その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「うぇっ……げほっ、はっ……」
ごぼごぼと喉の奥から逆流するものが、洗面台の底を濁らせる。
今日もみんなの心を覗いて勉強中。
たくさんいいところを集めて、みんなから認められる私になるんだ!
でも、心を覗くのも、真似するのも気持ち悪い。苦しいよ……。
そんなときは、私の心をコネコネするの。
グリグリ、ポンポン……。
ふぃ~。スッキリ!!!
でも、何度やっても慣れないなぁ。
何度も私の心を弄って、「心が大好き」って思えるようにしたのに。
でも、すぐに嫌いになっちゃうの。
例えば、どんなにゴミを好きになっても、結局ゴミって汚くて臭くて不味いじゃん。
勘違いで好きになれたとしても、よくよく考えるとうぇ~ってなっちゃうの。
それと心は同じ。
醜くて、汚くて、うるさくて、勝手に私に投げつけられてくる。
あれ? もしかして、私はゴミ箱だった?
新発見! ぴったり、お似合いだ!
よーし、パクパク吸い込んで、立派なゴミ箱になってやる。おー!
■
ふんす。
今日もみんなに認められる私になれるように頑張るぞー!
そして、心音の隣にいても許される私になるんだ。
そのためにも、心音が学校休んでいる間も頑張るよ!
──
「お掃除手伝うよ!」
「えっ、……う、うん」
(誰かに指示されたのかな……?)
クラスメイトの子がお掃除面倒だって思っていたの。
だから、手伝ってあげるよ!
私なんかに突然話しかけられたから驚いちゃったみたい。
キョロキョロしても誰も見てないよー!
──
「八段いきます!」
今日は跳び箱の授業。一番の高さに挑戦だ!
大丈夫。運動神経抜群の男の子から飛び方を学んだから。
ほら、勝手に体が動く――ぴょ~ん!
(え、すご。音無さんって運動神経よかったんだ……)
ズルっ子だけど内緒。
ノロマな私は置いてきたの。みんなの場所まで追いつくよ!
──
「そのキーホルダー、らぶラボのメルルだよね?」
「えっ、知ってるの……!?」
「もちろん! メルルとニシシのライバル関係、興味ないフリしてるのに意識しまくってるとこエモいよね~」
「それッ! わかってる人初めて会った!!」
流行はちゃんと乗らないと!
へぇ~、大事なのはキャラの解釈一致?
まかせて。完璧に一致させてみせるよ。
──
毎日、心を読む。心を視る。心を真似る。
何度も、何度も、何度も。
みんなは知らない醜い世界。
同じところをぐるぐる回って、目はクルクル、足はフラフラ。
でも、頑張ったよ。
ずっと上手く心を覗けるようになった!
心を読んでも、みんなから嫌な感情は飛んでこない。
うんうん。思い返してみれば、昔は心を読むだけでイライラな波長が飛んできたの。
あの頃はドジで、みんなの心の中で暴れちゃってたんだな。
今は違う。えっへん。立派なスパイに成長したのだ!
(なんで音無を冷たくしてたんだっけ?)
(俺だけが音無の可愛さ知ってる……)
(もっと話してみたいけど、みんなの前だと……)
少しずつ、みんなの心が変わっていくのを感じる。
やっぱり泣き虫の私にサヨナラしてよかった!
もっとみんなに近づけるように頑張るから見ていてね。
■
目が回るような毎日は、あっという間に過ぎていく。毎日が早すぎる!
そして――
「お待たせしました。さぁ、行きましょう! 登校デートってやつです」
パタン、と扉を開けて、心音がひょこっと顔を出す。
今日は心音が復学する日。
一緒に学校に行きたいから、朝早起きして迎えに来たんだ。
今日も心音は可愛いな~。
「奏海ちゃん、心音のことお願いね」
顔を出した心音ママに手を振って挨拶してから、心音と並んで歩き始める。
(心音一人だと心配だけど、友達と一緒だと安心できるわ)
心音ママの心が聴こえた。その音はうるさいけど、信じてもらえて嬉しいな。
私が心音と呼ぶようになってから、毎日のように心音の家へ遊びに行っていたの。
今では心音ママともすっかり仲良し。
これからも心音の友達として認められるように頑張るよ!
心音の小さな歩幅に合わせてステップを踏む。
こんなに歩く速さが違ったんだね。新発見!
これまで何を見ていたんだろうね? 目の前が真っ暗だー!
「カナミさんの家って、私のお家と反対方向でしたよね? 朝早くて大変じゃなかったですか?」
「そんなことないよ。今日が楽しみすぎて、むしろ眠れなかったくらいだよ」
「そうですか。眠たくなったら言ってください。よく眠れる秘密のサービスを差し上げます」
「何それ? まさか子守唄とか?」
「おや? そっちをリクエストですか? 本来は別サービスですが、カナミさんなので特別に大サービス。一緒に付けてあげましょう」
心音はにんまり笑って、私を見上げる。
……うっ、可愛いなぁ。
昨日までベッドで休んでいたとは思えないほど元気そう。
でも、急に具合悪くなっちゃっうんだっけ?
次は絶対に助けられるように目を離さないよ。ジロジロ、ジロジロ……。
心音の心の瞳も私をジロジロ視てるよ。まるでお見合いだ。は、恥ずかしい……。
……それにしてもココネの隣を歩けて嬉しいな。
いつまでも隣にいられるように。心音に相応しいって思ってもらえるように頑張るよ!
■
「うぇっ……」
ある日は、心を覗いた気持ち悪さでバタンキュー。
……心なんて読めなくなればいいのに。
そんなときは心をネジネジ……っと。
うん! ハッピー100倍だ! 心音には絶対バレないようにしなきゃ……。
──
「音無さん、テスト満点じゃん。勉強もできたんだ」
「えへへ、偶然だよー」
勉強も、運動も、おしゃべりも。
全部ぜーんぶ頑張る!
みんなのいいところを集めて着飾るファッションショー。
さて、次はどの衣装をまとおうかな?
──
「はぁ……はぁ……カナミさん。少し……休憩、いいですか?」
「もちろん!」
ある日は、心音が突然バタンキュー。
大丈夫だよ。今度は絶対に助けるからね!
──
(音無さん、話してみるとメッチャ楽しい!)
(運動神経いいのに、部活入ってないのもったいないな)
(音無、最近すごく明るくなったよね)
バタバタと毎日が過ぎていく。もうヘロヘロ~。
でも、小さな心の変化が、どんどん大きくなっていく。
心音がいなくても、みんなが話しかけてくれるようになった。
優しくしてもらえるようになった。
やっと私もみんなの輪に入れてもらえたのかな?
心音と一緒にいてもいいのかな?
でも油断しちゃダメだ。
ノロマの私は、すぐ追い出されちゃう。
だから今日も、よいしょ、よいしょと。努力のピラミッドを積み重ねるぞ。おー!
──
「カナミさんの誕生日って、私と一週間違いだったのですね! これは運命なのでしょうか?」
「運命って、一週間も違うじゃん」
「いやいや、世界の始まりから考えれば一週間なんて誤差です。ほぼ同じ日といっていいでしょう」
ココネは机に肘をつき、にやっと笑って胸を張る。
チャイムが鳴る直前、帰り支度をしながら教室で心音とお喋りしていた。
「同じ日に生まれた二人が親友になる。これは必然です! きっと病院では隣のベビーベッドに寝ていたに違いありません」
「心音の生まれって、ここら辺なの?」
「はい。お引越しの経験はありません。カナミさんも同じですか?」
「うん。私も引っ越したことないから、生まれはここだよ」
「なんと。これはもう確定です! この地域で生まれるなら、星ヶ原病院しか選択肢がありません。やはり隣のベ――――」
心音は言葉の途中で、ふとピタリと止まった。
ぱちりと瞬きをして、教室のドアを見つめる。
「心音……?」
私もつられてドアの方を見た。
何もないよー?
心音は、じっとドアを見つめていた。
どうしたのかな?
……う~んと考えていると、答えが届いた。
教室に近づいてくる1つの心。
カタリ。
静かにドアが開き、担任の先生が現れる。
「色葉さん、ちょっと職員室までお願いできますか」
「はい。カナミさん、ちょっと行ってきますね。今日はこれでサヨナラになりそうですから、先に帰っていてください」
思わず、心音の顔を見つめる。
心音は静かに椅子を引き、バッグを持って廊下へ歩き出した。
――先生の心から、知ってしまった。
心音パパが交通事故で病院に運ばれたことを。
■
ピンポーン!
翌朝、心音の家のインターホンを鳴らす。
昨日、心音はそのまま家に帰ってしまったので、心音パパについて何も聞けなかった。
でも、いきなり迎えに行くのをやめたら不自然だもんね。心が読めるってバレちゃうかも。
うわぁ、自分勝手。最低だ。結局、心音のことなんて考えていない。
自分が傷つきたくなくてしょうがないんだ。
ダメだ……。自然と心をこねていた。
ぐにゃぐにゃ、こねこね、柔らかくして。うん、スッキリ!
ガチャリ。
ドアが開き、私服姿の心音が顔を出す。
「心音、学校行こー!」
「カナミさん、すみません。しばらく学校をお休みします」
「……どうしたの?」
どうしたのじゃないね。
だって、その答えを私は知ってるんだもん。
家の中にある悲しむ心を視れば、答えは簡単だ。
なのに自分のために嘘つくなんて、やっぱり弱虫の才能があるね。
「そうですね。事情を簡単に説明すると、昨日お父さんが交通事故で亡くなったのです」
心音はまっすぐに私を見て、ほんの少しも揺れない声で言った。
「……そうなんだ」
「はい。それで色々としないとなので、少しの間だけお休みです」
いつも通りの声だった。
「あっ、心配はしなくて大丈夫ですよ。ほら、この通り元気いっぱいですから。会えない寂しさは、次に会うときの嬉しさを倍増させるスパイスだと思ってください」
いつも通りの声。いつも通りの会話。いつも通りの表情。
何もなかったように、いつも通りみたいだ。
もしかして―――
「心音は悲しくないの?」
びっくり! 思わず声に出しちゃった!
こんなわかりきったことを聞くなんてバカだ。
「悲しいですよ。でも、それ以上に楽しいことが私の周りには溢れています。だから、下を向いてそれを見逃したくないだけなのです」
「……ごめん、変なこと聞いたよね」
「別に気にしてませんよ。気になることを聞くのも自由なのですから」
心音は笑った。
その笑みも、やっぱりいつも通り。
いつも通り。いつも通り。いつも通りだ。
心音パパとも何度も会っている。
心音とパパは仲良しで、とても幸せそうで、特別な関係だって思っていた。
なのに。
たった昨日、大切な人を失ったばかりなのに。
どうして笑えるの?
どうして、いつも通りでいられるの?
そんなに簡単に割り切れるの?
……本当は悲しくないんじゃないの?
それなら私は……?
心音の親友になりたかった。少しは、一番に近い友達になれたと思ってたよ。
でも、もし私がいなくなっても――心音は悲しまないんじゃない?
すぐに、過去のことだと切り捨てられるんじゃないかな。
心音の中には特別な人なんていないんじゃないかな。
……嫌だ!!!
そんなの、絶対に、嫌だ!!!
私は心音の特別になりたい。特別になりたいんだ。
心音は私を友達だって言ってくれている。
でも、本当はどう思っているのだろう。何を考えているのだろう。
私がいなくなったら、すぐに忘れてしまうんじゃないか。
知りたい。知りたい。知りたい。
どうしても、知りたい。
心音の心の瞳と目が合った。
ずっと嫌いだった。
他人の心なんて、気持ち悪くて、うるさくて、全部消えてしまえばいいと思ってた。
でも今、生まれて初めて思った。
心音の心を知りたい。
読心少女である私にも隠された。
――――その誰にも読めない心を覗いてみたい。
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