TS転生憑依闇堕ち(無自覚)精霊姫様は原作を知らない   作:むーちゃん

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第8話「こりゃあ完全に異世界でよいでしょう!」

 うーん、夜空が綺麗だなあ。

 

 きっと空気が澄んでるから、星がこんなによく見えるんだなあ。

 

 月も三つに増えてるし、こんな事ってあるんだなあ。うーん、あたし三月な〇か! あとはこいつをブロックして完全勝利だよ! 

 

 ……こりゃあ異世界でよいですね。

 

 

 そこら辺に小さい人型の光(たぶん精霊的ななにか)もふよふよ浮いてるんだなあ。

 あ、手振ってくれたかわいー。振り返してあげたらびっくりして逃げてった。かわいー。

 

 うん、こりゃあ完全に異世界でよいでしょう! 

 

 

「ぬわーん」

 

 

 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! 

 

『異世界のお姫様に憑依した俺は勇者くんに腕チョンパされたと思ったら、いつのまにか地上に出て寝転んでいた』

 

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。

 

 頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

 

『…………』

 

 あっクロちゃんもいたんだ。無事で良かった。ところで何があったか知らない? なんかいきなり放り出されたんだけど。

 

『…………(ふるふる)』

 

 何も知らないらしい。これは困った。マッドなサイエンティストとかガンギマリ勇者くんから逃げられたのはいいものの、現状どうなってるのかが全く理解できない。

 

「よいしょっと」

 

 とりあえず起き上がってみる。

 右手よーし、左手よーし、両足よーし。

 あれ? 右腕生えてる。綺麗にちょんぎられてたのに。真っ黒な腕が生えてますよ。え、これ大丈夫なやつ? 

 にぎにぎしてみたけど特に何の違和感もない。まあ使えるなら……ヨシ! (現場猫)

 

「【急募】ここどこ【助けて】」

 

 さて、現状を整理しよう。

 

 ①人体実験されてた姫様の中にぶち込まれた異世界人俺。

 ②助けに来たはずの勇者くんにぶち殺されそうになった俺。

 ③気づいたら誰もいない丘の上にぶち転がされてた俺。

 

 やだ……俺くん不憫……! 

 

 ま、まあとりあえずは、出会い頭にバトル仕掛けてきそうな勇者くんに出会わないことを祈りつつ、他に人がいないか探しにいくのが安牌か。

 暴漢に襲われたって感じで転がりこめばまあ何とかなるやろ。暴漢(勇者)だけど。腹減ったから飯食べたい。

 なんなら元の世界に帰りたい。けどこういうのってたぶん相当難しいんやろなあ……。

 

「そうと決まれば行こうかクロちゃん」

『…………(しおしお)』

 

 なんかしおしおしてるクロちゃんを連れて、俺は異世界探索へ最初の一歩を踏み出した。

 

 真っ暗なはずの足元がよく見えるのは、きっと異世界がそういうもんだからだろう。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

「面を上げよ、勇者と、その仲間たちよ」

「……はっ」

 

 ところ変わって、王国の謁見室。

 

 姫の奪還という果たすべき使命を果たせず、失意の内に帰還した勇者一行。

 

 罪人であるかのように頭を垂れていた勇者が顔を上げると、まともに食事が喉を通っていないのか、幾分顔色悪く痩せ細った王の姿が視界に映った。

 

「……まずは、其方らが無事で何より」

 

 娘が連れ去られたのだ。言いたいことは山ほどあるだろう。

 ましてやその娘は『精霊姫』。人間が闇の精霊に対して優位に戦局を進められていた要因の半分は『精霊姫』の活躍と言っても過言ではないことを考えれば、父としても王国の主としても、勇者へ罵詈雑言を浴びせる権利はあるはずだ。

 

 しかし彼はそうしなかった。

 

「『精霊姫』は……覚悟は、していたことだ。彼女自身も、そうだろう。誰も其方を責めはせぬ。元より私の過失でもある」

 

 何故なら、彼は王だからだ。

 泣き喚いたところで何も成らない。

 これまでを反省し、これからを見据え、よりよい未来を手繰り寄せる。

 全ては王国のため、そして王国に暮らす民のために。

 

(お前もそう考えるだろう、我が娘よ)

 

 ただ、胸の内で悲しむことだけは許されるだろうか。

 

「彼女を喪ったことで、これより先の戦いは厳しいものとなる。其方の働きを、期待している」

「──恐れながら」

 

 だが勇者はそれを許さない。

 

「姫様はまだ、生きております」

「何……?」

「ちょ、アーサー」

 

 幼馴染が焦ったように小さな声で呼びかけるが、彼は止まらない。

 

「姫様は最後に──ご自身の御体を取り戻していた」

 

 耳にこびりついてる。またどこかで、の言葉が頭蓋を反響する。

 

 どこかへ消えた。しかしそれは去っただけだ。まだ死んでいない。まだ取り戻せる。

 

「まだ私は──僕は姫様を救うことを諦めない」

 

 それが彼の存在意義だ。

 

 姫の存在こそが、彼の興味の全てを惹きつけるただ一つのものだ。

 

 それを、まるで既に喪ったかのように話す王を──彼は許容できない。

 

「まるで狂犬だな、其方は」

 

 王はそんな彼をみて、ふっ、とたしかに笑った。

 

「いいだろう。一つ任を、其方らに授ける」

 

 ざわり、と騒めく周囲を囲む貴族たち。

 今回の騒動の責任を勇者へ押し付けその権威の失墜を目論んでいた一部の貴族は白目を剥き、姫の喪失で将来を憂いていた貴族すら目を見張った。

 

「『精霊姫』を必ず見つけ出し、ここへ連れ帰ってみせよ」

 

 それは、此度の任務の焼き直し。

 

 汚名返上、雪辱を果たす絶好の機会が、勇者のもとへ転がり落ちた。

 

「──御意!」

 

 勇者は決意を新たにする。

 

 必ず姫を取り戻し、その褒美として彼女をぶちお〇すことを。

 

 

「……なんかもうめちゃくちゃね」

 

 その横で、勇者の幼馴染は苦虫を噛み潰したような顔をしていたのを見たのは、おばさんと言われたことを根に持っていた合法幼女だけだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そして、数日前。

 

 

『はぁっ……はぁっ……!』

 

 彼女は逃げていた。

 

 影に潜り、誰も追いかけてきていないか何度も振り返りながら。

 

 あらゆるものから逃げ出そうとしていた。

 

『クソッ、マッドめ……最後に派手にしくじりやがって……!』

 

 彼女は闇の大精霊ミーヤ。影の力を操り、かの精霊姫を一時はその手中に収めた者だ。

 

 しかし今や彼女はただの敗北者。

 

 勇者たちには力及ばず壁に磔にされるという屈辱を味わい、とっておきの逆転の一手は下僕の不手際で不発に終わった。

 

『闇の精霊王様じゃない……あんなのは、あんな得体の知れないものは違う……!』

 

 元々は精霊姫を闇の精霊王様の器にする計画だった。

 

 そのために精霊姫の全身を呪いに浸し、闇との親和性を高めたのだ。

 

 しかし下僕が起動した儀式の結果、精霊姫に宿ったのは全くの別物。

 

 呪いが足りていなかったのか、あるいは精霊姫という特異性故のものか。

 

 原因は不明だが、失敗したという事実は変わらない。

 

 しかし不幸中の幸いもあった。

 精霊姫に宿った謎の存在に勇者たちが混乱している間に、彼女は隙をついて逃げ出すことに成功したのだ。

 

 下僕は見捨てた。契約も破棄したため恐らくあのまま岩の下敷きとなって死んでいることだろう。

 やはり人間はろくでもない。偉大な力を貸し与えたとて、こうも失敗する人間の愚かさを改めて理解できた。

 人間とそれに支配されている精霊たちを排除し、闇の精霊だけの世界を作ることで、ようやく美しい世界となるのだ。

 

『クククッ、私を逃がしたことを後悔させてやるぞ勇者……次は確実に息の根を止めてやる──!』

 

 光が輝くほど影は濃くなる。あらゆる手を使ってでも、憎き敵を滅ぼすことを彼女は決意した。

 嗚呼、闇の精霊万歳、闇の精霊王万歳!! 

 

 

 

『やあ』

 

 決意した、が。

 

『──!?』

 

 それが成されるかどうかとは、あまり関係がない。

 

 

『何者だ貴様!?』

 

 

 そこにいたのは一人の精霊だった。

 

 白。白、白、白。

 

 何者にも染まっていない無垢な色。

 

 髪も、服も、肌も、全てが純白なソレは、世界から浮き上がっているかのような不自然さがあった。

 

 

『何者……ひどいな、お前と僕の仲だろう?』

『な、何を……』

『ほら、思い出して』

 

 

 しかしその純白の中に唯一、色がある部位があった。

 

 瞳だ。

 

 瞳のみ漆黒。

 

 覗きこめば転がり落ちてしまいそうな深淵は、今確かに闇の大精霊だけを捕らえていた。

 

 

『【僕たちはお前の仲間だ】』

『ぎっ──!?』

 

 

 瞬間、脳内に溢れ出す──存在しない記憶。

 

 

『きさ、まっ……記憶の──!』

『正解、けど少し遅いな』

 

 

 闇の大精霊は眼前の(仲間)に手を伸ばす。

 脅威を排除するため、殺すため……いや助けを求めるため? 

 脅威とはなんだ? 目の前の純白はなんだ? 

 思考に空白ができる。そこへ割り込む知らない色が記憶を染めていく。

 

『あぅ……あ……?』

 

 純白の精霊──記憶の大精霊は。

 哀れな偽りの仲間の目を、白磁の細長い指で覆い隠した。

 

『おやすみ、ミーヤ。次目覚めたらきっと、僕たちは真の仲間になれる』

 

 

 そして、何もないはずの空へ、その目を向けた。

 

 

『そうでしょう? 姫、いや──我らが王よ』




〇『記憶の大精霊』
・中性的な僕っ娘。真っ白。大平原。
・記憶を操る力を持つ。精霊姫はこの力を使い、周囲の人間の記憶を読み取ったり、一部改竄したりしていた。
・バイ。




という事でキリもいいので第一章、というよりもプロローグはこれにて閉幕です。たくさんの方に読んでいただき筆者も驚いてます。ただ君に感謝を……。
続きは出来次第投稿します。まあいつも通りですね。
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