その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
お家でご飯の時間だ。いただきまーす!
ママの作ってくれたご飯はどれもおいしい。あったかくて、ぽかぽか。
「ママ、それでね。心音の心を覗いてみたいんだ」
「うん、うん」
ママは向かいでにこにこ。いっしょに食べるご飯は楽しいね。
「でもねー。心音にも心の瞳があって中が視れないの。私の心の瞳を砕いたときみたいに、上手くスキマを作って中に入らないといけないんだ。でも、心音の心の瞳に触れたら、絶対に気づくと思うの。私が読心少女だってバレないようにしないと。どうすればいいかな~?」
「うん、うん」
ご飯をひとくち、ぱくっ。……うん、うまっ!
「それにね。真正面から試してみるのもダメっぽいんだ。心音の心の瞳はオーラがあるっていうか、威圧感あるっていうか。例えば、筋肉ムキムキのマッチョさんって感じ。正面で向き合ったら、パワー負けするに決まってる。さすが心音だよね」
ぱくぱく、もぐもぐ。ご飯が進む。
「心音に、心を覗かせてなんて言えないし。どうすればいいかなー」
「うん、うん」
ママは、うんうんって頷いている。
「うん! やっぱり隙を見つけるしかないよね。どこかからコッソリと中に入れないか探すべきだ。心の瞳のほんの小さなヒビとか、死角とか、無防備な瞬間とか……そういうとこから、スルッと入れたら、勝ちだよね。時間はたくさんあるもん。見つけてみせるよ!」
「うん、うん」
寝てるときの心音、無防備だといいな。きっと可愛い。
具合悪いときとか、心の瞳もちょっと弱ってたりして。そしたら、そっと絆創膏、貼ってあげよう!
あ、死角もあるかも? 視界のスキマ。スニーキングだ!
これからも心音と一緒にいる。時間はたくさんある。
だから、ずっと見続けてスキマを探そう。
「私、頑張ってみせるよ!」
「うん」
ママは、うんうんって頷いてる。ずっと、うんうん。
今日も調子悪いのかな。
心のメンテナンスだ! キュッキュ、ピカピカ。
……あれ? こんなことしてていいんだっけ?
キュッとした何かが私の心に刺さった。これは何だっけ。とりあえず、今日も抜いておこう!
うん、オッケー! バッチリ!!!
「……カナミ、愛してるわ」
もぐもぐ、ごっくん。ごちそうさま!
「あぁ、楽しみだな~。心音の心が視れるの!」
■
ここは駅前の雑居ビル六階。名前のないレンタルスペースの一室。
「みんな、いつも通り集まってくれてありがとう! じゃあ今日も楽しい思い出、作っていこうね!」
集まってくれた男の人たちに声をかける。
なーんて。私がいることになんて気づいてないけどね。みんな、気が付いたら、ここにいたって感じだ!
ある日、心音をずっと見ていたら、誰にも気づかれないようコッソリと休憩していたことに気付いたんだ。
そんな読心能力の使い方もあったんだ! いつだって心音は私の知らないことを教えてくれる。
心を直接弄るのではなくて、心に伝わる情報自体を遮断するんだね。
これなら、心音にも能力を使ったことがバレない。
私にも頑張ればできるのかな?
それに他にもたくさん試してみたいことがあったんだ。
すっごく難しいから、たくさん練習しないと!
でも、心を操ったら、その跡が残っちゃうの。心音なら絶対に気が付く。
うっかり見つかったら、大変!!!
だから、みんなに練習を手伝ってもらっているの。
ここに集まってもらった人たちは、ロリコンさんからの紹介。
お願いしたら、同じ趣味の人たちをたくさん紹介してくれた。友達がいっぱいで羨ましいな。
心音は体が弱いから遠出は少ない。
だから、うっかり心音と出会わなそうな人たちに手伝ってもらえば大丈夫ってことだね!
「おッ……、オッ……!!!」
「……うんうん。どんどん上手くなってる。少しは心音に近づけたかな」
男の人たちの心に触れる。思い通りに形を変える。気持ち悪い粘土みたいだ。
ひとつ試すたび、思い知らされる。心音は心を操る天才だってこと。
どれだけ頑張っても、九条さんの心を変えたみたいに、素早く完璧にはできない。
でも、私がどんくさいのは知っている。
カメさんがウサギさんに追いつけることはないの。それでもウサギさんを追いかけて走るんだ!
――――――よし、今日は終わり!
疲れたぁ~。
じゃあ、いつも通り最後にお金だけ置いていってね~。サヨナラ~!
ひい、ふう、みい。紙もたくさん。わーい、大成功!
ママは最近、調子が悪くて仕事ができない。
それに、心音とばったり会ったら大変だから、家で休んでもらってる。
だから、ママの代わりに私が頑張るの!
もちろん、タダで貰ってるわけじゃないよ?
読心能力で、ロリコンさんたちの望む記憶を体験させてあげてるの。ギブアンドテイクってやつだ!
私はお金と練習ができて嬉しい。
ロリコンさんたちは良い思い出ができて嬉しい。
女の子はロリコンさんたちに会わずに済んで嬉しい。
みんなハッピーだ! ウィンウィンだね!!!
……そう、だよね? これで、みんなハッピーだっけ?
あれ? 私、こんなこと……いつからやってたんだっけ?
思い出せない。記憶が曖昧。気づいたら時間が過ぎている。
どんどん、ママもおかしくなって――。
するすると心の奥から、何かが這い上がってくる。忘れてしまった何かが。
これ以上考えたらダメな気がする。でも、頭がぐるぐるして離れない。
こら! 引っ込め、引っ込め、引っ込め!!!
……ふぅ。スッキリ。心を叩いたら元通り。オンボロのテレビみたい!
何を考えてたんだっけ? 忘れちゃった! ま、いっか!
■
うぅ~、寒い。忙しい日々はあっという間。もう冬だ。
でも、なんだか今年は温かい。だって――
「カナミさん。今度お家でお泊り会しませんか? 一緒に夜を過ごすのです」
「えっ、いいの! 行く、行くよ!」
私の隣には心音がいる。
ずっと会いたかった心音が。また一緒に学校に通ってる。
それにしてもお泊り会。楽しみすぎる!
しかも一緒に寝るなんて――チャンス!!
心の瞳のスキマ、そろそろ見つけられちゃうかもっ!
……と思ってたけど、結局見つけられなかったよ。
コッソリと夜中起きて心音に集中してみたけど、心の瞳がパッチリと開いていた。夜更かしさんだ!
それから――夜中にふと目が覚めたら、今度は心音がこっちを見てた。
心の瞳もジロジロと私を視ていた。もしかして、私の心の瞳が視えている?
ドキドキドキ。
……何も言われなかったから、バレてないはず。いや、まだ疑われてるのかも?
もっと自然に! もっとさりげなく!
修行あるのみ、私!
そんな一日はあっという間に過ぎ去っていったよ。
それだけじゃない。心音と過ごす楽しい日々は本当に一瞬。ビューンってどこかに飛んで行ってしまう。
気づけば、また季節が変わってる。
気づけば、また心音と一緒に笑ってる。
そんな日々がずーっと続いてる。
それだけじゃない。みんなが私を見る心も変わってきた。
心音と仲良し。文武両道。可愛い。
えへへ、みんなのいいところで着飾っただけなのにね。
ちょっとずつ、みんなに並べてる気がする。嬉しいな!
でも、心の瞳の死角は見つけられない。
毎日ずっと探してるのに見つけられない。これじゃ名探偵失格だ~!
――――そうして。
中学生活は、ビューンって過ぎていった。
でも高校生活も心音と一緒!
心音が家から歩いて行ける高校にするって言ってたから、私も同じにした。
難しい学校みたいだったけど、みんなの心が勉強を教えてくれる。
えっ、これはカンニングじゃないよ。そうだなぁ、もっとズルいこと!
そうして、高校でも心音と同じクラス。うれしい!
春に一緒に入学して、熱い夏を一緒に過ごして、そして秋になった。
やっぱり心音は人気者。みんな、心音を目で追ってしまう。しょうがないね。
だって、可愛すぎるもん!
でも、心音の隣を歩くのは私。
今日も、明日も、明後日も、来年も、ずっとずっと一緒にいるのだ!
――――そう思っていたんだ。
■
それは、ある秋の日のことだった。
ピッ、ピッ、と規則的な音。よくわからない機械の電子音。
私は病院のベッドで眠る心音を見つめていた。
心の瞳は目を開けているのに、心音の瞳は閉じたまま。
「奏海ちゃん、お見舞いありがとね。急にびっくりさせてごめんね」
ベッドの隣に座る心音ママが微笑む。
「心音、またちょっと体の調子を崩しちゃってね。ずっとお昼寝したままなの」
いつものように、心音を迎えに行ったら「病院にいます」って書置きがあった。
「でもね、安心して。昔はよくこういうことがあったの。何日も眠ったまま起きなくて、ある日、何でもないみたいに起きてくるの。だから今回も、待っていれば――。……ほんと、マイペースな子なんだから」
昔からあった、は本当。
でも今回もとは限らない。心音ママがいちばん、それを心配してる。
ずっと前に、お医者さんから「元気でいられるのが不思議」と言われたって、心音が言っていた。
ああ、これか――。
心音が急に倒れたり、苦しそうにしているのは何度も見た。
でも最後には元気になるから、どこかで軽く視ていた。
心音ママが近くにいたんだ。知ろうと思えば、知る手段はいくらでもあった。
本当に、私は何を見ていたんだろう。
……すぐにでも、心音はいなくなっちゃうのかな?
■
────気が付けば、病院の帰り道。
私の家に向かって一人歩く。
(あれ? 壊れた? マジか。さっきまでは電源ついたのに……)
すれ違う人たちの心の声が聞こえる。
(前に流行ったあの曲。名前なんだっけ? うーん、今度調べよ)
交差点の赤信号。信号が点滅する。
(やばい! バス間に合わない!)
住宅街の道を歩く。
(鍵、閉め忘れた。……どうしよ。戻る時間ないよ!)
アパートの階段を上がる。
(これ脈なしかな……。いや! 待ってもチャンスは来ない! 何してでも振り向かせる!)
ガチャリ。玄関ドアを開ける。
いつものように、お母さんが出迎えて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「カナミ、アイしてるヨ」
頭の中がごちゃごちゃ。
ずっと心音と一緒にいられると思ってた。でも、叶わないのかもしれない。
嫌だ。そんなの、嫌だ。けど、私にはどうにもならない。
苦しい。苦しいよ。
「誰か助けて……」
「カナミ、あいシテてるよ」
心音、助けて……。
でも、心音に助けてもらうことはできないよ。だって眠ってるんだもん。それに――――。
「カナミ、アイしテルよ」
こんなママの姿は、見せられない。
心は移り変わるもの。だから、何度も何度も無理やり調整していたら、元の形がわからなくなった。
いや、はじめから、ボロボロにしていたのだ。
私が壊した。
全部、全部、全部、私が悪い。やっぱり、私は生まれるべきじゃなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息がうまく吸えない。弱虫の私が帰ってきた。
早く元通りにしないと――。
心をグリグリ。コネコネ。ネジネジ。マキマキ。
あれ、なかなか元通りにならない。私も壊れてきたのかな。
もっと、もっと、心をいじらないと!
――――ふぅ。バッチリ。なかなか戻らないなんて、このオンボロテレビもそろそろ潮時かな。
さて。これからのこと、考えないと。
心音がいなくなるかもしれない。それは、私にはどうしようもない。無能だね!
それなら、どうするか。
答えは出てる。自分勝手なわがまま。
――私は、心音の心が知りたい。私をどう思ってるか。心音が感じる世界を知りたい。
今すぐに。消える前に。絶対に。
ずっと前から、知りたくて、知りたくて、知りたくて。
心のドキドキが止まらないんだ!
チャンスを待ってたら、間に合わないかも。
チャンスはここ! ここが土俵際! どすこい!
一度でいい。たった一度でいい。
だから――このお願い、叶えてもいいかな?
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