その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~   作:猫色箱

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第9話 もう一人の読心少女②

「選んだカードは、ハートの4であってる?」

「えっ、すごい! どうやったの!?」

「タネを教えるわけないだろ」

 

 昼休みの教室。トランプでマジックを披露するふりをして、友達を相手に能力の検証。

 嘘のような話だが、私は人の心が読めるようになったらしい。

 

(んー、トランプのどこにも印ついてないな……)

 

 脳内に直接響くような感覚。聴覚とは違うが、確かに声として心の中が流れ込んでくる。

 何日も実験を重ねたが、これは幻聴ではない。相手の思考と一致している。

 

 そう考えると、他に視えているモノの正体も理解できた。

 

 目を閉じても胸の奥に映る、うごめく不気味な物体。あれは心だ。

 内臓を常に見せつけられているような嫌悪感。

 

 さらに、人から絶えず立ち上る「形のない気配」もある。

 それは感情――嗅覚や聴覚のように、心のざわめきを感じ取っているのだろう。

 

 私はこの力を読心能力と呼ぶことにした。

 

 

 

「九条が最近寝不足なのは、もしかして、これにハマってたせい?」

「まさか。暇つぶしでやってみただけ」

 

 寝不足の原因は、眠るときも心が視えてしまい、まともに眠れないからだ。

 深刻な悩みではあるが――それでも、この力はお釣りが来るほど特別だった。

 

 チョコを一口かじる。

 

「あれ? 九条って甘いもの嫌いじゃなかった?」

「あぁ。でも最近、急に好きになったんだよ」

 

 読心能力に目覚めた頃からだろうか。その影響で味覚が変わっても不思議ではない。

 もしかすると、この力を維持するためのエネルギーを欲しているのかもしれない。

 

 参考でもあれば便利なんだがな。

 

 本やネットで同じ能力を探してみたが、まともな例は一つもなかった。

 自称能力者は数多く見つかったが、制約が厳しすぎたり、精度が低すぎたり。私からすれば全部まがい物だ。

 

 ――そう、私こそが本物の読心能力者。読心少女なのだ。

 

 グロテスクなものを常に視せられ、雑音のような心の声に囲まれるのは不便だ。

 それでも、飲み込む価値がある。この力は特別だから。

 

 

 

 そのとき。ぐにゃり――

 

 

 

 視界が歪む。意識が霞み、自分が自分でなくなるような感覚。

 いつもよりも強烈。気持ち悪い……。

 

 

「……うっぷ……おぇえっ……!」

 

 

 最悪だ。教室で吐くなんて……。

 服まで汚れている。こんなところを見られるなんて恥でしかない……。

 

「九条、急に黙ってどうしたの?」

「……悪、い。ちょっと、これ洗って来る……」

「もしかしてチョコ付いた?」

 

 何を言っているのだ……。

 どう見たってチョコなわけないだろ。

 

(チョコって、すぐ洗ったら落ちるんだっけ?)

 

 

 

 マジか……。まさか、私が誰も吐いたことに気がついていない……?

 

 

 私の読心能力は、心を読めるだけじゃないのか……?

 

 

 

 ■

 

 

 

 夕暮れの教室。

 今日はこいつで試すか。

 

(ソシャゲの周回だるすぎ)

 

 スマホをいじる男子が一人。記憶を覗けば、友達を待っているらしい。

 ちょうどいい。実験台になってもらおう。

 

 ここ数日、私は何人もの相手に力を試してきた。

 人によって効きやすさが違うかもしれないし、同じ相手ばかりだと不審に思われるからだ。

 

 そうして見えてきた使い方の輪郭。

 今日はいよいよ、その先を確かめる。

 

 まずは――私が「認識遮断」と呼んでいる力からだ。

 

「悪いが協力してもらうぞ」

 

 男子の目の前に腰を下ろす。だが、全く私に気がつかない。

 この使い方に気付いて以来、私は常に認識遮断をかけて実験している。万一に備えて、姿を晒さないためだ。

 

 よし、次だ。

 

(あれ? ボタンが消えた。壊れた……?)

 

 スマートフォンの画面を「認識できないもの」に変える。

 認識遮断は私自身に限らず、対象物にも干渉できる。そして離れていても可能だ。

 

 実際のゲーム画面にはボタンが存在しているのに、男子には認識できず、ボタンの代わりにゲーム背景があるように見えている。

 その光景を、私は「感覚共有」で男子の視界から視ていた。

 

 心を深く読むことで、対象の世界を丸ごと共有できるのだ。

 自分がもう一人増えているかのような体験。今は一人が限界だが、練習すれば対象を増やせるだろう。

 

 

 

 能力を使うたび、精度が上がっていくのを実感する。

 あの「ぐにゃり」と視界が歪む気持ち悪さ。その後は必ず、力の冴えが増す。

 

 筋肉に負荷をかけると鍛えられるように、副作用と引き換えに強化されているのだろうか。

 実際、以前より「ぐにゃり」の頻度は減ってきた。

 

 

 そして――ついに「心を操る」段階だ。

 

 これまでの応用も、体が使い方を知っているかのように思いついて、自然にできた。

 ならば今回も成功するはずだ。

 

 

「まずは小さいことから検証するか。そうだな。……そこで運動でもしてもらおうか」

 

 

 心に手を差し入れるような感覚。形をこねて、別の意志へと作り替える。

 そして――――

 

(暇だから、筋トレでもして時間潰すか)

 

 男子は急に立ち上がり、腕立て伏せを始めた。

 

 

 

 

 マジか……。

 

 私は人の意志を直接ねじ曲げたのだ。

 

 これが出来れば、何でも出来る。恐ろしく、そして最高の力なのだろうか。

 もっと試してみたい――。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、いくつかの検証を終えて教室を出る。

 

 どうやら、複雑な行動を要求するためには、心を緻密に操る必要がありそうだ。

 訓練は欠かせない。だが、それだけの価値がある。

 

 この力を使えば、何だってできる――。

 だが油断は禁物だ。まずは小さな実験から積み重ねるべきだろう。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、背後から女子の声がした。

 

「そういえば知ってる? 色葉さん。ずっと休んでたけど、明日から復帰するんだって」

 

 ……色葉?

 

 そうだ色葉だ!

 

 忘れていた。なぜか最近、あいつのことが頭から抜け落ちていた。

 

 だが、ちょうどいい。能力の試運転を兼ねて、色葉に悪戯を仕掛けてやろう。

 私も特別だって認めさせてやる。

 

 そのために――さっきの男子はまだ使える。

 もう一度教室へ戻り、明日への仕掛けを施しておこう。

 

 

 

 ■

 

 

 

「何これ」

 

 翌日の昼休み。

 認識遮断で姿を隠し、昨日操った男子の席で待っていると、男子はラッピングされた包みを机に置いていった。

 

 中を確かめると――『なんでもお願いを叶える券』。

 記憶を覗けば、色葉のバッグから盗んできたものだった。

 

 ……ミスったな。

 色葉に嫌がらせを仕掛けたつもりが、こいつにとっての嫌がらせはこれらしい。

 いや、正確には。色葉への好意が混ざり合って、こんな形に歪んだのだろう。

 

 やはり心は単純じゃない。

 

 思い通りに動かすには、明確な指向性を与え、感情や性格を考慮しつつ整合性を保たせなければならない。

 自然にその行動へ至るよう仕向ける――まるで答えのないパズルだ。

 

 時計を見ると、昼休みはもう終わりかけていた。

 

 授業中に暴走して問題になれば面倒だ。続きは放課後に回そう。

 

 ……そのために、途中で授業を抜け出しておくか。

 動いている相手を操るのは難しい。だからこそ机に座っている状況は、心を弄るには好都合だ。

 

 決まりだ。

 

 ……まぁ、一応色葉の持ち物も貰っておくか。

 

 

 

 ■

 

 

 

 帰りのホームルームが終わった。

 これから面白いものが見られるはず。私は認識遮断をかけたまま、例の男子のいる教室へ向かった。

 

 ちょうど男子が教室を出てきたところだ。その背中にぴたりと付いていく。

 こいつの心を介して色葉が慌てふためく姿を視るのもいいが、私の目で直接見たかったからだ。

 

 色葉が教室にいるか確認しておくか。

 雑多に響く心の中から、色葉のものを探す。

 

 

 

 ……いない?

 

 直接見たわけではないが、プレゼントを盗めたのだから登校しているはず。すでに帰ったのか?

 そう考えている間に色葉たちの教室に辿り着いた。

 

 私は男子が入ろうとする扉とは反対側に身を隠し、隙間から中を窺う。

 

「はぁ……はぁ……色葉さん。好きだ……触りたい……いろんなとこ触りたい……」

 

 男子が荒い息を吐きながら教室に踏み込む。

 

 

 

 

 

 ――その瞬間。

 

 

 

 ……は?

 

 あれは、なん、だ……?

 

 

 

 色葉を視認したことで初めて認識できた。

 色葉の胸にある異形。球体。それには瞼があり、瞳の形をしていた。

 

 心の瞳……?

 

 心の代わりに視えるそれは、そう呼ぶのが相応しい気がした。

 

 心の瞳がギョロギョロと男子生徒の心を見据える。そして、触手のような手を伸ばしてそれに触れた。

 次の瞬間、私が作り変えた心を元の形に戻してしまった。

 

 なんだ。あれ。

 私は知っている。直感で理解した。本能で理解した。あれは、私と同じ能力なのか……?

 

 心の瞳はさらにギョロギョロと周りを見渡す。

 私は慌てて身を引いた。

 

 本能が警告を鳴らしている。あれとは格が違う。禍々しい力を感じる。

 私が水鉄砲で遊んでいたら、相手は本物の銃を突きつけてきたような――相対すれば一瞬で命を握られる。

 

 

 

 なぜだ。なぜ、あいつが私と同じ能力を持っている……!

 おかしいだろ! どこにも探しても読心能力者はいなかっただろ!

 

 それなのに、なんで、よりによってこんな近くに……!

 こんな偶然あってたまるか…………。

 

 

 

 

 ――待て。嫌な予感がする。

 

 

 あいつが周囲から注目を集めているのは……心を操っていたからじゃないのか?

 

 ……隣にいた音無に至っては心が視えなかった。

 もしかすると、色葉に心をどうにかされたんじゃないか。

 

 そういえば、中学の頃、音無は急に性格が変わった。

 

 あれほど冴えないやつを色葉が選んだのは、実験に都合がよかったからじゃないのか。

 嫌われ者で、誰も近づこうとしなかったから。

 

 

 

 

 ……いや、待て。心が視えないのは音無だけじゃない。私もだ。

 

 

 ずっと自分の心は読めないと思い込んでいた。

 でも、違うのかもしれない。私も、あいつの玩具にされていたのでは……。

 

 今でも鮮明に思い出すことができる。色葉と初めて出会った時のこと。

 

 そうだ。あいつを脅かしてやろうと突き飛ばしかけた。

 

 でも、何となくやる気がなくなって、それから音無にも絡む気が起きなくなった。

 何となく気分が変わったからだ。そう――「何となく」なんて、本当にあるのか……?

 

 

 私は……、本当に私なのか…………?




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