その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第21話 はじまりの読心少女⑥

「うぇっ……げほっ、はっ……」

 

 ごぼごぼと喉の奥から逆流するものが、洗面台の底を濁らせる。

 

 

 

 今日もみんなの心を覗いて勉強中。

 たくさんいいところを集めて、みんなから認められる私になるんだ!

 

 でも、心を覗くのも、真似するのも気持ち悪い。苦しいよ……。

 

 そんなときは、私の心をコネコネするの。

 グリグリ、ポンポン……。

 

 

 

 

 ふぃ~。スッキリ!!!

 

 

 でも、何度やっても慣れないなぁ。

 何度も私の心を弄って、「心が大好き」って思えるようにしたのに。

 

 でも、すぐに嫌いになっちゃうの。

 

 例えば、どんなにゴミを好きになっても、結局ゴミって汚くて臭くて不味いじゃん。

 勘違いで好きになれたとしても、よくよく考えるとうぇ~ってなっちゃうの。

 

 それと心は同じ。

 醜くて、汚くて、うるさくて、勝手に私に投げつけられてくる。

 

 あれ? もしかして、私はゴミ箱だった?

 新発見! ぴったり、お似合いだ!

 

 よーし、パクパク吸い込んで、立派なゴミ箱になってやる。おー!

 

 

 

 ■

 

 

 

 ふんす。

 

 今日もみんなに認められる私になれるように頑張るぞー!

 そして、心音の隣にいても許される私になるんだ。

 

 そのためにも、心音が学校休んでいる間も頑張るよ!

 

 

 ──

 

 

「お掃除手伝うよ!」

「えっ、……う、うん」

(誰かに指示されたのかな……?)

 

 クラスメイトの子がお掃除面倒だって思っていたの。

 だから、手伝ってあげるよ!

 

 私なんかに突然話しかけられたから驚いちゃったみたい。

 キョロキョロしても誰も見てないよー!

 

 

 ──

 

 

「八段いきます!」

 

 今日は跳び箱の授業。一番の高さに挑戦だ!

 

 大丈夫。運動神経抜群の男の子から飛び方を学んだから。

 ほら、勝手に体が動く――ぴょ~ん!

 

(え、すご。音無さんって運動神経よかったんだ……)

 

 ズルっ子だけど内緒。

 ノロマな私は置いてきたの。みんなの場所まで追いつくよ!

 

 

 ──

 

 

「そのキーホルダー、らぶラボのメルルだよね?」

「えっ、知ってるの……!?」

「もちろん! メルルとニシシのライバル関係、興味ないフリしてるのに意識しまくってるとこエモいよね~」

「それッ! わかってる人初めて会った!!」

 

 流行はちゃんと乗らないと!

 

 へぇ~、大事なのはキャラの解釈一致?

 まかせて。完璧に一致させてみせるよ。

 

 

 ──

 

 

 毎日、心を読む。心を視る。心を真似る。

 何度も、何度も、何度も。

 

 みんなは知らない醜い世界。

 同じところをぐるぐる回って、目はクルクル、足はフラフラ。

 

 でも、頑張ったよ。

 ずっと上手く心を覗けるようになった! 

 

 心を読んでも、みんなから嫌な感情は飛んでこない。

 うんうん。思い返してみれば、昔は心を読むだけでイライラな波長が飛んできたの。

 

 あの頃はドジで、みんなの心の中で暴れちゃってたんだな。

 今は違う。えっへん。立派なスパイに成長したのだ!

 

(なんで音無を冷たくしてたんだっけ?)

(俺だけが音無の可愛さ知ってる……)

(もっと話してみたいけど、みんなの前だと……)

 

 少しずつ、みんなの心が変わっていくのを感じる。

 やっぱり泣き虫の私にサヨナラしてよかった!

 

 もっとみんなに近づけるように頑張るから見ていてね。

 

 

 

 ■

 

 

 

 目が回るような毎日は、あっという間に過ぎていく。毎日が早すぎる!

 そして――

 

「お待たせしました。さぁ、行きましょう! 登校デートってやつです」

 

 パタン、と扉を開けて、心音がひょこっと顔を出す。

 今日は心音が復学する日。

 

 一緒に学校に行きたいから、朝早起きして迎えに来たんだ。

 今日も心音は可愛いな~。

 

「奏海ちゃん、心音のことお願いね」

 

 顔を出した心音ママに手を振って挨拶してから、心音と並んで歩き始める。

 

(心音一人だと心配だけど、友達と一緒だと安心できるわ)

 

 心音ママの心が聴こえた。その音はうるさいけど、信じてもらえて嬉しいな。

 

 私が心音と呼ぶようになってから、毎日のように心音の家へ遊びに行っていたの。

 今では心音ママともすっかり仲良し。

 

 これからも心音の友達として認められるように頑張るよ!

 

 

 

 心音の小さな歩幅に合わせてステップを踏む。

 こんなに歩く速さが違ったんだね。新発見!

 

 これまで何を見ていたんだろうね? 目の前が真っ暗だー!

 

「カナミさんの家って、私のお家と反対方向でしたよね? 朝早くて大変じゃなかったですか?」

「そんなことないよ。今日が楽しみすぎて、むしろ眠れなかったくらいだよ」

「そうですか。眠たくなったら言ってください。よく眠れる秘密のサービスを差し上げます」

「何それ? まさか子守唄とか?」

「おや? そっちをリクエストですか? 本来は別サービスですが、カナミさんなので特別に大サービス。一緒に付けてあげましょう」

 

 心音はにんまり笑って、私を見上げる。

 ……うっ、可愛いなぁ。

 

 昨日までベッドで休んでいたとは思えないほど元気そう。

 でも、急に具合悪くなっちゃっうんだっけ?

 

 次は絶対に助けられるように目を離さないよ。ジロジロ、ジロジロ……。

 心音の心の瞳も私をジロジロ視てるよ。まるでお見合いだ。は、恥ずかしい……。

 

 ……それにしてもココネの隣を歩けて嬉しいな。

 いつまでも隣にいられるように。心音に相応しいって思ってもらえるように頑張るよ!

 

 

 

 ■

 

 

 

「うぇっ……」

 

 ある日は、心を覗いた気持ち悪さでバタンキュー。

 ……心なんて読めなくなればいいのに。

 

 そんなときは心をネジネジ……っと。

 うん! ハッピー100倍だ! 心音には絶対バレないようにしなきゃ……。

 

 

 ──

 

 

「音無さん、テスト満点じゃん。勉強もできたんだ」

「えへへ、偶然だよー」

 

 勉強も、運動も、おしゃべりも。

 全部ぜーんぶ頑張る!

 

 みんなのいいところを集めて着飾るファッションショー。

 さて、次はどの衣装をまとおうかな?

 

 

 ──

 

 

「はぁ……はぁ……カナミさん。少し……休憩、いいですか?」

「もちろん!」

 

 ある日は、心音が突然バタンキュー。

 大丈夫だよ。今度は絶対に助けるからね!

 

 

 ──

 

 

(音無さん、話してみるとメッチャ楽しい!)

(運動神経いいのに、部活入ってないのもったいないな)

(音無、最近すごく明るくなったよね)

 

 

 バタバタと毎日が過ぎていく。もうヘロヘロ~。

 でも、小さな心の変化が、どんどん大きくなっていく。

 

 心音がいなくても、みんなが話しかけてくれるようになった。

 優しくしてもらえるようになった。

 

 やっと私もみんなの輪に入れてもらえたのかな?

 心音と一緒にいてもいいのかな?

 

 でも油断しちゃダメだ。

 ノロマの私は、すぐ追い出されちゃう。

 

 だから今日も、よいしょ、よいしょと。努力のピラミッドを積み重ねるぞ。おー!

 

 

 ──

 

 

「カナミさんの誕生日って、私と一週間違いだったのですね! これは運命なのでしょうか?」

「運命って、一週間も違うじゃん」

「いやいや、世界の始まりから考えれば一週間なんて誤差です。ほぼ同じ日といっていいでしょう」

 

 ココネは机に肘をつき、にやっと笑って胸を張る。

 チャイムが鳴る直前、帰り支度をしながら教室で心音とお喋りしていた。

 

「同じ日に生まれた二人が親友になる。これは必然です! きっと病院では隣のベビーベッドに寝ていたに違いありません」

「心音の生まれって、ここら辺なの?」

「はい。お引越しの経験はありません。カナミさんも同じですか?」

「うん。私も引っ越したことないから、生まれはここだよ」

「なんと。これはもう確定です! この地域で生まれるなら、星ヶ原病院しか選択肢がありません。やはり隣のベ――――」

 

 心音は言葉の途中で、ふとピタリと止まった。

 ぱちりと瞬きをして、教室のドアを見つめる。

 

「心音……?」

 

 私もつられてドアの方を見た。

 何もないよー?

 

 心音は、じっとドアを見つめていた。

 どうしたのかな?

 

 ……う~んと考えていると、答えが届いた。

 教室に近づいてくる1つの心。

 

 カタリ。

 静かにドアが開き、担任の先生が現れる。

 

「色葉さん、ちょっと職員室までお願いできますか」

「はい。カナミさん、ちょっと行ってきますね。今日はこれでサヨナラになりそうですから、先に帰っていてください」

 

 思わず、心音の顔を見つめる。

 心音は静かに椅子を引き、バッグを持って廊下へ歩き出した。

 

 

 

 ――先生の心から、知ってしまった。

 心音パパが交通事故で病院に運ばれたことを。

 

 

 

 ■

 

 

 

 ピンポーン!

 

 

 翌朝、心音の家のインターホンを鳴らす。

 

 昨日、心音はそのまま家に帰ってしまったので、心音パパについて何も聞けなかった。

 でも、いきなり迎えに行くのをやめたら不自然だもんね。心が読めるってバレちゃうかも。

 

 

 

 うわぁ、自分勝手。最低だ。結局、心音のことなんて考えていない。

 自分が傷つきたくなくてしょうがないんだ。

 

 

 ダメだ……。自然と心をこねていた。

 ぐにゃぐにゃ、こねこね、柔らかくして。うん、スッキリ!

 

 ガチャリ。

 ドアが開き、私服姿の心音が顔を出す。

 

「心音、学校行こー!」

「カナミさん、すみません。しばらく学校をお休みします」

「……どうしたの?」

 

 どうしたのじゃないね。

 

 だって、その答えを私は知ってるんだもん。

 家の中にある悲しむ心を視れば、答えは簡単だ。

 

 なのに自分のために嘘つくなんて、やっぱり弱虫の才能があるね。

 

「そうですね。事情を簡単に説明すると、昨日お父さんが交通事故で亡くなったのです」

 

 心音はまっすぐに私を見て、ほんの少しも揺れない声で言った。

 

「……そうなんだ」

「はい。それで色々としないとなので、少しの間だけお休みです」

 

 いつも通りの声だった。

 

「あっ、心配はしなくて大丈夫ですよ。ほら、この通り元気いっぱいですから。会えない寂しさは、次に会うときの嬉しさを倍増させるスパイスだと思ってください」

 

 いつも通りの声。いつも通りの会話。いつも通りの表情。

 何もなかったように、いつも通りみたいだ。

 

 

 

 もしかして―――

 

「心音は悲しくないの?」

 

 びっくり! 思わず声に出しちゃった! 

 こんなわかりきったことを聞くなんてバカだ。

 

「悲しいですよ。でも、それ以上に楽しいことが私の周りには溢れています。だから、下を向いてそれを見逃したくないだけなのです」

「……ごめん、変なこと聞いたよね」

「別に気にしてませんよ。気になることを聞くのも自由なのですから」

 

 心音は笑った。

 その笑みも、やっぱりいつも通り。

 

 いつも通り。いつも通り。いつも通りだ。

 

 

 

 心音パパとも何度も会っている。

 心音とパパは仲良しで、とても幸せそうで、特別な関係だって思っていた。

 

 

 

 なのに。

 たった昨日、大切な人を失ったばかりなのに。

 

 どうして笑えるの?

 どうして、いつも通りでいられるの?

 

 そんなに簡単に割り切れるの?

 ……本当は悲しくないんじゃないの?

 

 

 

 それなら私は……?

 

 

 心音の親友になりたかった。少しは、一番に近い友達になれたと思ってたよ。

 

 でも、もし私がいなくなっても――心音は悲しまないんじゃない?

 すぐに、過去のことだと切り捨てられるんじゃないかな。

 

 心音の中には特別な人なんていないんじゃないかな。

 

 

 

 

 ……嫌だ!!!

 

 

 

 

 そんなの、絶対に、嫌だ!!!

 

 私は心音の特別になりたい。特別になりたいんだ。

 

 心音は私を友達だって言ってくれている。

 でも、本当はどう思っているのだろう。何を考えているのだろう。

 私がいなくなったら、すぐに忘れてしまうんじゃないか。

 

 

 

 知りたい。知りたい。知りたい。

 

 どうしても、知りたい。

 

 

 

 心音の心の瞳と目が合った。

 

 ずっと嫌いだった。

 他人の心なんて、気持ち悪くて、うるさくて、全部消えてしまえばいいと思ってた。

 

 

 

 でも今、生まれて初めて思った。

 

 

 心音の心を知りたい。

 

 

 

 

 読心少女である私にも隠された。

 ――――その誰にも読めない心を覗いてみたい。




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