『損傷機着艦....損傷機着艦....甲板員退避....消火班及び医療班は配置につけ....』
空母『かさぎ』の飛行甲板は、混乱の渦中にあった。
被弾した106号機が着艦してくる為である。
着艦の衝撃で分解若しくは炎上するかもしれず、また破片が飛散する可能性などもあった為、艦上用消防車両が格納庫から引き出されて配置につき、搭乗員の負傷に備えて医療班も待機に入り、さらに降着装置が破損していた場合には、緊急着艦用バリケードを迅速に展開せねばならないとあって、甲板の空気はこれ以上ない程に張り詰めていた。
間もなく106号機が、轟音と共にターボファン・エンジンの薄い排煙を曳きながら、
『106トムキャット、ボール、7コンマ8』
「ボール了解....グルーヴ!」
ホークからの『光学着艦装置視認』のコールを聞いた
「ショート!」
今度は『総員退避』のコールがなされ、甲板員が全て退避を終え、F-14のシルエットが次第に大きくなると共にF110ターボファンの轟音が一層高まり、着艦は最終段階へ移る。
「ランプ!」
けたたましい金属音と共に106号機のテール・フックが『かさぎ』の1番ワイヤーを捕まえ、直前まで空中にあった降着装置が甲板に叩きつけられる。
轟音、ゴムの灼ける匂い、そして破片が飛散した。
『107号機、飛行甲板汚損により着艦不可、上空で待機せよ....』
レイマンの107号機を待たせ、甲板の掃除が始まると共に、医療班が乗員をコクピットから引きずり出しにかかる。
が、少なくとも一人はその必要はなさそうだった。
「クソッ....クソッ、開けッ!そこどけッスクラップ野郎ッ!」
ガンガンという異様な音に、甲板員全員が足を止め、彼らの視線は106号機のコクピットに釘付けとなる。
マッハ2.5に耐える堅牢なキャノピーを、それも被弾の衝撃で歪み抜けなくなったものを、狭いコクピット内の空間から自力で後ろへ叩いてロックを外し、体を縦回転させて足で蹴り飛ばし、終いにはキャノピー天蓋を両手で支え、座席の上に両足をつけて力を入れ、バキバキと耳障りな音を立てながら完全にキャノピーフレームを機体から引き剥がす。
「オラアァァッ!」
およそ人間とは思い難い膂力である。
「ヒッ....」
甲板員、余りの迫力にしばし近づくことを躊躇った。
その硬直を振り切り最初に駆け寄ったのは、医療班員であった。
「大尉!ご無事ですか!」
「俺はこの通り無事だ!それよりプレイヤーを....」
「待って....」
タラップを足場に後部座席を覗き込んだホーク、その実情を見て一様に言葉を失った。
「....は....?」
そこに、プレイヤーと呼ばれた男の姿はなかった。
空母かさぎ航空隊・サイドナンバー106号機、F-14Jトムキャット製造番号02-7001の後部座席は、
キャノピーは後半部分がフレームごと全て吹き飛び(破片の一部はコクピットへ飛び散りホークの体に突き刺さった)、機首側面の隔壁とコンソールは拉げて穴が開き、マーチン・ベイカーSJU-17射出座席は跡形もなく破壊され、TIDを含む前面パネルは、およそ原型を留めている箇所が見当たらなかった。
「....大尉、下りてください、機をハンガーに下げます」
「あ、ああ....」
遅れて機体に取り付いた青備えの航空機移送要員に諭され、おぼつかない足取りでタラップを降り、フラフラと千鳥足でブリッジへ向かおうとする。
が、制止が入った。
白のシャツとベストを着たレインボー・ギャング、安全・医療要員である。
「ちょっと!大尉!ゴスホーク大尉!」
「あ?....何だ....」
「何だじゃないよ、あんた怪我人なんだから勝手に動かないでくれよ!」
「....そうなのか」
「ほら寝て!担架!!」
「自分で歩けるよ....」
「どこの世界に怪我人を歩かせる救急隊がいるってんだ!ホラ寝ろ早く!」
「分かったから....怒鳴るなよ....」
「近くで見ると、凄い傷だな....よくそんな状態で歩けたもんだ」
「今も歩けるぞ、下りるか」
「黙らっしゃい!あんたもう喋るな!お前も怪我人を刺激するな!」
「すんません....」
ホーク、そのまま担架で運ばれていった。