その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
るんるんるん!
次の日。心が軽い。嫌な心しかない学校に足取りも軽かった。
トントンと靴音を刻みながら教室のドアの前へ――。
よし、行こう。
笑顔で! 元気よく! 誰からも好かれる私になるために!
「みんな、おはよーーー!」
ガラッ!
勢いよく教室の扉を開けて、元気いっぱいに挨拶した。
大きな声で、色葉さんみたいに輝く笑顔で!
……シン。
教室が凍りついた。
喋っていた声が止まり、みんながこちらを振り向く。
(えっ、何?)
(誰? ……あれって音無?)
(……マジか)
冷たい感情が私を貫く。私の心がミシ、と音を立てた。
あれ、故障かな? でも大丈夫! すぐに直せるもんね!
私の心に触れる。
カチリと、ネジネジと、キュルキュルと、コネコネと。
作り直して、組み直して、磨いて、形を整える。
パァ。明るい気持ちになった。うんうん。いい感じ。
「あれー? 何かおかしかった?」
誰にともなく笑いながら、自分の席へトコトコと歩いていく。
(キャラ変?)
(そりゃ、あんなに変わったらドン引きだろ)
う~ん、これじゃあダメなんだね。
そうだよね。私はみんなに好かれる方法を知らないからね。
いっそ、みんなの心も変えちゃおっか?
……ダメだ。それだと色葉さんにバレちゃうかも。
私は色葉さんみたいに綺麗に心を弄れないからね。
色葉さんがみんなの心をみたら、イチコロでわかっちゃう。
色葉さんには、私が読心少女だって絶対にバレないようにしないと。絶対にだよ!
どうしよっか。
そうだ! それなら誰かに、教えてもらえばいいんだ! 人気者のマネッこだ!
誰にしよっかな~。
キョロキョロと教室内の心を見回す。
う~んと、う~~~んと。
よし、九条さんに決めた! 九条さんもみんなから注目されてるもんね。
九条さんの心に意識を向ける。
視覚が、聴覚が、触覚が、九条さんの世界が流れ込む。
でも。これだけじゃあ足りないな。もっと深く知らなきゃ。
……その時。
『あんたは特別じゃないんだから、誰にも迷惑をかけないように普通に生きればいいんだよ』
――――これは、九条さんの記憶……? えっ、すごい! こんなところまで視えるんだ。
ふんふん。記憶の上映会だ! たくさん勉強するぞ!
……って、勉強したところで九条さんみたいにできるわけないか。
みんなと同じになれるわけないじゃん。
どうしよっかな。
ピコン! だったら、九条さんになればいいじゃん。
心が体を動かすのだ。
心に記憶も経験も感覚もあるなら、全部手に入れてしまえばいい。
私の心で、九条さんの心を再現する。
なんだか、できる気がした。失敗しても私が動かなくなるだけで、みんなハッピー! ダメで元々、挑戦してみよう。おー!
心の瞳から手みたいな形をしたものを伸ばす。そうだ、これからは瞳の手って呼ぼう!
それが九条さんの心に絡みつく。
そして、そこを通じて九条さんの心の情報を全部、全部――私の中に流し込む!
――ザザザザザザザザッ!
思考の形が崩れる。
視界がチカチカして、机の輪郭が歪む。
感覚が曖昧になる。体が溶けて中身が零れてしまったみたいだ。私がわからなくなる。全部ぐちゃぐちゃで混ざって。
吐き気とめまい。涙が勝手に出る。息が苦しい。
脳が、身体が、心が、バラバラになる。
「おえっ……ぐ、う……ッ!」
胃の奥から逆流するものを堪えきれず、吐き出した。
やっちゃった。教室を汚しちゃった。
……って、あれ?
まばたきする。
そこにあったのは便器。狭い個室の壁。薄暗い照明。
……教室にいたよね? いつトイレに移動したんだっけ?
ぐるぐると、思考が空回りする。思い出せない。
――わからない。何も、わからない。
でも、頭の奥だけは妙に冴えている。
ぐちゃぐちゃの中に、はっきりとしたものがある。
知らない知識。記憶。経験。友達に話しかける言葉が沢山浮かんでくる。どう振舞えばいいのかわかる。
頭もよくなった気がするぞ!
今ならテストで100点だって取れる気がする!
あはは。やった! やった! 成功だ!!!
私は出来損ないだ。何もかもが足りていない。
だから、こうやって――みんなのいいところを、真似して、借りて、繋ぎ合わせていこう。
そしたら、私だってみんなに好きになってもらえるはずだ!
そして、色葉さんに相応しい自分になるんだ!
私、頑張るよ!
■
ピンポーン!
「音無です! 今日も遊びに来ました!」
「はーい」
家のインターホンから色葉さんのママの声が返ってきた。
色葉さんに相応しい私になってから会いに行くつもりだったのに。
でもでも、我慢できなくて、放課後すぐに駆け付けちゃった! 自分勝手だな~。
ガチャリと玄関ドアが開く。
「こんにちは!」
「こんにちは。……音無さん、よね? 昨日とずいぶん雰囲気変わったわね」
「はい! 大好きなママがお揃いの髪に切ってくれたんです!」
「へえ、そうなのね。……すごく似合ってるわよ」
「ありがとうございます!」
「今日も来てくれてありがとうね。心音も会えるのを楽しみにしてたの。どうぞ上がって」
「はいっ、おじゃましまーす!」
お家に招き入れられて、色葉さんのいる部屋へ。
(それにしても、1日でガラッと雰囲気変わったわね。可愛らしくて……。本当に昨日と同じ子なの?)
えへへ。嬉しいな。私は変われたかな。
コンコンと部屋のドアを開ける。
「ようこそ、カナミさん。今日も楽しみに待っていましたよ」
「色葉さん。私もだよ! えへへ、また会いに来ちゃった!」
ベッドから上体を起こすようにして色葉さんが迎えてくれた。
色葉さんがベッドをポンと叩いた。
「今日もこちらが空いていますよ」
「うん!」
私は嬉しくなって、部屋の中に入るとぴょんとベッドに腰かけた。
ふんわりと、色葉さんの匂いが鼻をくすぐる。
「おっ! 今日のカナミさんは大胆ですね。ついに私への愛が溢れて理性が吹っ飛んでしまいましたか」
「そうなの! よくわかったね!」
「なんたることです。また一人、私の魅力で狂わせてしまいました」
私を見る瞳がま、眩しい!
「それにしても、カナミさん雰囲気変わりましたね」
「変かな?」
一瞬、息が詰まりそうになる。
もしかして、色葉さんにも私の心が視えてる?
そうだ。私だけが心を視えるようになったんじゃなくって、心が姿を現しただけなのかも。
それはダメだ。色葉さんに私が読心少女だってバレちゃうよ!
大丈夫。安心するんだ。心のネジをキチキチと回す。
たはぁ~、リラックス。
「いいえ、可愛らしくて最高です。それに、誰だって自由に好きなように振る舞っていいのです。心変わりなんて素晴らしいことではないですか!」
色葉さんは、いつものふわりとした笑顔で、そんなふうに言ってくれた。
よかった色葉さんには、私の心は視えていないみたい。
だって、私の心が視えていたら、すぐにわかるはずだもん。
ひび割れて、傷だけの心の瞳。
あとで絆創膏貼ってあげよっかな。痛いの痛いの飛んでけー。
――それにしても、やっぱり、色葉さんは優しいなあ。
小さな体、長いまつ毛、宝石のような瞳。全部が全部、可愛い。みんなに愛されて当然だね。
私なんかの隣にいるのがもったいないくらいだ。けれど私は絶対に離れない。ずっと隣にいるんだ。
「えへへ、ありがと! 色葉さんは体、大丈夫?」
「そうですね。今回は比較的楽な方ですから。あと一週間ほど休めば行けそうです」
「そうなんだ! よかった! それじゃあさ、それじゃあさ! それまで毎日遊びに来てもいい?」
「もちろんです。カナミさんなら、いつでもウェルカムなのです」
「それにさ、元気になったら一緒に学校に行こう! 毎日迎えに行くよ。一緒に行って、一緒に帰ろう!」
「おぉ~、いいですね。それは楽しみです。今日のカナミは本当に積極的ですね。口説かれてしまいそうです」
「うん、私決めたんだ。次からは絶対に色葉さんの助けになるって!」
「もしかして、この前のことを気にしていますか? あれぐらいのこと気にする必要なんてないのです」
「ううん。私がそうなりたいの!」
色葉さんの隣に居れる私に。誇れる私に。一番になりたいんだ。
だから、これは宣言だ。昨日までの弱虫の私にサヨナラバイバイだ!!!
「だって、私は『心音』の一番の友達になるんだからね!」
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