『マスターアームオン、Cougar7, Engage!』
『Cougar8, Engage!』
2機編隊でロール、機体下面を上にしての+G旋回で急降下をかける。
ある程度の高度に達すると再び正方向に復帰し、海面より数メートルの超低高度を並んで加速する。
一方駆逐艦姉妹、哀れにもこの戦術にしっかりと嵌りこんでいた。
「反応が消えたっ....!?」
艦娘並びに深海棲艦の電探は、現用航空機や艦船が積んでいるもの程高度ではない。
故に、高度を下げられればマルチパスエコーやクラッターで簡単に欺瞞されてしまう。
対深海戦闘において、低高度での高速進入は航空部隊の定石であった。
実はこの演習、秋月姉妹の対空訓練である一方、F-14隊の訓練も兼ねていると事前に説明されていた。
それを航空隊の四人が拡大解釈した結果、張り切りすぎて
「対空警戒!」
即座に4基の「長10cm砲」が辺りの目視警戒を始める。
「初月、背中合わせに!」
「了解ッ!」
側方を長10cm砲に任せ、二人で前後に目を凝らしてF-14の機影を探す。
F-14は大型機の部類ではあるものの、上空高速飛行している状態ともなれば動き回る米粒を探すようなものである。
しかも相手は超低高度で接近してくる故、電探は使い物にならない。
己(と長10cm砲)の目だけが頼りである。
「....方位140視認!測距マルフタマル!」
「FCS....反応しない!?この距離で!?」
現在両名の艤装には、『かさぎ』の備品から貸し出された対空火器管制レーダーが搭載されていた。
これによりHe162戦時とは違い、よしんば高射装置が使えなかったとしても、見つけさえできれば当てられると慢心していた。
そしてそれが、彼女らの敗因であった。
彼女らは、F-14はじめ現代の軍用航空機の殆どに搭載されている"電子戦システム"というものの存在を知らなかったのである。
そして、F-14が搭載している、先立って彼女らを救った細身のミサイルが「対レーダーミサイル」という種類の兵器である事も。
『Radar spike 12 O'clock, Mk.12』
RIOからの報告に醜悪な笑みを浮かべつつ、ホークが冷静にMFDを操作する。
『OK、HASモード起動、Cougar7, Magnum!』
無論、実際に撃っている訳ではない(そもそも現在F-14はTARPSを積んだ状態である)。
事前に、母艦に搭載された演習用のコンピュータへどの兵装を積むかのデータを入力しておき、航空機のパイロンや艦娘の艤装に搭載された演習用の計測装置が常に母艦へデータを送信し続け、そこにコンピュータが介入、仮想上で武器の発射や弾着を再現するというシステムだ。
これらの仮想上での作動は現実で作動している艤装/航空機側にもフィードバックされ、例えばRWRのアクティブレーダーミサイル発射警報などはちゃんと鳴動するようにできている。
損害状況や撃破の報告は、今回の場合演習用のバーチャル画面を監視している『かさぎ』CDCのオペレーターよりなされる。
『HARM秋月・初月に命中、対空・火器管制レーダー破壊』
オペレーターのアナウンスと共に、両名のレーダーと殆どの砲兵器にロックがかかる。
「なっ....今のは何だ!はーむって何だ!?」
突然の出来事に初月が狼狽する。
一方航空隊側は、無慈悲な次の一手を繰り出そうとしていた。
『Cougar8, Rifle!』
"Rifle"は、空対地・空対艦ミサイルの発射コールである。
しかし、一口にミサイルと言っても、先にホークが使ったHARMをはじめ、マベリック、ウォールアイ、エグゾセ、ペンギンなど多様な種類がある。
ではレイマンは何のデータをインプットしておいたのか?
『Rayman, launch SLAM....命中。秋月・初月、撃破轟t』
「轟沈ってどういう事だ!対空演習の筈だろ!!!!!!一体何が起きてるんだ!??!?!?おい!!!!!!」
状況に置いてけ堀であった初月が遂にブチギれ、無線に向かって怒鳴り散らかす。
秋月はおろおろしながら右往左往するばかりである。
『....なあ、さっきから言おうと思ってたんだが』
『何だ?』
『SLAMはオーバーキルじゃないか?』
AGM-84
艦上発射型対艦ミサイルであるRGM-84『ハープーン』をベースに開発された、「強打」や「圧勝」の意味を持つコードネームを与えられた重空対艦ミサイルである。
『だってよ、下手にマベリックとか使って威力不十分で反撃されて撃墜とか悔しいだろ....』
『的確な判断だな、新人いびりは楽しかったか?』
突如通信に割り込んだ、聞き覚えのある声。
『ヒュッ....』
『....やっっべ』
レイマンは喉から奇怪な音を出して黙りこくり、ホークは引き攣った顔のまま、額から冷や汗が噴出し始める。
『....貴様ら、深海棲艦がHARMやSLAMを使うと思うのか』
『『NO SIR!!!!!』』
二人して脊髄反射で返答を叫ぶ。
その声は、焦燥と絶望に満ちている。
『なれば何故そんなものを設定しておいた。私は武装の選択は任せると言ったが、技術格差の暴力で殴れとは言っていない』
『は、事前に我々の訓練も兼ねると聞き及んでおり....』
『それは
『『.....』』
『....あとで艦長室に来い』
そう、この通信の主こそ、見るに堪えず自ら通信機を取った『かさぎ』艦長、上島治大佐その人であった。
「....彼ら、バカなのか?」
「ご名答」
これは、演習終了後、飛行甲板キャット・ウォークで一部始終を傍受していた長門と瑞鶴の言である。