その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
誰もが振り向く天才である私こと、色葉ココネは読心能力者を見つけ出す必要がある。
あらかじめ、カナミさんにはあるお願いをしていたのです。内容はこうです。
お昼休みになったら、一階から順番に校舎を歩き回り、「見つけました」と声を上げて、目が合った人を連れてきてほしいこと。
名付けて、カナミさん透明人間作戦です。
読心能力者には、認識遮断が効かないはずです。そこで、認識できなくしたカナミさん気づく人がいれば、その人が読心能力者になります。
ただし、この作戦には一つ大きな問題がありました。
読心能力者が私と同じように感覚共有を使っていれば、常に天敵であるカナミさんを監視している可能性がある、ということです。認識遮断でカナミさんの姿が急に視えなくなったら、こちらの狙いがバレるかもしれません。
そこで、あらかじめ適当な理由をつけて一度外へ出てもらい、読心能力の範囲外へ離れてもらうことにしました。その後、学校の周囲をぐるりと回り込み、裏門からこっそり戻るようお願いしてあったのです。
そして、これは奇しくも相手の計画とタイミングが重なりました。
それを利用させていただきました。
そう、時間稼ぎは昼休みの放送を待つだけではありません。カナミさんの帰りを待っていたのです。
そして、八階に上がったのは窓から、カナミさんの帰りを確認するためでもあります。
窓を見ると、鍵の掛かった裏門をよじ登っているカナミさんの姿が視えました。あとは読心能力者が見つかるまで時間稼ぎをするだけ。
カナミさんが一階から二階まで調べる時間を小粋なトークでつないだのです。
実を言えば、お母さんが電話を切っていて、他の連絡に出る可能性もありました。なので、お母さんへの連絡を試されないように、話に夢中にさせる必要もあったのです。まぁ、私の甘い声にかかれば、誰だって話に釘付けですけどね。
その間、読心能力者もカナミさんも認識遮断をかけているため、誰の目にも映りませんが『みーーーつけた!』とカナミさんの声が電話越しに聞こえました。
どうやら、カナミさんが辿り着いたようです。
私たちが組めば無敵なのです。
エレベーターに乗り直して二階に向かいましょう。
ちょうどそのとき、ある教室で心の変形を感じました。「暴れろ」と強い意志を感じます。
なんてことでしょう……。
そんなに乱暴に心を無駄にしないでください!
あぁ、もったいないじゃないですか!
あぁ、あぁ、天然物が……。
……仕方がないです。必要経費だと思って割り切っていきましょう。私は割り切れる女です。そうなのです。
移動中の片手間で、皆さんの心を元通りに戻します。
さて、願ってもいない形でカナミさんのいる教室を確かめることもできました。
エレベーターも二階に辿り着いたので向かうとしますか。
そして、私はカナミさんが待つ教室へ足を踏み入れました。
「よかったです。ここまで近づけば、あなたの心も視えるようですね」
そこにカナミさんに捕まっている女の子。九条さんの姿。
なるほど。読心能力者もとい、読心少女はあなただったのですね。
それにしても……。 おぉ!!! これが読心少女の心!!! 何やら心の代わりに瞳のようなものが視えます。心の瞳とでも名付けましょうか。
どうして瞳の形なのですか? 読心少女の共通点でしょうか?
興味が……、好奇心があふれて涎が垂れてしまいそうです。
「色、葉……」
九条さんが私を睨みつけ、その心の瞳とも視線が絡み合いました。
……おっと、いけません。今はそんな時ではないですね。
それにしてもよかったです。心の瞳といった形でも心が視えて。これならどうにかなりそうです。
「私は……まだ、負けてない!」
心の瞳から、触手のような手――瞳の手と呼びますか。無数のそれが私に向かって伸びてきます。
これは、可視化された読心能力でしょうか。
私の心を操ろうとしているのでしょう。
でも、それが私に届くことはありません。
次の瞬間、すべての瞳の手は空中でピタリと止まりました。いや、ねじれて動けないと言うべきですかね。
私の心は視えませんが、同じことができているのでしょう。
全ての瞳の手を絡めてとって捕まえるイメージで能力を使ったのです。
そして、私の方が力の使い方は上手なようですね。
そのまま瞳の手を押さえつけながら、逆に私が九条さんの心の瞳に触れました。
「……っ、これ、は……」
どうやら、九条さんには心の瞳に触れられた感覚があるようです。
ゆっくりと力を加える。
「やめろ……」
(色葉……負け……)
心の瞳に――ピシリとヒビが入りました。そこから漏れ出すように心の声が聞こえてきます。
思った通りでした。その瞳が心を隠しているのですね
あぁ、もうすぐ、あなたの心にご対面です。
「やめて、くれ……!」
パリン――。
(嫌だ……わたしは……勝って……色葉と並びたかった!)
心の瞳という外郭が割れて、ついに心が視えました。
これが読心能力の心。
う~ん。心の構造は普通の人と変わらないですね。
やっぱり心の瞳が読心能力の根源なのでしょうか。
そうなると、私にも心の瞳があって、その中には心があるのでしょうか。
それならば、いつか絶対にその心を読んでみたいです! 超絶プリティな心に決まっています!
あぁ、もっと調べ尽くしたいです! でも、それはお預けですね
今は一舐めだけにしておきましょう。ペロッ。
……ん、おや。これは……?
とりあえずは全ての行動を管理させていただきましょう。心の瞳という盾がなくなったので、読心能力が効くようになりました。
「……カナミさん、色々とありがとうございました。もう手を離しても大丈夫ですよ」
「えっ、本当に大丈夫? 知らないかもしれないけど、ほら、そこのナイフ。結構危なかったんだよ」
「はい。ですが、九条さんも落ち着いたようです」
「ん~、本当かな。まぁ、そういうなら……」
カナミさんが九条さんを離して立ち上がると、九条さんもゆっくりと上体を起こしました。
心が体を動かすのです。心を支配している私は、九条さんの全ての動きを握っているのと同じでしょう。
教室の時計を見ると、十二時十五分を指しました。お母さんのデッドライン、二十分までに間に合いましたね。
そのタイミングで、先ほど一緒にいた男の子が教室に入ってきました。
「色葉さん、スマホ拾ってきました」
「ありがとうございます」
ナイスタイミングです。
実は彼も操って、保健室に置き去りにした私のスマホを回収してもらっていたのです。
一度操られた心は、もう天然物には戻らないですからね。
それなら、心をもとに戻す前に、もうひと働きしてもらっていたのでした。
ピッとスマホの保留を解除して、お母さんに電話を繋ぎ直します。
「もしもし、お母さんですか? 長い間お待ちしていただいてありがとうございました」
「…………もしもし、ココネ。それで具合はどうなの?」
「はい、それは、あとでタップリとお話しましょう。その前に電話を代わってほしい人がいるのです」
やっぱり、まだ私を待ってくれていました。
私はスマートフォンを九条さんに差し出します。
「電話を代わりました。九条です。あなたに伝えることがあります。作戦は中止です。家に帰ってください」
九条さんの記憶を覗いて、全てを把握しました。
九条さんが読心能力を得る前のこと、得たときのこと、今日のこと。そしてお目当ての記憶も。
それは、お母さんの自殺を止める方法です。
確実ではありませんでしたが、九条さんがしっかり者で助かりました。
今回の計画には大前提があります。
昼休みにお母さんからの電話に私が出ることです。
もし、私が電話に出なければ、何も知らないところでお母さんだけが死ぬことになります。
人質として使わないまま死ぬなんて、そんなことは許さないでしょう。
ですから、私が電話に出ない場合には、仕切り直せるようにしていると推測していました。
そして判明しました。
九条さんの名前と「作戦は中止」と伝えればよいみたいです。
いやぁ~、それにしても本当にあってよかったです。
それに、九条さんが学校にいてくれて助かりました。
もし、いなかったらみんなの協力を得て死体の偽装をしなければならないところでした。おぉう、デンジャラス。
ですが、これで一件落着です。
いや~。よかった。よかった。この超絶可愛い私にかかれば、どんな難事件だって朝飯前です。
私は九条さんと感覚共有してお母さんの返答に耳を傾けると――――
『だめよ。私はココネが死ぬところを見るまでは帰れないわ』
え――――。
「もう一度、伝えます。九条です。作戦は中止です。家に帰ってください」
「うーん、ココネの友達のお願いは叶えたいけど、それはできないわ」
どういうことですか。止まらない……?
私は記憶を覗いて、たしかに確認しました。
これで終わりなはずです。
なぜ。
そのとき、私の頭に九条さんのある記憶が引っ掛かりました。
『実際のところ、母親の心を操るには困難を極めた』
まさか…………、心の操作を失敗していた……。
読心能力で覗ける記憶は、あくまでもその人の記憶です。
なので、心の操作に失敗していても、九条さんが成功したと勘違いしていたら、そのように視えます。
心を操ることなんて簡単だと思っていました。
失敗なんてするものではないと。その先入観がありました。
「……九条です。作戦は中止です」
「ごめんなさい。それはできないの」
時計が十七分を指しました。デッドラインまで、あと三分です。
それまでに何とかしないと。
九条さんから電話を返してもらいます。
「お母さん、ココネの声が聴こえていますか? 全部終わったのです。もう、死ぬ意味はないのですよ」
「ココネ、それはできないの」
「可愛い可愛いココネの一生の頼みなのです。お家に帰ってほしいのです」
「んー、ごめんね。それはできないの」
「ココネはぐったりでツライのです。早くお家に帰りたいので迎えに来てください」
「もう、ココネったら。あれほど無理はダメっていったのに……」
「はい。ですから……」
「でも、今は迎えに行けないから。また迷惑かけちゃうけど、カナミちゃんと一緒に帰ってくれる?」
私には、お母さんの強い心を変える言葉を持ち合わせていません。
昨日、私の登校を認めさせることができなかったのと同じです。
「ココネ、どうしたの? 大丈夫?」
カナミさんの声。
時計が十八分を指しました。
今まさに、大好きなお母さんの心が失われつつありました。
九条さんによって、心が操られた時点で、もう天然の輝きは見せてくれないことでしょう。
とっても悲しいことです。もう、思い出に浸るしか、あの時の心と出会えないのです。
……それでも、私にとってお気に入りなのは変わりません。
――――何をしても、絶対に私の大好きな心は守ります。
「お母さん、私から目を離さないでくださいね」
私はスマートフォンをスピーカー通話に切り替え、ビデオ通話へ。端末を九条さんに渡し、心に命じます。
『十二時二十分になるまで、それで私を映してください。その後は電話を切って、周囲を一緒に撮影してください』
そう心に命じました。
続けて、教室の人たちには教室の外に行ってもらいましょう。
さきほど心を治したついでです。少しだけ私の都合で動いてください。
「カナミさん、もう一つだけ無理なお願いを聞いてくれますか? これから、ここに来る人たちはカナミさん達に気づかない不思議が起こります。なので、ここで起きたことは誰にも言わずに秘密にしてください。二人だけの秘密です」
「ココネ?」
時計が十九分を指していました。
落ちていたナイフを手に取る。
ふっふっふ、見せてあげましょう! 心を震わせる私のミラクルパワーを!
――――ナイフを振りかぶり、お腹に突き立てた。
……血が溢れる。傷口が熱い。
私にはお母さんの心を変える言葉をもっていません。
ならば行動で示せばよいでしょう。それには読心能力もいらないです。
ヨワヨワボディーである私のお腹にナイフとは、お母さんにとって、死と同じくらいの衝撃。これで、きっと心を動かせるはずです。
お母さんの私を愛する心は、私が一番知っているのですから。
真っ赤な血がドクドクと溢れます。
いい感じに真っ赤です。よかった。よかった。
クルクル。クルクル。
視界がぐるぐる回り、膝をつき、そのまま床に崩れ落ちます。
大丈夫。これくらいいつものことです。
私を茫然と見つめるカナミさんの顔が見えました。
そんな顔しないでください。私は天才です。不死身です。勝算があるのです。
「――コネ!――――ネ!」
スピーカー越しに、母の叫びが響きました。
九条はしっかりと私を映してくれているようですね。
……ボーっとしてきました。
目の前がカラフルです。私はカラフルな美少女でもありましたか。
ですが、こんな時だって、私の読心能力は冴えわたっています。
九条さんの心を通してみれば、鮮明な時刻表示が視えました。
――――十二時二十分、約束の時刻です。
お母さんはまだ生きていて、必死に私へ呼びかけ続けている。
成功です。やりましたよ。後は、残りの後処理をするだけです。
誰も、この教室の出来事に気付かないように認識遮断して……。九条さんの心を書き換えて……。
……大丈夫です。いつものように私は目覚めるでしょう。
…………だから、……少しだけ。お昼寝するのです…………。
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