その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「カナミさん、誕生日おめでとうございます!」
「あっ! 忘れてた!!!」
秋の夕陽が差し込む放課後の教室。
帰り支度をしていたカナミさんに声をかけると、その手がぴたりと止まりました。
「おっと、これは図らずもサプライズが成功してしまいましたね。カナミさんはサプライズを成功させる達人でもありましたか」
「それは、忘れっぽいって言いたいのかな?」
「何を言うのですか。頭脳明晰、成績優秀、可愛いの代名詞たるカナミさんに限って、そんなことあるわけないじゃないですか」
「……最後の関係ないよね?」
「いえいえ大切なことです。可愛い大親友の誕生日だからお祝いするのですよ。私たちの運命の出会いから三年。この日を忘れたことはありません」
そう。気がつけば出会って三年。
カナミさんの大親友である私こと、色葉ココネは超絶可愛い高校生になりました。
誰もが振り向くミニマムボディ! 硝子細工のように儚げで繊細な少女! 可愛さに限界のない女!
いつだって私の成長っぷりはとどまることを知らないのです。
ですが、今日の主役は私ではありません。本日はカナミさんの誕生日なのです。
「え~、本当かな~?」
カナミさんはいたずらっぽく笑い、わざと疑うような目を向けてきます。
この可愛さ。私でなければイチコロでしたね。
うんうん。カナミさんも私に並ぶほどの成長っぷりです。
見てください!
このスラッと伸びた手足。ゆるふわのミディアムヘア。キュートな顔立ち。しかも運動神経抜群で文武両道。
そして何よりも!
この三年間、一切私に心を悟らせないミステリアスさ! その秘密が知りたくて目が離せません!
う~ん。さすがです。さすがはカナミさん。私の読心能力調べによる学内美少女ランキング一位の女だけあります。
ちなみに私は、好きなだけ甘やかしたい女の子、ロリコンの妄想の具現化、好きだと言ったら犯罪者と呼ばれそうな女子ランキングで堂々の一位です。
なんと罪深い女なのでしょうか……。私の可愛さが周囲を狂わせてしまう……!
カナミさんとは中学からずっと同じクラスで、同じ高校に進学して、そして高校でもまた同じクラス。まるで運命に導かれているみたいです。やはり、盛大にお祝いしなくては。
「本当の本当です。何なら今日に合わせて体調をパーフェクトにしてきたのですよ。長い間お休みをもらっていましたが完璧です。見てください、この完璧なボディを! 今日はカナミさんの望みをなんだって叶えてあげましょう!」
「へぇ~、なんでも?」
ニヤリと笑うカナミさん。何か企んでいるのでしょうか?
世界で唯一、心の読めないカナミさんの考えは、私には全くわかりません。なんと魅力的なのでしょうか。
「任せてください! それぐらいのお祝いなのです。私とカナミさんが出会えた奇跡。いや必然ですね。生まれる前から運命の赤い糸で結ばれていたことに感謝せずにはいられないのです。その証拠にプレゼントを…………おや?」
プレゼントを渡そうとバッグを探しているのですが見つかりません。忘れ物ですかね?
いや、私の渾身作『なんでもお願いを叶える券』をしっかりと入れたはずです。
「どうしたの?」
「……ごめんなさい。無くしてしまったかもしれません。ですが必ず見つけてみせます!」
私の読心能力の出番です。
まずは教室に残っているクラスメイトから手掛かりを探すとしましょう。
皆さんの心を深く覗くと、それぞれの記憶が読み取れます。
心が人の体を動かすのです。
記憶も例外なく、心で覚えて、心で思い出します。
ならば、読心少女である私には、誰の記憶も覗き放題というわけです。
――そして、見つけました。
私が席を外していた時の一コマです。
クラスの女の子が、私のバッグを漁る男の子を見ていました。
『ねぇ、あれ色葉さんのバッグだよね。何してんだろう?』
『さすがに堂々と中見ないでしょ。色葉さんのことだし、保健室への頼まれ物じゃない?』
なるほど。全てわかりました。
彼を探せばよいのですね。
任せてください。私の読心能力は学校の隅々まで見通しているのです。
ほら、見つけましたよ! こちらに近づいてきます。
ん、これは……?
その瞬間、ガラガラっとドアが勢いよく開きました。
それと同時に、記憶で視た男の子が飛び込んできます。
「はぁ……はぁ……色葉さん。好きだ……触りたい……色々なところを触りたい……」
息を荒げながら私の方へ迫ります。
「えっと。その、大丈夫かな? 何か緊張してる? 深呼吸しよっか?」
そのとき、カナミさんがスッと私と彼の間に入ってくれました。
彼の歩みは止まりましたが、強い好意の感情が私に押し寄せてきます。
ですが、これは……どういうことでしょうか。
あまりにも人工的すぎます。
心のソムリエである私の目は誤魔化せません。
誰かに心を操られて、好意の感情を爆発させられたようにしか見えないのです。
心の形が歪すぎます。
あの複雑怪奇で、トロトロと輝いて視える自然な形を失っているのです。
心が壊れるにしても、もっと自然な形で壊れるはず。
こんな形で心が変形することはありえません。
そう。
――私のように、心に触れて変形させない限り。
「邪魔だ!!!」
怒鳴り声と同時に、男の子がカナミさんを払いのけようとします。
ですが、それが叶うことはありません。
すでに私が心の歪みを治し終えています。
「ッ! ……って、あれ?」
身構えていたカナミさんも拍子抜けしています。
「いやぁ~、今日はサプライズ続きですね」
「……ココネ?」
「どうやら私の溢れんばかりの魅力が彼の心を狂わせてしまったようです。これは、なんて罪なのでしょうか?」
「えっと……、そんな雰囲気じゃなかったよね?」
戸惑い混じりの視線が私へと向けられます。
たしかにカナミさんの言っていることは正しいです。
ですが、もし私の推測が当たっていれば、これは事故と言っていいでしょう。それで彼を咎めるのは罰当たりなものです。
「そういう雰囲気なのです。ほら、私の癒される姿を見て、彼も落ち着きを取り戻しているじゃないですか。そうですよね?」
「えっと、あれ……? う、うん……」
状況が飲み込めていない彼も頷いています。
「というわけで、今のはなかったことにしましょう。それよりも今日はカナミさんの誕生日。無くしてしまったプレゼントを探しにいきたいのです!」
しばらくの間、カナミさんはジトーっと私を見つめ、口をきゅっと結んでいました。
ですが、次の瞬間ふにゃりと表情を崩し、肩を揺らして笑みを浮かべます。
「……もう、しょうがないなー。でも、忘れはしないからね!」
「ありがとうございます。それなら、私とカナミさんの思い出の一ページに刻んでおきましょう」
「そうだね……ん? それだと、私たちだけの思い出に、そこの男の子も入り込んでない?」
「それでは、そこの男の子さんもサヨナラなのです」
男子は気まずそうに頭を下げ、走り去りました。
「ココネ~。誤魔化したよね~」
「何のことでしょうか?」
かがんで私と視線を合わせたカナミさんが、ぷにぷにと私の頬をつついてきます。
その感触を受けながらも、私の思考は先ほどの彼の心のことへと戻っていました。
あの心は、私と同じ読心能力で操られていたように視えました。
もし、その感覚が正しいならば、私と同じ読心能力者が存在することになります。生まれてから一度も出会ったことはありません。ですが、もしかして近くにいるのですか……?
読心能力をどのように使うかは自由です。
……しかし、あんな雑に心を歪めるなんて、心への冒涜です!
一度手を加えてしまった心は、どんなに頑張っても天然物に戻りません。
悪戯目的なんかのために、私の愛おしい心たちを汚すとは……許せない。許せないです!
もし読心能力者がいるのであれば絶対に見つけ出して、むやみに心を歪めることを辞めさせなくてはいけません!
すぐに。必ず見つけ出す必要がありますね。
それでは、まず何から始めましょうか?
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