その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第16話 はじまりの読心少女①

 生まれる前から、私は何かを感じていた。何かで世界は溢れていた。

 それが何だかわからなくて、消えてしまいそうなものに手を伸ばしたこともあるような気もする。

 

 でも、これからの人生でそんな願いを抱くことは、きっと一生ないだろう。

 

 

 

 

(あんたなんか、生まれてこなければよかった)

 

 ――それが私、音無《おとなし》奏海《かなみ》が覚えている最初の「心の声」だった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 私には生まれながらにして、人の心が読める最低最悪の力があった。

 

 目を閉じても耳を塞いでも、心を感じてしまうのだ。

 それが煩くて、気持ち悪くて、泣きたくなった。

 

(泣くな、うるさい! ああ、イライラする)

 

 幼い私は言葉の意味を理解できなかった。

 けれど心を感じれば、ママが何を思い、何に怒っているのかはわかってしまう。

 

 だから私は家の隅っこで静かにしていた。

 ママに嫌われたくなかったから。

 

「邪魔だから、家にいないでもらえる?」

 

 私のママにはパパがいない。

 代わりにパパじゃない男の人がよく家に来た。

 

 最初は部屋の端っこでジッとしてたけど、私が一人でも大丈夫だとわかると、外で待たされるようになった。

 ドアの前に座っていると怒られるので、お家の周りをフラつくことにした。

 

 公園では、同じくらいの子どもたちが遊んでいた。

 私もその輪の中に入りたかった。

 

「いや! あっちいって!」

「コラ! そんなこと言ってはいけません!」

 

 でも、そんな願いが叶うはずなかった。

 近くにいたその子のママは叱っていたが、私には心が読める。読めてしまう。

 

(不気味な子……うちの子に近づかないで)

 

 私はみんなから嫌われていた。

 感情が突き刺さる。痛い。怖い。うるさい。気持ち悪い。

 

 公園に行くのをやめた。

 誰もいない場所を探して、ひとりで過ごすようになった。

 

 でも、ひとりは寂しいな。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ほらよ」

 

 月日が経ち、小学生になった。

 

 学校に行かないと面倒になるから通えと言われ、ママはお下がりのランドセルをくれた。

 ピカピカではなかったけれど、私は嬉しくて涙が出た。

 

 だから、大嫌いな学校にも頑張って通うことができた。

 

(つまんないー!)

(おなかすいた!)

(……!)

 

 狭い教室に閉じ込められることが苦しかった。

 嫌でも、近くにいる子たちの心を見せつけられる。

 

 視たくない。聴きたくない!

 煩くて、暗くて、気持ち悪くて、バラバラで、ガチャガチャで、騒がしくて、自分勝手で、怖くて、鋭くて、嫌な音。

 

 

 

 ■

 

 

 

「うわっ、またおんなじ服着てる。きたな~い!」

「カナミ菌だ! カナミ菌!」

「ばっちぃ。うぇ~い、タッチ!」

「おまッ! やめろよ!」

 

 私は汚い。

 言われなくても知っている。だって心が読めるから。

 

 いつも独りぼっち。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ある日、クラスでキーホルダーがなくなった。

 

「ねぇ、ほのか? 知らない?」

「え? 知らないよ?」

 

 こんな醜い私でも、みんなと一緒に笑いたかった。

 だから、ありったけの勇気を振り絞った。

 

「あの…………」

「なに?」

 

 みんなの視線が一斉に突き刺さる。

 でも、困ってたから、こんな私でも役に立てるかもって思ったから、声をふるわせながら言った。

 

「ほのかさん……キーホルダー……もってる……」

「は?」

「その……ポケットの……なか……」

 

 心を読めば、わかってしまう。

 可愛いキーホルダーが羨ましくて、ほのかさんが盗ったのだ。

 

「うそ! 私そんなことしてない! しょーこ!!! しょーこあるの!!!」

「……その、……心……読め、……ば…………わかる」

 

 心を読めばわかることなのに、どうしてそんなことを聞くのだろう。

 私の疑問をよそに、クラスメイトの冷たい目が向けられた。

 

「――――なにそれ。うそつき」

 

 

 

 この時、初めて気がついたのだ。普通の人には読心能力なんてないことに。

 私だけが違う。私だけが化け物なのだと。

 

 心を読んでいたのにも関わらず、それから目を逸らし続けていた。

 

 だから、こんな簡単なことにも気付かない。

 誰のことも理解しようとしない化け物は、除け者にされて当然なのだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 お家に帰ると、ママが怖い顔で座っていた。

 

 私がキーホルダーを盗んだと連絡があったからだ。

 気づけば、私が盗んだことになっていた。

 

「あのさ……なに? あんた、私に迷惑かけて楽しいの?」

 

 机をトントンと叩く音が、頭の奥まで響いた。

 

「……私、……とってない……」

「はぁぁぁ……。じゃあ、なんでそんなくだらない嘘つくの。心が読める? バカじゃないの?」

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 私が馬鹿だから。

 私がみんなと違うから。

 だからママに迷惑をかけて、怒らせてしまう。

 

 ママといっぱい話したかった。

 ママと楽しくお出かけしたかった。

 

 でも、私がうるさくするとママを怒らせてしまう。

 

 ママに迷惑かけないよ。ずっと外でも待つよ。いい子になるよ。だからね……。

 

 

 

 ■

 

 

 

 それから時間が流れ、私は中学生になった。

 でも、みんなから嫌われる毎日は変わらない。

 

「あんたさ。キモイんだよ」

「みんな迷惑してんの。わかる?」

 

 入学してしばらく経った放課後。

 校舎裏につれてこられて、クラスの女の子たちにそう告げられた。

 

「わかったら、明日から学校来ないでね」

「…………ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃなくて、来るなって言ってんの! いい?」

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

 わかってるんだ。

 

 みんなに出来ることが私だけできない。

 私がいるだけで、みんなに迷惑をかけてしまう。

 

 でも、学校に通わないとママが怒るんだ。

 

 もう、どうすればいいのかわからない。

 謝ることしかできない。いい子になれない。

 

 みんなと同じになりたかった。

 でも、同じになれなかった。

 

 独りは嫌だ。涙がでた。泣いちゃダメだ。また怒られる。

 

 ――嫌だ。視たくない。聴きたくない。心なんて読みたくない!

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 どうしたら、みんなに許してもらえるのだろう。

 どうしたら、みんなに嫌われないのだろう。

 

 わかってるんだ。そう。

 きっと、私なんて生まれて――――

 

 

 

 

「お前。何見てんだよ?」

 

 

 

 

 ――え?

 

 突然、敵意が逸れた。

 目元を隠す髪の隙間から視線をのぞかせると、そこに一人の女の子が立っていた。

 

 腰まで届く白い髪がふわりと揺れる。ただ見ているだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。おとぎ話から抜け出してきたような、小さな女の子だった。

 

 その姿に目を奪われた。

 

「ごめんなさい。皆さんの魅力に思わず見惚れていました。もちろん、邪魔をするつもりはないので、どうぞ続けてください」

 

 彼女は小さな一歩ごとに近づいてくる。

 え? あれ? なんで? どうして!? 

 

 衝撃だった。

 

 ――こんなにも近くにいるのに、その子の心だけは、まったく読めなかったのだ。

 

 代わりに、ギョロギョロとした大きな瞳が視える。

 

 これは、なんだろうか……? 心の瞳……?

 わからない。わからない。わからない。

 

「私は色葉ココネです。これから仲良くしましょう」

「……調子に乗るなよ」

 

 その子が差し出した手が弾かれた。

 

(少し、わからせてやるか)

 

 ダメだ!!!

 九条さんの心が読めた。突き飛ばされてしまう!

 

 

 

 その瞬間。

 私は視た。心に触れる不思議な力を。

 

 心の瞳から、手のような触手のような何かが伸びると、九条さんの心に触れた。

 そして、一瞬でその形を変えてしまった。

 

 

 ……うそだ。こんなこと。これは、夢?

 ずっと、ずっと私だけがみんなと違うんだって。そう思ってた。

 

 でも、私は感じた。

 あの心を操る力を。

 

 私には、あんなことはできない。あんな風に力を使えるなんて思えない。確証だってない。勘違いなんじゃないかって思える。

 

 ……でも感覚でわかった。直観でわかった。

 

 あれは、私と同じ力。お前なんか嫌いだって言いたくて名付けた心を読む能力。読心能力だ。

 

 

 

 そして、気がつけば校舎裏には二人きりだけになっていた。

 

「怪我はないですか?」

「……な……、んで……?」

 

 なんとか声がでた。今すぐにでも、その力のことを聞きたかった。

 でも、もし間違っていたら……。

 

 これまでの経験が私を踏みとどまらせた。嘘つきを見る目で見られるのが怖かった。

 

「ぜひ、このハンカチを使ってください。私のハンカチは女の子の涙を集めるためにあるのです」

「あ……、ありが……、とう…………」

「いえ、気にしないで下さい。私は面白そうなものを見に来ただけで、成り行きってやつですから」

 

 ハンカチを渡してくれた。

 私に微笑みかけてくれた。初めてだった。ずっと欲しかった優しさがそこにあった。

 

「あ、あの……その、えっと……」

 

 声に出したいことが沢山あるのに、言葉がでなかった。

 どう話せばいいのか、私は知らなかった。

 

「おっと、自己紹介がまだでしたね。私の名前は色葉ココネと言います。あなたのお名前を聞かせてもらえませんか?」

「あ……おと、音無奏海……です」

「カナミさんですね! よろしくお願いします!」

 

 ……!!!

 ギュッと手を握り締められた!

 

 温かい。体がフワフワした。

 

「早速ですがカナミさん。私はカナミさんのことが大好きになってしまいました!」

「…………え?」

 

 …………えっ? えっ? えっ?

 

「この出会いは運命です! ですから、私と心の友になりましょう! いえ、なってみせます! 絶対にカナミさんの心を振り向かせてみせます!!」

 

 初めてもらう言葉ばかりだった。

 

 きっと何かの間違い。私に向けられるはずのない言葉。

 

 ……でも、色葉さんの笑顔から目を離せなかった。

 眩しかった。綺麗だった。可愛かった。ずっと欲しかったものがそこにあった。

 

 心を奪われた。涙が出た。

 

「おっ! 感激の涙ですか! なんと、私の可愛さがすでに心を奪ってしまいました」

 

 

 

 きっと、この出会いが私にとって最大の幸福で、心音にとって最大の不幸だったのだろう。




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