メイプルが転スラの世界に異世界トリップしてしまった!? 作:蘭生愛
「この辺の焼き串、めっちゃ美味いっすよ!」
無邪気に笑うゴブタに苦笑していたその時だった。
「……ゴブタ。」
低く落ち着いた声が背後から響く。
振り返ると、背筋の伸びた白髪の剣士――威圧感をまとった人物が立っていた。
「ひ、ひぃっ……ハ、ハクロウさん!」
ゴブタの顔から一気に血の気が引く。
「またサボっているな。来い、今日の訓練は昨日より厳しくするぞ。」
「ま、待ってください!今オレ、サリーさんと――!」
ゴブタは必死に抵抗しようとするが、すでに腕を掴まれている。
このままでは強制連行は避けられない。
思わず、私は声をかけていた。
「えっと……その、ゴブタさんをそんなに急に引っ張っていかなくても……!」
ハクロウの瞳がこちらに向けられる。
一瞬で背筋が凍るような気配を感じた。
でも、不思議と怖いというより、鋭く見透かされているような感覚だった。
「ふむ……お前は?」
「サリーといいます。……その、メイプルの友達です。」
名前を名乗ると、ハクロウは腕を組み、しばし私をじっと観察した。
「……目がいいな。焦りながらも視線が揺れぬ。剣の素質がある。」
「え、えぇっ!?」
ゴブタが絶望的な顔で叫ぶ。
「ハクロウさん!弟子にするならオレじゃなくてサリーさんにしてくださいよぉ!!」
「何を言っとるんじゃ。……だが、確かにサリーには伸びしろが見える。」
ハクロウの口元がわずかに笑みを描いた。
ゴブタは地面に崩れ落ちる。
「はぁぁぁ……オレ、助かったけど……サリーさん……すんません……。」
私は苦笑しつつも、ハクロウの真剣な眼差しに背筋を伸ばした。
(まさか、ゴブタを助けるつもりが……私が狙われるなんて。)
そして今、サリーはハクロウと手合わせをしていた。
森の薄暗い空間。ハクロウの連撃が襲いかかる。AGI特化の身体はすでに限界ギリギリの速度で動いている。しかしサリーの目は、単なる速度だけではなく、頭の中の膨大なデータベースを呼び覚ます。
(……ここまで来たら、全部思い出す……!)
幼いころから積み重ねてきたVRMMOでの戦闘経験。無数の敵の攻撃パターン、間合い、タイミング。空中の軌道、連撃のコンボ、罠の配置――すべてが脳内に鮮明に蘇る。身体が勝手に動き、攻撃を避ける。
バッ、バッ、バッ……! ハクロウの竹刀は光のように速いが、サリーの動きはそれを上回る。右に跳び、左に転がり、時にはその場でくるりと回転。攻撃が迫る度に脳が計算を重ね、身体は最適な回避動作を瞬時に選択する。
――今までのすべての経験が、ここに活きる。
AGI特化の速さは、集中状態の土台に過ぎない。真の強さは、この集中力にある。サリーは攻撃を一切受けず、まるで時間がスローモーションになったかのように敵の動きを完璧に読み切る。
「……なんと……!」
ハクロウの声が思わず漏れる。どんな連撃も、どんな予想外の攻撃も、サリーには避けられる。まるでゲームの中で培った経験を現実に引き出したかのようだ。
サリーは微笑む。額に汗は滲むが、心は完全に静か。どんな攻撃も、どんな相手も、この集中力の前ではただの“動く障害物”に過ぎなかった。