この日は室内の演習場にて忍学生たちの模擬戦の授業が行われていた
葛城「おりゃりゃりゃりゃ!!」
荒々しい勢いで葛城が蹴りの連打を繰り出す
日影「あまいで!」
その葛城の攻撃を日影が防ぐ、躱すなどで対処していた
2人がぶつかり合う傍らで今日の授業に参加した他の者たちも同じように交戦していた
長門「うんうん…いい調子ですね」
彼女たちのその様子を離れた位置から観察していた長門はノートに記録を書き込んでいた
葛城「うわぁああっ!?」
長門「――っ?」
するとその最中だった
模擬戦をしていたはずの葛城から悲痛な声が聞こえてきたのだ
何事かと慌てて振り向くとそこには地面に倒れて転がっている葛城と彼女を見守る日影がいた
長門「どうかしましたか!?」
日影「あぁ、先生。いやな葛城が勢いよく飛び蹴りを仕掛けたんよ。やけどわしがそれを躱したために不発に終わって果ては自分がダメージを負う結果になってしもうたんや」
長門「なるほど、そうだったんですね」
駆け付けた長門が日影から説明を受け、状況を把握する
長門「葛城さん、ちょっと失礼しますね」
状態を確かめるため、長門は足具を外し、靴下を脱がせる
長門「…これはひどいですね?」
靴下を脱がしてみると葛城の足首が激突した影響からか赤くなっていた
長門「日影さん、他の皆さんにボクが戻るまで自習をするように言っておいてくれませんか?ボクはこのまま葛城さんを保健室まで運んでいきますから」
日影「わかったで」
足の状態を見るや長門が日影に指示を出し、自分が葛城を運んでいる間に自主練をするようにと指示を飛ばした
葛城「まっ、待てよ長門。アタイはまだ!?」
長門「ダメです、こんな状態で授業をさせるわけにはまいりません。大人しく従ってください」
葛城「でも」
長門「教師としての指示です」
状態を見て判断を下した長門に異議を申し立てようとする葛城だったが
有無を言わさぬほどの長門の言うことに徐々に言葉が出なくなっていた
長門「ともかくこんなところで言い争いしている場合ではありません。急いで保健室に行きますよ…――っ!」
葛城「えっちょ!?うわっ!?」
すると長門はすかさず自分よりも高身長である葛城を最も簡単にお姫様抱っこの状態に抱えて保健室に向かって急ぐのだった
そうしてしばらくして保健室に着いた長門は連れてきた葛城の足の手当てに取り掛かっていた
長門「…っと、はい。できましたよ」
葛城「おっ、おう。すまねぇな」
包帯を巻きつけ、結ぶまでやったところで長門が葛城に声をかけてきた
長門「しばらく安静にしてくださいね。当分の間、葛城さんの実技のスケジュールは見直しとさせてもらいますね」
葛城「待てよ長門、大袈裟だって…これくらいほんのちょっとのかすり傷みたいなもんだ…痛つつつつ!?」
長門「ほら、言わんこっちゃありませんね?」
必死に自分は大丈夫だとアピールをするも、赤くなっていた部分を叩いたことで痛みに悶絶する
長門「わかったでしょう?戦場においてはちょっとの傷でも死に直結する事にかもしれない時もあるんですから、治せる時にはきちんと治す。これも一人前の忍になるのに欠かせないことですよ」
葛城「……っ」
何か反論をしようにも葛城は長門の言うことがその通りすぎてどう言い返せばいいのかも、そもそも言い返す言葉すらも閃いてはこなかった
長門「まぁ、焦ることはありません、しっかり安静にしていれば時期によくなりますから。それじゃボクはこれで」
安静にするようにと声かけをし、演習場に戻ろうとした時だった
葛城「……なぁ、長門」
長門「…っ?」
不意に葛城が声をかけてきたので長門は足を止めて再び彼女の方に向き直す
葛城「…お前、なんで忍をしてるんだ?アタイ達よりも幼いのにどうして?」
いつもの彼女とは打って変わって落ち込んでいるかのように弱々しい声色で長門に忍になった理由を尋ねる
長門「どうして忍になったか、ですか…そう言われるとどう答えていいのか考えさせられますね」
質問を投げかけられた長門はうーんと悩むように顎に手をかける
長門「強いて言うのであれば、ボクにはそれ以外の道がなかった…だと言う感じですかね?」
葛城「道がなかった?」
長門「ある意味ボクは忍びになることを定められていたんですよね。だからどうしてこうなったかと言われたらそう言うことなんだと言う他ないんですよね」
最初から忍になるように生きていたためになぜこの道を選んだかなどの葛城の質問にはそれしか回答できないのだと長門は言った
葛城「……っ」
話しを聞いた葛城はその事実に驚きを隠せない様子だった
考え込んでいるのか俯いた表情を浮かべているとその直後、何か思い立ったような顔を浮かべる
葛城「先生、ちょっとアタイの話しを聞いてくれるか?」
長門「話し…ですか?」
葛城「あぁ…実はな、アタイの父さんと母さんは抜忍なんだよ」
長門「抜忍?」
そして葛城は自分には両親がいて抜忍になっていることを告白する
葛城「数年前、忍務に出向いていた両親はその忍務を遂行することができなかった。そのせいでいろいろあって両親は抜忍になっちまったんだ」
長門「……っ」
葛城「アタイは自分の不甲斐なさが許せなかった。あの時アタイがもっと強かったら父さんと母さんと離ればなれになることもなかったんだ。だからアタイは忍になったんだ。今よりも強くなって両親を守れるようになって、そんでまた一緒に暮らすためにもな」
長門「葛城さん…」
彼女がなぜ強くなりたいのか、その根源を知った長門は何か胸打たれる感覚に陥った
葛城「あっ….わ、悪いな先生、こんなこと話しちまって」
自分語りに付き合わせてしまったと詫びの言葉を告げようとした時だった
直後、葛城は優しい抱擁に包まれた
葛城「…えっ?」
一瞬何が起こったのかわからなかったが、それがすぐに長門に抱きしめられているのだと言うことに気づく
葛城「なっ、長門?」
長門「葛城さん、あなたは偉いです。家族のために一生懸命に頑張って強くなろうと努力して…とても素敵だと思います。あなたのそのひたむきさは測って然るべきですよ」
抱きしめられ、頭を優しく撫でられたことで葛城は如何ともし難い暖かさを感じる
葛城「……あれ?」
気がつくと葛城の目からは自然と涙が落ちていた
葛城「うっ、ううぅ…」
涙が流れ出したことで抑えが効かなくなったのか葛城は程なくして泣き始めた
長門「安心してください、泣き終わるまでボクの胸を貸しますから…」
葛城「ぐぅぅ…ううううぅ」
自分の胸にしがみついて泣きじゃくる葛城を長門は優しく慰めるのだった
それから数日が経った頃のこと
葛城「おりゃっ!そりゃりゃりゃ!」
未来「うわっ!?」
長門「そこまで!この勝負葛城さんの勝ちです!」
葛城「おっしゃー!」
復帰した葛城が模擬戦での勝利を収めた
未来「くっそー!負けちゃった!?」
葛城「悪いな未来、この勝負はアタイの勝ちだぜ♪」
未来「次は絶対に負けないわよ!覚えてらっしゃい!」
悔しそうに目元に涙を溜めながら次回のリベンジを宣言して未来はその場を後にするのだった
長門「お見事ですね葛城さん」
葛城「おうよ、復活したアタイに敵はいないってな♪」
長門「慢心はいけませんよ?」
葛城「わかってるって」
勝利を収めた葛城に長門が近寄り、労いの言葉をかけていた
葛城「長門」
長門「はい?」
葛城「この間は随分と世話になったな。ありがとうよ」
すると葛城が唐突に長門に礼を述べてきた
長門「気にすることはありません。僕は教師として悩める生徒のお力になろうとしただけですから」
葛城「…アタイに傲慢って言っておきながらそう言うお前はちっと謙虚すぎやしねぇか?」
長門「謙虚さは美徳と言うものです」
葛城「言ってくるじゃねえかこいつ〜」
世話になったと告げるや相変わらず謙虚な物言いをする長門に一言いうも
うまいこと躱され、軽く葛城が小突く
葛城「なぁ長門、この後暇か?」
長門「暇ではないですよ?この後は授業内容のレポートを作らないとですから」
葛城「そんなのは後ででも出来るだろ?そんなことより一緒にラーメンでも食いに行こうぜ。特別にアタイ行きつけのラーメン店を紹介してやるよ」
すると今度は長門の予定についてを葛城が聞いて来る
長門「えっ、ちょっ!?うわっ!?」
執務室に戻ったら仕事があると答える長門の意見を無視して葛城が長門の手を取って駆け出す
長門「まっ、待ってください葛城さん!?」
葛城「止まらねえ!待たねえ!待ってたらラーメンが伸びちまうから!」
長門「お、お店で出るラーメンはすぐには伸びないでしょ!?」
葛城「細かいことは気にすんなって、さぁ行こうぜ♪」
かなり強引な形で長門は葛城に美味いラーメン店に連れて行ってもらうのだった