その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「奏海ちゃん。今日も来てくれたのね」
「はいっ。そりゃもう! お見舞い皆勤賞目指してますから!」
心音がぐっすり眠る病室に入ると、心音ママが振り返って微笑んだ。
心音が眠り始めてから一週間。今日も心音はすやすや――。
でも、心の瞳はぱっちり開いたまま、きょろきょろ。
毎日、毎日、おめめパッチリ。一日中見てたけど、全く目を閉じないの。
心音の心を覗くには、心の瞳の中にどうにかして入らないとね。
でも、バッチリ起きてるから隙が見つからない。
あ、心音が元気な時よりは疲れた〜って目をしてるかも。
それでも、無理やり中に入ろうとしたら――多分、負ける。
それだけのオーラを感じる。可愛い心音を守る優秀なガードマンなのだ!
……一回くらい、力ずくで……ってダメだよ!
失敗だけならいいけど、もしかしたら心音は覚えているかもしれない。
そうしたら、私が読心少女だってバレちゃう。
絶対に失敗はできない。
待っていてもチャンスは来ない。時間もない。
でも、失敗してバレるのも嫌なの。
う~ん、う~ん……オンボロの頭をトントンと叩いて考える。
何かいい案……あ、ひとつ出てきた。埃かな?
それはね――――
別の読心能力者に心音の心を覗いてもらえばいいんだ!!!
私じゃない誰かに、心の瞳を攻略してもらう。
それを近くで見て学ぶの。いつも通りのカンニング勉強! 私はバカだからしょうがないね。
心音の心の瞳は、ムキムキのマッチョマンさんで強そうだ。
きっと、他の読心能力者は負けちゃうだろうなー。でも、私が読心少女だとはバレない。
何度も繰り返して、攻略法を見つけるぞ。おー!
■
まずは、読心能力者を探さないとね。
この広い世界で、読心少女の心音に出会えたんだよ?
心音は運命だっていうけど、きっと隠れているだけで、たくさんいるはずだ!
かくれんぼだ。鬼さんだーれだ! ……って私だね。
でも、心音以外はまだ見つけられたことがない。鬼さん失格。
今から探してたら時間切れ。
……でも、今日の私は一味違う。
読心能力者が見つからないなら、育てればいいの!
直感。私なら読心能力を目覚めさせることができる気がする。
ちっぽけな私のくせに、謎の自信。おかしくなっちゃった?
えへへ、始めからおかしかったね!
子育ては初めてだけど、いっぱい大切にするよ。
■
「――――だからね。九条さん、協力してくれるかな?」
学校の教室。私の目の前でお昼を食べる九条さん。
両肩に手を置いて、耳元で囁く。
でも、誰も私に気づかない。認識遮断で透明人間だ~。
心音にバレる可能性は、先に潰しておかないと。
「誰にしよっかな~って考えたの。まず絶対条件は、心音の心を覗いてくれる人! 私が心をコネコネすれば誰でも協力してくれるけど限界があるんだ。嘘の感情はずっと保てないの」
これはママで実証済みだ。
その人にない感情、心の動きを生み出すためには心を大きく作り変える必要がある。これが難しい、難しい。
答えのわからないパズルを解いてるみたい。上手くピースが埋まってくれないの。
そんな感じで不完全なパズルは、どんどん崩れていっちゃうの。
ボロボロでピースも無くしちゃうの。
だからね。その人に元々ある感情の背中を押すのだ。
気持ちを応援して、増幅して、進ませる。がんばれ、がんばれ、えいえいおー!
「その点、九条さんはピッタシだ! 私知ってるよ。ずっと心音のこと目で追っていたこと。気になって仕方ないのに、トゲトゲしちゃうんだよね。可愛いな~」
九条さんとは中学から一緒。ずっと読まされていたから詳しいんだ。
それに九条さん、頭がいい。ズバッとしたアイデア、出してくれるかも!
「それから、女の子がいい」
心音は頭がよくて、可愛くて、でもカッコよくて。
きっと、心音の心の覗き見は失敗すると思う。
でも、もし成功したら……男の子に見られるのは嫌。
女の子ならまだ許せる。……許せる? ……たぶん我慢できる! なんとか我慢する。
独占欲だね。醜いね。
それにね。
私がマネするためにも同じくらいの女の子がいいと思うんだ。
「最後に、九条さんは心音に心を弄られたことがあるってこと! これから私も弄るからね。もし心音が九条さんの心を覗いても昔の影響だって勘違いしてくれるかも」
心音には全部お見通しかもね。
でも、出来ることは全部やってやるんだ!
「――――だから、九条さんがピッタシ! 協力してくれるかな? いいともー!」
心を覗けば、九条さんも特別な力を求めてるのがわかる。
だから、この最低最悪な力をプレゼントだ!
「よ~し、集中するぞ~!」
いつものように心の瞳から、ぬるりと瞳の手が伸びる。
その瞳は傷だらけ。ひびが走って、泣いているみたい。
涙なんて出ないくせに、悲しいふり。卑しいね。
心の瞳のスキマに瞳の手がスルりと入り込んで、心に触れる。
ぐにゅっ、ぐにゅっ――形を崩す。
要らない感情を削ぎ落として、雑音を切り捨てて、集中だけを増幅させる。
ドクンドクンと、心臓が刻むリズムさえも計算に組み込んで、頭の中が一色に染まるまで、ひたすらコネコネ。
指先が震える。
視界がやけにクリアになる。
呼吸は浅く、音は遠ざかる。
机も椅子も、昼食の匂いも、水底に沈むみたいに輪郭を失う。
世界に私は一人。誰とも交わることができない。そんな現実をどこかで感じた。
「……始めるね」
二つの瞳の手で、自分の心の瞳を鷲掴みにする。
そして、両側から力を込める。
ぐいッ――形が歪む。
ぐいッ――ひびが裂ける音。
ぐいッ――裂け目から引き剝がされる。
――――パキン。真っ二つに割れた。
瞬間、視界の端が白くかすみ、息を吸うだけで肺が痛む。
指先に力が入らず、体を支えている感覚すら曖昧になる。
まるで、自分の中の何かを根こそぎ引きちぎられたように、全身が空っぽになっていく。
……それがどうした。もとより私は空っぽだ。
何も問題ない。
感覚がじわりと戻ってくる。
割れた片方は、まだ私の心の瞳として機能していた。
もう片方は――ちぎれたばかりの生々しい肉片のように、瞳の手に握られている。
そいつは半分だけになった瞳を閉じていた。
「バイバイ」
瞳の片割れを九条さんの心を覆うように差し出す。
さらに別の瞳の手で、自分の心の一部をちぎり取る。
それを柔らかくほぐし、繊維を細く引き延ばす。
まるで生きた糸のように形を変えていく。
震える心の糸を掴み、欠片の裏へと通し――九条さんの心と半分の心の瞳を、ゆっくり縫い合わせていく。
過去に経験したことがあるかのように、次にやるべきことが自然に浮かぶ。
まるで正解を知っているかのようだ。間違いなく成功する。
縫い目が増えるたびに、九条さんの心がひくりと痙攣する。
異物と未知の感覚で、世界が歪むような気持ち悪さを体験しているようだ。
もう終わるからね。
最後の糸を引き締めた瞬間、片割れの瞳が脈を打った。
ゆっくりと半分だけの瞳が開く。
その鼓動は私と全く同じように感じられた。
(これは、何だ……?)
青ざめた表情で、机に体を預ける九条さん。
心を覗くと、みんなの心が視えているようだった。成功だ。
……ふぃ~。
これで、九条さんも読心少女だね。
あとは心の瞳が馴染むのを待つだけ! 時間が経てばきっと元の形に戻るはずだ。
私の心の瞳だって、放っておいたら傷が治ってたしね!
おっと、いけない!
それだと九条さんの心が覗けなくなっちゃうよ!
今は不完全な形で心が駄々洩れしてるけど、きちんとした形になったら、心音みたいに私の読心能力が効かなくなっちゃう。
だから、ちょっとだけ細工しておかなきゃ。
私だけが入れるスキマ。
私が干渉しても違和感を抱かないように、心をちょいっと弄っておこう。
……ん~、おっけ~! オペ完了だ!
心の名医の誕生だ! 誰も救えない無能な医師だけどね。
九条さん! これから色々と教えてあげるからね!
一緒に頑張ろうね! ふぁいと~お~!
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