その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
次の日の学校。
授業の途中、心音は「保健室で休憩したいのです」と先生に告げて、保健室へ向かっていった。
まだ本調子じゃないのかな……心配だなぁ。
でも、保健室には心音しかいない。それじゃあ、読心能力で様子を確認することができないよ!
しかも、九条さんも今日は学校に来ていないみたい。心の調整をミスったのかな。こっちの様子も確認できなくて暇だ。
う~ん、暇だ~。心配だ~。
……よし、心音の様子を見に行こうっと! そうと決まれば行動だ!
私は国語の教科書をパタンと閉じて、手を挙げた。ハイハイハイ!
「先生、ちょっと頭がクラクラするので保健室行ってもいいですか?」
――――らんらんらん!
やったね。あっさり許可が出た!
あっ! 保健室に向かって階段を降りかけたところで、バッグを持った九条さんの姿を見つけた。
学校来たんだ! よかった~。
でも、なんだかコソコソしてる。何を見てるんだろう?
九条さんの視覚を共有すると……心音の姿が映った。
あれ? 心音は何してるんだろう。
(……色葉は何をしてるんだ?)
九条さんも同じことを考えているみたい。気が合うね。いぇ~い!
もしかして、心音にアタックするつもりかな?
なら一緒に追いかけよう。もっとも、九条さんには私の姿は視えてないけどね。
九条さんと同じように物陰からコッソリ覗くと、心音は職員室に入っていった。
そこで職員室にいる先生の視覚を共有してみたけど、心音の姿は確認できない。
これは……、認識遮断を使っているね!
……それにしても何をしてるんだろう?
九条さんもわかっていないみたいだ。なら、一緒に見守ろっか。
そっと九条さんの隣に移動して、職員室の扉を見つめる。
やがて心音が出てきた。その瞬間、ふっとこちらを見た。
やばっ、バレる!? 隠れないと!
その瞬間、同じように身を引っ込めようとした九条さんが私にぶつかってきた。
反動で、九条さんの体が物陰から飛び出しそうになる。
「っとっと……!」
私はとっさに手を伸ばし、腰のあたりをそっと押し戻した。
セ、セーフ! あ、危なかった~。
九条さんには私の姿が視えていないんだから、ぶつかっちゃうのは当然だね。
私がノロマだから避けきれなかったよ。ごめんね。
次からは気をつけるよ!
――それから心音の後を一緒につけていると、
やがて心音は、私たちのクラスじゃない二階の教室に入っていった。
何をしているんだろう?
(……それは、私を探しているんだ)
なるほど! 九条さん、頭いい!
その後、九条さんは色々と考えながら、どっか行っちゃった。
追いかけたほうがいいのかな?
……でも、やっぱり心音と話したい。
昨日、反省会したし、九条さんならいい考えを思いついてくれるよね!
じゃあ、追わなくていいや。
心音が何をしていたのかも分かったし、保健室で待ってよ。
ん? こんなテキトーでいいんだっけ?
……まぁいっか!
…………よかったよね?
■
それから、保健室に戻ってきた心音と一緒に授業をサボり、午後は適当に受け流していたら、あっという間に放課後だ。
そういえば九条さんとは、あれから会ってないな~。お家に帰ったのかな?
心音と一緒に帰った後、ちょっと寄ってみよっと。
そんなことを考えながら、心音と並んで校門を出る。
私たちは皆と逆方向へ歩き、横断歩道で信号待ち。
――そのとき。
こちらに向かってスピードを上げるトラックが目に入った。
えっ……!?
心音への強い敵意が流れ込んでくる。
避けられない……それでも、心音だけは――!
「心音!」
私は必死に心を抱きしめた。
……だがトラックは直前で急に進路を逸らし、私たちの横を風のように駆け抜けていった。
心音の読心能力だ。
また、守られちゃったんだね。
しかも私たちだけじゃない。
周りの通行人も車も、誰一人傷つかないように、一瞬で全てを操っていた。
……本当に、私は無能だなぁ。
■
「九条さん! あれはどういうことかな!」
心音を家まで送り届けたあと、一直線に九条さんの部屋まで飛んできた。
今日の私はカンカンだ!
ベッドにうつ伏せで倒れ込む九条さん。その背中をペシペシ叩く手にも、力が入る。
どうしてそんなに攻撃的なの? 暴力的すぎるよ!
……あっ、もしかして私のせい? 私が心音への対抗心を煽ったからかな。
でも、心音を傷つけたいとは思ってないんだけどな。
私が下手っぴで心の調整に失敗してるから、九条さんもうまく動けないんだ。
(なんで、あんなことをしたんだ。色葉だけじゃなかった。あれは完全にやりすぎだ……)
枕を抱きしめる腕に、ぎゅっと力がこもる。
九条さんの心を覗けば、今日の事を反省していた。
そうだよね。ごめんね。
きっと、私がおかしくしちゃったんだ。どこに行っても役立たずだなぁ、私。
本当に反省が必要なのは私だ。
もう二度とあんなことにならないように九条さんの心を調整しておくよ!
――誰も傷つけないこと。
――心音を傷つけないこと。
これを九条さんの無意識に刻みつけておくね。
あっ! あと、心音にアタックするのは学校限定にしておこう!
私がいないときにアタックされると色々と困るからね。学校なら絶対に心音と一緒だ!
これは初めに調整しておく必要があったね。考えが足りないね。
あと学校にも行きたくなるように後押ししておこう。
これなら、きっと大丈夫だ!
……だよね?
もっと考えるべきかな?
……別にいっか。これぐらい調整しておけば大丈夫に決まっているよ。
……本当かなぁ?
なんだか考えが上手くまとまらない。頭のネジが外れちゃったのかも。
なーんて、元から外れてたんだった。
じゃあ代わりに、今日も自分の心にネジを巻いておこう。
ネジネジ……。
明日も一日頑張るぞ!
■
ピンポーン!
次の日の朝。いつものように心音を迎えに来て、家のインターホンを鳴らす。
一緒に学校に行こう~!
でも、出迎えてくれたのは心音ママだけだった。
また心音、具合が悪いみたい。
心音の様子を見に行くと、「それでは、カナミさんも一緒にお休みしませんか?」ってお泊り会したい、一日中一緒にいてほしいっておねだりされちゃった!
なにそれ! 楽しそう! やりたい!
……でも、本当に大丈夫かな。心音、まだ調子悪そうなのに。
それに、九条さんの様子を見に行けなくなる。
いや、大丈夫!
昨日、ちゃんと調整をしたはずだし、きっと今日は心の整理の時間になるはずだ!
よ~し。そうと決まれば楽しむぞ!
――本当に、これでいいのかな?
気づけば、また自分の心をコネコネいじっていた。
……また? いつも、だっけ? あれ、いつから?
思い出せない。最近の記憶もぼんやりしてる。
でも、まあいいや。どうせ嫌なことばかりだし。
悪いことは忘れて、楽しい今日を過ごそう!
今日は心音とのお泊り会だ!
■
楽しい一日はあっという間に過ぎ――気づけば翌朝だ。
心音はまだ本調子じゃないけれど、どうしても学校に行きたいと譲らない。
心音ママは心配していたけれど、渋々許してくれた。
大丈夫。心音が倒れそうなら私が助けるんだ。私が心音の安心になるんだ。
そうして学校へ。でも、結局心音はバタンキューで保健室で休憩中。
そこで、心音から奇妙なお願いをされた。
きっと、これは読心少女である九条さんを見つけるための作戦だ。
心音は私を信頼して任せてくれたかな? 断ったら私のことを怪しむのかな?
心音のお願いを断るなんて選択肢はないから、いいよって言うのは決まっているんだけどね。
でも、九条さんが見つかったら困るから、コッソリと見逃してあげよう。
――――そしてお昼休み。
心音が感覚共有で誰かから私を視てるかもしれないから自由に動けなかったけど、読心能力を使えば九条さんはお休みだってことがわかった。
よかった。これで見つけることはないね。
それじゃ心音のお願いを叶えよう。
心音のお願い通りに校門に向かって歩く。
その時、校門から走ってきた男の子とすれ違う。九条さんに操られた心が視えた。
また何か仕掛けるつもりだ。でも、男子は心音を傷つけるような感じの心ではなかったから安心だ。
あっ! そしたら、九条さんは認識遮断で隠れているだけで学校にいるのかも!
もしかしたら、今日こそ何か掴めるかも!
見に行かなきゃ!
すぐにでも来た道を振り返って校舎に戻りたかった。
でも、それをしたら、私が心を読んだことを疑われてしまう。
それなら、心音のお願い事を叶える形で見に行こう。
学校をぐるりと回って裏門へ。
裏門、鍵が付いているよ……。
でも、そんなこと関係ないね!
裏門に手をかけてよじ登り、中に入る。
そういえば今、どんな感じなんだろう? さっきの男の子の心に集中する。
……えっ?
そこには、九条さんによって自殺に追い込まれている心音がいた。
なんで!? なんで!? なんで!?
九条さんには、心音を傷つけないように言ったよ!
……もしかして、それって心音自身が傷をつけることは含まない?
解釈違いだ。また失敗した。
早く心音を助けないと!
校舎に向かって走る。
心音のとこに行かないと!
……ダメだ。それじゃあ心音ママは助けられない。それだと心音が悲しむよ。
九条さんのところに行って止めないと。
でも、どうやって?
落ち着け……、落ち着け……。
ぐにゃり。
私の心を握って形を変える。
……ふぅ。大丈夫だ。落ち着いた。
男子の記憶を辿ると、心音とのやり取りから、九条さんが学校内にいることがわかった。
さすが心音。そこまで見抜いているなんて。
後は私が見つけるだけだ。
九条さんは認識遮断を使って学校にいるんだ。
それに、心の瞳のせいで遠くから心を読めなくて、どこにいるか見つからないよ。
校舎に辿り着いたはいいけど、どこから探せばいいのだろう。
まずは一階を回る。だけど、学校全体を探すのは大変だ。
そのとき、男子の心から「あなたは校舎の二階にいますよね」という心音の声が聞こえた。
昼放送が流れるタイミングで、場所を特定したらしい。
それなら見つけられる!
校舎の階段を上がって二階へ。まずは九条さんの教室から!
「みーーーつけた!」
九条さんの教室――いない。
次の教室――いない。
さらに次――いない。
そして――
「みーーーつけた!」
逃げようとしていた九条さんと目が合った。
その心を覗くと、心音ママを助ける方法もちゃんと用意してある。
……よかった。間に合ったよ。
それじゃあ、あとは捕まえればいいのかな?
さすがに、九条さんを見逃すことはできないよね。
捕まえて、心音にお任せするしかないか。
そのとき。
九条さんがナイフを抜き、こちらに突きつけてきた。
え……!? 誰も傷つけないように調整したはずなのに……。
追い詰められたときは別、ってことか。
やっぱり心は変わるものなんだね。勉強になるよ。
私が変に心を弄ったから、九条さんをおかしくしてしまったんだよね。ごめんね。
でも、もう引き返すことはできないんだ。
ナイフなんて怖くない。そんなものへの恐怖は、ずっと昔にどこかで落としてきちゃった。
護身術も武道も、みんなの心を覗いて覚えてある。
それに、九条さんの心は私に丸見えだ。動きなんて、すべて先読みできる。
私はそのまま九条さんを押さえ込んだ。
そのあと、心音がやってきた。
これで全部解決だ。よかった。よかった。
――そう思っていたら、心音が自分のお腹にナイフを突き刺した。
えっ?
クラリと体が揺れ、制服が赤く染まっていく。
血が溢れる。赤。赤。
これはなに?
「心音! 心音! 心音!」
心音ママの叫び声が聴こえる。
胸の奥で何かが軋む。
息が詰まり、喉が焼けつき、声にならない。
代わりに胃の奥から吐き気が込み上げてくる。
わかってる。
全部、私のせいだ。
九条さんをおかしくしたのも。
心音を危ない目にあわせたのも。
全部、私だ……!
心音の瞳が──私を見ていた。
ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。
いつもみたいに、心を握って、形を変えて、丸く削って、軽くして、胸の奥に押し戻す。
……この気持ちが消えない。
何度も、何度も同じ場所をいじる。
一瞬軽くなっても、すぐに重さが這い上がってくる。
体が動かない。
また私は、心音が倒れているのに――何もできないのか。
嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!!!
……消えてよ。
自分の心を掴み、思い切り握り潰す。
形を壊す。輪郭を砕く。
奥まで指を突っ込み、引き裂いて捨てる。
こんな心なんて消えてしまえ!!!
こんな感情なんて消えてしまえ!!!
私なんて消えてしまえ!!!
そうやって、心をグチャグチャにしたら。
────全部、軽くなったよ!
胸が軽い。軽い。
目の前の赤色も絵具みたいで綺麗だな~。
おっと、いけない。
心音を助けなきゃ。どうすればいいかな~。
そうだ。助けを呼ばなきゃ。
でも周囲の人は心音に操られ、教室の異常に気づかない。困ったな~。
そういうときは、救急車を呼べばいいのか!
私はスマホ持っていないから、誰かに借りなきゃ。
といっても、教室には九条さんしかいない。
「九条さん、スマホ貸して」
そしたら、九条さんが使っていたスマホを貸してくれた。
たしか、これ。機械音声に変わっちゃうんだよね。いたずら電話だって思われたら大変だ。
まぁ、解除すればいいか。貸してくれてありがと!
パスワード解除して、アプリを停止して。電話から、ピポパポっと!
「……もしもし?」
それでね。心音の出血を防ぐようにして抑えながら救急車の到着を待ったよ。
そしたら、すぐに駆けつけてくれた。
救急隊員さんが、心音を担架に乗せて運んでいる。
なぜか私には気づかない。心音の認識遮断?
でも、これで助かる。よかったね!
そのとき。
――――ピシリ。
え?
それは、心音の心の瞳から漏れた音。
僅かなひび割れ。ウトウトする心の瞳。
……見つけたよ。心音の心を覗く方法。
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