超音速   作:ネコガメ

23 / 29
第23話

『損傷機着艦....損傷機着艦....甲板員退避....消火班及び医療班は配置につけ....』

 

 空母『かさぎ』の飛行甲板は、混乱の渦中にあった。

 被弾した106号機が着艦してくる為である。

 着艦の衝撃で分解若しくは炎上するかもしれず、また破片が飛散する可能性などもあった為、艦上用消防車両が格納庫から引き出されて配置につき、搭乗員の負傷に備えて医療班も待機に入り、さらに降着装置が破損していた場合には、緊急着艦用バリケードを迅速に展開せねばならないとあって、甲板の空気はこれ以上ない程に張り詰めていた。

 

 間もなく106号機が、轟音と共にターボファン・エンジンの薄い排煙を曳きながら、着艦軌道(グライド・パス)へ進入してくる。

 

『106トムキャット、ボール、7コンマ8』

 

「ボール了解....グルーヴ!」

 

 ホークからの『光学着艦装置視認』のコールを聞いたLSO(着艦信号士官)が『着艦機接近』を配下の甲板員に怒鳴り、それに合わせて制動装置の操作盤が忙しなく弄られ、最終点検が済まされる。

 

「ショート!」

 

 今度は『総員退避』のコールがなされ、甲板員が全て退避を終え、F-14のシルエットが次第に大きくなると共にF110ターボファンの轟音が一層高まり、着艦は最終段階へ移る。

 

「ランプ!」

 

 けたたましい金属音と共に106号機のテール・フックが『かさぎ』の1番ワイヤーを捕まえ、直前まで空中にあった降着装置が甲板に叩きつけられる。

 轟音、ゴムの灼ける匂い、そして破片が飛散した。

 

『107号機、飛行甲板汚損により着艦不可、上空で待機せよ....』

 

 レイマンの107号機を待たせ、甲板の掃除が始まると共に、医療班が乗員をコクピットから引きずり出しにかかる。

 が、少なくとも一人はその必要はなさそうだった。

 

「クソッ....クソッ、開けッ!そこどけッスクラップ野郎ッ!」

 

 ガンガンという異様な音に、甲板員全員が足を止め、彼らの視線は106号機のコクピットに釘付けとなる。

 マッハ2.5に耐える堅牢なキャノピーを、それも被弾の衝撃で歪み抜けなくなったものを、狭いコクピット内の空間から自力で後ろへ叩いてロックを外し、体を縦回転させて足で蹴り飛ばし、終いにはキャノピー天蓋を両手で支え、座席の上に両足をつけて力を入れ、バキバキと耳障りな音を立てながら完全にキャノピーフレームを機体から引き剥がす。

 

「オラアァァッ!」

 

 およそ人間とは思い難い膂力である。

 

「ヒッ....」

 

 甲板員、余りの迫力にしばし近づくことを躊躇った。

 その硬直を振り切り最初に駆け寄ったのは、医療班員であった。

 

「大尉!ご無事ですか!」

 

「俺はこの通り無事だ!それよりプレイヤーを....」

 

「待って....」

 

 タラップを足場に後部座席を覗き込んだホーク、その実情を見て一様に言葉を失った。

 

「....は....?」

 

 そこに、プレイヤーと呼ばれた男の姿はなかった。

 空母かさぎ航空隊・サイドナンバー106号機、F-14Jトムキャット製造番号02-7001の後部座席は、()()()()いた。

 

 キャノピーは後半部分がフレームごと全て吹き飛び(破片の一部はコクピットへ飛び散りホークの体に突き刺さった)、機首側面の隔壁とコンソールは拉げて穴が開き、マーチン・ベイカーSJU-17射出座席は跡形もなく破壊され、TIDを含む前面パネルは、およそ原型を留めている箇所が見当たらなかった。

 

「....大尉、下りてください、機をハンガーに下げます」

 

「あ、ああ....」

 

 遅れて機体に取り付いた青備えの航空機移送要員に諭され、おぼつかない足取りでタラップを降り、フラフラと千鳥足でブリッジへ向かおうとする。

 が、制止が入った。

 白のシャツとベストを着たレインボー・ギャング、安全・医療要員である。

 

「ちょっと!大尉!ゴスホーク大尉!」

 

「あ?....何だ....」

 

「何だじゃないよ、あんた怪我人なんだから勝手に動かないでくれよ!」

 

「....そうなのか」

 

「ほら寝て!担架!!」

 

「自分で歩けるよ....」

 

「どこの世界に怪我人を歩かせる救急隊がいるってんだ!ホラ寝ろ早く!」

 

「分かったから....怒鳴るなよ....」

 

「近くで見ると、凄い傷だな....よくそんな状態で歩けたもんだ」

 

「今も歩けるぞ、下りるか」

 

「黙らっしゃい!あんたもう喋るな!お前も怪我人を刺激するな!」

 

「すんません....」

 

 ホーク、そのまま担架で運ばれていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。