TS転生憑依闇堕ち(無自覚)精霊姫様は原作を知らない   作:むーちゃん

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第4話「ゴポゴポゴポゴポ」

 ◇◇◇◇

 

【悲報】救出対象のはずの俺氏、蚊帳の外【助けて】

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 カレンは勇者と共に串刺しにされながら考える。

 

 原作にはなかった戦闘だ。

 

 早く到着しすぎた影響だろうか。

 

 ただまあ──負けることなどありえない。

 

 

 

 なし崩し的に始まった闇の大精霊の契約者との戦闘に対し、勇者パーティーの初手は鬼畜合法ロリの宣誓だった。

 

「【水精の口付け(みんなはあくせく働いとくのです)*1

 

 勇者パーティーの要はプリステラである。

 

「【みずたまもよう(わたしは高みの見物なのです)*2

 

 バフ、デバフ、ヒール。あらゆる支援をこなすサポーター。

 

「【蜃気楼(おまえの目玉は節穴なのです)*3

 

 カレンは知っている。

 

 某掲示板では、主人公である勇者を差し置いて、プリステラが人権キャラだと呼ばれていたことを。

 

 プリステラさえ生きていれば、勇者パーティーは何度でも甦る。

 

 

 

 勇者は胸を貫かれたくらいでは死なない。胸に突き刺さった漆黒の棘を素早く切り飛ばした彼は、血を垂れ流したまま狂気の科学者へ斬りかかっている。そしていずれ光の大精霊の加護によってその傷も埋まるだろう。

 

 グラッドは素の防御が硬すぎてダメージが通らない。そもそも先程の攻撃の対象にはなっていなかった様子で、今はプリステラと精霊姫の防御を固めているようだった。

 

 つまり今、プリステラが主に支援を飛ばしているのは、紙装甲ロマン砲のカレンだ。

 

「──サラマンダー」

 

 単体大回復技の【元気になーれ】をその身に受けた彼女は、平たい胸に空いた大穴が塞がった事を確認し、契約精霊に呼び掛ける。

 

『はぁ〜い』

「【緋の粉】」

 

 狭い部屋の中、非戦闘員を守りながら戦うという状況は、超火力を武器とするカレンとは相性が悪い。

 

 しかしやれないことも無い。何故なら彼女は勇者の幼馴染だからだ(強火)。

 

 

 地面、天井、あらゆるところから突き出てくる棘を斬り飛ばしながら敵へと接近していく勇者を横目に、カレンは狙いを定めて。

 

「ばん」

「ぎょぴ──!?」

 

 闇の精霊契約者の体内へ座標を設定し、そこに大爆発を起こした。

 

 身体の内側から破裂するという攻撃を受け、バラバラになった肉と臓物が飛び散る。

 

 勇者はその攻撃を見越していたように飛び散った肉の塊を更に細かく寸断し、再生できないよう塵も残さずこの世から消し飛ばした。

 

 だが。

 

 

「──ああ痛い、痛いですねえ」

「気色悪いな」

「物理的な攻撃は意味なし、ね」

 

 

 何もないところから再生が始まる。

 

 ずたずたの肉塊からすぐに人型へ形を変えていく化け物がそこにはいた。

 

 そして厄介なのは──

 

 

「ゴフッ、ああ鬱陶しいっ!」

 

 

 警戒しても尚、意識を通り抜けて身体を貫いてくる漆黒の棘である。

 

 

「ゴポゴポゴポゴポ(ちゃんとかわしてほしいのです、回復するこっちの身にもなってほしいのです)」

「できたらやってるわよ!!」

 

「うーん、何度も致命傷を与えているはずなのですが……貴方がたは不死身ですか?」

「こっちの台詞、だッ!」

「ギえっ」

 

 

 自身の被ダメをカットする代わりに移動速度を大幅ダウンさせる技【みずたまもよう】により、自らの全身を巨大な水滴の中に閉じ込めているゴポゴポロリの文句を聞き流しながらカレンは考える。

 

 見たところ、契約者へ直接攻撃へ行っても効果は薄い……というより全くないように見える。

 魔力を契約の代価とする通常の精霊と異なり、闇の精霊は血肉を代価とする。いくら肉体を破壊しても再生するのは、既に全身を代価として捧げていることの副作用だろう

 つまり叩くべきは契約者ではなく、闇の大精霊本体。

 

 だが気配がしない。さきほど声は聞こえた。そしてこれだけの力を契約者が振るっているならば近くにいるはずだ。

 

 一体どこにいる? 

 

 

「アーサー! カレン! 地面の下だっ!」

 

 その問に答えをくれたのは、プリステラと姫への棘攻撃をファンネルのような岩盾を使い完封しているグラッドだった。

 

「壁や地面を動き回ってる! 大地に違和感がある!!」

 

 壁や地面。気配のしない攻撃。原作未登場の闇の大精霊──

 

「──影! この大精霊は影の派生よ!!」

『なっ……!』

 

 カレンの原作知識が火を吹いた。

 

 公式設定資料集の一ページにだけ記載がある闇の大精霊。本編では影が薄すぎて登場機会に恵まれず、『影(笑)の大精霊』として一部のコアなファンの間で愛されていたあのキャラだと、この世界でカレンだけが知っている。

 

 

「影か。ならこれはどうかな」

『ああ……素敵な光ね、アーサー』

 

 カレンの言葉を聞いて行動に移るのは勇者と光の大精霊だ。

 

 勇者が剣を手放すと、目も眩むような光量が彼の手のひらに凝縮されていく。

 

 もしあれが解放されれば──正体を暴かれた闇の大精霊にとって、ろくでもない結末になるのは目に見えていた。

 

『マッド! 奴を止めろ!』

「やってますよ!」

 

 それを止めようと科学者は必死に攻撃を勇者へ集中させる。この影の棘は人間の注意が向かない特性が付与されているため、無防備に剣を捨てた勇者ならば簡単に貫けるはずなのだが──

 

「何だとっ!?」

「ゴポゴポゴポゴポ(ぷぷぷ、ひっかかってやがるのです)」

 

 視界が霞みがかったように勇者の輪郭がぶれ、全く見当違いの方向へ影の棘を飛ばしてしまう。

 

 プリステラの代名詞、【蜃気楼】の惑わしがここで牙を剥いた。

 

 それでも諦めてなるものかと、慌てて手のひらから追加で棘を伸ばすも──

 

「おらよっ!」

「邪魔を、しないでくれませんかぁ!?」

 

 軌道が分かれば簡単に防げる。

 間に入りこんできた無駄にデカイ男が、その岩のような肌で棘を弾いてしまった。

 

「ばん、ばん」

「ぴょえっ──この、女ァ!!」

 

 そしてその隙に遠距離から頭蓋を爆破され、再生までに数秒時間を食ってしまったところで。

 

 

「消え失せろ、クズ共」

 

 

 タイムアップである。

 

 

『不味いっどこかに隠れ──』

「待っ──」

「【超新星(スーパーノヴァ)】」

 

 

 勇者が、手の上にあった光球を握りつぶす。

 

 そして溢れ出した光は、部屋の中の影を全て消し飛ばす。ついでに直視していた姫の目玉を焼き尽くす。

 

 ◇◇◇◇

 

 目がぁ~目がぁ~!! あ~あ~目がぁ~あ~あ~!! 

 

 ◇◇◇◇

 

 

『オ、オオオ──!』

「見 つ け た」

『ガッ……!?』

 

 

 そして、影がなければ潜めない。

 

 堪らず地面から弾き出されてしまった大精霊の首を勇者は片手で捕らえ、ギリギリと締め上げながら宙ぶらりんの形にした。

 

『は、離せ……っ!』

「うん」

『い"っ……』

 

 そして再び手にした剣で四肢を斬り落とし、首から手を離し腹に剣を突き刺して壁に縫い止める。

 

『あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!』

「離したよ」

 

 科学者は目を抑えて呻いており、しばらく再起不能に思える。

 闇の大精霊は捕らえられ、ダルマになって血を吐いている。

 

 これにて決着である。

 

 

 

「さて……姫様に何をしたのか、話してもらおうか」

 

 だが、もう打つ手はないはずだというのに、ニヤニヤと笑う大精霊の表情が目障りだった。

 

『は、ははは! 貴様ら精霊姫を奪いに来たのだろう!? だったら残念だったな! もう手遅れだよハハハハ、っがああああああ!?』

「質問に答えろ。何をした?」

『ふ、ふはは。精霊姫は、我ら闇の精霊の器となった』

「何……?」

『アレはもはや、貴様らの知る精霊姫ではない!』

 

 げほっ、と大きく血を吐く大精霊。

 しかしその目はまだ死んでいない。

 まさかここから、まだ逆転の芽があるというのか? 

 

『マッド! やれ!』

「完璧なデータを取れた訳では無いが……致し方ありません……!」

 

 後ろから聞こえた声に振り向く。

 先程まで地面に転がっていたはずの科学者が──いない!? 

 

「なっ」

『油断したな勇者ァ!!』

「っ! グラッド!」

 

 影は常にそこにあり、あらゆる行動の裏に影は存在する。

 

 意識が己に向いているのであれば、少し注意を逸らすことなど闇の大精霊にとっては容易なことだ。

 

 

「闇の精霊王様! この器を全て貴方に捧げます! どうかこの世界に新たな祝福を──カピェッ」

「チッ」

 

 

 パーティー全員の意識の隙を突き、姫の近くまで移動していた科学者。

 

 すぐにグラッドが頭を叩き潰したが、何らかの奇妙な術は発動してしまったらしい。

 

 底冷えするような、全身に鳥肌が立つような気配が部屋を満たしていく。

 

 

「ぷはっ……何なのです、このきもちわるい気配は」

『ハハハハハ! 貴様らは終わりだ! 闇の精霊王様の糧となって死に絶え──!』

「うるさいのです」

『ゴポポポポホ』

 

 

『ひょえ〜キモっ』

 

 カレンの相棒──サラマンダーもこの異様な雰囲気に怯えているようだった。たぶん。

 

 

「……アーサー」

「ここからが本番、みたいだな」

 

 

 姫に異変が起こる。

 

 これまでピクリとも動かなかった彼女の指に力が入り、いつの間にか閉じられていた目が開かれる。

 

 そして糸に釣られる操り人形のように、不自然な動きで立ち上がった。

 

 

「姫様……」

 

 

 彼女の頭上にはいつの間にか闇があった。

 

 何も見通せない底無しの闇。

 

 

『妾を呼んだのは、うぬらか』

 

 

 そこから響く声には、カレンがこれまで感じたこともないような重圧が込められていた。

 

 

『この力は……闇の精霊王!?』

(ここにきて原作通りの流れに回帰した……!)

 

 

 光の大精霊が思わずというふうに零した言葉は、精霊姫が闇の精霊王に操られ、そして限界を迎え亡くなってしまうというカレンが知っている原作の通りであった。

 

 つまり原作のまま進むのであれば、これから始まるのは勝ち目のない耐久レース。数ターン生存することがクリア条件の負けイベントだ。

 

 

『現世の器としては足らぬが……まあよい、遊んでやろう』

 

 

 闇からぬるりと手が伸びる。

 

 その手は真っ直ぐに精霊姫の頭に向かっており、その身体を奪い取ろうとしているのは明白であった。

 

 

「姫様に触るなァ!!」

「くそっ、気合いで乗り切るしかないわね……!」

 

 

 激昂し、斬り飛ばさんと駆け出す勇者。

 

 しかし、一瞬間に合わない。

 

 

 血の通っていない青白い腕が、姫の頭の中に入り──

 

 

『その身体、貰うぞ──』

 

 

 めちょっ。

 

 

「えっ」

「えっ」

『えっ』

『えっ』

 

 

『はっ?』

 

 

 見えないナニカに捻り潰されるように、ぐじゃぐじゃに折り曲げられた。

 

 

『えっ? ちょ──』

 

 

 そして地面に叩き潰され、床のシミとなって消えた。

 

 

 

 

 

「……こんにちは」

 

 

 あまりの急展開に静まり返るその場に残ったのは。

 

 

本日は、いいお天気ですね(お天気デッキで勝負にゃ!!)

 

 

 漆黒の髪、真紅の瞳を持つ、無表情の女だけだった。

*1
パーティーメンバーの被ダメージダウン、リジェネ付与。

*2
自身の被ダメージ大幅カット。移動速度大幅ダウン。

*3
敵攻撃の命中率ダウン。




ようやく主人公のターン!ドロー!【お天気デッキテンプレ構文】!!主人公は敗北した!!



〇『精霊姫』
・17歳。157cm。45kg。
・銀髪紫目。神の如き美貌。
・契約精霊:なし。
・彼女は産まれながらの王者だった。
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