコガメ

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第19話

 作戦後、勝利の余韻に浸るクーガー中隊のレディ・ルームを、珍しい人物が訪ねた。

 

「瑞鶴ちゃん....!ダメだよ、艦娘がこんなところ(艦首側)来ちゃ....」

 

「あの....ホーク大尉、いますか?」

 

「あいつ寝てるぜ....それも俺とフレクスの席まではみ出して」

 

「ひ、肘掛けの上に寝っ転がってる....」

 

「起こすか?」

 

「おい、レイマン....」

 

「いえ、ならまた後で....」

 

「起きてるよ」

 

 気怠そうに体を起こすホークに、フレクスが噛みつき出す。

 自分の席を不法占拠されていたのだから当然と言えば当然だが。

 

「ならどけよ、座れねぇだろうが!」

 

「お前もどっか占領すりゃいいだろ、そこの....ビリーの周りとかスカスカじゃねぇか」

 

「なァんで俺なんだよ!」

 

「無茶苦茶だ....」

 

「あのなホーク、その背もたれのネームプレートはなんの為に付いてると思う?」

 

「持ち主を延々晒しものにする為だろ、Gショック野郎」

 

「#$&*+?@>!=^~<〜〜〜〜.....テメーだって練習機(ヒヨッ子)だろうが!!」

 

Flex(自慢)よかマシだと思うが」

 

「どういうことなの....」

 

 困惑する瑞鶴をよそに話は進む。

 

 航空自衛隊のTACネームと違い、海上自衛隊航空隊におけるコールサインは、本人の失態をもじった、ある種の蔑称を含んだものになっている。

 これは元々アメリカ海軍航空隊の風習であり、それを手本にして創隊された海自航空隊に同じ文化が流入するのは、当然のことであった。

 

 なお、フレクスはG-SHOCKを買ったことを自慢して回った事でつけられ、ホーク...."ゴスホーク"は、アメリカでT-45艦上練習機に乗っての訓練後、酒に酔ってこれを絶賛したために、(酔っていたとはいえ)半ば本人同意の上で同機の愛称をつけられたものであった。

 

 閑話休題。

 ホーク、意外な人物の訪問から予想だにしない自分の指名にいささか困惑しつつ、席を立つ。

 

「で、俺?」

 

「うん、ちょっと....」

 

「何だよ」

 

 瑞鶴、入り口から半身ほど乗り出してホークを手招きするが、それを見た隊員らが無言でにやつき始めるのを見て赤面する。

 

「そういうのじゃ、ないので....」

 

「いやァ....どうかな?」

 

「おいジョーンズ、テメーまた()()()()()()()のか?」

 

「冗談!勘弁してくれ....」

 

 ホーク、冷やかしを牽制しつつ瑞鶴と室外に出る。

 総員待機のため、長大な館内通路に人影はなく、冷たい蛍光灯の光が、これまた寒色の壁面や配管に影を落とし、音と言えば船体の軋みと微かに聞こえてくる機関の駆動音だけで、人の声などは全く聞こえない────

 

 いや、おかしい。

 

「それで、俺に用って....」

 

 ホーク、偽装として勝手に喋りながら右手で瑞鶴を黙らせ、自分は足音を抑えてレディ・ルームの扉に張り付く。

 艦内で使われている扉は鋼鉄製でそれなりに厚みもあるが、大の男が十数人集まって騒いでいる音ともなれば、微かにでも聞こえる筈である。

 ホーク、ハンドサインと目で「話を続けろ」のサインを出す。

 

「えっと、昨日の作戦の時の....」

 

 瑞鶴、何事か察して、努めて自然な声色で本来の話題を話し出す。

 

 その瞬間──────

 

「ふんっ!」

 

 レディ・ルームの内開きの扉が勢いよく開かれ、何かがぶつかる様な連続音と「痛ェ!」の大合唱。

 中を見やれば、床に折り重なって転がる隊員の群れ。

 

「おいどけ、どけって」

 

「重い重い重い痛い痛い痛い」

 

「.....てめえら.....」

 

「いやーその....ね?」

 

 引き攣った顔で立ち尽くすホークに、曖昧な笑みでフレクスが応じる。 

 その右手には、デジタルレコーダーまで握られている。

 

 ホーク、内部の大惨事を見なかった事にして扉を閉め、瑞鶴に向き直る。

 

「....場所を移そう」

 


 

 移った先は、空きの士官室。

 レディ・ルームからも2部屋ほど間に置いているので、聞かれる心配はない。

 が、瑞鶴、ホークのこの厳重な対策に苦笑を禁じ得ない。

 

「お礼言おうと思っただけなんだけどなぁ....」

 

「....礼?俺に?」

 

「そう....助けてくれて、ありがとうって」

 

「何....雷撃のことか」

 

「そう。下手したら....ううん、あのまま行けば確実に、初月と五十鈴ちゃんも道連れにしてた....私の、命の恩人って」

 

「やめてくれ」

 

 ホーク、話半ばで瑞鶴を遮ると、その勢いのまま話し出す。

 

「俺はお前を助けたつもりはない。ただ....」

 

「ただ?」

 

「建前として言うなら、抑えられる損害を抑えただけだ。まあ最大の理由は、そうしておかないと、俺の夢見が悪くなる....おい、何だその顔は」

 

「別にィ~~~~~....あ、感謝は勝手にさせてもらうからね」

 

「そりゃどうも....で、要件はそれだけか?」

 

「うん、本当にそれだけ」

 

 ホーク、巨大な段ボールでペン一本を届けられたような徒労感に苛まれ、盛大に溜息をついた。

 

「もう帰れ、あまり艦娘がこっち(艦首ブロック)をうろつくんじゃない」

 

「はぁい....」

 

「全く....」

 

 愚痴の一つも零しながら内開きのドアを開けると、途端に流れ込んでくる肌色・黒・緑色の塊。

 ホーク、持ち前の反射神経で間一髪後ろに飛び退りながら、事態を把握する。

 

「イ”ェ”ア”ア”ア”」

 

「あーーーーー痛い痛い痛い折れる!!!!!!足が折れるって!!!!!」

 

「人間には215本も骨があるんだ、一本ぐらいなんだ!」

 

「いいからどけ!早く!レコーダー潰れ....」

 

 

 

「て め え ら . . . . .」

 

 

 

 乱闘騒ぎが起きた。

 

 なお、フレクスのレコーダーはホークに素手で捻じり潰され、燃えないゴミになった。

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