その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
『あんたは特別じゃないんだから、誰にも迷惑をかけないように普通に生きればいいんだよ』
――母さんに言われた言葉を、今でも覚えている。
けれど、普通なんてつまらない。私は特別になりたかった。
小さい頃から、人よりも何でも上手くできた。
流行に合わせて、みんなの先頭に立つ。そうすれば、注目を集められる。私は「特別」に近づける。
そのためなら面倒なことだってやる。
そして――――
「お前。何見てんだよ?」
「ごめんなさい。皆さんの魅力に思わず見惚れていました。もちろん、邪魔をするつもりはないので、どうぞ続けてください」
中学の校舎裏。そこに立っていた少女を見て、思わず息を呑んだ。
髪は雪のように真っ白で、光を受けてきらめいている。
顔立ちは人形のように整っていて、どこか人間離れしていた。
けれど、その体はあまりに小さく幼く、制服だけが浮いて見える。
現実から少し外れたような、不思議な幻想をまとった姿。
触れれば壊れてしまいそうな儚さが、彼女をさらに特別にしていた。
目を逸らすことができない。視線を奪われる。
私はそのとき、本物の“特別”に出会ってしまった。
私、九条《くじょう》玲《れい》と、色葉《いろは》心音《ここね》の最初の出会いだった。
■
「はじめまして、色葉ココネと言います。皆さんとお会いできる日を楽しみにしていました」
翌朝。教室の前に立つ色葉を見て、私は思わず固まった。
……は? なんであいつがここに?
驚いた。まさか、同じクラスだったのか。
入学式から姿を見せない生徒がいるとは思っていた。まさか、それがあいつだったとは。そういえば同じ小学校だったやつらが「病弱で休みがちだ」なんて噂していたっけ。
「しばらく体調が優れなくてお家でグデーっとしていましたが復活です。急に具合が悪くなることがあると思いますが、この通り、私は死にそうで死なない不死身の女ですから心配ご無用です。では、皆さんよろしくお願いします」
……そして、変わり者だ。
けれど、誰もがあいつに惹きつけられる。
その異質で恐ろしく整った姿に誰もが振り向く。その声に自然と耳が傾く。そこにいるだけで特別を感じさせる。
そして、その色葉は――なぜか音無《おとなし》奏海《かなみ》と一緒にいる。
「カナミさん、一緒にペアを組みましょう。私たちが組めば無敵なのです」
「私が、いなくても……、色葉さんは、無敵だよ」
……よりによって、あの音無か。
根暗で、どんくさくて、小学生の頃は毎日同じ服を着ていたって噂もある。風呂にも入ってないと聞いたこともあるぞ。
それに何だか近くにいるだけで謎にイラつく。
他のやつだって、音無には同じ印象を持っている。クラスの嫌われ者だ。
それなのに、なぜ色葉は、そんなやつと……。
■
「ねぇ、九条見て! この前のLive、プチバズってる!」
「マジか」
ある日の教室。友達がスマホを差し出してきた。
私たちが投稿していたTikFlickのLive動画が伸びているらしい。
どれだ?
再生してみると――
「すみません。お邪魔してしまいましたね」
そこには、事故的に映り込んだ色葉の姿があった。
『めっちゃ可愛い』
『今の子も出してほしい』
は……?
コメント欄は色葉のことで盛り上がっていた。
「ねぇねぇ、色葉のやつ、もう一回出したら再生数稼げるんじゃない!」
……バズれば何でもいいってわけか。
そう思ったけれど、言葉は飲み込んだ。
認めたくないが、色葉には人を惹きつける特別がある。
だから、直接声をかけてみたのだ。だが――
「ごめんなさい。そういう動画には興味がないのです。やっぱり直接会うのが一番ですからね」
……なんで。
私が欲しいものを簡単に捨てられるのだ。
「では、カナミさんと一緒に帰るので失礼します。動画投稿、頑張ってください」
また音無か。どうしていつもあいつなのか。
その日を境に、私は二度とLiveに動画を上げることをやめた。
■
それからしばらくして、色葉は体調を崩し、学校を休むようになった。
「余命一年」なんて馬鹿げた噂まで流れた。不幸なことのはずなのに――それすらも、あいつの特別さを強めているように思えた。
……でも、これで音無はひとりだ。
色葉がいなければ、音無はただの嫌われ者だ。そう思っていたのに――
「みんな、おはよーーー!」
教室の扉を勢いよく開け、笑顔で挨拶する音無が立っていた。
……マジか。見間違いかと思った。
目元を隠していたボサボサの髪はきれいに整えられ、堂々とした声が教室に響く。
賑やかだった教室はシーンと静まり返って、全員が音無を見ていた。
「あれー? 何かおかしかった?」
そりゃそうだ。お前みたいなやつが、急に馬鹿でかい声で登校してきたら引くわ。
キャラ変なんて無駄だ。クラスのみんなは本当のお前を知っている。そう思った――のだが。
そのキャラ変は続いた。
あれほどオドオドしていたやつが、毎日明るく振る舞うようになった。
最初は戸惑っていたクラスメイトも、いつの間にか受け入れ始めていた。
「音無さん、最近いいよな。明るくなったし、よく見たらめっちゃ可愛いし」
「わかる。俺だけかと思ってたのに」
そんな男子の声が聞こえてくる。
「音無さん、部活入らないの?」
「ううん、入ったらココネと一緒に帰れないからね!」
「えー、もったいない! 絶対エースになれるのに!」
「ふふふ、残念ですがカナミさんの席は私がいただきました。バレー部には渡しませんよ」
「ココネが一緒なら別だけどねー」
色葉を膝の上に乗せ、楽しそうに話す音無。
その周りには、いつの間にか人だかりができていた。
ついこの間まで避けていたくせに。調子のいい連中だ。
けれど、もっと信じられないのは音無だ。
別人になったのかと思うほど変わってしまった。
もしかして色葉は、これをわかっていたのだろうか。最初から、音無を選んだ理由は……。
■
結局、あの関係はずっと続いた。
いや、続いただけじゃない。学年が上がるごとに、色葉と音無はますます周囲から一目置かれる存在になっていった。
そして、二人はいつも一緒だった。
互いを特別と思っているのは、誰の目から見ても明らかだった。
――気づけば、中学三年の冬。進路を決める時期になっていた。
「九条すごいじゃん! 桜清高校ってメッチャ頭いいじゃん」
「まあな」
「そういえば、色葉と音無も桜清に行くんだっけ?」
……知っている。
だからこそ、私も同じ高校を選んだのだ。
私は負けていない。
それを色葉に証明するために――あいつらと同じ場所に行く。
■
高校生活も半年が過ぎ、季節はすっかり秋。
昼休みの教室は、相変わらずの賑やかな声に満ちていた。
私は友達と机を並べ、コンビニのミルクパンをちぎって口に運ぶ。
「九条さぁ、聞いてよ。うちの親、テストの点で部活やめろって言うんだよ。ありえなくない?」
「へぇー」
普通の日常。
中学ではトップだった成績も、今ではただの平均。
部活もせず、友達とダラダラ過ごすだけ。
私はほんの少し優秀だったに過ぎない。広がった世界の中で、気づけば普通に埋もれていた。
「音無、マジでタイプ。付き合ったら絶対楽しいって!」
「……俺は色葉の方かな」
「うわ、ロリコン犯罪者じゃん!」
教室で無邪気なハシャぐ男子の声が聞こえる。
男子の無邪気な声が耳に刺さる。
私が平凡に沈んでいく一方で、色葉と音無は違う。別のクラスにいても、名前は自然と届いてくる。誰もが二人に惹かれていた。
高校に入ってから一度も話していない。私から声をかけに行くなんて負けた気がする。
そんなことを考えていたからだろうか。なんだか肩が重い。
「九条、聞いてる?」
「あぁ、聞いてるって――」
――そのとき、ぐにゃりと。
視界がにじみ、空気がぐにゃぐにゃと形を変えていく。
空気は溶けたように揺らぎ、鼓膜が内側から押しつぶされる。教室のざわめきが遠ざかり、自分が自分でなくなるような感覚。
机にしがみつき、必死に耐える。
「…………大丈夫?」
音が戻る。声が聞こえる。
(えっ、まじ、急にどうしたの!?)
――だが、友達の口は動いていなかった。
それだけではない。人の内側に、どろどろとしたおぞましいものが透けて見える。
理解できない。ざらついた不快感が肌にまとわりつく。
(あぶねー。色葉って言わなくてよかった……)
(午後の体育、だるいな……)
頭に直接、声が流れ込んでくる。
異常が世界を満たしていく。
……私の頭がおかしくなったのか?
もしこれが現実だとしたら。
――この教室で、気づいているのは私だけ。
私はひとり、特別な世界へと足を踏み入れた。
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