TS転生憑依闇堕ち(無自覚)精霊姫様は原作を知らない 作:むーちゃん
「死ね」
なんか全身斬られたなり。
「
泣いちゃった!!
「【閃光】」
「
ちょ、マジで死ぬ。
さっきから異様に身体が軽いので、なんとか避けて一旦壁際までシュバッと逃げる。勇者くんは警戒して追ってこなかった。ラッキー。
あ、闇の大精霊さんチーッス。いいダルマっぷりですね。え? 助けてほしい? こっちのセリフだが。元はと言えば全部君のせいだが。
「全く……」
ふー、マイクテスマイクテス、えー、この勇者ヤバい奴です。
さっきまでキラキラしたお目目してたのに、いきなり何の躊躇いもなくラブラブ(一方通行)なはずの姫様の腕斬り飛ばして全身ズタズタにしてきました。狂人ですこれ。
痛覚死んでるし、なんか切られた断面から血じゃなくて闇みたいなモヤモヤしか出てこないから何ともないけど……いやこれ逆に何ともなくなくない? 俺の身体どうなってんの。
「コレは姫の身体なのですが……
「ふん、死んでなければプリステラが治せるさ」
ひゅ〜、思い切ってるぅ(白目)
まぢむり……もうリスカされてる……。
こんなのが勇者かあ、世も末だなあ。
うーん、クロちゃーん、これどうすればいいー?
『…………(ふるふる)』
クロちゃんもこれには思わずお手上げポーズだ。助けてくれないらしい。
え、これ俺がどうにかすんの? 無理では?
「【光滅ノ鎧】」
あっやばい勇者くんたぶん
「死なない程度に百回死ね──」
「
そんな言葉を放った瞬間、自分から何かが抜け出るような感覚があった。
なんか知らんけどたぶんこれが……魔力……!(小並感
「仕方ないのです」
「おいアーサー、お前なんで姫様殺そうとしてんだ」
そして勇者くんの殺意マシマシ攻撃を弾くように、俺の前に幼女とデカ男が立ち塞がった。
おお、水使いヒーラーちゃんに岩使いタンクさん! 君たちこそ勇者パーティーに相応しい! 頼れる仲間!
「大丈夫なのですか、姫様」
「
ヒーラーちゃんが手をかざすと、姫のボロボロの身体が温かい水に包まれる。するとみるみるうちに傷が治り、腕までニョキっと生えてきた。あ〜癒されるんじゃ〜……いや癒されすぎでは? 腕ってそんな簡単に生えるの?
「邪魔をするな、二人共」
「護衛対象殺してどうするのです? その足りない脳みそ使ってもう少し考えて行動して欲しいのです」
「プリステラ、事実でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ。アーサーがアホなのは今更言わなくてもみんな分かってる」
むむっ、今の刺激で姫の頭脳が君たちとの思い出を思い出そうとしている気がする……! 勇者くんと一緒に名前も思い出してあげるからねえ──
──すいません、いらっしゃいますか?
──はーいなのです。
──明日の強襲作戦のことでご相談が……ひっ!?
──ごぼばぼっ!? ひ、ひめさぶばばばぼぼ!
──足置きが喋るな。あっ姫様、いかがなされたのです?
──っ、あっ、いえ……
──今ちょうどワインを開けたところなのです。良かったら一緒に飲むのです。
──ああ、その、わたくしにはお構いなく……
──脳裏に浮かぶのは、水に溺れる全裸の筋肉の塊と、その頭を踏んずけて酒盛りする幼女。
……わァ、ぁ……! こいつら変態だあ……!
◇◇◇◇
ここにきて原作にないことばかりだ。
カレンはうんざりした気分で、仲間割れを始めたパーティメンバーを少し離れて眺めていた。
『ほんはにぃ〜ふにぇふにぇはへへほ〜ひへはははほうへひひはへんほぉ〜*1』
「なんて言ってるか分かんないわよ」
カレンの契約精霊は姫の支配下にある。思いっきりその小さい顔を引っ張ったりしても逃げ出さないようだし、先程の待機の命令に従っているのだろうか。
そして精霊が使い物にならない以上、カレンはただのそこら辺にいる村娘に成り下がる。幼馴染やガチムチ男のように人外の身体能力を持っているわけではないのだ。
つまり、今のカオスな状況に介入するべきではない。
ただそれは、今のままのカレンであれば、だ。
「こんなところで使うつもりはなかったんだけど……」
躊躇なく仲間だった二人に斬りかかる幼馴染を思考の外にぽいする。あの二人の守りをそうそう突破できるとは思えないし、彼らが本気で殺し合うことはないだろう。たぶん。
なので彼女は悠々と己の懐をまさぐり、ようやく目当ての物を見つけたのか、何か小さな物を取り出した。
『!?! ほ、ほれは……!!』
そんな彼女の掌の上にあったのは、虹色に輝く小さな丸石だった。
「てってれー」
\\ コンティニューアイテムー!//
『ほ、ほれだけは! それだけはやめてくださいぃ〜!』
その輝きを目にした瞬間、先程までののんびりとした雰囲気を霧散させ、必死にジタバタと逃げ出そうとする
過去に何があったのか、まるでトラウマを刺激されたかのようにもがくその姿は、見る者の哀れみを誘うほどだ。
カレンの知ったこっちゃないが。
「はい、あーん」
『い〜やぁああ〜!』
おら、美少女マスターの貴重なあーんだぞ。心して味わえ。
『もががもごごご!』
さて、コンティニューアイテム、正式名称『精霊の涙石』。
原作においてはコンティニューアイテムと言う通り、パーティ全員が戦闘不能となった場合に用いることができるアイテムだった。
その効果は、パーティメンバー全員のHPを50%回復した状態から戦闘再開させる、というぶっ壊れ性能。まあ一回の戦闘で一度までしか使用できないなどの制限はあるのだが……。
『むごごご──オオオォ!』
ゲーム『妖精の花園』に存在したということは、この世界にも存在しているということ。
カレンは幼馴染について旅をする中、各地でこのアイテムを拾い集めていた。未だに両の手で数えられる程しか集まっていない貴重な代物だ。
しかし一度も使わず取っておいて、いざという時に思った効果が出ずにそのまま昇天、などということがあっては本末転倒。瀕死になるほど幼馴染に甚振ってもらった契約精霊に使用し、原作通りの効果が発揮されるのは確認済だ(契約精霊とはその後一週間くらいは口を聞いてもらえなかった。さすがに謝った)。
そして実際に使ってみて──カレンは『精霊の涙石』の本質を理解した。
回復? 復活? そんなちゃちなものでは断じてない。
これは、このアイテムは──精霊の力の源である、魔力が凝固した物質だったのだ。
『ォォォオオオ!!』
そしてそんな代物を、元気ピンピンの精霊の口にダイレクトアタックすればどうなるか。
「ねえ、早く起きなさい」
こうなる。
『──マスター、いきなりこんなことをするのはやめろと、何度も言いましたよね』
そこにいたのは一人の美青年だった。
先程までは抱き抱えられるような大きさだったが、今やカレンより二回りほど大きな背丈となっている。
燃え盛るように靡く橙の長髪に、光を反射するルビーのような瞳。
間延びした口調はどこかへ飛んでいき、今や高貴なお嬢様に仕える執事のような雰囲気を醸し出していた。
「姫の支配は?」
『……脱しているようです。やはりこの姿になったことが要因かと』
「よし、なら行くわよサラマンダー」
精霊の強制成長。
大精霊間近の中位精霊だった彼女の契約精霊は、今この時だけ大精霊と同等の力を振るうことができる。
後に来る反動は大きいが、それを差し引いても余りある力を持つ、彼女の切り札だ。
「あいつに吠え面かかしてあげる」
それは突然だった。
「ッ!?」
全てを弾く鉄壁の守り、そして全てを受け流す水玉を思うように突破できずイラついていた勇者は、背後から感じた死の気配に思わずその場を飛び退いた。
そして。
「!? プリステラッ!」
「分かってるのです……!」
「【破壊紅線】」
息のあった
「ぐっ……仲間に向ける攻撃じゃねえだろそれ……!」
「けほっ、やっぱりカレンも正気じゃないのです」
「
しかしさすがは勇者パーティか。
守るべき姫には傷一つ付けずに、かつ地下空間を崩落させずに爆炎を防ぎきったその実力は疑いようもない。
「クソッ……お前も邪魔するのか、カレン!!!」
「いやどっちかっていうとアタシ助けてあげたでしょ今」
爆発の煙から出てきたのはやはりと言うべきか、これまで戦闘に参加していなかった最後のメンバーである『爆炎の使い手』。
しかし普段よりも明らかに存在感の大きい精霊を従える彼女は、勇者に並ぶほどの危険な存在であるように見えた。
「全員殺して姫様を取り返すッ!」
「なんかもうめんどくさいから全員まとめて薙ぎ払ってあげる」
「そろそろ帰っていいのです?」
「何故こんなことに……」
「
混沌は加速していく──
〇『精霊の涙石』
・原作ではコンティニューアイテム。ログインボーナスで貰える。
・現実では魔力の塊。魔力の滞留する場所でしか発生しない希少な物。
・健常な精霊に直接接種させると、一時的に保有魔力が増加する。時間経過によりその効果は減衰し、その後一週間程はまともに動けなくなる。