その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第33話 もう一人の読心少女⑦ / はじまりの読心少女⑮

「時間になったら色葉を殺すようにお願いしてある。守りたいなら……屋上から飛び降りて死んでくれ」

 

 強い風が私たちの間を吹き抜ける。

 

「な、なにを……言っているの……?」

「言葉の通り。私以外の読心少女は邪魔だ。だが、お前の心は操れないからな、自分の手で死んでもらいたいってわけ」

「そ、それなら……なんで、私たちを助けたの?」

 

 そうだ! それなら私たちを病院に連れていく必要はなかった。

 

「あのときは色葉の存在が未知だったからな。どう見ても死んでいるやつが歩いてたんだぞ? 下手に手を出すわけにはいかなかった。だが今はどうだ。あいつは目を覚まさないことがわかった」

「心音は目を覚ますよ! それに、私が死んだって心音を殺さない理由にはならない!」

「本当は色葉も殺しておきたい。だが、どうせ目覚めることはないだろ。もし、お前が死んでくれるなら、見逃してもいいって話」

 

 そんなの信じられるわけない!

 

「なに? まさか色葉が目覚めるって本気で思ってる?」

「お、思ってるよ!」

「マジか。……無理だろ。あいつは目覚めない」

「そんなことない!」

「なら、なぜ見舞いに行かない? わかってるんだろ。もう取り返しがつかないって。……お前が一番、信じてないんだよ」

 

 信じていない……?

 違う! 私は信じてる。心音は必ず起きるって!

 

「それで結局どうする?」

 

 九条さんがスマートフォンを横目で見て、時間を確かめた。

 

 心音は私が守る。……きっと心音ママのときと同じだ。

 九条さんが実行役を用意しているなら、スマートフォンで止める指示を送れるはず。

 

 

 でも、どうすればいい……。

 今の私は読心能力が使えない。何もできない。

 

 ……違う。何をしてでも心音を助けるんだ!

 どんな手を使ってでも、九条さんに止めさせるように言わせる。絶対に!

 

「もう時間はないぞ?」

 

 視線を戻した九条さんに向かって、私は走り出していた。

 手を伸ばす。まずは体を拘束して――。

 

 ぐるん、と視界が回る。

 

「ガハッ!」

 

 背中に強い衝撃。気がつけば、目の前に空。

 

「――ッ!」

 

 肩を踏まれた。九条さんの足が、私を押さえつけている。

 何が起きた? わからない。

 

「お前にできることが、私にできないと思った?」

 

 ……そうか。

 九条さんも、誰かの心を読んで技術を盗んだのか。

 

「それで、向かってきたってことは、そういうことでいいんだよな?」

 

 私を見下ろす九条さん。

 いやだ。心音を助けたい……!

 

「お前には何もできない。こんな特別な力を持っていながら全てを失う」

 

 そうだ。私はいつだって何もできない。

 

「みんなから嫌われ、母親を壊し、色葉を殺し……最後には私に能力すら奪われる」

 

 知っているよ。

 私のせいで皆を不幸にしたこと。

 

 

「……なぁ、音無。お前は何のために生まれてきたんだ?」

 

 

 その言葉が胸を突き刺した。

 

 

『あんたなんか、生まれてこなければよかった』

 

 

 ――記憶が蘇る。

 初めから答えは出ていた。私が生まれてきたことが間違いだったのだ。

 

 何度も、何度も、何度も気がついているよ。

 でも、しょうがないじゃん。生まれてしまったのだから。じゃあ、どうすればよかったのかな?

 

 私だって頑張ろうとしたんだ! その結果がこれなんだ! 何にも上手くできないのが私なんだ!

 

「教えてよ……」

「は?」

 

 どうすればよかったのかな!?

 どうすれば間違えなかったのかな!?

 

「教えてよ!!!」

「なっ!」

 

 叫びながら、九条さんの足を引き倒す。

 彼女の体が横に崩れ、スマートフォンが転がった。

 

 私は覆いかぶさり、拳を振り下ろす。

 

「ぐっ!」

「なら教えてよ! 私だってみんなと一緒がよかった! こんな能力なんて欲しくなかった!」

 

 涙が溢れる。

 

「ママからは生みたくなかったって思われた。邪魔だって思われた! じゃあ、私はどうすればよかった!? 教えてよ!!!」

 

 振り下ろした拳は九条さんに掴まれる。

 

「公園に行けばみんなから後ろ指を差された! 不気味だって思われた! みんなが私を嫌う! そんなの読心能力のせいだってわかるわけないじゃん! 誰も教えてくれないんだから! 私はどうすればよかったの!?」

「能力を明かせばよかっただろ!」

 

 もう一方の拳を振り下ろす。

 だが、ぎりぎりのところで手首を掴まれてしまう。

 

「できるわけないじゃん! だって、皆が私に敵意を向けるんだ! 怖いよ! 痛いよ! 皆に無視された。嘘つきだって言われた。誰も私と話してくれない。それで、どうやって話せばいいのか、わかるわけないじゃん!」

 

 腕がダメなら頭だ。

 私の頭を九条さんの頭に思いっ切り叩きつける。

 

「ぐッ!!!」

「同じ服を着てるってバカにされた。ばい菌だって言われた。でも、ママに言えるわけないじゃん。どうすればよかった!? 教えてよ!!!」

 

 涙で視界が滲む。こぼれ落ちていく。

 

「九条さんだってそうだ! 私が何かした!? 何もしていないのにムカつくからって、きつく当たられた! 校舎裏にも呼び出された! 怖かった。怖かったよ! ねぇ、教えてよ! 何が気に障ったのかなって! 理由もわからないで思われたら、どうしたらいいかわかんないよ。ねぇ、私はどうすればよかったの!?」

「そんなこと、知るか!」

 

 もう一度、頭を振り下ろそうとした瞬間、九条さんに体をひねられた。

 視界が反転し、背中が床に叩きつけられる。

 

「ッ――!」

 

 次の瞬間には、九条さんが私に覆いかぶさり、両手首を床に押さえつけていた。

 

「私はお前たちとは違う。そんな事情、知るわけないだろ。そんなに知りたいなら、色葉に聞け!」

「はぁ……はぁ……」

 

 そうだ。心音は全部上手くやっていた。

 だからこそ、私は出来損ないなんだってわかって惨めな気持ちになるんだ。

 

 でも、心音は私にたくさんのものをくれた。

 最期まで私を友達って言ってくれた……。

 

 だから、心音を守りたい。

 

「……っぐぅううう……っ!」

 

 九条さんを押し返せない。時間だけが過ぎていく。

 心音を助けられない。何もできない。

 

 

 

 

 ――違う。私には、まだ一つだけ残っている。

 読心能力だ。

 

 

 心音の記憶を覗いたから知っている。

 

 九条さんの読心能力を封印したとき、認識できなくしているだけで、いつか使えるようになるかもしれないと言っていた。

 

 もし、同じ原理ならば、もう一度使えるようになるかもしれない。

 

 いや、きっと使える。

 だって、九条さんは「お前の心は視えない」って言っていた。

 

 まだ私の読心能力は残っている。なら――。

 

「読心能力を使うのか?」

「ッ!?」

 

 心は読まれていないはず。

 それでもバレていた。

 

「お前に使えるのか?」

「使えるに決まってる」

「そうじゃない。――また、読心能力に頼って、失敗を繰り返すのかって聞いてるんだ」

 

 九条さんの視線が、私を捉えて離さない。

 

「あれほど嫌っておいて、追い込まれたら能力にすがるのか?」

 

 その通りだ。わがままな自分。

 

「その能力に頼った結果がこれだろ?」

 

 同じ失敗を繰り返す、愚かな自分。

 

「色葉の命と引き換えに手放したんだろ? それを無駄にするのか?」

 

 心音の優しさを無意味にする薄情な自分。

 

 

 

 やっと私の読心能力が消えてくれたのだ。

 もう、絶対にあの醜い世界には戻りたくない!

 

 

 だから、私はどうするべきだろう。誰か教えてほしい。誰か。心音……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『後はカナミさんが自由に決めてください。何を選んだとしても、心から望んだことなら応援するのです』

 

 

 ――――大好きな声が頭に響いた。

 

 

 

 そうだ。心音なら、きっとそう言う。

 私がどんな選択をしても、きっと心音は受け入れてくれる。

 

 なら、逃げ出したい。

 楽になりたい。苦しみたくない。つらい思いも全部、忘れてしまいたい。

 

 

 

 

 ……それでも。

 

 それでも……心音と一緒にいたい! 心音と一緒にいたいんだ!!!

 

 

 

 誰かを傷つけても、嘘で塗り固めても、わがままでも、心音の隣にいたい!!!

 

 

 

 

 わかっていた。結局のところ、私の唯一の取り柄は読心能力だった。

 誰かを傷つけたのは、能力のせいじゃない。私自身のせいだ。

 

 

 地獄の世界に逆戻りだ。

 同じ失敗を繰り返すことになるかもしれない。

 それでも、私には読心能力が必要だ。読心能力があったからこそ私がいる。

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 ――――最低最悪の嫌われ者である私こと、音無奏海は読心少女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――パチリ。

 九条の心の瞳が視えた。

 

 それに向かって、瞳の手を伸ばす。そして触れた。

 あとは砕けば――――

 

 

 

「……それを待っていた」

 

 九条の声。

 それと同時に、私の瞳の手が九条の瞳の手によって絡めとられる。

 心の瞳に触れた、その瞬間の出来事だった。

 

 っ!? なんで……! 私の心は視えていないはず!

 違う。視えていないからこそ、触れるのを待っていたんだ。

 

 心音の心を覗こうとしたとき、何度も警戒していたはずだ。

 たとえ視えなくても、触れれば気づかれるんじゃないかって。今、それが証明された。

 

 

 くっ……!

 絡め取られた瞳の手は剥がれず、動かせない。

 

 さらに、九条の瞳の手は巻き付きながら私へ迫ってくる。

 ……しまった。このままでは、瞳の手を伝って私の心を探知される。それが狙いだったんだ。

 

 素早く。精密で。力強い。

 心音の技術を受け継いだ九条の力は、今の私を上回っている。

 

 

 

 負ける。心音の力を得た九条に……。

 

 

 

 

 

 ――それでも、絶対に諦めたくない!

 

 

 

 

 

 

 

 ぐにゃり。

 

 

 

 だから、私は自分の心を操作した。

 頭の中が一色に染まる。視界がクリアになる。集中――。

 

 これだけは九条に真似できない。

 

 心音は、一度たりとも自分の気持ちをねじ曲げるために読心能力を使ったことがなかった。

 

 だからこそ、これは真似できない。

 何度も、何度も、何度も、自分の心を偽り続けてきた――私だけの力だ。

 

「……なっ!」

 

 私の心から放たれた瞳の手が、九条の瞳の手を少しずつ押し返す。

 二つの瞳の手が、複雑に絡み合う。

 

 拮抗。

 それで十分。それなら、相手の心の瞳が視える私が一歩先に辿り着く!

 

 

 

 ――一瞬。

 私の瞳の手が九条の防御をすり抜け、その奥へ突き刺さった。

 

 ――パリン。

 小さな破砕音。九条の心に、細い亀裂が走る。

 

 

 間違え続けた私だけの道のり。それが勝負を分けた。

 あとは心の瞳を砕くだけ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………なんで、壊さない」

 

 互いの瞳の手が動きを止める。

 

 そうだ。もう私の勝ちは目前だ。

 ほんの少し力を加えれば、九条の心は自由自在だ。

 

 でも。

 

「九条、さんは……本当に、私たちを殺そうとしているのかな?」

 

 冷静さを取り戻した頭に、疑問が浮かぶ。

 

 そうだ、この状況はおかしい。

 いくら私の心が視えなくても、私を殺す方法ならいくらでもあったはずだ。

 

 なのに、能力を使えないからといって、読心少女である私の目の前に現れるなんて、リスクでしかない。

 

 しかも、教えすぎだ。

 私の心が視えないこと。心音の力を得たこと。私を殺すつもりなら、黙っていた方が有利だ。

 

 考えてみれば、おかしな点はいくつもある。

 なんで、こんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。

 

 

 

 

 いや、考えるな。

 心の瞳を砕け。心を暴くのが一番確実だ。心音を絶対に守るんだ。さぁ、やるんだ!

 

 

 

 

 ……砕きたくなかった。

 心音を守ることから外れているのも、わかっている。

 

 でも、心音を心を知りたいって、間違えた選択をしてしまった。

 ここで砕いたら、同じ道のりを歩くことになるんじゃないかって。

 

 

 人の心を覗き続けてきた私に足りなかったもの。

 それは――自分を信じること。誰かを信じる勇気。

 

 

「そうだ。私も心音も死なない。私は……私を、そして九条さんを信じる」

「……後悔するぞ」

「時間になればわかるよ」

 

 怖い。本当は不安でたまらない。

 もし私の答えが間違いだったら。

 

 私の心を操作したくなる。でも、必死に抑え込む。

 だって、これが私の心が望むことなんだから。

 

「…………はぁ~。呆れた。やってられない」

「あっ……」

 

 九条さんはゆっくりと立ち上がり、制服の汚れを払ってスマートフォンを拾った。

 

「時間まで待つ必要はない。やる気が失せた……。あとは好きにしろ」

「待って!」

 

 私は上体を起こし、立ち去ろうとする九条さんを引き留めた。

 

「なに?」

「どうして……こんなことを?」

「嫌がらせ。……お前らにいいようにされた気晴らし」

 

 ――嘘だ。仕返しは本当かもしれない。

 でも、それだけのために、こんな危険な賭けはしないはずだ。

 

 この流れで一番得をしたのは誰?

 事件の裏側を知り、やるべきことを見つけた。

 

「…………私のため?」

「はぁ? 色葉といい、揃って愉快な頭してるね」

「だって、そうじゃなきゃ……」

「なら、心を読めばいいだろ」

 

 

 

 そう言って、九条さんは歩いて行く。

 私の考えが正解はわからない。

 

 でも、少しだけ気持ちが楽になった。間違えた道でも、前に進む気になれた。

 

 

 

 振り返れば、九条さんとの関係は複雑だ。

 つらい目に遭わされ、利用もした。

 どうして、こんなことをしてくれたのかもわからない。……でも。

 

「……ありがとう」

「ふん」

 

 九条さんの姿が消える。

 

 私も、少し休んだら屋上を出よう。

 

 ゴロンと床に寝転がる。

 まさか、読心能力を取り戻すことになるなんて。――あの地獄に逆戻りか。

 

 

 目を閉じれば、学校中の心が押し寄せてくる。

 

 

 あれ?

 いつものような気持ち悪さを感じない。

 

 むしろ、少し心地いい。……なんで?

 

 

『足りないところは私の心も使って、カナミさんの心を大補修しておきました』

 

 

 ――――心音の声が響く。

 私の心を読んでみれば、どこか心音の心を感じた。

 

 

 

 そうだ! 

 ――感性の伝播!!!

 

 

 

 いつだったか、私の心をおすそ分けした九条さんが、甘いものを好きになっていたことがあった!

 

 

 

 それなら、これは心音の感じている世界なのだろう。

 

 

 私一人だったら、また嫌いになってしまうかもしれない。

 でも、大好きな人が愛した世界なら、大好きな人と一緒に視れる世界なら好きになれるかもしれない。

 

 どんなに汚くても、どんなに腐っていても、見方次第で愛おしくも思えるのだから。

 

 涙がこぼれた。

 

 

 

 ■

 

 

 

「カナミ、アイしてるよ」

 

 ここは私のお家。

 学校から帰宅すると、ママが抱きしめてくれる。

 

 私がボロボロに壊してしまった心が視える。

 原型もわからない。治し方もわからない。でも、私はここから始めなきゃいけない。

 

 

 

 もし、元に戻ったら。またママは私を邪魔だって思うだろうか。

 

 嫌だ。

 

 ……でも、どう思うかはママの自由だ。

 私だって、自分の身勝手でわがままな気持ちを押し通すって決めた。

 

 だから、ここからやり直すんだ。

 

 ママの心と向き合う。

 そして、遠い記憶にある本来の形を思い出す。

 

 形が違いすぎる……。

 どこから手を付ければいいのかわからない。

 

 どうすればいいのだろう……。

 

 そのとき、頭の片隅で、心を修復するビジョンが浮かんだ。

 

 まるで、正解を知っているかのように、丁寧で確かな導き。私では辿り着けない答え。心音だ。

 

 きっと、私の心に宿る心音の心が、私に教えてくれているんだ。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 ママの心が戻ったら、辛い言葉ばかりになってしまうかもしれない。

 それでも、私はやるよ。

 

 そうして、瞳の手を伸ばした――――。

 

 

 

 ■

 

 

 

 窓から差し込む午後の光が、静かな病室を満たしている。

 

 私は椅子に腰掛け、眠る心音を見つめていた。

 

 今日も心音は深い眠りの中にいる。

 私はずっと心音の目覚めを待ち続けてきた。

 

 心音の顔を見るたびに幸せな気持ちと、ギュッと胸を突き刺さる痛みが溢れる。

 私には、心音の姿を見るたびに脳裏に浮かぶ言葉がある。

 

 私は生まれるべきじゃなかっただろうかって。

 

 私がみんなを巻き込んだ事実は変わらない。心音を傷つけたことは変わらない。

 

 何度も思ったことだ。心音は優しいから違うって言う。違うってことに気がつけない。

 でも、私がいない方がもっと幸せだった。これから先もそうだろう。

 

 それがわかっているのに、私はここにいる。

 自分の心を優先しようとしている。

 

 私のわがままを心音は許してくれるかな。

 

 心音が目覚めたら、言いたいことがたくさんある。

 

 謝って、謝って、謝って――――、これからの話をしたいな。

 だから私はずっと待つよ。心音が目覚めるときを。

 

 

『あぁ、なんで生きているかですか。簡単なことです。私の心が消えないように、ずっと私の心を読み続けているだけなのです』

 

 

 心音がボロボロの姿で立ち上がったとき、そう言っていたっけ。

 詳しい理屈はわからない。けれど、心を読み続ければ心音は目覚められるのかもしれない。

 私でも、少しは助けになれるのかもしれない。

 

 心音の心の瞳だけはパッチリと目を開けている。

 そして、それを私の心の瞳がずっと見つめている。

 

 自己満足かもしれない。

 でも――私は、私が望むように心音の力になりたい。

 

 だからね、心音。待ってるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何日も時が過ぎて、季節が過ぎて――――。

 

 

 

 

 

 

 

 私は毎日のように病室に通い、心音のそばに座り続けた。

 眠る横顔に語りかけ、手を握り、ただひたすら待ち続けた。

 

「ねぇ、心音。聞いてよ、玲がね!」

 

 静かな病室に、私の声だけが響く。

 そのとき――。

 

 ジロリ。

 心音の心の瞳が私を視た。

 

 えっ?

 

 握っていた心音の指先が、ほんのわずかに震えた。

 

 息を呑み、顔を上げる。

 閉じられていたまつ毛が、小さく、小さく揺れる。

 

 ――そして、静かな病室に。

 私以外の声が確かに響いた。




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