TS転生憑依闇堕ち(無自覚)精霊姫様は原作を知らない 作:むーちゃん
精霊ってのはだいたい人型で、だいたい見目麗しいらしい。
魔力を食ってない小精霊は手のひらサイズ。
ある程度成長したのは犬猫。
大精霊まで行くと人間より少し小さいかほぼ変わらない背丈になるとかなんとか。
これは闇の精霊であっても変わらない。
マッドなサイエンティストさんの隣にいた闇の大精霊さん(仮)もボンキュッボンの褐色肌露出多めお姉さんだった。
これで姫の命を狙ってなかったらなー!!! よかったんだけどなー!!!
つまり、つまりだ。
『…………(フンフン)』
なにあれ。
え? なにあれ。
人間でも精霊でもないのがいるんだけど。
人じゃない。絶対人じゃない。あんなグロい感じの何かを人とは認めないぞ俺は。
一応人型……ではあるけど、顔はもう化け物。悪魔です。
肌も赤黒いし、なんかぐにゅぐにゅ蠢いてるし。
尻尾生えてるし、翼生えてるし、腕多いし。
『…………(ムキッ)』
たぶん俺の心読んで反応してるし。
えーもうまぢむり。帰して! 俺を平和な世界に帰してー! 小生やだー!!
「おおっ、すごいすごいぞ、まだこんなにも私の知らないことが……! 精霊姫とはかくも美しく、かくも……ああっ、はあはあ、うっ」
『…………(フルフル)』
うわっこいついきなり射〇しやがった!! どこにぶっかけてんだお前ぶち殺すぞ!!
◇◇◇◇
「姫様が……いない……っ!?」
その日、城は騒然としていた。
何せあの精霊姫が忽然と姿を消していたのだ。
攫われたのか、あるいは現状に嫌気がさして出奔したのか。
どちらにせよ希望の象徴であり、対闇の精霊戦の超戦力でもあった彼女が消えたとなれば社会の混乱は免れない。闇の精霊たちの勢いも増すかもしれない。
あらゆる悪い想像が全員の脳裏を過ぎった。
「そんな……僕が、しっかりしてなかったから……?」
「アーサー!」
「勇者様っ! お気を確かに!」
そしてこの場で最もショックを受けていたのは、『勇者』と呼ばれる一人の少年だった。
アーサー・ブレイバー。
国の外れにある小さな村の出身であり、ひょんな事から光の大精霊と契約。
闇の精霊との戦いのため国に徴兵されたらいろんな所で大活躍。
あれよあれよと国の大英雄まで上り詰めた、この
そして精霊姫のガチ恋ユニコーン勢(ストーカー気質)でもある。
「ぼ、僕がずっと、あの人を見てればこんな、こんな事には……」
「アーサーしっかり!」
「やっぱりトイレまで着いて見張ってなきゃだめだったんだ……!」
「うわっキモ」
「あ、ああ、カレン、僕はどうすれば……」
フラついた勇者にすかさず駆け寄り、その身体を支えたはいいが勇者の発言に少し引いているのは赤毛の少女。
カレン・トビラム。
勇者アーサーの幼馴染であり、火の精霊から成長した存在──爆炎の精霊と契約を交わしている王国屈指の実力者である。
アーサーが徴兵されることが決まった際、「アタシもついてくから!」と半ば無理やり彼に着いてきたお転婆娘だ。
そしてアーサーの幼馴染ガチ恋ヒロイン枠でもある。
「アーサー、落ち着いて聞いて。いつも国民のことを第一に考えていたあの姫様が、アタシたちに何も言わずにそのままどっかに行くとは考えづらいわ」
「じゃあやっぱり……!」
「……ええ、十中八九、誰かに連れ去られたんでしょうね。そして恐らくその下手人は──」
「「──闇の精霊」」
二人の声が重なる。
アーサーはギリリと歯を食いしばり鬼の形相となった。
「舐め腐りやがってゴミが……もし姫様に何かしてたら百万回殺しても足りないぞ蛆虫共め……!」
「そ、そうね」
カレンは人相が変わりすぎている幼馴染に引いた。
「けど姫様がどこに連れ去られたのか、なんの手がかりもない以上アタシたちも動くに動けない……」
が、一応話の軌道修正をした。
「しらみ潰しに探しても、姫様が無事な間に見つかるかどうか……」
しんみりと、悲しんで見えるような表情を取り繕いながら。
その内心を押し殺すように、いつもそうしてきたように。
「いや、すぐに見つかる」
「え?」
のに、アーサーがなんか言い出した。
「あの最高で最強の姫様がそう簡単に捕まるとは思えない。そしてそのまま抜け出せないことなんてますます有り得ない。普通なら、だ」
「いや、あの」
おかしい。
「姫様の力はなんだ。精霊の力を最大限引き出すことだ。その力を活かせてないということは、姫様がいる場所には精霊が一人もいないということだ」
「え、あの、アーサー?」
「そんな場所は限られてるめぼしい所を重点的に探していけばいやそうだ風の精霊の契約者なら精霊がいない空間を探し出せるかもしれないおい誰かー!!!! 風の精霊かその進化系持ってる人いますかー!!!!」
「アーサー!? 落ち着いてアーサー!」
おかしい。原作のアーサーはここまで姫様狂いじゃなかったはずなのに。
「あ、ボク、空の精霊と契約してますよ」
「本当ですか!? じゃあこれをこうしてあれをああして──」
「ふんふん──」
「あっあっあっ」
おかしい。原作と違いすぎる。一体何故。これまで上手くやってきたのに──!
◇◇◇◇
TikT〇kで流行りを知り、pix〇vでいい感じの二次絵を漁り、癖に刺さればより深く知ろうとするタイプのオタクである。
そんな彼女の性な癖に突き刺さってドタマをぶち抜いてしまった作品が一つだけあった。
RPG、「妖精の花園」シリーズ。
マルチエンディング搭載、美麗なグラフィック、重厚なストーリー。
あとイケメンの主人公。
カレンはどハマりした。それはもうどハマりし、あらゆるエンディングを制覇した。続編も外伝もファンブックも全てコンプリートした。勢い余って何故かタイムアタックに手を出したほどである。
「我が青春は妖精の花園に捨ててきた」。そう言い切った彼女はとどまることを知らず、主人公との夢小説をLIN〇のステータスメッセージに大公開した。
そしてクラスメイトに大爆笑され、憤死し、転生した。
大好きだった「妖精の花園」の世界へ。
そして、イケメン主人公アーサーの幼馴染として。
さすれば目指すはただ一つ、アーサーとのハッピーいちゃラブトゥルーエンドである。
だというのに。
だと……いうのに……ッ!
「アンノドグサレアマァ……!」
『マスタ〜、隣の部屋に聞こえちゃいますよぉ〜』
「うるさいっ!!」
『あぁ〜超響くぅ〜』
アーサーの好感度パラメータがおかしい。
幼馴染としてフラグ管理は徹底してきたはずだった。彼の好意が自分に向くように仕向けたつもりだった。
それをあの、あの精霊姫が全て奪い去っていった。
彼女の努力も覚悟も全て嘲笑うように。
許せない。許せるはずがない!
「アーサーは、アーサーはアタシのなのに!! ……みたいな、ふふ」
だが、だが。
「だ……駄目よ、まだ笑っちゃ……こらえなきゃ……で、でも……」
彼女は知っている。
原作の流れを誰よりも知っている自負がある彼女は、ようやく待ち望んた時が来たことを悟っていた。
狂気の科学者と闇の大精霊に攫われた精霊姫は、全身を呪いに犯されてもう助からないということを。
「ふ、ふふふ」
『うわあ、我がマスターながらドン引きですぅ〜』
「本当にうるさいわね、貴女も共犯みたいなものなんだからつべこべ言わないでくれる?」
『おぉ〜暴君こわ〜』
彼女はもちろん誰が、いつ、どこで精霊姫を攫おうとしていたかを知っていた。
防ごうと思えばいくらでも防ぐ手立てはあったのだ。
しかし、何もしなかった。
全ては、恋敵を消すために。
そこにそれ以外の理由など存在しない。
それによって巻き起こる混乱など、絶対の愛の前では無意味である。
「ただの小精霊だった貴女をここまで育て上げたのはアタシよ。これからも協力してくれるわよね?」
『魔力さえ貰えるならいくらでもぉ〜』
彼女はカレン。爆炎の使い手カレン・トビラム。
目の前にいる邪魔者は、全て燃やして灰にするまで。
◇◇◇◇
一方その頃。
ほへー、あんたも知らない世界から来たんかー。
『…………(シクシク)』
帰りたい? じゃあ一緒に帰る方法探すべ。
『…………(ピクピク!)』
おうおう、あんた俺以外の誰にも見えないみたいだからな、ここから抜け出せたらいくらでもやりようはあるはず……たぶん。
『…………(ムキッ)』
何も知らない一般通過成人男性in精霊姫は一般通過化け物と仲良くなっていた。
〇『勇者』アーサー・ブレイバー
・18歳。174cm。68kg。
・金髪碧眼のシュッとした超イケメン。
・契約精霊:『光の大精霊』
・クソ強い。
・クソキモい。
〇『爆炎の使い手』カレン・トビラム
・17歳。155cm。体重は秘密。
・赤髪赤目のキリッとした美少女。
・契約精霊:『爆炎の精霊』
・めっちゃ強い。
・めっちゃ性格悪い。