超音速   作:ネコガメ

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第26話

 風切り音、ローター音、エンジン音、そして甲板員の声。

 

 106号機損傷事案から1週間ほどの後、アメリカ海軍所属の統合多用途艦載ヘリコプター、MH-60R『シーホーク』1機が、『かさぎ』の飛行甲板へアプローチを試みていた。

 

「あれか?」

 

「その筈です」

 

 その日、副長の須田は、上島の命で”補充人員”を迎えに飛行甲板へ下りていた。

 

 シーホークが甲板へランディングギアをつけ、甲板員が安全確保のために、続いて須田も出迎えの為駆け寄る。

 

「どうぞ、足場悪いですから....」

 

 甲板員の手を借りて、ヘリから降り立つ”補充人員”に、須田が違和感を覚える。

 

(....やけに背が低いな?)

 

 そしてそれは、()()がヘルメットを取る事で解消された。

 

「....駆逐艦・時雨です。本日付で海上自衛隊第101航空隊へ配属になりました」

 

「艦娘だと....!?」

 

 背筋を伸ばして、肘を45度に傾けた完璧な海自式の敬礼をこなす()()の姿に、須田は思わず口をついての驚愕を抑えられなかった。

 


 

「あー、それでこちらが新しく配属になった....」

 

「駆逐艦時雨だよ。これからよろs」

 

「ふざけるんじゃねぇッ!」

 

 数分後、クーガー中隊のレディ・ルームには怒号が反響していた。

 

「ホーク、落ち着けって....」

 

「ガキだ!!!ガキだぞ!!!プレイヤーの後釜に!!!ガキを寄越しやがった!!!」

 

 怒りのあまり大袈裟なジェスチャーと共に盛んに狭いレディ・ルームを忙しなく歩き回るホークを、レイマンとトーチの二人で宥めにかかる。

 

「特例の圧縮プログラムとはいえ、内容は我々がやったのと全く同じ、防府北から米空軍のT-6とT-38、それに米海軍でお前と同名の練習機(T-45ゴスホーク)やF-14Eをみっちり飛ばし、しかも全過程で優秀な成績を修めた秀才も秀才だぞ。何が不満なんだ」

 

「はあ....」

 

 明らかに不快そうなため息をつき、額に手を当てて勢いよく自分のコールサインが書かれた椅子へ座り込む。

 そしてそのホークの顔を、当の時雨が覗き込む。

 

「僕じゃ、嫌かな?」

 

「時雨ちゃん、あんまり近づかない方が....」

 

「顔が近い!」

 

「おっと」

 

 ホークに手の甲で払われるが、艦娘特有の反射神経で体を仰け反り、余裕を持って回避する。

 

「言わんこっちゃない」

 

「やめろバカ、みっともないぞ」

 

 見るに見かねてレイマンが止めに入るが、ホークの怒りは収まらない。

 

「俺はシンガーとかブルパップとかあいつら辺りが来るとばかり思ってたんだ!同じ隊の奴だとな!ところが本土のバカ共、つい昨日学校を出たばかりのガキを送りつけてきやがった!しかもどうだ、わざわざ前線展開中の空母に!?本土から!?ヘリで!?乗り付ける!?こいつはなんだ、金持ちのボンボンか何かか!?防装庁は喋るネコジャラシの集まりか!?脳みそ落としたなら早いとこ交番にに届けろと言ってやれ、未使用品は転売されるからな!」

 

「待て、そこも含めて説明してやるから....」

 

 トーチ、そう言ってホークの二つ隣の席へ座って息を整え、状況説明を始める。

 

「艦娘は、殆ど際限なくに海から湧き出てくる。本質的には"無尽蔵に湧いて出る、人間と同等の知能と肉体を持った、友好的で意思疎通と使役が可能な生物"という訳だ。ここまで来れば、教育を施して"人材"として使う、という発想が出てきてもおかしくない。だから防衛省主導で、他兵科へ送り込んでの運用試験が計画された。が、最初は艦娘の方から断られたそうだ。"艦娘"として生まれたからにはそれとして戦い死にたいとの事でな。だから、この手のデータ集めは全く進んでいなかった。そこに現れたのがこの....時雨だ」

 

 ホークが目を見開く。

 あの日、酒場で聞いた気さくなアメリカ人たちの声が、彼の脳内で反芻されていた。

 そして不快そうな顔は変えず、耳だけは真面目に聞く体勢を取る。

 

「そこから先は、僕が」

 

 連続で喋った事に対する時雨の気遣いを受けて、トーチはコーヒーを飲み干して喉の渇きを癒す。

 そして、飲み終わったのを待って、時雨が引き継いで話を続ける。

 

「僕はどうしても、"提督"....いや、ここでは大尉とでも言った方がいいかな。大尉の下に居たかった。この船の艦娘の適性者は上島艦長らしいけど....僕はどうやら、違ったみたいでね。横須賀鎮守府に行ったあとも、姉さん(白露型)たちも他の皆も、あそこの提督も十分良くしてくれたし、それについて感謝はしてるけど....やっぱり"違和感"が消えなかった。 大尉のところに行きたかった。だから、"人材派遣"のプログラムが発表された時、僕は真っ先に手を挙げたよ。もちろん、飛行要員コースでね。幸い、彼ら(防衛装備庁)にとって僕らの意見は全てにおいて優先されるみたいで、ここへの配属希望はすんなり通ったよ....まさか、中隊単位で希望通りになるとは思わなかったけどね」

 

 時雨が苦笑を交えて話し終わったところで、口笛が飛んだ。

 

「愛されてんなぁ、ホークさんよォ?」

 

「それも、あの美少女に」

 

「ローリー、スパーキー、それ以上余計な事を言ったらケツにMk.84を突っ込んでやる」

 

「勘弁!」

 

「お~怖い」

 

 話が脱線しかけたところで、時雨が軌道修正を試みる。

 

「....それで、大尉はどうしても嫌かな?僕を後ろに乗せるのは....」

 

「無論....いや」

 

 ホーク、即答しかけて一旦止め、少し考え込んでから、醜悪な笑みを浮かべて回答を修正する。

 

「....一度後ろに乗ってみて、俺の全開ACM(空中戦闘機動)で吐いたり目ェ回したりしねーなら認めてやる」

 

「おい、そりゃ流石に....」

 

「分かった、その条件でいいよ。それで、いつにする?」

 

 周囲の心配をよそに、時雨は即答。

 とんとん拍子に話が進んでいく。

 

「艦長に訓練計画変更申請、通しておこう。レイマン、仮想敵機(アグレッサー)やってくれるな?」

 

「あ、ああ....しかしお前....」

 

「本人らが両方ともいいと言ってるんだ、好きにさせてやれ」

 

「はあ....」

 

「これでゲロ吐くようならどの道戦闘機(ファイター)乗りとしちゃ使えん、防衛省に電話入れて突っ返してやる」

 

 レイマンの不安をよそに、ホークなりの「入隊試験」とでも言えるものが、始まろうとしていた。

 

「それからお前は俺をその湿っぽい目で見るのをやめろ!俺は湿気が嫌いなんだ!」

 

「....隊長、僕そんなに湿っぽいかな」

 

「ベッチョベチョだぞ」

 

 時雨は、早くも隊に馴染み出していた。

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