その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
カナミさんにサボりがバレてしまったので、午後から授業に復帰しました。
授業を聞きながら、学校中に響く皆さんの心を楽しんでいると、あっという間に放課後になりました。
いつものようにカナミさんと並んで帰ります。
校舎を出て、校門を右に折れる。私たちの家は学校から歩いて行ける距離なので、駅へ向かうクラスメイトたちとは反対方向です。
「そういえば、結局ココネは保健室抜けてどこ行ってたの?」
「本当はカナミさんのプレゼントを探していました。バッグに入れた記憶はあるので、学校のどこかに落ちてないかと思いまして」
――もちろん、本当の目的は読心能力者の捜索ですが、それは秘密です。
ただ、プレゼントを探していたのも事実なので嘘ではありません。
プレゼントは男の子に盗まれました。ですが、記憶を辿って最後に置いた机を確認したところ、そこにはなかったのです。
他の生徒の心を覗いても、誰も持っていない。となれば、私の能力が効かないカナミさん、あるいは別の読心能力者が持ち去った可能性が高いのです。
「なるほど。だから誤魔化そうとしたんだ。でも本当に気にしてないから探さなくていいよ」
「申し訳ないですが、そうさせてもらいます。こういうものは忘れたころにひょっこり見つかるのです。その時に改めてお渡ししますね」
私は無限を作れる女。ですから『なんでもお願いを叶える券』の有効期限は無限です。
もし見つけたら、カナミさんのお願い事を叶えてあげましょう。
そうして私の小さな歩幅に合わせてもらいながら並んで歩き、横断歩道の前で信号が青に変わるのを待ちました。
――その瞬間。
右手から、強烈な敵意の感情が飛び込んできました。
(色葉ココネを……排除する……!!!)
視界の端に迫る大きな影。
赤信号を無視して、トラックが突っ込んできます。
心を読める私はわかります。狙いは私です。
「それでね! ……どうしたの?」
私の視線を追ったカナミさんが振り返る。
もう、トラックは凄まじい速度で迫っていました。
「ココネッ!!!」
次の瞬間、カナミさんが私を抱き寄せた。
普通なら避けられない。衝突して大怪我。そのはずです。
――――心のマエストロたる私がいなければ、ですが。
すでに運転席の心に触れている。
残念ですが、カナミさんを傷つけるわけにはいきません。
――ドォンッ!
轟音と風圧だけを残し、トラックは私たちのすぐ脇を駆け抜けました。
「……よけて、くれた……?」
「はい、大丈夫です。カナミさんが守ってくれたおかげで、何も起きませんでした。威圧ではじき返したのですよ」
胸に抱き寄せられたまま、顔を上げて笑います。
心は読めませんが、カナミさんの心臓がドキドキと高鳴っているのは伝わってきました。
私としたことが、少し演出過多なピンチにしてしまいましたね。カナミさんには申し訳ないです。
敵意を察知した瞬間から、私は周囲の人々も含めた心の操作を始めていました。
信号無視による車同士の衝突事故を作り、歩行者は巻き込まれないよう調整するためです。
非常に、非常に不本意ですが事故死で心が失われるより、私が介入した方がまだマシなのです。
それに加えて、認識遮断も施してあるので誰も気づいていません。……カナミさんを除いてですが。
これらの計算のせいでトラックの回避が遅れてしまいました。
「よかった……あぁ~! もう遠くにいる!!! ナンバー覚えようと思ったのに!」
カナミさんはもう元気を取り戻し、トラックに怒りをぶつけていました。私もカナミさんの胸から解放されてしまいました。
さて、運転手の今後も守るアフターフォローまで完璧にやったのには理由があります。
それは私が気遣いのできるレディーだからだけでなく、彼が読心能力によって操られていたからです。
読心能力で人を操るには、心の変形を伴います。
天然物とは違う人工的な歪み。あの美しい芸術的なフォルムが損なわれていることを見逃すことはありません。白と黒を見間違えるぐらいありえないです。
運転手は敵意を増幅され、私を轢くよう誘導されていたのです。
彼の記憶を覗くと、数時間前に私の映った画像を見ていたことがわかりました。
どうやら、それで初めて私の姿を覚えたようです。
その画像から何か手がかりを得られないかとも思ったのですが……周囲はボヤけていて、ほとんど見えません。
あくまでも読心能力で覗けるのは、その人自身が覚えている記憶だけ。私の可愛いさで彼を夢中にさせちゃいましたかね。う~む、どの角度から見ても私は超絶可愛いです!
……とはいえ、その記憶もあまり参考にはできませんね。
なぜなら、その画像の直前の記憶に、不自然な空白があるからです。
自然な欠落の可能性も考えましたが、心に残る歪みからして人工的な記憶喪失と考えるのが妥当です。
記憶とは心で思い出すもの。
ならば心を操ることができれば、記憶だって自由に書き換えられる。
つまり、読心能力者は何らかの理由で運転手の記憶を消し去ったのです。
もちろん、記憶操作には必ず心の変形がともないます。だから私が見逃すはずがありません。
ここまで証拠がそろえば、読心能力者の存在は確定です! 間違いありません!
ですが、記憶を自在に消された以上、これ以上の手がかりを記憶から得るのは難しいでしょう。
ならば、発想を切り替えましょう。
昨日は可愛い悪戯程度だったのに、なぜ今日はトラックを使った襲撃だったのか。
――こう考えるのはどうでしょう。
昨日の悪戯で「私が読心少女である」ことを偶然知ってしまった。
そして今日、私が校内を探している姿を見て、今度は「私も能力者の存在に気づいた」と悟った。
初めは、ただただ超絶可愛い私に悪戯をしたいだけだった。
けれど、実は読心少女で、その私が読心能力者を探して学校内の調査を始めた。
自分が読心能力者だと知られたくはない。けれど、確実に私が近づいている。
その焦りこそが、こんな無謀な手段による私の排除へと繋がったのではないでしょうか。
もしこの推測が正しいなら、昨日も今日も、読心能力者は学校にいたことになります。そして、学校内で探されることに焦りを覚える人物。
つまり、普段から学校内にいる人が読心能力者である可能性が高いですね。
もっとも、この推理が誤っていたとしても構いません。誤りだとわかることにも意味があるのです。
大切なのは、立ち止まらずに進むこと。私は前へ進みます。
……ならば、次に取るべき行動は明白です。
まずは学校内を徹底的に洗い出しましょう。
今日は放課後で人もまばら。動くべき時は、明日。
読心能力者をすぐにでも見つけ出さなければなりません。
またもや天然物の心が失われないようにするのです!
保健室のサボり魔である私こと、色葉ココネは皆さんの愛おしき心を守り抜くのです!
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