神奈川県横須賀市楠ヶ浦町、その東部に位置する海上自衛隊横須賀基地。
普段は米海軍第七艦隊所属・ニミッツ級原子力空母9番艦CVN-76『ロナルド・レーガン』が停泊している場所で、現在は『かさぎ』が補給を受けていた。
『ロナルド・レーガン』はじめ第七艦隊は現在太平洋上にて作戦展開中であり、その間は『かさぎ』が使用する。
『かさぎ』竣工の折に、米国と日本で交互に使う事が取り決められたのである。
その『かさぎ』の飛行甲板右舷キャットウォークに、気怠げに港を見下ろす男と、彼に近づく女....艦娘の姿があった。
「あ、大尉。久しぶり」
「瑞鶴か....事実とはいえ同じ船に乗ってて”久しぶり”もないもんだ」
「艦娘と航空要員でだいぶ区画離れてるからね....私達基本艦尾にいるし」
「お前の船時代もそんな感じだったんじゃないのか?お前確か....250mぐらいだからこの艦よりちょっと小さいぐらいだろ」
「待って、なんで私の全長知ってるの」
「なんでって....今時寸法はおろか搭載数だってネットに転がってるだろ、Wikipediaとか」
「え、なにそれ凄い恥ずかしいんだけど今直ぐ消して?」
「無理だしなんでだよ」
「いやいやいやいやだって知らないうちに自分の個人情報晒されてたらそりゃ気持ち悪いでしょ」
「そういう感覚なのか....」
瑞鶴が現代インターネットの発達に嫌悪感を示した所で、あらぬ方向から会話への闖入者が現れた。
「提督ーーーーーー!!!!僕の事忘れないでねーーーーーー!!!!絶対戻ってくるからねーーーーーー!!!!」
「コラッ叫ばないのッ」
眼下の港で、黒髪に紺色のセーラー服を来た少女が、迎えと思われる白い変型巫女服を着た艦娘に引きずられながら、ホークに向かって何事か喚いている。
「....ナニアレ」
「....俺が”適性”持ちなの知ってるだろ」
「ああ....」
ここで言う”適性”とは、「艦隊指揮」の適性である。
艦娘は、”適性者”の指揮下に入る事によって始めてその全力を発揮できる。
どうも式神の様なシステムらしいが、詳しくはオカルトの領域である事からあまり解明は進んでいない。
そして、この”適性者”に与えられた職業の名称が「提督」という訳である。
ホークもまた、提督適性者であった。
「こないだあいつ”海域ドロップ”したんだけど運悪く最初に会った”適性者”が俺でな、刷り込み式に懐かれた....」
「ああ....運悪かったねーあの”時雨”ちゃん、勧誘に来た呉の提督に飛行隊総出でヤジ飛ばすよーな人に懐くとは」
「いやそりゃお前あいつガンギマった目で『艦娘こそが唯一深海棲艦に対抗し得る新時代の力なのです、古き鎧を脱ぎ捨て、私達と共に暁の水平線に勝利を刻みましょう』とか巫山戯た事抜かしやがるから俺は勿論隊長までもブチギレてな」
「中佐まで!?あの凄い優しい人が!?」
「途中まで俺達も堪えて聞いてたんだが、かさぎをコケにし出した辺りで隊長が『ケツで椅子磨くだけの無能がなんだって?』って。そこから怒号の鉄砲水よ。途中で話聞きつけた102空とハンマー中隊の連中まで加勢して大惨事になってな....」
「そんなに」
「艦長が放送で止めてくれなきゃどうなってたか....」
溜息をついて一通り昔話を終え、しばし無言が続く。
そして、瑞鶴の方から静寂が破られる。
「半舷上陸だけど、降りないの?」
「下りたって行く所ねーからな。お前こそ何で
「えへへ....仲間、探してたの」
「お前もかい....」
ここで、口笛と共に二度目の会話への闖入者が現れた。
残留要員として残っていたデッキクルーの一人である。
「お熱いねぇお二人さん」
「....要件はそれだけか」
「冗談だって....艦尾の方に珍しいお客さんが来てるぞ、最新型の艦娘だ。見るか?」
「何?」
「え、ちょ....わ、私も行くっ!」
ホークが勢いよく飛行甲板に飛び乗り、遅れて瑞鶴が這い上がる。
なお瑞鶴は、スカートが盛大に捲れ、同じキャットウォークにいたデッキクルー数人の目を潤した事には気づかなかった。