その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
心音と一緒に学校に行って、気がつけば放課後だ。
気づけば教室には私と心音だけ。
心音が二人きりの教室で話したいっていうから、お喋りしてみんなが帰るまで待ってたの。
きっと、心音が読心少女だって打ち明けてくれるんだろう。それが終わったら、一緒にお出かけしようって言うんだ!
だって、ここだと学校に残ってる他の心が邪魔だからね。
本当に二人きりだけの場所で、心音の心を覗かせてもらうの。
早く心音の心を知りたいよ! 待ちきれない!
そう思って心音の言葉を待っていると――
「私には心が読めるのです。カナミさんとお揃いですね――――」
うんうん。そうだね。…………うん?
……あれ? もしかして、私が読心少女だってバレてる?
それはダメ! 私が読心少女だってのは秘密なんだ!
言い訳しなきゃ……!
頭は真っ白なのに、口だけはスラスラ動く。
なんとか、なんとか隠さなきゃ!
「――――私の大親友であったこと、それがカナミさんの失敗です」
そう思って頑張ったけど、ダメだったね。
読心能力のことバレちゃった。
ちょっとの言い訳じゃ誤魔化せそうにない。
ちぇ~、もう隠せないか。
「うん、そうだよ! 私もね、生まれたときから心が読めるんだ。ココネと一緒だよ!」
それなら、せめて最後に楽しく答え合わせしよっか。
――――そして、心音と言葉を交わしたよ。
「ココネを騙すつもりだったかもしれないよ。ほら、自作自演ってやつ?」
「そうかもしれません。それでも、私は信じているのですよ」
嘘かもしれないけど、こんな私のことを信じてるって言ってくれた。嬉しい。
そうだ。私はずっと心音を守るんだ。
――――また、一つ言葉を交わしたよ。
「私は皆さんの心が大好きです。ですから、心を歪めないで欲しいのです」
いいよ!
心音の心の覗き方もわかったから、もう何かする必要ないもんね。
……でも、読心少女だってバレたのはダメだったな。
きっと、この後のお出かけもキャンセルだね。
しょうがない、悪いのは私なんだから!
それなら――ここで心音の心を覗くことにしよっと!
学校にはまだたくさんの心が残ってる。
でも大丈夫、目を瞑ることにするよ。逃げるのは、得意なんだから。
「それじゃあ、まずは目を瞑ってくれるかな!」
「はい。もちろんです」
そして、心音におねだりして目を閉じてもらうことに成功した。
真っ白でふわりとした髪、小さな体、透き通るような肌。
長いまつ毛――そして、閉じた瞼の奥に隠された吸い込まれそうな瞳。
全部ぜ~んぶ、誰もが振り向くほど可愛い。
はぁ~。いつまでだって見てられる。
っていけない、いけない!
ついに来たんだよ! 心音の心を見る時が!
心臓バクバクする。体が熱い。ドキドキでワクワクが止まらない。
それじゃ、まずはナイフを一本用意っと。
スクールバッグを開けて。じゃじゃ~ん、ナイフだ~!
これで心の瞳にスキマを作るんだ!
ナイフを持って一歩ずつ心音に近づく。
心が読めば、すべてがわかる。でも、その前に一つだけ聞いてみたくなった。
なんで私なんかと友達になってくれたのかって。
そしたらね、「ずっと心が読めなくて。その謎を知りたかった」だって!
なるほど!
心音が私と友達になってくれたのは私の読心能力のおかげだったんだ。
ずっと隠してきたのは正解だったんだ。
初めて――この力を、褒めてあげてもいいかなって思った。
でも、それなら。
もうダメだね。だって、もう全部バレちゃったんだから。
でも心音は「大切な親友に変わりません」と言ってくれた。本当かな。
その答え合わせをしたいんだ。
私が心音にとっての特別なのかって。
私にとって心音は特別だからね。心音も私を特別に思ってくれてるといいな。
あっ、そういえば!
私の気持ちって、まだちゃんと言葉にしてなかったかも。
えへへ。それなら――お互いに答え合わせしよっか。
「心音大好きだよ」
心音の背中に片手を回し、引き寄せるようにしながら――ナイフを心臓に突き刺した。
心の瞳をめがけて。ズブリ、と深く。
これなら、きっと心の瞳に隙が生まれるよね!
「あ、れ――?」
ゆっくりと目を開いた心音と視線が交わる。
あぁ、やっぱり可愛いなぁ~。ギュウ~って抱きしめたい!
でも、その邪魔になるナイフがまだ刺さってる。
うん、いらないや! 引き抜いちゃえ! ポイッと!
よし、ギュウ~~っと!
膝立ちになって心音を強く抱きしめる。あったかくて、気持ちいい。
心音から溢れ出して私にまとわりつく血さえも、一緒になれたみたいで気持ちいいな!
ゆっくりと、心音から力が抜けていく。寄りかかる身体がどんどん重くなる。
あっ、でも重いなんて思わないよ! むしろ、軽すぎるくらいだ。
――――パキン。
心音の心の瞳にヒビが入った。
そして、ウトウトとゆっくりと目を閉じた。
待ちに待った時がきた! 心の瞳が眠った! 隙が生まれた!
私の瞳の手が、そのヒビをこじ開け、バリバリと砕く!
邪魔者はサヨナラだ!
――視えた! 心音の心だ!
ずっと、ずっと、ずっと! 視たくて、聴きたくて、知りたくて、感じたかった心音の心!
やった! やった! やった!
努力は報われるってやつだ!
どれどれ……あれ?
もっと綺麗で、透き通ってて、輝いていると思ったのに。
実際は、他の人たちと同じような形で音をしていた。
気持ち悪くて、醜くて、うるさくて――
「えへへ」
耳の奥に、やわらかくてザラつく音が響く。不協和音のささやき。
でも、それがたまらなくクセになる。
「えへへへへ」
ドロドロと濁った色が波のように揺れ、耳障りなざわめきが胸の奥に直接流れ込んでくる。
普通なら吐き気がするはずなのに、それが甘い匂いみたいに感じる。
「えへ……えへへ……」
――全部、大好きだ。
そのざらついた音も、濁った色も、全部抱きしめたい。
そうだったんだね。
気持ち悪いものなんて、最初からなかったんだ。
大切なのは、それを好きになれるかどうか。
そう!
どんな汚くても、どんなに腐っていても、全てが愛おしいんだから!!!
ずっと聴いていたい。ずっと視ていたい。
でも、音はどんどん小さくなっていく。色を失って、透明になっていく。
待って! もっと感じたい!
おかわり! アンコールをちょうだい!
「お~い、心音?」
心音の体を揺する。こうしたら音が溢れないかな?
でも、何も反応がない。私の力で揺れるだけだ。
音が遠ざかっていく。
心が視えなくなっていく。
私から、離れていく。
「しょ~がないな~。ぎゅ~!」
心音を強く抱きしめる。
どんな小さな音も逃さないように、見逃さないように。
……でも、音が聴こえなくなった。視えなくなった。何も感じなくなった。
終わっちゃった。
……はぁ~、楽しかったなぁ。ほんの一瞬だった!
また今度、心音に視せてもらおっと。
それじゃあ、一緒に帰ろっか!
「あれ?」
心音は私に寄り掛かったまま動かない。
心音を離して顔を覗き込む。
閉じたままの瞼。動かない唇。
心音は動かない。心を感じられない。
……あれ、なんだっけ?
――――思い出しちゃダメだ。
この光景に見覚えがあった。
心音がお腹を刺して、血が沢山出て。真っ赤で。
――――嫌なことは全部忘れちゃえばいいんだ。
だって、心音が死んじゃうと思ったから。
私のせいで。耐えきれなくて。
――――ツライことからは逃げてしまえばいいんだ。
そうだ。
それで、逃げたんだ。
ナイフが突き刺さった罪悪感から逃げた。
心音を刺すことに、何も感じなくなった。
心音が死ぬ恐怖から逃げた。
死ぬってことを考えられなくなった。
「あれ? コ、……コネ?」
熱くて仕方なかった体が、一気に冷めていく。
胸が締め付けられて、息が吸えない。
足元がぐらつく。
そうだ。
読心少女ってバレたなら、「心を読ませて」ってお願いすればよかったんだ。
でも私は心音に拒絶される不安から逃げた。
また心音を信じることができなかった。
「あぁ……、あぁ……!」
自分を騙した。みんなを騙した。
嫌なことから逃げ続けた。
いつの間にか何が本当かわからなくなった。
考えられなくなった。忘れてしまった。
忘れていた記憶が――忘れていた感情が――溢れ出す。
「いやだ……、いやだ……」
みんなを巻き込んでしまった。
ママを壊してしまった。
――そして、心音を殺してしまった。
どんなに強く抱きしめても、もう動かない。
「コ……コ、コネ……っ……ごめんね、ごめんね、ごめんね……」
私の心を握り潰した。叩いた。振った。混ぜた。引き裂いた。つなぎ直した。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
それでも、溢れ出した感情は止まらない。止まってくれない。
なんで。なんで。なんで。
「あぁぁぁぁぁああああぁああああ!!!!!」
わからない。わからない。わからない。
でも――嫌われ者の私にとって、確かなことが一つだけある。
――私は、生まれてくるべきじゃなかったんだ。
■
――ガチャガチャ。
ドアノブが回らない。鍵がかかっている。
何のドア? 学校の屋上のドアだ。
何でここにいるだろう。そうだ。逃げてきたのだ。
全部、置いてきて。
ドアノブから手を離す。ベッタリと血の跡が残った。
ドアが開かないから、その前の階段に座り込む。
何も考えたくなくて、体を小さく丸める。
グチャグチャに壊れて、原型すらわからなくなった私の心が視える。
もう、治し方なんてわからない。
それなのに、どうして頭がグルグルするんだろう。逃げるなってこと?
もう何も考えたくない。消えたい。
あぁ……ずっと前から、私は何も変わっていない。
中学の頃を思い出した。
誰にも見つからないように。
誰もいない場所を探して、屋上前の階段に座って隠れていたっけ。
でも――心音と出会った。
私を見つけて、連れ出してくれた。
……それが、全ての過ちだった。
その出会いこそが、私にとって最大の幸福で。
そして、ココネにとって最大の不幸だった。
ふと、制服の内ポケットが目に入る。
取り出したのは――心音からもらった『なんでもお願いを叶える券』。
そうだ、朝に仕舞ったんだ。
これを持つ資格なんてないのに。心音を裏切り続けた私には、友達と名乗る資格すらない。
心音は「私と過ごす時間は楽しい」って言ってくれた。
でも、それは間違いだ。私以外と過ごせば、もっと楽しい時間を送れたはずなんだ。
『なんでもお願いを叶える券』は、するりと手を離れ、階段の下へ落ちていく。
まるで心音が遠ざかっていくみたいで、私は目を伏せた。
――もう、取り返しがつかない。
私は、どうすればよかったんだろう。
誰か。誰か……。心音……。
「助けて……」
「カナミさん、見つけましたよ!」
――ありえない声が響いた。
私を呼んでくれる、大好きな声。
その声に導かれて顔を上げると――
「なん、で……?」
「それは、カナミさんに会いたかったからに決まっているじゃないですか」
そこには、血塗れの体で立つ心音。
ボロボロに砕けた心の瞳を抱え、その瞳と一緒に私を見上げていた。
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