その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第11話 もう一人の読心少女④

 翌朝。

 私は色葉の家を遠くから見張っていた。

 

 教師の心を覗けば、色葉の情報を調べることは簡単だった。

 色葉の家の住所、母親と二人暮らしであること。母親は体の弱い娘を気遣って在宅勤務をしており、仲も良好らしい。

 

 少し待つと玄関から色葉が姿を現した。

 隣には、同じ制服を着た音無がいる。

 

 なぜ、音無が一緒に……?

 

 すぐに答えはわかった。昨夜、家に泊まっていたらしい。

 色葉の母親の心を覗くことで確認できた。

 

 ……なら、問題はない。

 

 そして、二人の姿が完全に見えなくなるまで、十分待った。

 それから私は静かに玄関へと歩み寄る。

 

 

 ――ギィィ、と軋む音を立てて扉が開いた。

 

 

 すでに、母親の心は操ってある。

 この程度なら簡単。だが、この先に必要な「複雑な仕込み」には、もっと時間がかかる。

 

「……初めまして。そして、お邪魔します」

 

 私を招き入れるように、扉はゆっくり閉じた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

 教室のスピーカーから、正午を告げるチャイムが響いた。

 

 私は昼休みの少し前に登校し、二階の教室の窓際に立ってその音を聞いていた。

 

 もちろん、認識遮断をかけての登校。

 登校時から誰にも気づかれず、色葉にも存在を悟らせない。

 

 そして、この教室には昼休みも静かに過ごす人が多いと、リサーチ済み。

 

 これで準備はすべて整った。

 あとは、予定通りに仕掛けるだけだ。――色葉との最終決戦を。

 

 

 

 

 幸先は、どうやら良いらしい。

 

 いつも色葉のそばにいる音無――あいつは心が読めないため、計画を進める上で最大の障害だった。

 だからこそ、感覚共有で他の生徒を介して、音無の動向を監視していた。

 

『あっ、ごめん。今日の昼休みは心音に頼まれて、学校を抜けて買い出しに行くんだ』

 

 その声が耳に届いたのは、まさに昼休みに入った瞬間だった。

 実際、今も音無は階段を降りて校門へと向かっている。

 

 ――イレギュラーが消える。これほどありがたいことはない。

 

 

 

 次に確かめるべきは、色葉の様子だ。あいつが保健室にいることは事前に確認済み。

 私はすぐに感覚共有の対象を保健室の先生へと切り替えた。

 

 だが視界に映るのは、机上の書類ばかり。まあ当然か。

 ――それでも、耳は役に立つ。

 

『んん。もしもし、ココネです』

 

 色葉の声が、はっきりと聞こえた。

 予定通りだ。この時間に母親から電話が入るよう、あらかじめ仕組んでおいたのだから。

 

 

 

 ――よし、もう一つの仕掛けを動かそう。

 

 私はポケットからスマホを取り出し、パスワードを入力してロックを解除した。

 これは、学外に待機させていた「駒」を呼び寄せるための電話をかける。

 

 

 

 同時に、保健室の先生を介して色葉の声が聴こえる。

 

『はい、どうかしましたか………………』

 

 布の擦れる音とともに無言の時間が続いた。おそらく、母親の言葉に絶句したのだろう。

 

 今朝、私は母親の心に命令を刻んでおいた。

「自分の命を賭けてでも、色葉に『死ね』と迫れ」と。

 

 化け物じみた読心少女である色葉を、決して誰も傷つけることができない。

 行動をすべて先読みし、操り返してくるからだ。

 ならば、その裏をかけばいい。

 

 

 

 色葉を仕留める方法はいくつも考えられる。

 

 例えば――爆弾のようなトラップ。

 人を介さなければ、さすがのあいつでも回避不能だろう。

 

 読心能力を駆使すれば、準備は可能だ。

 だが、殺すほどの威力を持たせれば周囲も巻き込む。特に、常に傍にいる音無まで。

 

 それでは意味がない。

 私は色葉に「完璧に勝つ」のだ。他も巻き込んで殺す必要はない。

 

 それに爆弾のような単純な発想なら、色葉が警戒している可能性がある。

 最も簡単に読心少女の裏をつける方法だからだ。

 

 

 

 だから私は選んだ。

 ――母親を利用するという方法を。

 

 誰も色葉を傷つけられないのなら、色葉自身に死を選ばせればいい。

 

 色葉が死ねば、母親は助かる。

 誰も死ぬことはない、犠牲はひとつ。

 

 

 

 

『今、どこにいるのですか?』

 

 色葉がいくら化け物じみた能力を持っていても、その効果範囲には限界がある。

 母親には、あらかじめ学校から離れた、人目につかない場所で実行するよう意識させておいた。

 

 だから場所を聞き出せることはないだろう。

 例え居場所がわかったとしても――今から助けに向かうには間に合わない距離だ。

 

 

 もちろん、「実際に自殺させなくても脅しの演技」をさせることもできる。

 だが、それでは迫力が足りない。読心能力で演技をさせたところで、演技が上手くなるわけではない。

 嘘だと見抜かれれば、私の負けだ。

 

 だからこそ、徹底する。

 色葉以外を殺すつもりはない。最後に帳尻さえ合わせれば、それでいい。

 

 意識を自分の視界に戻す。二階の窓から見下ろすと、正門に向かう音無と、校舎に向かって駆ける男子生徒がすれ違った。

 すべて計画通りだ。厄介な音無は校外へ、そして私が電話で呼び寄せた駒は校舎へ。

 

 

 

 

『そうですか。それでは周りに誰かいませんか? ――――――――そうですか、誰もいないのですか』

 

 誰かに止めてもらおうとしても無駄だ。

 人目につかない場所を選ぶようにしたのだから。

 

 

 

 

『実はココネは具合が悪くて保健室にいるのです。お母さんの言う通りでした。家でぐっすり休みたいので、迎えに来てくれませんか?』

 

 無意味だ。

 

 私たちが操っているのは、あくまで心。

 心は移ろいやすく、言葉ひとつで行動を変えることもある。

 

 だが、今回ばかりは違う。

 どんな言葉をかけられようと、揺らぐことはない。

 

 そのために時間をかけ、入念に心を組み上げたのだから。

 

 実際のところ、母親の心を操るには困難を極めた。

 それほど娘を想う気持ちが強かった。

 

 そのせいで、違和感や拒否感をなくして心の均衡を保つのが非常に難しかったのだ。

 

 ……それでも私はやり遂げた。

 ギリギリではあったが、計画を実行できる形に仕上げたのだ。

 

 

 

『心音さん、どうかしましたか。お母さんがお迎えに来るのですか?』

『あっ、お母さん。このままで待っていてください』

 

 色葉から聞こえる会話に反応して、保健室の先生が立ち上がった。

 色葉を隠していたベッド周りのカーテンが開かれて、その姿が露わになる。

 

 ベッドの上で上体を起こして、電話する色葉の姿が視えた。

 

『いえ、何でもないのです。見ての通り、私は元気一杯、可愛さ百倍です!』

『あれ? でも、迎えて来てほしいと言ってませんでしたか?』

 

 ……邪魔だな。

 

 このまま先生が介入すれば、事態はややこしくなる。

 

 私は先生の心に触れていない。だから思い通りには動いてくれない。

 今から操ることもできなくはないが、その瞬間、私の居場所を色葉に察知されかねない。

 

 色葉が読心少女とわかったとき。

 心の瞳から伸びた触手のような手――瞳の手で、男子の心をこねくり回すのが視えた。

 

 私自身の心の瞳は視えていないが、同じ仕組みで心を操っているなら、伸ばした瞳の手を辿られて、私のもとに辿り着かれる可能性がある。

 

 だからこそ、心を操らずに先生を排除する必要があった。

 そして、すでに手は打ってある。

 

「保健室の先生いらっしゃいますか? 安西先生が至急グラウンドまで来てほしいと……怪我人が出たそうで」

 

 ガラリとドアが開き、男子生徒が顔を出す。

 

「あら、本当? 色葉さん、話の途中で悪いけど行かせて頂戴。もし帰ることになったら、私じゃなくてもいいから、いつも通り一声かけてね」

 

 男子の入室と入れ替わるように、先生は保健室を後にした。

 もちろん。今の話は嘘だ。

 

 

 

 計画通り。

 

 私はすぐに、心を覗く対象を男子生徒に切り替える。

 この男子は、昨日用意しておいた駒。

 

 私の電話ひとつで動くように心を仕込んである。

 だが、学内に待機させれば色葉に勘付かれる。

 

 人の心を操るには変形が伴い、色葉がそれを見逃すはずがない。

 だからこそ学外で待機させ、今さっきのコールで呼び寄せたのだ。

 

 

 

「はじめまして、色葉心音。すでにわかっていると思うが、読心能力を使えば母親を殺す。気を付けろよ」

 

 男子は命令どおりビデオ通話を開始し、色葉を映し出した。

 

 私は手元のスマホから、それを確認する。もちろんカメラはオフ、声もアプリで機械音声に変換済みだ。

 探せば、便利なアプリもあるものだ。バックグラウンドで起動しておけば、全ての通話をライブで機械音声に変換してくれる。

 

 そして、さっきから使っているスマホも適当なやつから借りたものだ。

 この電話から私のことがバレる必要はない。

 

 面倒な準備ではあったが、色葉と向き合う以上は必要だった。

 読心少女である色葉なら、人の認識などいくらでも歪められる。

 

 だからこそ、機械を通じた映像を確かめる。

 人の認識は変えられても、機械が映す情報までは変えられない。

 

 それを、読心能力に対して唯一立ち向かえる私が確認することで、真実を把握できる仕組みだ。

 

「初めまして色葉ココネです。あなたの名前を教えていただけますか?」

「教えるわけないだろ」

「そうですか、それは残念です。それで何が目的でしょうか?」

「わかってるだろ。お前を殺すことだ」

「そこではありません。何で私に死んで欲しいのか理由が知りたいのです。ほら、別の方法があるかもしれませんし、単なるすれ違いだったら悲しいのです」

 

 落ち着きすぎている。強がりか。

 

「今更、引き返す道があると?」

「えぇ、もちろんです。私はあなたが心を悪戯に歪めることを止めたいだけです。むしろ約束してくれるなら、何でも叶えてあげますよ」

「それを信じろと?」

「この愛くるしくて透き通った目を見れば伝わるはずです」

 

 ……何なんだ、こいつは。いつも通りすぎる。何か見落としているのか?

 

 

 

 いや、揺れるな。

 

 元より完璧な計画でないことは承知だ。

 それでも、色葉に勝つ。これで勝つからこそ価値があるのだ。

 

 いつも通りに見えるのは、こいつの頭が愉快なだけだ。

 昔から、そういうやつだった。

 

 だから――この顔を歪ませたい。

 

「信じられないな。もし、信じて欲しいなら行動で示してくれよ」

「私に何をしてほしいのですか?」

「まずは、その手元のスマホを渡してもらおうか?」

「これですか? では……これでいいですか?」

「なッ!」

 

 色葉は後ろにポイっと投げ捨てた。

 カラン、と硬い床に響く音。

 

「これで私は電話も助けも呼べないのです」

 

 こいつ。

 この状況で反抗するのか。

 

 何か狙いがあるのか? 男子に拾わせるために移動させることが目的か? それで隙を作ろうとしてる?

 

 ……いや、考えるな。揺さぶりこそが目的の可能性がある。

 難しいことは考える必要はない。すぐに終わらせれば問題ないのだから。

 

「おい、お前あれを出せ」

 

 男子に指示すると、肩掛けのバッグから包丁を取り出した。

 

「おぉう、デンジャラスですね……。それで私を刺すつもりですか?」

「違う。お前自身で刺すんだよ」

 

 男子に刺させるのは危険だ。

 そこまで男子生徒の心を掌握できていないからだ。

 

 私の命令には忠実に従っているが、倫理観や感情といったところまでも完璧に調整したわけでない。

 普通の人間には殺人の衝撃は大きすぎるのだ。

 

 先ほど、色葉が母親を言葉で説得できなかったが、これはその逆。

 ショックや抵抗感で命令が途切れる可能性がある。

 

 だから色葉自身に刺させるのだ。

 色葉自身にその選択をさせる。そのとき、私は色葉に完璧に勝ったと言えるだろう。

 

 

「なるほど。それで死ねということですね」

「あぁ。それでお前が死ねば、母親は助かる」

「本当に助かるのですか? お母さんは一人だって電話で言ってましたよ。本当に助けられるのでしょうか」

「助けるに決まってる。私が死んでほしいのはお前だけ。お前が死んだことが確認できれば、キッチリ伝えてやる。そうだな、証拠付きのビデオ電話で伝えてやるよ。だが死ぬ気がないなら、その逆だ。そのことを伝えるだけだ」

「そうですか。ですが……、痛そうなので嫌です」

 

 

 

 ――――マジか。

 

「お前……、母親を見捨てるのか?」

 

 

 体調の悪い色葉を迎えに来て、二人で仲良く帰る姿を何度も見たことがあった。

 

 その母親を切り捨てられるはずがない。

 そう踏んでの作戦だった。ある意味、この作戦の前提条件であり、賭けでもあった。

 

 色葉が母親を見捨てるはずがない。

 そんなやつだと思っていた私が間違っていたのか……。

 

 

「そうは言っていないのです。刺すのは痛そうだから嫌なだけです。ほら、刺してもすぐには死ねず、ただ痛そうじゃないですか。それに私のミニマムボディでは、キッチリと最後まで差し込めないかもしれませんよ? そしたら、あなたも困るのではないですか?」

「……だったら、どうするんだ」

「そうですね。では、保健室にある薬を適当にガブ飲みしましょう! きっといい感じに逝けるはずです」

「それはダメだ。それで死んだか判断が難しい」

「そうですね。でしたら飛び降りとかどうですか? 私でも一瞬で死ねそうですし、死んだこともわかりやすそうです」

 

 手を横にパタパタと振っている。

 何なんだ、その余裕は。

 

「おい、待て。何をしている。勝手に動くな!」

「何って、上履きを履いているだけですよ。飛び降りに行くのですから、ベッドから起き上がらないと」

 

 色葉がベッドからヨロヨロと立ち上がると、保健室の出口に向かって歩き始める。

 

 あっさり過ぎる。

 

 これでいいのか? 本当に死ぬつもりなのか? それとも別の狙いがあるのか?

 

 

 

 ……おそらく、あの余裕はこちらの弱点をついているつもりなのだろう。

 色葉の母親は「生きているからこそ」人質としての価値がある。

 

 多少、色葉が反抗的なところで、そう簡単に死なせることはできない。

 もし母親が死ねば、問答無用で私を探しに来るからだ。

 

 

 

 ならば――大人しく死ぬと言っている今は、このまま歩かせよう。

 

 色葉の母親にはデッドラインを設けてある。

 むしろ、あいつが余計なことで時間を使えば、それがあいつ自身を苦しめる結果になるはずだ。

 

 そう。これでいいはずだ。

 

 それでも。

 読心少女である私にも、心が読めない色葉の考えはわからないままだった。




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