その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第20話 はじまりの読心少女⑤

 るんるんるん!

 

 次の日。心が軽い。嫌な心しかない学校に足取りも軽かった。

 トントンと靴音を刻みながら教室のドアの前へ――。

 

 よし、行こう。

 笑顔で! 元気よく! 誰からも好かれる私になるために!

 

「みんな、おはよーーー!」

 

 ガラッ!

 

 勢いよく教室の扉を開けて、元気いっぱいに挨拶した。

 大きな声で、色葉さんみたいに輝く笑顔で!

 

 

 

 

 ……シン。

 

 教室が凍りついた。

 喋っていた声が止まり、みんながこちらを振り向く。

 

(えっ、何?)

(誰? ……あれって音無?)

(……マジか)

 

 冷たい感情が私を貫く。私の心がミシ、と音を立てた。

 あれ、故障かな? でも大丈夫! すぐに直せるもんね!

 

 私の心に触れる。

 

 カチリと、ネジネジと、キュルキュルと、コネコネと。

 作り直して、組み直して、磨いて、形を整える。

 

 パァ。明るい気持ちになった。うんうん。いい感じ。

 

「あれー? 何かおかしかった?」

 

 誰にともなく笑いながら、自分の席へトコトコと歩いていく。

 

(キャラ変?)

(そりゃ、あんなに変わったらドン引きだろ)

 

 う~ん、これじゃあダメなんだね。

 そうだよね。私はみんなに好かれる方法を知らないからね。

 

 いっそ、みんなの心も変えちゃおっか?

 ……ダメだ。それだと色葉さんにバレちゃうかも。

 

 私は色葉さんみたいに綺麗に心を弄れないからね。

 色葉さんがみんなの心をみたら、イチコロでわかっちゃう。

 

 色葉さんには、私が読心少女だって絶対にバレないようにしないと。絶対にだよ!

 

 

 どうしよっか。

 そうだ! それなら誰かに、教えてもらえばいいんだ! 人気者のマネッこだ!

 

 誰にしよっかな~。

 キョロキョロと教室内の心を見回す。

 

 う~んと、う~~~んと。

 よし、九条さんに決めた! 九条さんもみんなから注目されてるもんね。

 

 

 

 九条さんの心に意識を向ける。

 

 視覚が、聴覚が、触覚が、九条さんの世界が流れ込む。

 でも。これだけじゃあ足りないな。もっと深く知らなきゃ。

 

 ……その時。

 

 

『あんたは特別じゃないんだから、誰にも迷惑をかけないように普通に生きればいいんだよ』

 

 

 ――――これは、九条さんの記憶……? えっ、すごい! こんなところまで視えるんだ。

 

 ふんふん。記憶の上映会だ! たくさん勉強するぞ!

 

 ……って、勉強したところで九条さんみたいにできるわけないか。

 みんなと同じになれるわけないじゃん。

 

 どうしよっかな。

 

 ピコン! だったら、九条さんになればいいじゃん。

 

 心が体を動かすのだ。

 心に記憶も経験も感覚もあるなら、全部手に入れてしまえばいい。

 

 私の心で、九条さんの心を再現する。

 なんだか、できる気がした。失敗しても私が動かなくなるだけで、みんなハッピー! ダメで元々、挑戦してみよう。おー!

 

 心の瞳から手みたいな形をしたものを伸ばす。そうだ、これからは瞳の手って呼ぼう!

 それが九条さんの心に絡みつく。

 

 

 

 そして、そこを通じて九条さんの心の情報を全部、全部――私の中に流し込む!

 

 

 

 

 

 ――ザザザザザザザザッ!

 

 思考の形が崩れる。

 視界がチカチカして、机の輪郭が歪む。

 

 感覚が曖昧になる。体が溶けて中身が零れてしまったみたいだ。私がわからなくなる。全部ぐちゃぐちゃで混ざって。

 

 吐き気とめまい。涙が勝手に出る。息が苦しい。

 脳が、身体が、心が、バラバラになる。

 

「おえっ……ぐ、う……ッ!」

 

 胃の奥から逆流するものを堪えきれず、吐き出した。

 やっちゃった。教室を汚しちゃった。

 

 ……って、あれ?

 

 まばたきする。

 そこにあったのは便器。狭い個室の壁。薄暗い照明。

 

 ……教室にいたよね? いつトイレに移動したんだっけ?

 

 ぐるぐると、思考が空回りする。思い出せない。

 

 

 ――わからない。何も、わからない。

 

 でも、頭の奥だけは妙に冴えている。

 ぐちゃぐちゃの中に、はっきりとしたものがある。

 

 知らない知識。記憶。経験。友達に話しかける言葉が沢山浮かんでくる。どう振舞えばいいのかわかる。

 

 頭もよくなった気がするぞ!

 今ならテストで100点だって取れる気がする!

 

 あはは。やった! やった! 成功だ!!!

 

 私は出来損ないだ。何もかもが足りていない。

 

 だから、こうやって――みんなのいいところを、真似して、借りて、繋ぎ合わせていこう。

 そしたら、私だってみんなに好きになってもらえるはずだ!

 

 そして、色葉さんに相応しい自分になるんだ!

 私、頑張るよ!

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ピンポーン!

 

「音無です! 今日も遊びに来ました!」

「はーい」

 

 家のインターホンから色葉さんのママの声が返ってきた。

 色葉さんに相応しい私になってから会いに行くつもりだったのに。

 

 でもでも、我慢できなくて、放課後すぐに駆け付けちゃった! 自分勝手だな~。

 

 ガチャリと玄関ドアが開く。

 

「こんにちは!」

「こんにちは。……音無さん、よね? 昨日とずいぶん雰囲気変わったわね」

「はい! 大好きなママがお揃いの髪に切ってくれたんです!」

「へえ、そうなのね。……すごく似合ってるわよ」

「ありがとうございます!」

「今日も来てくれてありがとうね。心音も会えるのを楽しみにしてたの。どうぞ上がって」

「はいっ、おじゃましまーす!」

 

 お家に招き入れられて、色葉さんのいる部屋へ。

 

(それにしても、1日でガラッと雰囲気変わったわね。可愛らしくて……。本当に昨日と同じ子なの?)

 

 えへへ。嬉しいな。私は変われたかな。

 

 コンコンと部屋のドアを開ける。

 

「ようこそ、カナミさん。今日も楽しみに待っていましたよ」

「色葉さん。私もだよ! えへへ、また会いに来ちゃった!」

 

 ベッドから上体を起こすようにして色葉さんが迎えてくれた。

 色葉さんがベッドをポンと叩いた。

 

「今日もこちらが空いていますよ」

「うん!」

 

 私は嬉しくなって、部屋の中に入るとぴょんとベッドに腰かけた。

 ふんわりと、色葉さんの匂いが鼻をくすぐる。

 

 

「おっ! 今日のカナミさんは大胆ですね。ついに私への愛が溢れて理性が吹っ飛んでしまいましたか」

「そうなの! よくわかったね!」

「なんたることです。また一人、私の魅力で狂わせてしまいました」

 

 私を見る瞳がま、眩しい!

 

「それにしても、カナミさん雰囲気変わりましたね」

「変かな?」

 

 一瞬、息が詰まりそうになる。

 もしかして、色葉さんにも私の心が視えてる?

 

 そうだ。私だけが心を視えるようになったんじゃなくって、心が姿を現しただけなのかも。

 それはダメだ。色葉さんに私が読心少女だってバレちゃうよ!

 

 大丈夫。安心するんだ。心のネジをキチキチと回す。

 たはぁ~、リラックス。

 

「いいえ、可愛らしくて最高です。それに、誰だって自由に好きなように振る舞っていいのです。心変わりなんて素晴らしいことではないですか!」

 

 色葉さんは、いつものふわりとした笑顔で、そんなふうに言ってくれた。

 

 よかった色葉さんには、私の心は視えていないみたい。

 だって、私の心が視えていたら、すぐにわかるはずだもん。

 

 ひび割れて、傷だけの心の瞳。

 あとで絆創膏貼ってあげよっかな。痛いの痛いの飛んでけー。

 

 

 

 ――それにしても、やっぱり、色葉さんは優しいなあ。

 

 小さな体、長いまつ毛、宝石のような瞳。全部が全部、可愛い。みんなに愛されて当然だね。

 私なんかの隣にいるのがもったいないくらいだ。けれど私は絶対に離れない。ずっと隣にいるんだ。

 

「えへへ、ありがと! 色葉さんは体、大丈夫?」

「そうですね。今回は比較的楽な方ですから。あと一週間ほど休めば行けそうです」

「そうなんだ! よかった! それじゃあさ、それじゃあさ! それまで毎日遊びに来てもいい?」

「もちろんです。カナミさんなら、いつでもウェルカムなのです」

「それにさ、元気になったら一緒に学校に行こう! 毎日迎えに行くよ。一緒に行って、一緒に帰ろう!」

「おぉ~、いいですね。それは楽しみです。今日のカナミは本当に積極的ですね。口説かれてしまいそうです」

「うん、私決めたんだ。次からは絶対に色葉さんの助けになるって!」

「もしかして、この前のことを気にしていますか? あれぐらいのこと気にする必要なんてないのです」

「ううん。私がそうなりたいの!」

 

 色葉さんの隣に居れる私に。誇れる私に。一番になりたいんだ。

 だから、これは宣言だ。昨日までの弱虫の私にサヨナラバイバイだ!!!

 

「だって、私は『心音』の一番の友達になるんだからね!」




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