スティルインラブの第3人格   作:スティルいいよね

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イチャイチャ甘々なスティルインラブが見たい。


ダイエットするスティルさん

 トレセン学園の運動場。他のみなさんと一緒に、わたし達も走る。わたしが走るということは、つまりそういうことだ。

 

「……うふふ」

「うっ!?」

「や、ヤバいの来ちゃうよ~……!」

 

 わたしの身体が燃えるように熱くなる。思考が真っ赤に染まり、渇いて渇いて堪らなくなる。原因は一つ、狂気あらため本能のワタシが目覚めたから。

 

「みんな、みィんな……ワタシの血肉になりなさいッ!! ワタシを昂らせて、もっともっと躍らせてぇぇぇ!」

「ひ、ひえええぇぇぇ!?」

「やっぱり怖いよぉぉぉ!」

 

 他の子達は怯えたように遠ざかろうとします。けれど、本能のワタシが出すスピードはトゥインクル・シリーズでもトップクラス。逃げることはほぼ不可能に近い。それこそ三冠レベルじゃないと厳しい。

 

「ほらぁ、追いついてしまったわ。もっと、もっと。もっとぉ! ワタシから逃げていただかないとォ!」

「そ、そんなこと言われてもぉぉぉ!?」

「む~り~!」

 

 前を走っていた子達をあっさり追い抜いて、先頭を走るワタシ。いつ見ても惚れ惚れする末脚ですね。

 

 こんな状態で理性の私はどうしているのかというと。

 

(その調子です、ワタシ! その調子で頑張ってください……!)

 

 なんと、ワタシの応援をしています。原作ではあれほど毛嫌いしていた本能のワタシを、理性の私が応援しているのです。成長、というやつですね。

 

 もっとも。

 

(その調子でもっと走ってください……! 少し、ほんのちょっとだけはしたなくなってしまった私のお腹周りを何とかするためにっ!)

(太ったのはあなたが原因でしょう私)

 

 その理由はダイエットのため、というなんともアレな理由なのですが。トレーナーさんにもツッコまれてしまったのが、予想以上に効いてしまったみたいです。少しでも脂肪を燃焼するために、私はワタシを応援しています。

 これにはワタシも微妙な表情。楽しんでいた表情が歪み、代わりになんとも言えない表情を浮かべています。

 

「……ワタシの思っていた本能と違う」

(あぁ!? そ、速度が落ちていますワタシ! もっとしっかりしてください!)

「というか、太ったのはアナタが原因でしょう? なんでワタシが尻拭いをしないといけないのかしら?」

(そう言わないであげてくださいワタシ)

 

 不承不承に思いながらもレースには全力。併走はキチンと走ってくれました。

 

 

 併走の結果は文句なしの大勝利。協力してくれた皆さんには感謝しなければ。

 

「皆様、本日は誠にありがとうございました。こちら、ささやかながらお礼のお品物をお作りしましたので」

「お、やった~!」

「スティルさん、レースはおっかないけどお菓子はマジで美味しいんだよね~」

「このお菓子があるから併走に協力してるまである」

「あんたそれは言い過ぎだって~。ま、そんぐらい美味しいんだけど」

 

 併走してくれた子達に感謝のお菓子を贈呈。理性の私が涎をたらしそうになっていますが、あなたの分はありませんよ。

 

(そ、そんな!? 調和のわたしは、私のことが嫌いになってしまったのですか……?)

「太り気味を解消しなければならないのに、お菓子なんて食べていいはずがないでしょう? もう少し我慢を覚えなさい欲望の私」

(よ、よくっ!? そこまではしたなくはありません!)

 

 どの口が言ってるんでしょうか。今も必死にわたしから体の主導権を握ろうとしているのに。どれだけわたしのお菓子を食べたいんですかあなたは。

 

(ところで、ベリーのパイはまだかしら? そのために併走を頑張っていたのだけれど)

「ありませんよ。この身体は共同体、スティルインラブの太り気味が解消するまでは、お菓子はお預けです」

(そんな!?)

(嘘でしょう!?)

 

 揃って驚かないでください。当たり前のことでしょう。ワタシが食べたところで、栄養は全てスティルインラブへと向かうわけですから。どれだけ走ったところで無意味になるじゃないですか。

 

 協力してくれた皆様に手を振って別れる。さて、と。身体の主導権を私に返したわけですが。どうも納得のいかない表情をしています。

 

「……調和のわたし。私は頑張ったと思うのです」

(頑張ったのは本能のワタシです。あなたではありません)

「私、頑張ったので! お菓子を食べてもよろしいのではないでしょうか!?」

 

 この子本当に痩せる気があるのでしょうか? あれっぽっち走ったところで、太り気味が解消されるわけ……いえ、よくよく考えれば食べたら太り気味が解消できる摩訶不思議なウマ娘もいますし、深く考えたら負けですね。

 

(ダメ、と言いたいところですが。同じセリフをトレーナーの前で言ってください。許可が出たら構いませんよ)

「あぅ……そ、それはいけません。あまりにも意地汚く、軽蔑されてしまいます……っ」

(あらあら、問題はないわ欲望の私。あの方はどんなワタシでも愛してくれる……そういう方よ? あぁ、本当に……なんて愛おしい……)

 

 恍惚とした表情を浮かべるワタシ。当たらずとも、というよりは間違いなく愛してくれるのが容易に想像できます。トレーナーさんは、そういう方ですから。

 

(運命の人……あの方なら、たとえ醜い獣になり果てようとワタシタチに愛を向けてくださる。堪らないわぁ……!)

「う、うぅ……! そ、そんな甘言には惑わされません! 私は、瘦せると決めたのです!」

(その意気です私。ワタシも、痩せようとするのを邪魔しないでください)

(邪魔? 違うわ、ワタシは本能のままに行動しているだけ。邪魔をする気なんて微塵もない)

 

 痩せる痩せないでわたし達は協議。みんなで話し合っていると、トレーナーさんが戻ってきました。

 

「ごめん、スティル。会議が長引いてしまって」

「あ、トレーナーさん……」

「併走は大丈夫だった? 本能が暴走したりはしなかった?」

 

 心配そうにわたし達を労わるトレーナーさん。その姿の、なんと愛おしいことか。

 

「だ、大丈夫です。本能のワタシも、併走をすれば満足しましたので」

「そっか。併走してくれた子達には、例のアレを渡したのかい?」

「はい……私も、私も食べたかったのに……っ!」

「あはは、スティルはダメじゃないかな? ほら、うん」

 

 傷つけないように言葉を濁すトレーナーさん。けれども、すぐに気づきます。当然のことですね。だって、わたし達のことなのだから。

 

 顔を真っ赤にして、あわあわと慌てふためく私。さっきまでのことを考えたら、トレーナーさんの顔なんて直接見れないでしょう。

 

「ち、違います……! 私は、私は負けていませんッ!」

「あの、スティル? どうしたの急に?」

「調和のわたしの誘惑にも、本能のワタシの悪魔みたいな囁きにも負けていません……! 私は、私はお菓子を我慢できました!」

 

 あなたさっきまで誘惑に負けそうになってたじゃないですか。どの口で言ってるんですか欲望の私。本能のワタシも呆れた目で、見てはいないですね。面白そうな目で見ています。そういう子ですものねあなた。

 

 顔を赤くしてもじもじしている私。何を考えているのやら。

 

「その、お菓子を我慢できたので……その、あの……」

「どうしたんだい? スティル。なにか言いたいことがあるなら、遠慮なく言って欲しい」

 

 なにか言おうとしている私に、トレーナーさんは引き締めた表情で見つめてきます。キリっとした目、思わずキュンキュンしそうな視線に、私はたじろいでいますね。

 けれど、覚悟を決めた私。小さな手で拳を作り、胸のところへと当て。

 

「そ、その……! あ、頭を、頑張ったねと、頭を撫でていただけないでしょうか……!」

 

 頭を撫でてほしい、とお願いしました。トレーナーさんは目を白黒させていますが、私の顔は真っ赤。熟れたリンゴのように赤い顔で、トレーナーさんを上目遣いで見つめています。

 

 あらあら。あらあらあら。あらあらあらあら。

 

(フフフ、フフフフ! そう、それでいいの私! もっと欲望を曝け出しなさい、トレーナーさんにしてほしいことを口にしなさい! アナタの欲望を、曝け出してェ!)

(経緯はどうあれ、欲望を素直に吐き出すのは良いことです。さぁ、トレーナーさんに頭を撫でてもらいなさい)

 

 止めるなんてとんでもない。私が勇気を出したのです、止める理由がどこにあるのでしょうか。しいて挙げるなら我慢はできていないことです。なんなら率先して食べようとしてましたからね。まぁわたしが必死に止めていたので変わりませんよ。なにも変わりません。

 

 顔を赤くして待つ理性の私。トレーナーさんはまだ戸惑っていますが、覚悟を決めたようにこちらへと歩み寄ってきます。

 

「そうだね。スティルが頑張ったんなら、褒めないとだね」

 

 そう、それでいいのです。そのまま私の頭を撫でなさい。至福のひと時を過ごさせるのです。トレーナーの撫でがあれば、この子は無限に頑張れますから。

 

 私へと手を伸ばしてくるトレーナーさん。7cm、6cm、5cmと徐々に縮まっていき……その手が私の頭に振れそうになった瞬間。

 

「っ! だ、ダメっ!」

(あら)

(ギリギリで保ちましたか)

 

 私は、トレーナーさんの手を払いました。もうちょっとだったのですが、すんでのところで罪悪感が勝ったようです。

 

 驚くトレーナーさん。手を振り払ってしまったことに慌てる私。

 

「ち、違うんですトレーナーさんっ! これ、これは違くて……とにかく違くてッ!」

「わ、分かったから落ち着いてスティル。一から説明を」

「違うんです、違うんですトレーナーさん……っ! ごめんなさい、ごめんなさぁぁぁい!」

「待ってくれスティル! まってぇぇぇ……」

 

 最終的に、恥ずかしくなった私はトレーナーさんの下から走り去っていきました。最後の最後で罪悪感が勝ってしまったことを喜べばいいのか、それとも私とトレーナーさんのイチャイチャが見れなかったことを悲しめばいいのか。分かりませんね。

 

 

 その日の夜、私はベッドの上で悶えていました。トレーナーさんへの言葉が、頭から離れないのでしょう。

 

「なんて……なんてはしたないの私っ! 嘘をついて、トレーナーさんに撫でてもらおうとするなんて……!」

(恥ずかしがることはないでしょう? 撫でてもらえる、絶好の機会だったじゃない。些細な嘘はスパイスよ私)

「違う、違うわ! これは良くないこと……そう、良くないこと!」

(その意気ですよ。それに、これから頑張ればいいのです。頑張って、トレーナーさんに撫でてもらいましょう)

 

 とはいえ、罪悪感に勝った。これは素晴らしいことです。頑張った子は褒めてあげないと。お菓子は作ってあげませんが。

 

(ですが、その前に謝罪のLANEを送りましょう。トレーナーさんを置き去りにしてしまったので)

「っ! あぁそうだわ……私ったらなんてことを! トレーナーさんを心配させてしまって……」

 

 すぐに謝罪のLANEを送る私。トレーナーさんに事の経緯を説明し、嘘をついたことを謝り、今度は真面目に取り組む決意を表明します。

 

【内なる紅の誘惑に負けそうになった私をどうかお許しください】

 

 ちょっと盛ってますけどまぁいいでしょう。ワタシがすんごい目で見ているのは気のせいです。

 トレーナーさんからのメッセージは。

 

【君に何事もなくてよかった】

 

 こちらを労わるメッセージ。受け取った私は、ベッドの上で足をばたつかせています。よっぽど嬉しいみたいで。

 

(撫でてもらった方が甘美なのに……けれども、ご褒美は後の機会にとっておかないと、だものねぇ?)

(そういうことです。明日また頑張りましょう)

「“ENJI”。スフィーラ、だね。スティルインラブは、とても“ENJI”なことがあったみたい」

 

 同室のネオユニヴァースさんも、柔らかい笑みを浮かべてわたし達を見つめていました。今日も一日、楽しく過ごせましたね。




なので自給自足をします。
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