その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第30話 成長が止まらない天才少女である私こと、色葉ココネはどんな手を使ってでもカナミさんを見つけ出します

 成長が止まらない天才少女である私こと、色葉ココネはどんな手を使ってでもカナミさんを見つけ出します。

 

 まず、学校に残っている全ての人の心を覗きます。

 

 放課後といえども、生徒、先生、用務員……と、まだ多くの人が校内に残っています。

 

 全員の心を覗き、記憶と視覚を共有しました。

 

 ……誰も、カナミさんを見ていません。

 それはそれで怪しい。もしかすると、認識遮断を使っているのかもしれません。

 

 私は教室から伸びる血の足跡を追い、廊下へ出ました。

 はっきりと血の跡が残っています。これだけ血でべったりならば、誰かが見かければすぐに気づくはずです。

 

 それなのに発見されていない。偶然かもしれませんが、カナミさん自身も、血の跡すらも認識遮断しているのかもしれません。

 

 ならば別の手を使いましょう。

 私は全員の心に命じました。

 

 

 

『スマートフォンで周囲を撮影しながら校内を探索してください』と。

 

 実物を認識から外しても、映像に映してしまえば確認できます。

 実際、九条さんも運転手に私だけの映像を見せるつもりが、自分の姿まで晒してしまったことがありましたね。

 

 もちろん、映像に映った姿も認識できないようにすれば対策できます。

 でも、それは映像を複数人にシェアすることで打ち破ることができるでしょう。

 

 認識遮断で見えなくなった部分は、それぞれ自分の知識や感覚で補完してしまう。

 ――そう、大事なのは「各自で補完する」という点なのです。

 

 同じ画像を全員同時に見たらどうなるでしょうか。

 たくさんの画像の中で、ただ一枚だけみんなの認識が食い違うものがあれば、それこそが認識遮断の証明になるのです。

 

 もちろん、この方法にも抜け道はあります。

 全ての画像に認識遮断を施してしまえばいいのです。そうすれば、どの画像が本命か見抜けなくなります。

 

 ですが、それはそれで構いません。認識遮断ができるほど、カナミさんが近くにいる証拠になりますから。

 

 本来なら、認識遮断の範囲外にいる人に映像を送る方法や、私に送ってもらうことで、それにも対応することができます。

 けれど、遠くに送れば後処理が面倒ですし、私もすべての映像を逐一チェックしている暇はありません。

 

 だからこの策は打ちません。ですが――それでも十分です。

 

 九条さんのときは、読心能力による心の操作が封じられていたので、この手は使えませんでした。

 ですが、今は違います。

 

 さぁ、みんなが普段から使っているSNSでグループチャットを作りましょう。そこに画像を投稿してシェアするのです。友達同士でなくても問題なし。心を通して直接、連絡先を教えてあげますから。

 

 

 

 結果を待ちながら、私は血の跡を追いかけます。

 しかし痕跡は次第に薄れ、やがて途切れ途切れに――。

 

 そして、階段の一段目に残った微かな血痕を最後に、完全に消えてしまいました。

 

 上の階にいるのでしょうか。あるいは、どこかで引き返したのか。

 それでも進むしかありません。

 

 一段一段と登って――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――あれ?

 

 気がつくと、目の前には床。

 全身に鈍く重い痛み。

 

 どうやら階段を踏み外して転げ落ちたようです。

 私としたことが、心の操作を誤るとは……珍しいこともあるのです。

 

 

 次は上手くやってみせましょう。

 心で体を動かし、立ち上がります。

 

 ポタポタと頭から血が滴りました。おや、まだまだ血液が残っていたようですね。

 これが血の気が多い美少女というやつでしょうか。

 

 

 

 

 

 さぁ、その美少女パワーを見せつけてあげましょう。

 再び階段を登り始め……しかし、途中でクラリとバランスを崩しました。

 

 

 後ろに倒れ、天井が遠ざかる。

 硬い床に叩きつけられる――ことはありませんでした。

 

 

 

「お前、何やってんだよ!?」

「……九条さん。待っていましたよ。ナイスキャッチです」

 

 私を受け止めていたのは、九条さんの腕でした。

 

 もちろん偶然ではありません。

 ある女の子を操り、九条さんをこちらへ向かわせるよう仕向けていたのです。 

 

 九条さんには教室に残ってもらう約束をしていましたが、心の瞳が健在のままでは遠くから操ることはできませんからね。

 

 その結果――とはいえ、タイミングが完璧だったのは間違いありません。

 

「そうじゃない! お前、この体――!」

 

 九条さんの心の瞳が視えました。

 そして私だけの秘密のスキマに瞳の手を伸ばし、心に触れます。

 

「なッ……!」

 

 ――そして、すべてを伝えました。

 書き換えた本当の記憶を。読心能力の使い方を。今の状況を。そして、私のお願いを。

 

「これで全部、伝わりましたか?」

「……マジか」

 

 九条さんは私を抱えていた腕をゆっくりほどき、一歩、二歩と距離を取ります。

 

「よかったです。どうやら伝わったようですね。私の知識や記憶を、誰かにそのまま共有するのは初めてでしたが……成功したようです。今日は初めて尽くしの日ですね」

「…………」

 

 九条さんの鋭い視線が、私を射抜きます。

 

「それでは九条さん。お願い事を、お任せしてもよろしいでしょうか」

「……お前、……頭おかしいのか?」

「あれ? どこか見落としがありましたか?」

「そうじゃない。なんで私に記憶を返す! この状況でなんで私に頼ろうとする!」

 

 信じられないものを見るように、私を見つめます。

 

「それは、おかしなことですか?」

「当たり前だろ。私はお前を殺そうとしたんだぞ。どう考えても間違ってる!」

「でも、これは九条さんにしか頼めないのです。九条さんだけが、私のお願いを叶えられるのです」

 

 九条さんの視線が揺れました。

 

「……なら、私を操ればいいだろ。お前なら、それができるはずだ」

「でも、私は自由な心が一番好きなのです。そして、九条さんなら私のお願いを叶えてくれる――そう信じています」

「なにを根拠に……。大して関わったこともないだろ」

「そうですね。でも、中学の頃からずっと一緒でしたし、私は九条さんの心を読み続けてきました。私のことが大好きで、つい悪戯しちゃうんですよね?」

「は……はぁ!? あれは、お前が勝手に作った記憶だろ!? ちゃんと私の心を読め! これぽっちも思ってないから!」

 

 九条さんは、心の瞳がある胸を抑え、ここを読めと訴えてきます。

 う~ん。読心しろと言われるのは初めての体験です。

 

「それに、九条さんとの仕掛け合い自体はワクワクしたのです」

「は?」

「私以外で初めて出会った読心能力者。その人が私に向けて強い感情をぶつけてくる。興味がそそられないわけがないでしょう?」

「……お前を殺そうとした。母親まで巻き込んでるんだぞ」

「もちろん。みんなの心に手をつけたことは許せません。でも、それだけです。……まぁ、今の状況だと私の方がずっと多くの心に手を伸ばしているので、強くは言えませんが。それ以外のことは、気にしていません」

「嘘だ」

「先ほど私の心を共有しましたよね。嘘だと思いますか?」

 

 九条さんと視線がぶつかる。

 

「私は九条さんの心を読んで知っています。私を殺そうとして、必死に私を理解しようとしたこと。きっと、読心少女としての私の一番の理解者は九条さんです」

「……でも、私はお前に負けた」

「それは違います。私は、大好きな心たちを操られた時点で負けでした。お母さんの心を守り切れなかったんです。それが負けじゃなくて、なんだというのですか?」

「…………」

「納得できませんか? では、一勝一敗でイーブンということにしておきましょう。今は横並び。次で決着をつければいいのです」

「………………そこまでして、私に頼る意味がわからない」

「あれ? 伝わりませんでしたか? 私の理解者で、ワクワクをくれて、心まで共有した仲で……同じ読心少女ですよ。これを友達と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょう」

 

 言うなら、殺し殺されそうになった喧嘩仲間ってとこですかね。

 果し合いの末、熱い友情を結ぶ。おぉう、なんという青春。

 

 

 

 

 

「…………呆れた。頭が愉快すぎて付き合ってられるか」

 

 九条さんは深いため息をつき、視線を逸らしました。

 

「……でも、お前の願い事は叶えてやる。私にとっても都合がいいしな」

 

 そう言って、窓の外へ一瞥を投げ、ぼそりと続けます。

 

「それと……私は窓から外を見ていた。だが、音無が正門を出ていくのは見ていない。……これも聞きたくて読んだんだろ」

「ありがとうございます。さすが私の理解者。話が早いです!」

 

 九条さんは読心能力を使えなくなっていましたが、失ったわけではありません。

 そのため、認識遮断は効かないので、カナミさんが正門から出ていないことが確定しました。

 

「そうなると、学校を出るには裏門を使うしかありませんが、そちらもチェック済みです」

 

 裏門には鍵がかかっており、出るなら手をかけてよじ登るしかない。

 しかし制服は私の血でべっとり。もし裏門から出たのなら、血の跡が残るはずです。

 

 グラウンド近くにいた男子に確認してもらいましたが、どこにも汚れはありませんでした。

 これで、カナミさんが学校内にいることは確実です。

 

 

 

「おかげで学校内にいるとわかりました。そして、九条さんとお喋りしている間に、みんなの協力でほとんどの場所は調べ尽くしました。残る怪しいポイントは数か所。そして最も怪しいのが、この階段の最上階――屋上ですね」

 

 カナミさんと出会った頃も、屋上へ続く階段で見つけたことがありました。

 あのときも、色んな人の心を覗いて、調べ回ったものです。

 

 きっと、この先にカナミさんはいる。

 なんとなく予感がしていたので、あえて最後まで調べさせずに残しておいたのです。

 

 ならば――登り切るだけ。

 

「それでは九条さん。あとはお任せしました」

 

 私は九条さんを背に、一段、一段と階段を登ります。

 

「なぁ……」

 

 中腹に差しかかったところで、九条さんに声をかけられました。

 

「音無のせいで、お前の体はそうなってるんだろ。そこまでして行く必要があるのか? 寄り道してる場合じゃないだろ」

「私の心配をしてくれるなんて、優しいですね」

「そうじゃない! さすがに目の前で死なれたら寝覚めが悪いってだけで……」

「ふふふ。隠さなくてもいいのですよ。……でも、今行かなくてはならないのです」

 

 

 

 

 九条さんには悪いですが、ここで退くことはできません。

 

「マジで死ぬぞ……」

「えぇ、そうですね。正直に言えば血はダラダラで足りていませんし、さっき階段から落ちたときに、また追加で壊れちゃったようです」

 

 でも、一つだけ変わらない真実があります。

 ずっと昔から。そして未来永劫変わらないこと。

 

「――――でも! どんな格好になったって、私は超絶可愛いのです!」

「……は?」

「この程度の傷は私の可愛さを際立たせるためのファッションのようなもの。この美少女ボディさえあれば、何度でも奇跡を起こせるのです!」

 

 九条さんは、まん丸な目で私を見ていました。

 

「はぁ~~~」

 

 大きなため息。

 そして九条さんは私に向かって階段を上がってくると――

 

「じっとしてろよ」

「おっと!」

 

 ひょいと抱き上げられました。

 そのまま、私の代わりに階段を登り始めます。

 

「私の血で制服が汚れてしまいますよ」

「お前を受け止めた時点でもう汚れてる」

「そうでしたね」

「悪いと思うなら、あとでクリーニング代払え」

「わかりました。色を付けてお返しします」

 

 

 一段、一段と確実に登っていく。

 

 

「……それとな」

「はい?」

「お前の頭がおかしくなってるのはマジだからな」

「はて?」

「屋上にいるってわかってるなら、階段を使う必要ないだろ。……私のときみたいにエレベーターを使えばいい」

「……たしかにそうですね。あれ? それなら何で九条さんもエレベーター使わないんですか?」

「…………」

 

 

 ――そうして八階へとたどり着きました。

 

 

「ここまででいいです。ありがとうございました。この先は私一人で行きます」

「元々、そのつもり」

 

 九条さんがゆっくりと降ろしてくれる。少しばかり久しぶりの地面です。

 

「それじゃあ行ってきます。あとはお任せしました」

「……あとで私に能力を返したこと、後悔するなよ」

「後悔なんてしません。九条さんが私と同じ読心少女でよかったと思っています」

「あぁ、そう」

 

 九条さんを残し、私は屋上へと続く最後の階段を登り始めました。

 ゆっくりと、ゆっくりと――一段ずつ。

 

 大好きな心と戯れているだけなのに、なぜこんなにも疲れるのでしょう。

 体を動かす精度が落ちているのを感じます。

 

 ですが、問題ありません。

 もう少しで――辿り着けるのですから。

 

 そして、階段折り返しの踊り場にたどり着いた、そのとき。

 

 ひらりと、一枚の紙が足元に落ちてきました。

 それは……私がカナミさんに渡すはずだった『なんでもお願いを叶える券』。

 

 

 

 

 それなら。

 そこには、階段に丸まって座り込むカナミさんの姿がありました。

 

「助けて……」

 

 消えてしまいそうな声が、耳に届きます。

 

「カナミさん、見つけましたよ!」

 

 私が声をかけると、カナミさんは顔を上げました。

 まん丸な目を大きく見開いて、こちらを見つめます。

 

「なん、で……?」

「それは、カナミさんに会いたかったからに決まっているじゃないですか」

 

 泣き腫らした目。

 

 ボロボロになった心の瞳を抱えながら――カナミさんは、私を見つめ返していました。




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