TS転生憑依闇堕ち(無自覚)精霊姫様は原作を知らない 作:むけー
えっほえっほ、早く伝えなきゃ。
帝国は法も碌に機能してない野蛮な国家なんだって昨日の俺に早く伝えなきゃ。
えっほえっほ。
「ここだ、入れ」
「ざけんなや……!!」
ガチャン。ガチャガチャガチャガチャ。
「鍵が開かへん……!」
「そういうのいいから」
「ドブカス……ッがあ……!!」
はい、ヒメちゃんです。絶賛投獄中です。
おかしいね、さっきまで普通にバイトしてたんだけど、あれやこれやの内に犯罪者にされちゃったね。
罪状は何? 闇の精霊と内通? おーん。
闇の精霊って言ってもねえ。ナイスバディな姉ちゃん(敵)くらいしか知らないからなあ。
常時SAN値チェックしてくる化け物なら隣にいるんだけどね。なあクロちゃん。君って闇の精霊なん?
『…………(ふるふる)』
この偽モ゛ッ(4カメ)
やっぱり冤罪じゃないか! 付き合ってられない! 私は帰らせてもらう!
「貴様の処分は追って下される。即刻処刑されないだけマシと思え」
「見下ろすなや……! (小声)」
直哉語録を無視して、衛兵Bくんは牢屋から出てった。つれないヤツめ。
さて、しかしどうしたもんかしら。
へいクロちゃん、冤罪で捕まった場合の脱獄方法は?
『…………(うーん)』
その一、力いずパワー。まっするじゃすてぃす。この鉄格子を破壊して頑張って外に出る。
問題はこの華奢な姫様ボディにそんな筋肉があるのかどうかだ。
まあものは試しということで。
「……ふんっ!」
ばきっ、ぐにゃっ。
あっ……ふーん、思ったより簡単にねじ切れましたねクォレハ……。あれ? 姫様ってもしかして脳筋スタイルだった?
『…………(つんつん)』
変な形に割れてとんがってるから触っちゃだめよクロちゃん。君がそんなので怪我するとは思えないけど。
まあぶっ壊れた檻は一旦置いておいて。
脱獄方法その二、看守・衛兵の懐柔。
「うっふ〜ん(はーと)おんなよ〜ん(はーと)ここからだして〜ん」
……姫様スマイルなら簡単にできそうで怖いな。やめとこう。
「……女……?」
「女だ……!」
「若え女……上玉……!」
「おっ(^ω^)」
やっべ、同居人がいましたかこれは失敬。わたくしヒメちゃんと申すもので──
「〇すッ、〇すッ」
ガシャンガシャン。
なるほど。
どうやらここは集合住宅(鉄格子付)。
Twitterでよく見る抱けーッおじさんみたいなのがいっぱいいるね。全員目が血走ってて怖いね。
……ッスー、そういう感じね?
「まあ待て、話せば分かるさ」
「女ァ、久々のォォォォォ!」
大丈夫大丈夫。
笑顔のまま斬り殺しにきた勇者くんよりは怖くない。
「まずはそうだな」
さて、人間が他の生物より優れているところ、どこだか分かる? クロちゃん。
『…………(うーん?)』
話せば、話せるというところです(進次郎)。
「初恋の話でもしよう。馬鹿みたいな話がいいな」
まずはそこのスキンヘッドが素敵なお前だオラッ。
「ブァッハッハッハッ、ヒヒヒッ、おま、バカかよ! *1」
「う、うるせえなあ! 大真面目にやってたんだよあの頃のオレはよぉ!」
「だからってそれはねえだろ!」
「そんなんだから豚箱にぶち込まれるんだよ!」
「オデならもっと上手くブチ〇せた!!!」
「誰もンな話してねえよ」
「お前死刑な」
「寝取りてぇー」
「ヒィー腹痛てぇ……あー、じゃあ次お前な。何して捕まったん」
「俺かぁ? 話せば長くなるんだけどよ……」
「嘘つけ」
「三行以内でよろ」
「おい、お前は帝都への移送が決まった。早く出てこい」
「あ゛??」
牢屋に放置されてたぶん一週間くらい。賑やかなおじさん達とワイワイやってたら、いきなりやってきた衛兵Bくんがそんなことを抜かしやがった。
なんだァ? てめェ……。
「姐さんに何するつもりだゴラァ!!!」
「指一本でも触れてみろ、貴様の〇〇を〇〇して〇〇してやるからな」
「
凄いぞド〇ーラ……俺は今泣きそうだ……。(ハゲ散らかした凶悪犯がバチ切れしてて)怖いし、うるさい……!
「やかましいぞ犯罪者共。だいたい何やってるんだそんなに集まって……待て、何故檻の外に出ている?」
「見てわかんねえのか、UN〇だよUN〇」
「はいスキップ」
「はいドロー4」
「はいドロー4(2回目)」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
ふざけるなァ! ふざけるなぁぁあ!! バカヤロオオオオオ!!
タイムアルターダブルアクセルッ、ンンンッ!!
「ふざけてないで来い。あとお前らは脱獄犯として報告しておくからな」
「キゲンダン……ヒダンシャノマリョクハボウソウシミズカラノニクタイヲシュンジニシメツサセル」
「ブツブツと変なことを呟くな」
ンアーッ、衛兵さんの権力がデカすぎます!
「じゃあみんな元気でな〜、俺は都で一旗上げてくるよ〜」
「おい姐さん負けた分の支払い済んでないぞ」
「衛兵さんが払ってくれるってさ」
「勝手なことを言うな」
こうして俺は、一週間過ごした愉快な集合住宅から引越しすることになった。
向かう場所は帝都。帝国の首都らしい。名前の通りだね。
ところで重犯罪者として移送されるヒメちゃんは帝都で一体何をされるんですか?? 処刑ですか??
『…………(こくこく)』
うーん(昇天)
あと犯罪者共は脱獄のせいで刑期がそれぞれかなり伸びたらしい。てらわろす。
◇◇◇◇
近頃は思考に沈むことが増えた。
手持ち無沙汰の日々。出来ることといえば、大して出来のよくない頭をくるくると回すことだけ。
朝食の献立。誰かの足音。遠くから聞こえる悲鳴。
天井に滲む血の月日。鉄格子の錆。
己の立場、力、役割。できること、できないこと。
今この国で起きていること。これから世界で起こること。
考える。考えて考えて、それらを実行に移す力がないことを悔やみ、しかし虎視眈々と機会を窺っている。
「……はあ」
じゃらり、と手首に巻き付けられた鎖が音を立てる。
しかし、それだけだ。彼を縛る物は。
鎖も、見張りも、然程脅威ではない。
彼は舐められている。何の力もない世間知らずのガキだと、あの敵達は彼を見下している。
だが、嗚呼。その傲慢に足元を掬われた時の奴らの顔、それが見たい。
どんな顔で喚くのだろうか。
どんな声で鳴くのだろうか。
己の憤怒に、屈辱に、犠牲に、少しでも釣り合うものがあるだろうか。
考える。ただ考える。
白金の血を引く猛虎は、静かにその時を待っている。
「────?」
しかし久方ぶりに、彼の世界に二つ、聞きなれない音が響いた。
一つは多くの馬車の車輪が石畳を叩く音。
彼の仲間から伝わっていた、彼が待っていた好機の音だ。
かの勇ましい猛獣は、彼の期待通りの動きをしてくれるかどうか。賭けにはなるが、勝率は高い。
そしてもう一つの音は──
「デンデッデッデデッデッデッデデデ♪ 次とぉ〜その次とぉ〜その次とぉ〜」
「いい加減黙ってくれないか……頭がおかしくなる……」
──なにこの……なに?
「ていねぇーていねていねぇーにぃー!」
血の匂いが染み付いた地下牢に響き渡る、鈴のような声で奏でられる馬鹿みたいな歌声。
彼はその声を聞いたことが、ある。遠い昔、幼い日の思い出の中で。こんな……知性を感じられないアレではなかった気もするが。
彼は思わず顔を上げた。
スキップでもしているような軽い足音は、もうすぐ側にあった。
「姫────」
「……お?」
女神か、と。そう見違えた。
黒曜石のような髪に、ルビーのような瞳。
まさしく神に愛された造形の彼女は──昔とは少し……いや大分様相が変わっているが──やはり彼が思っていた彼女だった。
「……ふ」
知らず、口角が上がっていくのを感じた。
これは特大の爆弾だ。
どう扱ったとしても無事では済まない。敵も、己も。
どうせなら派手にいこう。元よりそのつもりだったが、帝国をもっと、跡形も無いくらいめちゃくちゃに掻き回そう。
「人の顔を見ていきなりニヤニヤし出すのやめてもらっていいですか??」
「おい、喋るな」
「なんかそういうデータとかあるんですか??」
さてまずは──この人が変わったとしか思えない姫と、話すことから始めようか。