龍人ちゃんが想い人を手に入れる話

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龍人ちゃんの両親の目の前で彼女の角を手折った話をしましょうか

ぼくは、蕩けた表情で跪く龍人ちゃんの角に、緊張と恐怖で震える手を掛けていた。

それも、彼女の両親の目の前で。

 

龍人ちゃんから彼氏のフリをしてくれないか、と相談されたのは夏休みの一ヶ月くらい前のこと。

彼女は両親から持ち掛けられたお見合いが絶対嫌らしく断る口実として、彼氏がいると言ってやり過ごすつもりなのだそうだ。

ぼくは何かと彼女に借りが多い。いつも勉強を教えてくれたり、他種族に襲われかけたところを助けられることもしょっちゅうだ。

だから、ぼくなんかが龍人ちゃんの力になれるなら、と協力することにしたんだ。

 

龍人ちゃんの実家に着いたぼくは彼女と一緒に、ご両親の前に立っていた。

お母さんはニコニコと優しそうな笑顔をしている、細身の可愛らしい綺麗な女性だった。長い黒髪や、整った顔立ちに、龍人ちゃんの面影を感じる。

「こんな辺鄙なところまで来てくれてありがとうねぇ」

「そんな、とんでもないです! お招きいただきありがとうございます」

優しく微笑むお母さんに少しホッとする。

 

しかし、お父さんは、鬼のような形相だ。見上げるほどの巨体で、筋骨隆々の武人といった見た目。腕なんか、ぼくの胴回りほどの太さがある。唯一、頭の角と真っ黒な髪だけが龍人ちゃんと同じだった。

「おい、小童」

お父さんの声はお腹に響くような低音で、静かに怒りを含んでいた。娘がぼくみたいなヒト族を連れてきたら、それもそうだろう。……自分で言うのも情けないけど。

「……遊びじゃねえだろうな」

「も、もちろんですっ!」

不機嫌というよりもはや敵意のようなものを含んだ声に思わずすくみ上がってしまう。殴られるくらいは覚悟していたつもりだったけど、あの腕で殴られたら、人間の身体なんてひとたまりもないだろう。

「じゃあよ、今ここで角を手折れ」

「……へ?」

一瞬、脳が言葉を拒否する。意味が分からなかった。間髪を入れず、地鳴りのような声がリビングを揺らす。

「小童! 聞こえなかったのか? ウチの娘の角を折って見せろって言ってるんだ!」

「えっ、いや! だってそれは……」

龍人族にとって、角を折ることは結婚の儀式。

それもかなり強引で乱暴な方法だ、と聞いたことがある。それを両親の目の前でしろって? 混乱するぼくを見て、お父さんはさらに言葉を続けた。

 

「本気なら、今でもできるだろ? やれ」

お父さんはこちらを睨みながら腕組みをしている。

「龍人ちゃんっ、どう、しよう……」

「いいよ。私の角、思いっきり折って」

龍人ちゃんも緊張しているようで、息が荒くなっている。少し顔の赤い涙目の龍人ちゃんがぼくの目の前に跪いた。ぼくは、震える重たい手をなんとか龍人ちゃんの角に掛け、力を込める。

「ふぅっ……っん」

痛いのだろうか、龍人ちゃんが声を漏らした。

「……わかった。もう――」

「思いっきり折ってッ!!!!」

今まで聞いたことがないくらい龍人ちゃんの大きな声に驚いて、ぼくは彼女の角に思いっきり体重を乗せた。

「!? おい!! ちょっと待っーー!」

お父さんの慌てたような声が聞こえた気がする。

生木の枝を折るようなメリメリという鈍い音がリビングに響いて、彼女の片角はぼくの手の中に収まっていた。

「で、出来ました! これで龍人ちゃんの縁談をなしにしてもらえますか!?」

肩で息をしながらお父さんを見ると、先ほどまでの覇気はすっかり無く、狼狽えているようだった。

「お、お前っ! 本当に……ッ!」

「あなたが言ったんですもの。ね? あなた?」

お母さんはお父さんを嗜めるように強い静かな口調でそう言った。部屋に気まずい沈黙が広がる。

 

「……部屋に戻る」

そう言ってお父さんは部屋に戻っていってしまった。

お母さんもぼくらに会釈して、お父さんの後を付いて部屋を出て行ってしまった。

「お父様はね、キミを試すだけのつもりだったんだ」

龍人ちゃんがゆっくりと口を開いた。

「折るギリギリで辞めさせるはずだったの」

「えっ……それじゃあ――」

彼女はぼくの持つ片角を愛おしそうに撫でる。

「でもね、私はキミをずっとずーっと、独り占めにしたかった。勉強を教えたのも、他の子からキミを守ったのも全部下心なんだ。……軽蔑した?」

声が出ない。ぼくはやっとの思いで、首を横に振って返事をした。

「まだ気付いてないみたいだけど、私はキミのことが大好きなんだよ?」

龍人ちゃんがぼくへ近づいてくる。

「だから、キミに折ってもらったんだ」

彼女の指がゆっくりとぼくの指に絡みつき、そのまま二人の足もピッタリと重なる。

「……ありがと」

息がかかるほど顔が近い。

「――だーりん♡」

 

ぼくは、この日、彼女のものになった。


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