その誰にも読めない心を覗いてみたい ~超絶可愛い読心少女である私こと、色葉ココネには伝えたい秘密がある~ 作:猫色箱
「選んだカードは、ハートの4であってる?」
「えっ、すごい! どうやったの!?」
「タネを教えるわけないだろ」
昼休みの教室。トランプでマジックを披露するふりをして、友達を相手に能力の検証。
嘘のような話だが、私は人の心が読めるようになったらしい。
(んー、トランプのどこにも印ついてないな……)
脳内に直接響くような感覚。聴覚とは違うが、確かに声として心の中が流れ込んでくる。
何日も実験を重ねたが、これは幻聴ではない。相手の思考と一致している。
そう考えると、他に視えているモノの正体も理解できた。
目を閉じても胸の奥に映る、うごめく不気味な物体。あれは心だ。
内臓を常に見せつけられているような嫌悪感。
さらに、人から絶えず立ち上る「形のない気配」もある。
それは感情――嗅覚や聴覚のように、心のざわめきを感じ取っているのだろう。
私はこの力を読心能力と呼ぶことにした。
「九条が最近寝不足なのは、もしかして、これにハマってたせい?」
「まさか。暇つぶしでやってみただけ」
寝不足の原因は、眠るときも心が視えてしまい、まともに眠れないからだ。
深刻な悩みではあるが――それでも、この力はお釣りが来るほど特別だった。
チョコを一口かじる。
「あれ? 九条って甘いもの嫌いじゃなかった?」
「あぁ。でも最近、急に好きになったんだよ」
読心能力に目覚めた頃からだろうか。その影響で味覚が変わっても不思議ではない。
もしかすると、この力を維持するためのエネルギーを欲しているのかもしれない。
参考でもあれば便利なんだがな。
本やネットで同じ能力を探してみたが、まともな例は一つもなかった。
自称能力者は数多く見つかったが、制約が厳しすぎたり、精度が低すぎたり。私からすれば全部まがい物だ。
――そう、私こそが本物の読心能力者。読心少女なのだ。
グロテスクなものを常に視せられ、雑音のような心の声に囲まれるのは不便だ。
それでも、飲み込む価値がある。この力は特別だから。
そのとき。ぐにゃり――
視界が歪む。意識が霞み、自分が自分でなくなるような感覚。
いつもよりも強烈。気持ち悪い……。
「……うっぷ……おぇえっ……!」
最悪だ。教室で吐くなんて……。
服まで汚れている。こんなところを見られるなんて恥でしかない……。
「九条、急に黙ってどうしたの?」
「……悪、い。ちょっと、これ洗って来る……」
「もしかしてチョコ付いた?」
何を言っているのだ……。
どう見たってチョコなわけないだろ。
(チョコって、すぐ洗ったら落ちるんだっけ?)
マジか……。まさか、私が誰も吐いたことに気がついていない……?
私の読心能力は、心を読めるだけじゃないのか……?
■
夕暮れの教室。
今日はこいつで試すか。
(ソシャゲの周回だるすぎ)
スマホをいじる男子が一人。記憶を覗けば、友達を待っているらしい。
ちょうどいい。実験台になってもらおう。
ここ数日、私は何人もの相手に力を試してきた。
人によって効きやすさが違うかもしれないし、同じ相手ばかりだと不審に思われるからだ。
そうして見えてきた使い方の輪郭。
今日はいよいよ、その先を確かめる。
まずは――私が「認識遮断」と呼んでいる力からだ。
「悪いが協力してもらうぞ」
男子の目の前に腰を下ろす。だが、全く私に気がつかない。
この使い方に気付いて以来、私は常に認識遮断をかけて実験している。万一に備えて、姿を晒さないためだ。
よし、次だ。
(あれ? ボタンが消えた。壊れた……?)
スマートフォンの画面を「認識できないもの」に変える。
認識遮断は私自身に限らず、対象物にも干渉できる。そして離れていても可能だ。
実際のゲーム画面にはボタンが存在しているのに、男子には認識できず、ボタンの代わりにゲーム背景があるように見えている。
その光景を、私は「感覚共有」で男子の視界から視ていた。
心を深く読むことで、対象の世界を丸ごと共有できるのだ。
自分がもう一人増えているかのような体験。今は一人が限界だが、練習すれば対象を増やせるだろう。
能力を使うたび、精度が上がっていくのを実感する。
あの「ぐにゃり」と視界が歪む気持ち悪さ。その後は必ず、力の冴えが増す。
筋肉に負荷をかけると鍛えられるように、副作用と引き換えに強化されているのだろうか。
実際、以前より「ぐにゃり」の頻度は減ってきた。
そして――ついに「心を操る」段階だ。
これまでの応用も、体が使い方を知っているかのように思いついて、自然にできた。
ならば今回も成功するはずだ。
「まずは小さいことから検証するか。そうだな。……そこで運動でもしてもらおうか」
心に手を差し入れるような感覚。形をこねて、別の意志へと作り替える。
そして――――
(暇だから、筋トレでもして時間潰すか)
男子は急に立ち上がり、腕立て伏せを始めた。
マジか……。
私は人の意志を直接ねじ曲げたのだ。
これが出来れば、何でも出来る。恐ろしく、そして最高の力なのだろうか。
もっと試してみたい――。
その後、いくつかの検証を終えて教室を出る。
どうやら、複雑な行動を要求するためには、心を緻密に操る必要がありそうだ。
訓練は欠かせない。だが、それだけの価値がある。
この力を使えば、何だってできる――。
だが油断は禁物だ。まずは小さな実験から積み重ねるべきだろう。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、背後から女子の声がした。
「そういえば知ってる? 色葉さん。ずっと休んでたけど、明日から復帰するんだって」
……色葉?
そうだ色葉だ!
忘れていた。なぜか最近、あいつのことが頭から抜け落ちていた。
だが、ちょうどいい。能力の試運転を兼ねて、色葉に悪戯を仕掛けてやろう。
私も特別だって認めさせてやる。
そのために――さっきの男子はまだ使える。
もう一度教室へ戻り、明日への仕掛けを施しておこう。
■
「何これ」
翌日の昼休み。
認識遮断で姿を隠し、昨日操った男子の席で待っていると、男子はラッピングされた包みを机に置いていった。
中を確かめると――『なんでもお願いを叶える券』。
記憶を覗けば、色葉のバッグから盗んできたものだった。
……ミスったな。
色葉に嫌がらせを仕掛けたつもりが、こいつにとっての嫌がらせはこれらしい。
いや、正確には。色葉への好意が混ざり合って、こんな形に歪んだのだろう。
やはり心は単純じゃない。
思い通りに動かすには、明確な指向性を与え、感情や性格を考慮しつつ整合性を保たせなければならない。
自然にその行動へ至るよう仕向ける――まるで答えのないパズルだ。
時計を見ると、昼休みはもう終わりかけていた。
授業中に暴走して問題になれば面倒だ。続きは放課後に回そう。
……そのために、途中で授業を抜け出しておくか。
動いている相手を操るのは難しい。だからこそ机に座っている状況は、心を弄るには好都合だ。
決まりだ。
……まぁ、一応色葉の持ち物も貰っておくか。
■
帰りのホームルームが終わった。
これから面白いものが見られるはず。私は認識遮断をかけたまま、例の男子のいる教室へ向かった。
ちょうど男子が教室を出てきたところだ。その背中にぴたりと付いていく。
こいつの心を介して色葉が慌てふためく姿を視るのもいいが、私の目で直接見たかったからだ。
色葉が教室にいるか確認しておくか。
雑多に響く心の中から、色葉のものを探す。
……いない?
直接見たわけではないが、プレゼントを盗めたのだから登校しているはず。すでに帰ったのか?
そう考えている間に色葉たちの教室に辿り着いた。
私は男子が入ろうとする扉とは反対側に身を隠し、隙間から中を窺う。
「はぁ……はぁ……色葉さん。好きだ……触りたい……いろんなとこ触りたい……」
男子が荒い息を吐きながら教室に踏み込む。
――その瞬間。
……は?
あれは、なん、だ……?
色葉を視認したことで初めて認識できた。
色葉の胸にある異形。球体。それには瞼があり、瞳の形をしていた。
心の瞳……?
心の代わりに視えるそれは、そう呼ぶのが相応しい気がした。
心の瞳がギョロギョロと男子生徒の心を見据える。そして、触手のような手を伸ばしてそれに触れた。
次の瞬間、私が作り変えた心を元の形に戻してしまった。
なんだ。あれ。
私は知っている。直感で理解した。本能で理解した。あれは、私と同じ能力なのか……?
心の瞳はさらにギョロギョロと周りを見渡す。
私は慌てて身を引いた。
本能が警告を鳴らしている。あれとは格が違う。禍々しい力を感じる。
私が水鉄砲で遊んでいたら、相手は本物の銃を突きつけてきたような――相対すれば一瞬で命を握られる。
なぜだ。なぜ、あいつが私と同じ能力を持っている……!
おかしいだろ! どこにも探しても読心能力者はいなかっただろ!
それなのに、なんで、よりによってこんな近くに……!
こんな偶然あってたまるか…………。
――待て。嫌な予感がする。
あいつが周囲から注目を集めているのは……心を操っていたからじゃないのか?
……隣にいた音無に至っては心が視えなかった。
もしかすると、色葉に心をどうにかされたんじゃないか。
そういえば、中学の頃、音無は急に性格が変わった。
あれほど冴えないやつを色葉が選んだのは、実験に都合がよかったからじゃないのか。
嫌われ者で、誰も近づこうとしなかったから。
……いや、待て。心が視えないのは音無だけじゃない。私もだ。
ずっと自分の心は読めないと思い込んでいた。
でも、違うのかもしれない。私も、あいつの玩具にされていたのでは……。
今でも鮮明に思い出すことができる。色葉と初めて出会った時のこと。
そうだ。あいつを脅かしてやろうと突き飛ばしかけた。
でも、何となくやる気がなくなって、それから音無にも絡む気が起きなくなった。
何となく気分が変わったからだ。そう――「何となく」なんて、本当にあるのか……?
私は……、本当に私なのか…………?
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