その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「はじめまして、色葉ココネと言います。皆さんとお会いできる日を楽しみにしていました」
次の日、朝のクラスルームで色葉さんが挨拶をしていた。
……夢じゃなかった。
昨日は「復学の相談があるから」とそれっきりになったけれど、最後に「また、明日会いましょう」と言ってくれた。
ずっと、ドキドキしていた。フワフワして夢みたいな気持ちだった。
でも、そんな気持ちなんて、すぐにどこかに行ってしまって、怖くなった。
あの出会いは夢だったんじゃないかって。
もう一度会ったら、きっと私を嫌いになるんじゃないか。
「カナミさん、おはようございます。今日会えることをずっと楽しみにしていましたよ」
「あっ……、えっと……その…………」
クラスルームのあと、色葉さんが私の席まで来て声をかけてくれた。
小さくて、可愛くて。誰とも目を合わせないように俯いていた私と、ちょうど目が合う。
でも、なんて答えたらいいのかわからない。
(何、知り合い?)
(はぁ? なんで、あいつが……?)
私たちに向けられる意識が、鋭く突き刺さる。
色葉さんは飛び切り可愛い。私でもわかる。
一目で皆の視線をさらってしまう。
同じ小学校だった子たちも、彼女を特別扱いしているようだった。
それはそうだ。こんな私なんかにも優しくしてくれる、おとぎ話の人物のような色葉さんは、きっと人気者になる。
皆、本当は色葉さんに声をかけたいのだ。
なのに、色葉さんは私に声をかけた。だから、視線がこちらに集まる。
そうだ。誰だって、私なんかとは話したくない。
「どうかしたのですか?」
私が俯くと、覗き込むように顔が近づく。
長いまつ毛。透き通った瞳。息が止まる。
(無視とか感じわる……)
ざくざくと心の声が頭の中をかすめる。
痛い。うるさい。怖い。気持ち悪いものを見せないで。
……違う。何か言わないと。
こういう時は、なんて言えばいいんだろう。私のちっぽけな頭を働かせる。
(根暗は挨拶もできないのか)
あっ、そうか。そんなことさえ、私はわからないんだ。
「おは……よ、う……」
声を振り絞ると、なんとか小さな声が漏れてくれた。
「う~ん、熱い挨拶の交わし合い。これで親友としての思い出が、また1ページ追加されましたね」
色葉さんは満足そうに笑いかけてくる。
どうして、私なんかにそんな顔を向けてくれるのだろう。
そんな色葉さんに迷惑をかけている私が嫌いだ。
■
授業の合間。
色葉さんは何度も私に話しかけてくれようとした。
でも、そのたびに私は席を立ち、逃げるように離れてしまった。
そして今、昼休み。
私は校舎の屋上へ続く階段に身を丸め、隠れるように座り込んでいる。
色葉さんが声をかけてくれるとき、皆の視線が痛かった。
まともに答えられず、迷惑をかけてしまうのが怖かった。
それ以上に――そんな姿を知られて、色葉さんに嫌われるのが一番怖かった。
昨日の出会いから、頭の中はずっと色葉さんでいっぱいだ。
私と同じ読心能力を持っているかもしれない女の子。
こんな私に、とも……友達になろうって言ってくれた女の子。
その言葉がずっと離れなかった。
私にも、友達ができるって。
幸せで、幸せで、夢のようだった。
でも、それは勘違いだ。
だって、私は出来損ないだから。
色葉さんは「中学に入学してからずっと休んでいた」と言っていた。
きっと偶然、最初に出会ったのが私だったから声をかけてくれただけ。
本当の私を知られたら、すぐにどこかへ行ってしまう。
それが何よりも怖かった。
そんなことに耐えられない。だから、ここに逃げ込んでいた。いつもの場所。
大丈夫……大丈夫……ここなら見つからない――。
「カナミさん、見つけましたよ!」
心臓が跳ねるのが分かった。思わず視線を落とすと、階段の下で色葉さんがニッコリ笑っていた。
……簡単に見つかってしまった。
昨日と同じ。彼女からは心の瞳しか視えなくて、心の声はまったく読めない。
いつもなら嫌な声や醜い感情が溢れてくるのに。
だから、声をかけられるまで、その姿に気づけなかった。
「なん、で……?」
「それは、カナミさんに会いたかったからに決まっているじゃないですか」
小さな足が、一歩一歩ゆっくりと階段を登ってくる。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「ふぅ~、少し休憩です。いやぁ~、この愛くるしい体には階段が過酷ですね」
息を切らしながら、色葉さんは私の隣にちょこんと座る。
「でも安心してください。親愛なるカナミさんに会うためなら、どんな試練だって乗り越えてみせますよ」
笑いかけてくれるその顔。
宝石みたいに澄んだ瞳。ふわふわの髪から甘い香り。
「おや? そんなにジッと見つめてどうしましたか? あぁ、ついつい私の可愛さに見惚れてしまったのですね。いいですよ、どれだけ見ても自由です。この可愛さは全人類が摂取すべき栄養素なのですから、独り占めなんてしません」
「…………なんで、この場所……わかった、の……?」
「ふふふ。私は人探しが得意なのです。本気を出せば、誰も私からは隠れられません」
にんまりと笑う顔。
「ビビッとくるのですよ。私を想って想って溢れ出た気持ちが私を呼ぶのです」
「え?」
まっすぐな瞳が私を射抜く。
そして、胸のあたりに浮かぶ心の瞳も、じっと私を見つめていた。
もしかして、色葉さんには私の心が読めているのだろうか。
色葉さんにも読心能力があると考えていたけれど、私が色葉さんの心が読めないように、私の心は読めないと思っていた。
でも……私なんかと比べるなんて、そもそもおかしな話だ。
「ほら、カナミさんの心を当ててみせましょう。ズバリ――色葉ココネが可愛くて可愛くて撫で回したいですね」
「…………」
「おや、外れですか? う~ん、可愛いって言葉では、私の可愛さを表現しきれなかったでしょうか」
……いや。やっぱり、私の心は視えてないのだろうか。
「それにしても、こんな場所にいるなんて。意外とカナミさんはお転婆なんですね。ここ、立ち入り禁止って書いてありましたよ」
屋上へ続く階段は紐で塞がれていた。だから私はここにいたのに。
「バレたら怒られちゃいますね」
まっすぐな瞳が、私を離さない。
心の瞳も、じっと私を見つめる。
なんで、こんなにも楽しそうなんだろう。
「これは2人だけの秘密にしましょう。ん~、秘密の共有。親友ポイントがまた積み上がってしまいましたね。これがボーナスステージというやつでしょうか」
「…………どうして、そんなに……、私に、優しくして……くれるの?」
「え、優しいですか? う~む、私はただ、したいようにしているだけですよ?」
嘘だ。心は読めない。
でも、それでも嘘だってわかる。だって。
「…………私なんかと話しても、面白くないよ」
「そうですか? 私は最高に楽しいと思っていますよ」
「……違う、よ。……だって、私は、話すの得意、じゃないし。……みんな、と違って……できる、ことが、できないし……」
「カナミさんは私と話すのが嫌なのですか?」
優しい声が胸に届く。
「そんなこと、ない!」
思わず、声が跳ねた。
必死で首を振る。
それだけは、絶対に違う。
色葉さんが嫌いなわけがない。こんな私だけど、それだけは勘違いされたくなかった。
「じゃあ、何も問題ないですね。私は、カナミさんとお話できるだけで楽しいです」
どこまでも私が欲しかった言葉をくれる。暖かいものをくれる。
色葉さんには、本当に心を読まれているのかもしれない。
私なんかに。私なんかに。優しい言葉をくれる。
その優しさを、受け取っていいのだろうか。欲しかったものが目の前にある。
「私も、……色葉さんと……話した、い」
「もちろんです。私たちは生まれたときからのソウルシスター、マイベストフレンド、親友なのですから」
――ずっと夢見てた。
ありえないって思ってた。
こんな私だけれども、色葉さんと友達になれたら嬉しいな。
■
それから、私は――色葉さんと、とも……友達になった。
その日から、世界が一変した。
「カナミさん、一緒にペアを組みましょう。私たちが組めば無敵なのです」
「私が、いなくても……、色葉さんは、無敵だよ」
「当然、私は才能に満ち満ち溢れています。でも、そこにカナミさんという奇跡が組み合わされば、無限の可能性になるのです」
色葉さんの言葉はいつも楽しげで、心の奥に届く。
毎日が、本当に楽しかった。
今も変わらず、世界には嫌な心があふれている。
でも、色葉さんと一緒にいると、それを忘れることができた。
ただただ嬉しくて、楽しくて。
気づけば、あっという間にひと月が過ぎていた。
■
その日も、いつものように色葉さんと並んで廊下を歩いていた。
(あっ、色葉さんだ!)
(何度見ても、可愛い……)
(なんで音無なんかと一緒にいるんだろ……)
色葉さんと並んで歩くのにも、少しは慣れてきた……つもりだった。
でも、すれ違う人たちの心が私の胸に刺さる。
そんな中でも唯一、私にだけ笑ってくれるのが、色葉さんだった。
それだけが、今の私の、たったひとつの誇りだった。
「カナミさん、超能力が使えるようになるとしたら何がいいです?」
「え、超能力……?」
「空を飛ぶとか、時間を止めるとか、心が読めるとかです」
心が読める。その言葉に胸が跳ねた。
「え、えっと……。そんな、こと、考えたことない………」
「おや、何か隠そうとしましたか?」
「え、そんなこと、ないよ」
鼓動が速くなる。
「う~ん、当ててみせましょう。ズバリ、透視能力です!」
「……え?」
「私の可愛さを丸見えにしたいのでしょう。安心してください。私はどんな人でも好きですよ」
「ち、違うよ!」
「本当ですか?」
したり顔でこちらを見つめる色葉さん。
「それなら色葉さんは、……どんな超能力が欲しいの?」
「それは決まっています。もちろん――――」
そのとき。
色葉さんの足が、ふと止まった。
「……ん?」
振り返ると、そこに立っているはずの色葉さんが――いなかった。
代わりに見えたのは、しゃがみ込んで小さく縮こまった背中。
「……いろは、さん?」
小さく、丸くなって、まるで痛みに耐えるみたいに肩が震えていた。
浅くて速い呼吸。
時間が止まったように感じた。
「…………大丈夫、です。……いつもの、こと……なので……」
弱々しい声。
頭では分かっている。色葉さんが大変だって。助けなきゃって。
それなのに。身体が動かない。
突然すぎて、どうしたらいいのかわからない。
ただ、そこに立ち尽くすしかなかった。
周囲がざわつく。
「えっ、色葉さんどうしたの!?」
「大丈夫? 立てる?」
「……はい。大丈夫、です。…………少しだけ、休憩させて、ください。」
別の子たちが駆け寄り、色葉さんの肩に手を添える。
(なんで助けないの? ひどい……)
誰かの心の声が胸を突いた。
私はすぐ横にいたのに――何もできなかった。
動けなかった。
一番そばにいたのに。
ただ、見ていることしかできなかった。
やがて誰かが色葉さんを保健室へ連れて行った。
それでも私は、その場に取り残されたまま、一歩も動けなかった。
更新の励みになりますので、お気に入り・感想・評価などなど、是非ともよろしくお願いします!!!