超音速   作:ネコガメ

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第22話

「プレイヤー、左右」

 

「敵影なし、レーダースコープもだ」

 

「遮蔽物のない海上だ、俺の時よか見つけ易い筈なんだ....」

 

 8つの目と2つのAESAレーダーを以ってしても、敵を捉える事すらできない。

 

「最後のコンタクトは?」

 

「えー、Bullseye 144/.....」

 

 言いかけた所で、ホークの質問に答えながら機外を見据えていたプレイヤーの表情が強張った。

 

「白煙!白煙!!」

 

 白煙とは、この場合では対空ミサイルのロケット・モーターが出すそれを言う。

 プレイヤーは、航跡としてこれを見つけたのである。

 深海棲艦が、短距離・長距離共に空対空ミサイルを使ったという記録は今のところない。

 

「Break!Break!Break!」

 

 ホークの体が考えるより先に反応し、通信機に編隊解除・回避行動の指示を怒鳴り、自分は操縦桿を捻って急降下、機尾のALE-47ランチャーユニットから、チャフ・フレアを狂った様に射出し続ける。

 

 が、効果はない。

 見れば、ミサイル後部から黒いコードが出ているのが確認できる。

 

「有線誘導か!?」

 

 現代のチャフ・フレアはレーダー、若しくは光学誘導のミサイルへ対抗する事を前提に開発装備されている。

 が、深海棲艦の技術レベルの基準と目される第二次大戦時代には、まだどちらも開発されていなかった。

 唯一完成していた空対空ミサイルは、ドイツ第三帝国の有線誘導・音響信管式起爆の「ルールシュタールX-4」のみであった。

 

 しかしどの道、有線式であれば射程はごく短距離、落ち着いて回避行動を取れば当たる事はない。

 

「どこからだ!?」

 

 言いながら機を捻ってミサイルを避け、外を見回して攻撃の主を探す。

 そして、程なくそれを見つけた。

 

 高速で編隊飛行を続ける、涙滴型の動体に大後退角の主翼の様なものが生えた、異様な航空機。

 その機首にはエアインテークやレドームではなく、歯を剥いた髑髏の様な顔が据わっている。

 断じてペイントなどではない。

 それそのまま言葉の意味通り、いや、"骸骨の顔"を持った魚から主翼と尾翼が生えていると言った方が、形状についての説明としては幾分か正しいだろう。

 

 そして、この意匠は、深海棲艦の使用する兵装群に見られるものであった。

 

「あれか!Tally 065 HOT!」

 

 回避機動を切り上げ、操縦桿を捻ってスロットルを押し込み急旋回、瞬時に敵機への攻撃位置へと機体を滑り込ませ、同時並行でキャッスル・スイッチの操作とJHMCS....HMD(ヘッドマウントディスプレイ)によるロック・オンまでもをこなす。

 

「FOX-2!」

 

 最外部パイロンのAIM-9X"サイドワインダー"が射出され、HMDからの情報に従って急旋回、敵機のエンジン排熱を捉え、多少の偏差を取りながら一直線に突っ込む。

 

「Splash-1!」

 

 残りの敵機数機はそれぞれ別々の方向へと回避運動を取り、この巨大な金属塊から逃走、あるいは一矢報いようと旋回を始める。

 

 が、この4人が相手ではそこまで意味のある機動ではなかった。

 

『敵機右2機!』

 

『OK, FOX-2!FOX-2!』

 

 RIOが瞬時に敵機の脅威優先度を振り分けて前席に伝達、パイロットが即座に把握して攻撃、という複座機での基本戦術は、レイマン・フレクス組においても変わることはなく、能率的に敵を撃墜する点において十分な効果を発揮。

 2発のサイドワインダーで確実に2機を仕留める。

 

『Splash-2!』

 

 敵機の残りは2機、お互いにかなりの近距離まで接近している。

 

「ガンに切り替える!」

 

 106号機前席のキャッスル・スイッチが再び操作され、HUDの兵装表示がサイドワインダーを意味する”S”からバルカン砲....GUNの”G”へ切り替わり、機首左側面に搭載されたM61A1バルカンの制御機構が通電、作動を開始する。

 

「GunsGunsGuns!!」

 

 高度を下げて逃走を図る敵機にダイブ(急降下)機動で追従、次いで操縦桿前面のトリガーが引かれ、20mm口径PGU-28/B高性能焼夷徹甲弾が、コクピット左下に位置する銃口から光の尾を曳きつつ、秒間90発の速度で敵機へ向け吐き出される。

 

 まず敵機の左主翼が吹き飛ばされバランスを崩し、フラット・スピンに入り狙い易くなった所へ機首を僅かに胴体方向へ滑らせ、続けて弾を撃ち込む。

 

 敵機上面に無数の穴が開き、そこから燃料なのか操縦系の油か、それとも別の何かなのか、黒い液体が吹き出し、機銃弾のスパークで引火。

 

 106号機がその横を通り過ぎた直後、空中で爆発し破片が飛散、一番大きい破片は、炎上したままコマの様に回転、海面へ落下していく。

 

 ここまで、時間の経過は2秒にも満たない。

 

「Splash-2!」

 

 撃墜コール後、高速で迫る海面を避けて機首を引き起こし、海面に風圧による飛沫を立てながら上昇、再び索敵にかかる。

 

「残りはどうした!」

 

「レーダー、ロスト....目視!」

 

「どうだ!」

 

「後ろだ!後ろを取られた!」

 

「畜生ッ」

 

 機体を捻って再び降下、ジンキング機動を続けて敵機を後ろに食いつかせる。

 

「プレイヤー、ついて来てるか!?」

 

「バッチリ食いついてる!」

 

「上等!」

 

 敵機の射線が外れた一瞬を突いて機首を引き起こしてスロットルを押し込み急上昇、運動エネルギーを位置エネルギーに変えて敵機をオーバーシュートさせにかかる。

 

 が、敵機にはあと一発、ミサイルが残っていた。

 

「後方白煙!」

 

「スプリットスロットル!」

 

 スロットルを分離させてラダーを踏み込み、急旋回で敵機の下方に潜り込む。

 

 しかしその軌道が、106号機を敵の射線に滑り込ませる結果を呼んだ。

 

 

 

 振動、ポリカーボネートの砕ける音、ジュラルミン・フレームの拉げる音、強化プラスチックが割れる音、肉の裂ける音、悲鳴、血の匂い。

 

「うおっぁッ!?」

 

「アグ....」

 

 

 

 前席は惨憺たる状態であった。

 幾つかの計器の保護カバーは割れ、MFDにはヒビが入り、HUDは完全に破損して機能を停止していた。

 ホークは後ろからの破片がコクピット内で跳ねまわり、腹部と腕、顔に傷を負い、流血していたが、執念と生まれつきの頑丈さ、さらに未だ原型を保つ風防と前キャノピーが、彼の意識を保ち、相棒を心配するだけの余裕を持たせていた。

 

「プレイヤー、無事か!....おい、プレイヤー!」

 

『ホーク、大丈夫か!』

 

 辛うじて生きていた無線機から、僚機(ウイングマン)の声が入り、続いて107号機が、106号機の右エシュロンに浮上してくる。

 そして視界の端に、燃え落ちていく物体が映る。

 106号機損傷の下手人は、レイマンが仕留めたのだろう。

 

「メインパネルが殆どイッちまったが俺はどうにか。それよりプレイヤーの様子がおかしい。外から見てくれ、後席はどうなってる?」

 

『....その状態じゃ戦闘続行は無理だろう。艦まで飛べるか』

 

ミートボール(光学着艦装置)があるから、ギアとフックが出りゃどうにかなる....Lesser1、Cougar7, 被弾により戦闘続行不可、帰投する。Mission abort, Cougar7, RTB」

 

『Cougar8, RTB』

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