その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第6話 病弱美少女である私こと、色葉ココネは生まれつき体に不思議を抱えているのです

「今日は学校を休みなさい」

「……大丈夫です。……なんとしても学校に行くのです」

 

 翌朝。私はベッドの上でお母さんに登校を止められていました。

 なんたることでしょうか。本日に限って、ヨワヨワボディーの魅力が炸裂してしまいました。

 

 上体を起こすだけで背筋に力が入らず、肩は小刻みに震えます。指先は痺れ、体は鉛のように重い。肺の奥まで空気が届かず、視界はぐわんぐわんと揺れていました。

 

「顔色も真っ白。今日は寝ていなさい」

「……はぁ……平気です。……私の肌が真っ白で可愛いのは、いつものことなのです」

 

 そう。こんな症状はいつも通りなのです。むしろ今日はマシな方です。

 

 

 

 病弱美少女である私こと、色葉ココネは生まれつき体に不思議を抱えているのです。

 

 お母さんのお腹にいる頃から弱く、流産も心配されたそうです。

 けれど、そこは私のミラクルパワー。なんとか息を吹き返し、無事にこの世に舞い降りました。

 

 お医者さんに言わせれば「むしろ、元気な方が異常」とのこと。体のあちこちに不具合があり、本来ならベッドの上で一生を過ごしていてもおかしくない。だからこそ、私が急に動き出して、元気に歩き回っていること自体が不思議なのだそうです。

 

 ふふふ。私は生きているだけで奇跡を起こしてしまう女。そして、さらに素晴らしき読心能力まで持っています。

 まさに世界に愛される存在。世界を虜にしてしまう可愛さが恐ろしい。

 

 もっとも、その力はお母さんにも秘密です。だって、知らない方が自然な感情を見せてくれそうじゃないですか。

 いや、いつかは打ち明けて、新たな一面を覗くのもありですね。

 

 

 

「あなたが可愛いから言ってるのよ。この前までずっと寝ていたんだから、無理しちゃダメ。いい?」

「それでも……学校に……行くのです……」

「どうして無理しようとするの? 学校で何かあるの?」

 

 一か月ほど寝たきりで、ようやく回復したばかり。だからこそ、お母さんの心配はいつも以上に大きいです。

 

 愛する気持ち、守りたい気持ち、不安な気持ち――全部が私には伝わってきます。

 ずっと読み続けてきた、大大大好きな心。私のとっておきのお気に入りです。さすがは私のお母さんです。

 

 けれども、学校に行かねばならない理由があります。

 

 日にちが経つほど、読心能力で心を歪められる人は増えるかもしれません。私の愛しき心たちがそうなるなんて見過ごせません。

 一刻も早く、能力者を見つけ出して止めなくては。

 

 そのためには、どんな体でも動かして学校に向かう必要があります。

 そう。心が体を動かすのです。ならば、この私の意思が、このボディーを動かすのです。ふぬぅ。

 

 

 

 ピンポーン!

 

 

 そのとき、玄関のチャイムが鳴りました。「はーい!」とお母さんが玄関に向かいます。

 続けてドタドタとした足音。よく知った足音です。

 

「ココネ。体、大丈夫?」

 

 ひょっこり顔を出したのは制服姿のカナミさん。

 

 カナミさんとは毎日一緒に登下校しています。そして、珍しくスマートフォンを持っていない清純派レディーのカナミさんは毎日決まった時間に迎えに来てくれるのです。

 

「……はい、大丈夫です。……すぐに、準備するので、お待ちください」

「あ~、……でもココネママに止めるようにお願いされているんだよねー」

 

 ベッドに近づいてくるカナミさん。

 

「ですが――」

 

 

 

 その瞬間、ひらめきました。私の優秀な頭脳がピカッと光りました。

 ふふふ、この私にかかれば逆境すらチャンスに変えてしまいます。

 

「……それでは、カナミさんも、……一緒に、……お休みしませんか?」

「え?」

「一緒に私と、学校を……、サボりましょう。……私の部屋に、お泊りしてくれるのなら、……学校をお休みするのです」

 

 それは「カナミさんとずっと一緒」作戦です。

 残念ながら、読心能力者の容疑者ナンバーワンはカナミさん。だからこそ、この機会に白だと証明してもらいましょう。

 

 私を参考にすると読心能力には効果範囲があります。

 

 私の効果範囲内で、読心能力者が心を操れば必ず気づきます。

 

 前に、男の子の心の変化を見逃してしまったのは、お楽しみ用に皆の心を聴き流していたからです。そのため、私が注意しているこの状況で見逃すことは絶対にありえません。

 

 そこで、ずっとカナミさんと一緒にいて、明日の学校で心に歪みがある人が見つかれば、カナミさんは白だと証明できるのです。

 

 もちろん、相手の効果範囲が私よりも広い可能性もあります。

 ですが、それは低いはず。昨日のトラック事件がその根拠です。

 

 私の読心能力ができることは、相手もできる前提で考えるのが普通でしょう。それは向こうも同じはず。

 

 それならば、トラックなんて手段は選びません。私の読心能力を考えれば、必ず避けられるのですから。つまり、私よりも読心能力は強くないのではないかと推測しています。

 

 だからこそ、これでカナミさんの白黒占いができるはず。

 

 ……それに、私自身もわかっています。今の状態で学校に行くのは危ないことを。

 

 カナミさんと同じように私の心も視えません。もし読心能力者の心も視えないとしたら、おそらく私の読心能力は効かないでしょう。

 

 そうなれば、今の状態は厳しい。そして出来れば、誰かの助けを借りたい。唯一、読心能力が効かないカナミさんの手助けがほしいのです。

 

 愛おしき心たちを囮にするようで、非常に、ひっじょ~に遺憾ですが、ここは断腸の思いで飲み込みましょう。心は美味しいので、きっと食らいつくはずです。

 

 

 

「学校をお休みか。う~ん。どうしよっかな~」

「お願いします。……カナミさん。今日も、一緒に……サボりましょう」

 

 腕を組んで悩んでいるフリをするカナミさん。心は読めませんが知っています。私が上目遣いでメロメロアピールをすれば、必ず頷いてくれることを。

 

 ふふふ、誰も私の可愛さには逆らえません。……まあ、先ほどのお母さんには通じませんでしたが。恐るべし。

 

「な~んて! いいよ! 勉強なんて、チャチャっとすればいいもんね!」

「さすがカナミさんです! ……はぁ、はぁ……」

 

 おっと、盛り上がりすぎて息切れです。深呼吸しなくては。

 

「カナミちゃん。ココネ、納得してくれた?」

「はい! 一緒に休むことになりました!」

「え?」

 

 姿を現したお母さんに、カナミさんが元気よく答えます。

 それに困惑したあと、変なことを言ったねと私を見ました。

 

「私が……休む代わりに、……お泊りしてほしいと……お願いしました。……これは、風邪ではありませんし……いいですよね」

「なんて変なお願いしてるの? カナミちゃん、ココネの頼みは断っていいのよ?」

「あっ、大丈夫です! むしろ楽しそうなので、迷惑じゃなければ、ぜひお願いしたいです! それに私のママは学校サボりとかユルいので平気です!」

「お願い、するのです!」

「お願いします」

 

 二人で両手を合わせて、上目遣いでメロメロアピールです。威力は二倍です。

 

 

 

「…………はぁ~。しょうがいないわね。でもカナミちゃん。ちゃんとお母さんと学校には連絡するのよ」

「は~い! それじゃ、後で電話貸してください!」

 

 さすがに、これにはお母さんも陥落。

 

 ふふふ、そもそも私は小さい頃から体調を崩して休みがち。そのせいで休校へのハードルは地に落ちています。

 私の貧弱ボディーがお母さんの倫理観を破壊してしまいました。恐るべし。

 

 

 

「やったね!」

「やりました!」

 

 お母さんが去った後、二人で顔を見合わせて笑いました。

 

「でも、さすがにココネ、少し休んだ方がいいんじゃない?」

「……これぐらい、……いつものこと、なので大丈夫です」

「知ってるけど、ちょっと休んでから遊ぼうよ。ほら、代わりに絵本を読んで差し上げよう」

 

 カナミさんは私の本棚から分厚い本を一冊取り出し、ベッドの上にポンと腰を下ろしました。

 そしてページをパラパラとめくります。

 

「えっと、――肝臓や脾臓は血管が豊富で損傷すれば致死的出血につながる。一方、小腸・大腸などの中空臓器は損傷しても、直ちに出血死することは少ない」

「……それ、臨床解剖学の本です。まぁ、天才の私……、にとっては……絵本みたいな、ものかもしれないですが」

「さっすが未来のお医者さん。余裕が違うね」

「ふふふ……、ですが、……私はお医者さんよりも……、心理学者の方が、憧れますね……」

 

 解剖学で勉強しているのは全て心を理解するためです。

 体を動かすのは心。ならば体の構造をより深く知れば、心の理解にもつながるはず。というわけで、IQ1000の嗜みとして、人体や生物学を勉強しています。

 

「心理学かぁ。う~ん。でも、ココネがそっち方面に行くなら、私も勉強しないとな~」

「大丈夫です。……カナミさんも、心の魅力を知ったら……虜になること間違いなしです。そうだ……魅力がわかるように、……私の気になっている心の哲学を、……紹介しましょう……」

「哲学? また難しいやつ?」

 

「ふふふ、そうです。……でも、答えがわからないから、面白いのです。……たとえば、もし人の脳を左右に分けて、それぞれ別の身体に移植したら、……どうなると思いますか? 両方が『自分だ』と思うのです。では、……そのとき、本物の『私』はどちらに、……なるので……しょうか? これが、同一性の……はぁ、……はぁ……はぁ……」

「ココネ興奮しすぎ! ごめん、無理させちゃったね。寝てなよ」

「はぁ……、はぁ……、これからなのですが、お言葉に……甘えるの、です」

 

 カナミさんに支えられてベッドに横たわり、目を閉じました。

 ――おっと、このまま眠ってしまう前に、言っておかねばならないことがあります。

 

「カナミさん。……今日はずっと、……私の家にいてください。絶対に、……外を出歩かないで、……ほしいのです」

「どういうこと?」

「理由はなくとも……お願いします。服は……お母さんのを、……貸します。足りないものは……用意するのです」

「よくわかんないけど……ココネがそんなに言うなら、そうするよ。だから、安心して休んでいいよ」

「ありがとう、ございます。……それでは少しだけ、失礼します……」

 

 これで、カナミさんとずっと一緒にいられるはずです。

 それでは優しさをいただいて、一眠りとしましょう。

 

 

 

 せっかくなので、眠るまで何か楽しいことを考えましょうか。

 そうだ。さっきの同一性の話の続きを考えましょう。カナミさんには言えない裏の面白さを。

 

 もし脳を半分こして、どちらも「本物」だと思ったとき――それは心を視れば一目でわかります。元の形を保っている方が本物。

 

 でも、もし全く同じ心が二つに増えていたら……それは凄いことです! 心の増殖です! お気に入りの心を増やし放題なのです!!!

 

 ではでは! そのとき、私のように心が視えたらどうなるのでしょうか。

 目の前にある心も自分だと錯覚するのでしょうか。違うと知っていれば、見た目は同じでも違うと感じるのでしょうか。

 

 あぁ、試してみたい。試してみたいのです!!!

 誰か、実験させてはくれないでしょうか! もっと知りたいのです。もっと理解したいのです!

 

 ……でも、失敗すれば愛しき心を失ってしまう。だから現実では試せない。

 ならば夢の中でシミュレーションするのです。でも……、いつか……、試してみたいですね……。

 

 

 

 他にも……試してみたいことが……たくさん……ある…………すやすや…………。




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