その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「なん、で……?」
「それは、カナミさんに会いたかったからに決まっているじゃないですか」
屋上につながる階段を見上げると、ボロボロになった心の瞳と一緒に泣いているカナミさんを見つけました。
「ど、どう……、して…………」
「あぁ、なんで生きているかですか。簡単なことです。私の心が消えないように、ずっと私の心を読み続けているだけなのです」
私は足を踏み出す。最後の踏ん張りです。
「こ、こないで……!」
「カナミさんは私と話すのが嫌なのですか?」
階段が一段縮まる。
「ち、ちが……、でも、でも……」
「じゃあ、何も問題ないですね」
足音がコツンと響く。
「な、んで……? なん、で……?」
「あれ? 先ほど言いましたよね。私の心が体を動かしているのです」
視界が少しずつ近づく。
「ち、ちが……。だって、私は……ココネを……傷つけて……」
「そんなこと気にしませんよ。どんな時だって、私の可愛さに変わりはありませんから」
段差を踏みしめる。
「ダメ、だよ。そんなの……、また、私は、ココネを傷つける……」
「それぐらい、どうってことありません。いつだったか言いましたよね。親愛なるカナミさんに会うためであれば、どんな試練だって乗り越えてみせますよ」
もう数歩で届く。
「なんで……、そんなに、私のこと……?」
「私の心を読んだのではないですか? 私にとってカナミさんと過ごした日々はとても楽しかったのです。大切な友達が目の前で泣いているのですよ」
階段は残りわずか。
「違うよ……。本当の私は、嫌われ者で……嘘をついて、ココネにもずっと嘘を、ついて……!」
「それの何が悪いのですか? 心がなりたいと思う姿を演じる。とっても素敵なことじゃないですか」
あと一歩。
「私と出会わなければ……ココネは、そんな姿にならなかった! もっと楽しく、もっと幸せに過ごせた!」
「それを決めるのは私の心です」
ついに、カナミさんへ手が届く距離まで辿り着きました。
やっとです。やっと。
「コ……、コネ……」
涙をポロポロと流すカナミさんの頬に触れます。私の血で汚れてしまいました。
おっと、今さらですね。
「私と、一緒にいたら……ダメだよ……」
――違いますよ。
これからやることを考えれば、本当は階段を上る必要はありませんでした。
カナミさんの心の瞳が視えた時点で、もう目的は果たせたのです。
それでも私は、フワフワの体を引きずってここまで来た。
カナミさんの隣に行くために。それこそが、私の答えなのです。
さて――。
「カナミさん、それはお願い事ですか? なら、それは叶えられません。だって、あの券で叶うお願いは一つまでですから」
「え……?」
そうです。すでにお願い事は聞いていますからね。
カナミさんの心の瞳に向けて、瞳の手を伸ばした。
カナミさんからも瞳の手が伸びてきて抵抗しますが、まったくの障害になりません。
そして、心の瞳に触れました。
(い、――――)
ボロボロで継ぎ接ぎだらけの心の瞳は、触れただけで簡単にその外郭がはがれて落ちていきます。
(い、やだ――――ないで!)
ついに姿を現す、カナミさんの心。
ずっと、この瞬間を待ち望んでいました。
(嫌だ! 本当の私を視ないで! 嫌わないで! ………………ずっと一緒にいたいよ)
さぁ、その心を覗かせてください!
そこにあったのは、グチャグチャで、ボロボロで、バラバラで、ガタガタで、もはや原形を留めない心でした。
――これは……なんて素晴らしいのですか!!!
まさに芸術品!!!
これほど壊れているのに、私と会話が出来ていた。
きっと極限まで削ぎ落とされた機能美。
何度も限界を超え、そのたびに複数の役割を担うよう進化した次世代の造形!
重なり合う複雑な構造は、無数の心を写し取った痕跡。
たった一人の心なのに、まるで何百人もの心を覗いているかのよう!
さらにさらに、私に向けられる重量感のある旋律!
幸せと絶望。楽しみと悲しみ。相反した気持ちが生み出す不協和音のような美しさ!
そして、まるで私と一つになろうとするかのように纏わりついてくる!
これほどまでに、強烈に私だけに向けられる感情は初めてです!!!
あぁ! あぁ! あぁ!
もっと視たい! もっと聴きたい! もっと読ませてください!!!
初めてです――誰かの手が加わった心に、こんなにも魅了されたのは!!!
さすがカナミさん! さすが、私の心の友!!!
……そして、こんな素晴らしい心に手を加えようとする私は、なんて罪な女でしょう。
ですが大丈夫。どんなお願い事でも、叶えてあげます。
次に目を覚ましたときには、すべてが終わっています。
そして、それは楽しい未来へと繋がっているのです。
私は少しだけ疲れました。お昼寝してから行きますので、待っていてくださいね。
その誰にも読めない心を覗いた私こと、色葉ココネは大親友と体を重ねるようにして一緒に眠りにつきました。
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