スティルインラブの第3人格 作:スティルいいよね
ウマ娘の集まりは多岐に渡ります。代表的な例を挙げると、スペシャルウィークの世代を総称する黄金世代、とかでしょうか。今わたしが集まっているのもまた、そんな集まりの一つです。
もっとも、その集まりというのが。
「力で全てを解決するなんて、野蛮ね。けれども、貴方の輝きは珠玉の物……悪くなくてよ」
「あら、力はあらゆる物事を判断できる基準でしてよ。洗練された力は美しいもの、違うかしら?」
「あ……えっと……その……」
トリプルティアラウマ娘によるティアラ会、というものですが。ティアラ会のメンバーはメジロラモーヌさん、ジェンティルドンナさん、アーモンドアイさん、デアリングタクトさんに私を加えた5名です。メンバー募集中ですよ。
ティアラ会というよりはトリプルティアラ会な集まり。語ることと言えば。
「確かに、力は分かりやすい基準ね。もっとも、力勝負でもわたしは負けないわ!」
「なるほど、勉強になります。先輩方のお話は、学びがたくさんですね」
「その……本当に勉強になっているのかしら……?」
力がどうとか愛がどうとか。レースに関することがとても多いです。ほぼ全員バトルジャンキーみたいなものですし、話題がレースに寄るのは当然ですね。
私はそもそも自己主張が苦手というのもあり、この会ではあまり発言をしません。やってることはもっぱら、わたしが作ってきたお菓子を細々とつまむぐらいです。
「あぁ……わたしが作るお菓子は今日も美味しい……。コーヒーにもよく合う……」
(ありがとう、理性の私。食べてくれた子が喜んでくれるのは、製作者として嬉しい限りよ)
(ここにいる子達みィんな、ワタシが喰らってもいいのよねェ!?)
「だ、ダメ……! 自己主張しないで、ワタシ……!」
強い相手がたくさんいるということで、本能のワタシも大喜び。理性の私がお菓子を食べながら必死に止めています。お菓子を食べているということは、それだけ余裕があるということです。基本わたし達仲良しですからね。
しかし、突如として鋭い目で睨まれる理性の私。視線の先にいたのは、ジェンティルさんでした。
お菓子を食べているだけの姿に何を思うか、なにか気に食わないことでもしてしまったのか。ジェンティルさんは無言で私を睨みつけています。どんな動物も、この視線を受けたら震えあがって逃げてしまいそうな圧。並のウマ娘ならば倒れてしまうようなプレッシャー。
私は、ジェンティルさんの目とお菓子を交互に見つめた後、何かに気づいたようにハッとして。
「あ、あげません……これは、私が食べているものです……!」
(絶対違うと思うわよ私。相変わらずの食い意地ね)
さっとお菓子を隠しました。お菓子見ていたわけじゃないでしょう、ジェンティルさんに限って。というか、彼女の手元にもありますし。
案の定ジェンティルさんも呆れ顔。毒気を抜かれたのか、少しばかり不愉快さを滲ませた表情になります。
「いりませんわ。全く……相変わらず読めない、分かりづらい子ね」
「そ、そんな……!? このお菓子が、いらないだなんて……! なら、私が貰っても」
(ダメに決まってるでしょう。アレはジェンティルさん用に作ったものです)
どれだけ食い意地が張ってるんですかあなたは。手を伸ばそうとするんじゃありません。ジェンティルさんのケーキを取ろうとするんじゃありません。
ふぅ、と1つ溜息を吐くジェンティルさん。所作の一つ一つに気品さと優雅さ、加えて威圧的なオーラを放ちつつ、また私を睨みます。
「私のプレッシャーにも物怖じしない、敵意を向けられても変わらない。それほどまでに豪胆なのに、普段はただのお菓子が大好きな慎ましい子。これほどまでに分からない強さもありませんわ」
「そ、そうなのでしょうか?」
(なんで自分で分かっていないんですかね私は)
睨みつけられても、強大なプレッシャーをぶつけられても平然としている私。怯えなんてものは無縁で、自分のケーキを食べています。ジェンティルさんからしたら不思議でしょうがないでしょう。
(そういう子よ、理性の私は。普段が普段だけに、並大抵なことでは動じないもの)
「あ、先ほどから睨まれていたのはそういう……でも、お菓子も捨てがたいですし……」
「……私のプレッシャーはお菓子以下だとでもいうのかしら?」
こめかみあたりがぴくぴくしていますね。理性の私からしたら、お菓子≧ジェンティルさんの圧らしいです。そんな評価下されたら許せませんよね。ジェンティルさんの性格ならなおさらです。
でもね、違うんですよジェンティルさん。理性の私にとって、お菓子とトレーナーさんは何事にも優先されるってだけなんです。決してジェンティルさんのプレッシャーが弱いってわけじゃないです。しいて言うなら理性の私が食い意地張ってるだけです。
「相変わらず、あの頃から変わらない素敵な色。好ましくてよ」
ラモーヌさんからも高評価。無言で頷いて、なにかを理解したように深く頷いています。
また、ラモーヌさんだけではなく。
「これがトリプルティアラに必要な余裕ってやつね。負けていられないわ!」
「泰然自若とした姿勢、何事にも揺らがない精神は、大輪を咲かせるのに必要なこと……まだまだ、私は未熟ですね。ジェンティルさんのプレッシャーに、屈しそうになってました」
アイさんとタクトさんからも高評価。ジェンティルさんの圧を受けても揺らがないプレッシャーが、良い影響を与えているみたいですね。現実は食い意地張ってるだけなんですけどね。
納得できない、なんてことはなく。理解はできずとも私の実力を認めているのか、ジェンティルさんもそれ以上はなにも言いませんでした。その代わり、今度は獲物を見つけたかのような視線に早変わり。
「一度レースになれば、獣のような闘争心を披露する……ねぇ、また併走をなさらない? 退屈はさせませんわ」
レースの誘いを口にしました。理性の私ならばオロオロするでしょうが、レースの話になれば出てくる人格は一人。
そう、本能のワタシが表に出ます。理性の私を押しのけるように。
「あらぁ、ワタシと走りたいのォ? えぇ、えぇ! 血が沸き上がるような闘走を、溺れるような衝動に身を委ねて! 喰らい愛ましょう!!」
恍惚とした表情を浮かべて、頬を赤く染めながらレースをしようとします。暴走しかけていますね。零れる殺気で周りの空間が歪んでそうです。
ここにいるのは戦闘狂ばかり。ジェンティルさんも不敵な表情を浮かべて相対しています。
「ッ! あらあら、獣の方が表に出てきましたのね。この重圧、思わず後ずさりしそうなほどの強さを感じますわ……! さぁ、走りましょうか!」
「──あら、走るのならば混ぜてくださる? きっと、素敵なレースになると思うの」
走るのであればこの方も参戦、ラモーヌさん。わたし達と走れるならば、まぁ走ろうとしますよね。
というか。
「走るの? なら、わたしも当然走るわ! 距離はどうします? わたしはどの距離でも負けないけれど!」
「誠に恐縮ながら、私も走ります。先輩達と走れる、貴重な機会ですからっ!」
もはやティアラ会のメンバーで併走が決定しそうな雰囲気になっていますね。なんて豪華なレースメンバーなのでしょうか。
けれど、それに待ったをかけるのが一人。
「……だ、ダメ! 抑えて、本能のワタシ!!」
理性の私が主導権を奪い、本能のワタシを抑え込みます。覚悟を決めた表情、眼前の敵を睨みつけるかのごとき眼光。その先に見据えるのは、食べかけのケーキ。
「まだ、ケーキを食べ終わってないもの……! こんなに美味しいケーキ、食べ残すわけにはいかない……!」
(……ワタシのレース欲は、毎回この食い意地に負けるのね)
(元気出してください、ワタシ。いつものことでしょう)
(いつものことだからよ)
悲しいことに、理性の私の食い意地は相当なもの。本能のワタシを押しのけるほどに、理性の私は強くなりました。強くなる方向がどこかおかしい気がしますけど。
私の殺気が薄れたことで、他のメンバーも毒気を抜かれたのか席に座り直しました。やれやれと呆れ顔です。
「はぁ、併走はまたの機会ね。残念だわ」
「熟すのを待つの。ゆっくり、じっくり……至高のレースを楽しむために」
「それに、トレーナーに相談なく決めるのは良くないわね、うん」
「残念です……良い学びの機会だと思ったのですが」
座ってケーキに手を付けるメンバー。併走はお流れになりました。衝動に身を任せすぎるのダメ、絶対。
ようやく平和なティアラ会になる。そう思った瞬間。
「それに、この前の併走で私が勝ちましたし……」
「は?」
「あら」
「……そういえばそうね。この前わたし、負けたわね」
「あ」
理性の私がとんでもない爆弾を仕掛けていきました。それは、この前の併走結果です。
実はこのメンバーで前に併走しました。理由は、本能のワタシが焚きつけたから。どうにかトレーナー達を説得して、2000mの左回りで勝負することに。
結果は、わたし達の勝利。理性と本能が共存し、調和のわたしが上手く調整。スティルインラブの強さを100%どころか、120%発揮できるわたし達。不安要素など何もなく、しっかりと勝つことができました。
純然たる事実。私が併走で勝ったというのは紛れもない事実です。ですが、この場においてその発言は自殺行為に等しい。
「あぁ、そうだったわねぇ? 私、この前負けたのでしたねぇ」
フォークを手に握り、こねるように折り曲げていくジェンティルさん。凄いですね、フォークが丸くなりましたよ。
「あの併走は素晴らしかったわ。愛と愛がぶつかり合うあの戦い……ダメね、身体の疼きが抑えきれなくなったわ……!」
自らの身体を抱きしめ、熱を帯びた視線をこちらに向けるラモーヌさん。色っぽいですね。
「負けたままじゃ終われない! やっぱり併走よ、今すぐ併走をしましょう! 今日はアイが勝つんだから!」
闘争心むき出しの表情で私を睨みつけるアイさん。子供っぽくて可愛いですね。
「あの、やっぱり併走するのはダメでしょうか? その、負けたままでは終われないので……!」
静かに、それでいて強烈な闘気をぶつけてくるタクトさん。もう少し抑えていただけると嬉しいです。
何ということでしょう。和やかムードで進むと思われたティアラ会ですが、何気ない私の一言がティアラウマ娘達に火を点けました。当の本人はケーキを美味しそうに食べていますが。
視線に気づいたのか、その視線がケーキじゃないことを察したのか、理性の私はオロオロとしています。
「え、え? あ、あの……併走の話はなかったことになったんじゃ……」
「いいえ、そういうわけにはいかなくなりましたの。さぁ、早く走りに行きますわよ」
「でも、トレーナーさんからたくさんの愛をもらっている私は負けませんし……」
なんでこう、火種をさらに投下するのか。殺気が倍以上に膨れ上がりましたよ。
「ふふ、ふふふ……私のトレーナーの愛が劣っているとでも言いたいのかしら?」
「え、えぇ!? ち、違うんです、そういう意図はなくて……!」
「な、なによ! アイだって負けてないんだから! トレーナーと毎日ラブラブなんだから!」
「……久しぶりに、あの方と愛を語らおうかしら」
「あわ、あわわ……!」
もう収拾がつかないですねコレ。わたし知ーらないです。
「た、助けて調和のわたし……! みんな、凄く怒ってるの……!」
(怒ってるというよりは、負けず嫌いを発動しているだけです。こうなればもう、わたしの手ではどうしようもありません)
「そ、そんなぁ!?」
(いいじゃなぁい、みんなみィんな、喰らってしまえばいいのだから! ワタシタチと運命の人がいる限り、ワタシに敗北なんて言葉はないわァ!!)
結局、併走の許可は下りなかったので話はお流れになりました。最後の最後まで向けられた敵意の視線は忘れられないですね。
「そうそう、リンゴのケーキ、美味しかったわ。また今度、別なのをお願いしてもよろしくて?」
「どんな高級店にも勝る至宝の一品……作り手の愛が伝わってきたわ」
「今度、作り方を教えていただけませんか? ケーキ作りでもスティルさんに勝ちます!」
「ケーキのラッピングは大丈夫でしょうか? その、食べていただきたい方々がいて……」
わたしのケーキも大好評でした。
スティルさん、無自覚の煽り。ケーキは好評の模様。