その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「お邪魔しま~す~!」
ここは九条さんのお部屋。シンプルでカッコいいね。
九条さんは読心能力に目覚めた後、気分が悪いって早退しちゃった。だから私が付き添って来たのだ。
(なんだよ、これ……)
制服のままベッドに倒れ込む九条さん。
フカフカで気持ちよさそうだな。よし、私も隣に座っちゃえ。
ぽすん!
こんなに近くにいるのに、九条さんは気づいていない。
(聴こえてるのは……、心の声? ……それだと、視えてるグロいのは心?)
正解! さすが九条さん。飲み込みが早いね。
(……いや、そんなわけないか。……ダメだ。少しだけ寝よう……。うるさいな……)
だよね! 心ってうるさいもん。わかるわかる!
でも、これからもっと騒がしくなるよ。心の瞳が馴染めば、もっと遠くまで聴こえて、視えるようになるんだから。
だから、今だけはぐっすりとお休み!
九条さんの意識が遠のくのと一緒に、半壊した心の瞳もウトウトと目を閉じていった。
あれ? 九条さんのは眠るんだ。その間は読心能力も使えなくなってるのかな?
心音の心の瞳も、こんなふうに眠ってくれればいいのになぁ。
■
(……マジか。治ってない……)
おはよう! よく眠れた?
(ヤバいかも……)
うん。そうだよね。読心能力なんて欲しくないよね。
(……何か近づいてくる? 母さん?)
コンコン、とドアがノックされる。
「玲、帰ってきてるの? 開けるよ?」
大正解! お買い物から帰ってきたママだよ。
「やっぱり帰ってきてたの。玲、学校は?」
「あー、気分悪くて帰ってきた」
「そうなの、大丈夫? 熱は測った?」
「まだ。……熱って感じじゃないけど」
九条さんのママが心配する気持ちが伝わってくる。
仲良しなんだね!
(これは熱より重症かも……。待てよ……)
おっ、九条さん。読心能力を試す気だね。勇敢だなぁ。
「母さん、どこに買い物行ってた?」
「えっと――」
「駅前のスーパーで卵と牛乳。……それから、服屋にも寄った? 気に入った服があったけど、サイズが合わなくて諦めた……」
「……なんで、それを知ってるの? もしかして、仮病? 学校サボってた?」
「マジか……」
九条さんの目が見開かれる。眠気なんて吹っ飛んだね。
読心能力が本物だってわかったかな。
「マジかじゃない。……結局、気分悪いってのは嘘なの? って、何その態度?」
おっと、九条さんママが怒り始めちゃった。
雑に心を覗くから、なんとなくイライラさせちゃうんだ。
心を覗くときは、バレないように。――これが読心能力の鉄則。
ずっと私が気づけなかったこと。
でも大丈夫! 私が全部教えてあげる。
読心能力の上手な使い方。九条さんなら、きっとすぐに使いこなせる。
私の瞳の手が九条さんの心に触れる。
そして、これまで私が積み重ねてきた読心能力の扱い方だけを流し込んだ。
ずっと、みんなの真似をしてきた私。それの逆だね。
記憶は流さず、経験や技術だけを転写する。
記憶まで流れたら、私が心音や九条さんにバレちゃうから――集中しなきゃ。
「うっ……!」
「玲!?」
九条さんの肩がびくっと揺れ、口を押さえる。
気持ち悪い? ごめんね。今日はこれくらいにしておこうか。
一度にたくさん情報を流し込むと、負担も大きいみたい。
それなら、何回にも分けて教えてあげよう!
九条さん自身の力で成長していると思えるように。そして、私を超える読心少女になれるように。
「ごめんね」
あれ……? 「一緒に頑張ろう!」って言おうとしたのに。変なの。
■
「選んだカードは、ハートの4であってる?」
学校の教室。
九条さんは友達にマジックを披露するフリをしながら読心能力を検証をしていた。
私の毎日も大忙し。
心音のお見舞いと九条さんに読心能力を教える日々を繰り返しだ。
九条さんは読心能力を気に入ってくれたみたい。
始めは、スマホで必死に読心能力について調べていた。
次に、色々な人で読心能力の検証を始めたよ。
そこに私の技術も混ぜて渡してあげたから、九条さんは急激に上達した。すごいすごい!
さらに、心の瞳も形を取り戻し始めている。
半分こにしたはずなのに、いつの間にか球体を再生し、新しい瞳を生み出していた。
残るのは、ひび割れやささくれを修復することだけ。私と同じだね。
そのぶん、読心能力の届く範囲も広がった。そのせいで九条さんは寝不足だ。
「あれ? 九条って甘いもの嫌いじゃなかった?」
「あぁ。でも最近、急に好きになったんだよ」
あっ、九条さんも甘いもの好きになったんだ! 私と同じだね。
……もしかして、私の心をおすそ分けした影響かな? 心が混ざり合って、私の好き嫌いとか価値観に染められてる?
大変だ! ゴミが混ざっちゃった! ……ごめんね。次は気をつけるね。
一応、「感性の伝播」として覚えておこう。
こほん。それじゃあ、今日の本題に進もうか!
読心能力の基本的な使い方はマスターできたみたいだから、次のステップに進もう。
瞳の手を、九条さんの心の瞳にある秘密のスキマにスルりと入り込ませた。
というわけで、九条さんの心に到着!
ぐにゃり、と瞳の手を通じて感覚の束を押し込む。
九条さんの背筋がぎゅっと固まり、眉間に深いしわが寄る。
そのまま息を詰めたように喉が動き、顔色がみるみる蒼白になる。
「……うっぷ……おぇえっ……!」
うわわ、大変だ! 九条さんが吐いちゃった!
ごめんね。いつもより今日はハードな内容だったよね。
――でも、無意識に能力を使ったね。
(マジか……。まさか、私が誰も吐いたことに気がついていない……? 私の読心能力は、心を読めるだけじゃないのか……?)
苦しかったかもしれないけど種まきは終わったよ。
これから沢山、読心能力の使い方のアイデアが思いつくはずだ。
だから、顔を洗ってくるといいよ! その間に私が掃除しておくからね! ゴミ箱の本領発揮だ!!!
■
その日の放課後、いつも通り心音のお見舞いに行くと――――
「おはようございます。カナミさん」
「えっ……」
思わず足が止まった。
ここ数日眠り続けていたはずの心音が、ベッドの上で上体を起こし、まっすぐこちらを見ていた。
「よく眠りました。ここまでぐっすりは久しぶりですね」
「……本当に、心音?」
言葉がこぼれた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられ、私は自然とベッドへ近づいていた。
「はい、正真正銘の心音ですよ――っと」
気づけば、勢いのまま抱きしめていた。
小さくて冷たい体が、腕の中でふわりと揺れる。
「……よかった。本当に……」
「心配をかけたみたいですね。ですが、この通り、私は不死身の美少女ですから。のんびりと目覚めるのを待ってくれれば嬉しいです」
「…………そんなの、待てるわけないじゃん」
「そうでしたね。毎日、お見舞いに来てくれたんですよね。ありがとうございます。これはたくさんお礼をしなければいけませんね。退院したら期待していてください」
「……病院、出られるの?」
「はい。今はお母さんがお医者さんと話しているところですが、体は元気なようです。お昼寝しすぎて筋肉まで寝ちゃったので、1〜2週間ほどリハビリしてから退院になりそうです」
「そうなんだ。よかった……」
「いや~、『どうして元気になるんだろう』ってお医者さんも首をかしげていました。まさに生命の神秘ですね。きっとこのミステリアスな私の魅力が奇跡を起こしているのでしょう」
本当に、いつも通りの心音だ。
よかった。よかった。本当に、よかった。
もう目覚めないかもって。
――――そうだ。今回は目覚めたけど、次は眠ったままかもしれないんだ。
気がつけば、私の心をコネコネしていた。
手癖みたいだね。
最近気づいたことだけど、自分の心の瞳だったらスキマから入る必要はないみたいなんだけどね。内側からも瞳の手を伸ばせるみたい。
ま、難しすぎて上手く扱えないから、今日もスキマから瞳の手を入れるのだ。
よし。心の調整もバッチリ!
心音が起きてビックリ。それで頭からポンッと飛んじゃったけど、また眠ってしまうかもしれないんだ。だから、急いで心を覗かないとね。
――――その後は心音と楽しくお喋りしながら、私はずっと心音の心を覗く方法を考えていた。
楽しい時間はあっという間。すぐに帰らなければならない時間になっちゃった。
「カナミさん、サヨナラです」
「うん、バイバイ!」
……あれ? 心音と何を話したんだっけ?
思い出せない。どうしても。
もう。物忘れの多い、ポンコツ頭め。
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